短期プログラム
JCR-EULAR若手トレーニングプログラム 参加者レポート
田淵 裕也
京都市立病院 膠原病内科
研修先:Leeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine
期 間:2024年10月から2025年3月まで
私は2024年10月末から2025年3月頭まで(公式には2024年11月4日から2025年2月28日まで)、英国のLeeds大学のLeeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine (LIRMM)のExperimental Rheumatology部門のDennis McGonagle教授の下で研修させていただきました。自分が研究・臨床ともに脊椎関節炎をメインで扱っており、D2DやD2Tのケースも多数あり、本場での研究・診察の実情を自分の目で見てみたかったのと、第一線の先生からアドバイスをいただきたかったのが、McGonagle教授のところに伺った一番の理由です。
McGonagle教授とは、コロナ前に一度大阪でのセミナーの懇親会でお会いした際に、たまたま来ないかとお声かけいただき、当時は自分はまだ本格的に脊椎関節炎をメインで研究していた訳ではなかったのですが、そこから数年を経てコロナ後、臨床も研究も脊椎関節炎メインとなっており、学位論文を修了する直前くらいのタイミングで、私からメールでどうしても行きたいですと突然アプローチさせていただいた経緯となります。当初、GMC(general medical council)資格をとって半年以上、出来れば1年以上で来て欲しいと返事をいただいていたのですが、スケジュールの都合上、無理を言って今回の日程で研修させていただきました。英国は様々な制度がきっちりしていて、大学も日本の大学以上に研修を始めるためのe-leaning等が充実しており、研修開始後の数日はe-leaningを受講しまくっておりました。病院見学に関してもGMC資格がないと患者を触ってはいけないルールになっているとのことで、結構厳格です。GMC資格を得るためには、IELTSかOETで一定の基準以上の点数を得る必要があるのですが、(逆にそれさえクリアすれば日本の医師免許で働くことが出来ます)、指示いただいてから3カ月程OETの勉強を仕事の間に頑張ってみたのですが、リスニングセクション(Part-Aが独特です)だけあと3点足りず、結局GMC資格なしで行くことになりました。Leedsは北イングランドにあり、患者さんの北イングランド訛りは人によってはかなり強いので、主治医として診察させてもらっても最初は迷惑をかけることになっていたと思うので、それはそれでよかったと思っていますが、せっかく勉強したのと、今回の研修でだいぶ北イングランド訛りに慣れたので、また受け直したいと思っています。
いざ、現地でMcGonagle教授とお会いすると、数年前にお会いしたことは覚えておられなかったそうですが…、私の日本でのマウスでの脊椎関節炎の論文等を評価してくださり、毎日声をかけてくださったり、チームのミーティング(隔週)で4カ月で2回の発表の機会をいただいたり、沢山相談にのっていただきました。
LIRMMは、St James’s University Hospital(がん病院としても英国有数の病院だそうです)の構内にあるWellcome Trust Brenner Building (WTBB) and Clinical Sciences Building (CSB)、Chapell Allerton Hospital (CAH)、Leeds General Infirmary (LGI)、と3つの施設を主に利用しており、研究室は、WTBB/CSBにあり、私は主にそこで他のグループの留学生の大学院生と同じ部屋のデスクを利用させていただきました。イタリア、スペイン、イスラエル、トルコ、サウジアラビア、中国、と沢山の国から留学生が来ており、国際的な環境で様々な国の情報も知れて勉強になりました。外来はCAHでされており、ここにMcGonagle教授やPaul Emery教授の教授室もあります。
