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参加者レポート 吉田 雄介

短期プログラム
JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラム(短期研修)報告書

吉田 雄介
広島大学病院 リウマチ・膠原病科

研修先:Diakonhjemmet Hospital, Norway
期  間:2024年5月から6月まで
 
 
 ノルウェーの首都オスロにあるDiakonhjemmet病院に2024年5月1日から6月30日までの2カ月間留学しました。JCRのサポートのおかげで、念願だった留学が実現することとなりました。推薦状を作成し、初めに希望施設へコンタクトを取っていただいたJCR理事長の田中良哉教授、本当にありがとうございました。また、私が所属する広島大学病院リウマチ・膠原病科の皆様には留学へ快く送り出していただきました。不在の間、いろいろとご苦労をかけたものと思います。この場を借りて関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。
 

・Diakonhjemmet病院について

 ノルウェー語では”j”の発音がヤ行になるため、病院名は“ディアコヒェメト”のような発音になります。EULARの認定するCentre of Excellence in Rheumatologyを毎年取っている素晴らしい施設ですが、総合病院でも大学病院でもなく、オスロ中心地から少し西側へ離れた小高い場所にある中規模の病院(写真1)です。精神科以外は内科・外科ともにリウマチ性疾患に特化した病院で、関節リウマチ、乾癬性関節炎などの脊椎関節炎、変形性関節症、痛風などの患者の包括的ケアを提供しています。リハビリ分野も大変充実しており、世界に先駆けてリウマチ性疾患を対象としたリハビリ介入の臨床試験も数多く行われています。
 

・研究体制について

 Diakonhjemmet病院を主施設として、オスロ大学病院などの4つの関連施設と共にREMEDY(Research center for treatment in rheumatology and musculoskeletal diseases)という臨床研究チームを構築しています(https://en.remedy-senter.no)。研究テーマがWork package (WP)として7つに分かれており、それぞれのWPを統括するProfessorやSenior ResearcherなどのProject managerが2名ずついて、ポスドク・PhDと一緒に臨床研究を遂行するという体制でした。企業主導治験はほぼ扱っておらず、臨床試験のほとんどが医師主導治験で、臨床現場で生じてくる切実なリサーチクエスチョン(RQ)を解決するための臨床試験やトランスレーショナルリサーチを数多く実施しています。
 

・職場・労働環境について

 臨床研究を行っている場所は、病院の敷地内にある通称”Villa“と呼ばれる可愛らしい白い建物でした(写真2)。この研究棟の中に部屋が8つあり、DirectorのEspen教授の他、Research leader、Senior researcher、ポスドク・PhDの方、統計学者、研究コーディネーターが仕事をしています。私はポスドク・PhDの方と一緒の部屋にデスクを頂きました。Villaに出入りする方では、私の他に1名のみウクライナからguest researcherが来ていましたが、その他全員がノルウェー国籍の方でした。そのため病院内でも、Villaでも基本的にはノルウェー語での会話ですが、ノルウェーの皆さんは英語が大変上手なので、私がいる場面では英語で会話して頂いておりました。また、職員の男女比はおそらく2:8から3:7程度で女性が多く活躍し、男性も当たり前に育児休暇を取っており、さすが北欧という感じでした。ポスドク・PhDの方は、仕事の時間配分として医師としての仕事と研究の時間が50:50で、1週間を医師として診療したら、次の1週間は臨床研究、という隔週スケジュールが基本のようでした。労働時間は個々の生活状況によっても違うようでしたが、朝8時過ぎから夕方4時頃までが多い印象でした。
 

・私が留学先にノルウェーを選んだ動機について

 そもそも私がこの施設を留学先として選んだ理由は、1.基礎研究よりは臨床試験・トランスレーショナルリサーチを頑張っている施設、2.筋骨格系超音波検査(MSKUS)を熱心にしている施設、3.今まで日本人が誰も行ったことがなさそうな施設(前任がいると良くも悪くも比較されますので、笑)の3つで候補を絞っていく中で、Espen教授が指揮したARCTIC trialの他、ARCTIC-FORWARD、ARCTIC-REWINDなどのリウマチ領域で有名な臨床試験データを世に出したこの病院に興味を抱きました。またMSKUSの分野で有名なHammer教授(写真3)がこの施設にいたことも理由の一つでした。実は、吉田が初めてメールでEspen教授に連絡を取った際は、このJCR-EULAR Young Rheumatologist Training programをご存知でなく、受け入れて頂けるか不安でしたが、留学希望の経緯をお話しすると快く受け入れて下さり、事前に研修内容についてWEB相談もして頂きました。
 

・留学中の研修内容について

 スケジュールとしては毎月第1木曜の朝の研究ミーティング、毎週の火曜の昼のポスドク・PhDの方を対象としたジャーナルクラブに参加していました。その他は主に、1.エコー外来診療の見学、2.各WPのProject managerとの面談、3.留学前に打ち合わせしていたテーマに関する臨床研究 でした。
1.Diakonhjemmet病院では全ての診察室にエコー機1台があり、外来診療が全てエコー外来となっています。外来時間は9時から15時までで、患者1名あたり30分が基本枠なので、患者さん毎に話をしっかり聞いてMSKUSが行われていました。症状がある部位は関節以外でも丁寧に観察し、関節・腱鞘注射も必要があればエコーガイド下ですぐに行っており、非常に患者満足度も高い印象でした。
2.各WPのProject managerに現在進行中の臨床試験の概要や、コメディカルとの関わりについてお話を伺う機会を頂きました。また、私自身が所属施設で医師主導の臨床試験を準備していたこともあり、質の高い臨床試験を行うための準備、具体的な計画の立て方・手続きについてたくさん助言を頂きました。
3.過去の2つの臨床試験データを使わせて頂き、新規RQに対して事後研究を行いました。統計学者のJoseph先生の助言ももらいながら、何とか期間中に必要な解析を終えることが出来ました。
 

・ノルウェーでの生活

 ノルウェーの方々の特徴を一言で言うと、「寛容」です。病院外でも滞在中に差別は一度も受けたことはなく、見た目や人種で人を判断するようなことはないのだと思います。また滞在初期には言葉の壁や慣れない環境で不安もありましたが、ノルウェー人は目が合うと自然と微笑む文化があるようで、これに何度も救われた気がします。ノルウェーは長い冬が明けた4月末頃から急激に気温が上がり、5-6月が夏本番という感じでした。私の2カ月間はちょうど夏だったので、職場では毎日Villaのすぐ外の庭やテラスで出来るだけ日を浴び、会話しながら昼食を楽しみました(写真4)。週に1回のジャーナルクラブも皆で昼ご飯を食べながら行っており、みんな日本食に興味があるそうだったので、私が日本風の卵焼きを作って皆さんにあげたら大変好評でした。
 

・滞在中のイベント

 滞在期間中に偶然あったREMEDY所属のPhDの方の学位授与式に参加しましたが、学位論文がLancet Rheumatology、Arthritis & Rheumatology、Rheumatologyの3本で、そのインパクトの大きさにショックを受けました、笑。また、臨床試験のキックオフミーティングや夏休み前のサマーランチなどのイベントの際にはDiakonhjemmet病院の名前が刻まれた大きなケーキが準備され、Villaの庭に集い皆で一緒に食べました。私の留学中にちょうどオーストリアでEULAR2024があり、現地で1カ月半ぶりに日本人(日本人のリウマチ医)と会うことが出来ました。私の所属科の上司である平田教授も来られていたため、Espen教授、Vice-DirectorのSiri教授と一緒にランチをし、大変いい思い出になりました。
 

・最後に一言

 大変充実したオスロ留学でした。JCR、広島大学病院リウマチ・膠原病科、Diakonhjemmet病院の皆様の協力があって、無事に研修を終えることが出来ました。今回学んだことを糧にして、今後の診療・研究活動に生かしていこうと思います。本当にありがとうございました。
 

(写真1)緑に囲まれたDiakonhjemmet病院、(写真2)家みたいに可愛い研究棟”Villa”、(写真3)筋骨格系エコーの達人Hammer先生と吉田、(写真4)Villaの庭でのランチタイム、(写真5)EULAR中に実現したEspen教授、Siri教授、平田教授と吉田の食事会