現地でさせていただいた研修の内容は、1.私がマウスで主にしていた研究テーマの延長で、脊椎関節炎と炎症性腸疾患に関する論文の執筆、2.MRIを用いた早期関節リウマチの研究、3.McGonagle教授の外来見学、4.ヒトの脊椎付着部検体の処理の手技の見学、5.ラボミーティングへの参加・発表、などになります。McGonagle教授のグループは、メンバーは専門の技官さんと医師ではない大学院生で構成されており、医師は教授の他は、トルコから先に来ていたKeremと私の2人だけで、技官の方がsingle-cell RNA sequencing など本格的な自分の研究テーマを持って発表されているのが印象的でした。特に、技官のChiとMarkには沢山教えていただきお世話になりました。病院から出る検体に関しては、グループWhatsAppがあり、先ほどCAHやLGIで手術検体が出たけど誰か取りに行けますか、とメッセージが流れ、行ける人が車かバスで向かって回収しWTBBで検体処理するというシステマティックかつ皆が協力的であるから成り立つシステムで感心しました。また、たまたま1月に、年1回のResearch DayというLIRMM全体での各グループのメンバーによる発表会(朝から夕方まで1日かけて行う)がLeeds大学本部であり、こちらも参加させていただき、研究室の規模の大きさを改めて実感しました。McGonagle教授の外来は、1人20~25分くらいで、内容は大きくは日本変わらないとは思いますが、カルテは音声入力なのと、たまに教授がさっと股関節注射等をされて流石と思いました。これらの病院はNHSの傘下なので予約に時間がかかる場合もあるようですが、教授はprivateでの診察も別のところで少しされているとのことでした。また、トルコのKerem(一番の相棒です)にもBehcet病の情報や各ソフトウェアのことを教えてもらったり、イタリアのWalter Grassi教授のところからLIRMMに来ていたAndreaにエコーとピザの情報を教えてもらったりと、国際的な環境で切磋琢磨出来たのがとても良かったと思いました。帰国した後も、メールやZoomでの遠隔で、教授やKeremと共同研究を続けさせていただいており感謝しております。
参考までに、住居環境等にも少し触れておきますと、英国では賃貸マンション(flat)を契約出来るのが、6か月以上からだそうで、私の場合は仕方なくapart hotelに滞在しました。費用はだいぶかかりましたが、24時間受付の人がいてくれたのでそれはそれで助かりました。Leedsはほとんどの人が優しいので、北イングランド訛りに最初慣れるのは一苦労ですが、住みやすいと思います。日本人に出くわすことは連絡をとらない限りないです。通勤はバスで、どこまで行っても2ポンドでした。バスは2階建てで個人的には快適でしたが、急にキャンセルされて来なくなったりすることがあるので注意が必要です。物価は言うまでもなく高く、さらに円安のため、コンビニのようなところのサンドイッチで1000円するのが当たり前でしたが(探せば安いところもあります)、一方で野菜・果物や乳製品は新鮮なものが比較的リーズナブルな価格で手に入るのがよかったです。料理も古典的英国料理以外は美味しいと思います。あと、野良ウサギや野良リスが大学構内にいてかわいいです。交通の要所でもあるので、Harrogate、York、Edinburgh、に日帰りで観光にも行けました。10月末に着いたのですが、数日してGuy Fawkes Dayで至るところ(一軒家の庭やその辺の道路)で打ち上げ花火がぶっ放され、その後Christmas(日本の正月のように誰もいなくなります)もゆっくり体験出来ました。意外でしたがHalloween はあまり行事を行わないようです。曇りが多く、雨は週の半分くらい降っていましたが、小雨がほとんどなので、気にならない程度でした。ただ、行った年は例外のようで11月に大雪があり、早く帰るように言われました。Christmas partyにも誘っていただいたり、金曜日は教授とpubでdiscussionしたり、と充実した日々を過ごすことが出来ました。また、学会や旅行とは違い、ある程度滞在しないと分からない現地の生活・雰囲気も勉強出来てよかったと思います。
短い期間でしたが、今回の研修を通して、脊椎関節炎の第一線の研究と診療をみたいという自分の目標が達成出来て大変よかったです。McGonagle教授をはじめ親切にしてくださったラボグループの皆様に感謝申し上げます。また、留学のタイミングで協力してくださった京都大学附属病院 免疫・膠原病内科の皆様、そしてJCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムに関わるJCRの関係者の皆様に改めて厚くお礼申し上げます。
St James’s University Hospital構内にあるThackray Museum of Medicine。
向かって左奥の建物がWTBB(研究棟)。
向かって左奥の建物がWTBB(研究棟)。
WTBB(研究棟)Level 6 (7階)から望むWest Yorkshireの街並み(夕方)。
お気に入りの通勤用2階建て電動バス。49番。
Dennis McGonagle教授(中央)、Kerem(右)と。