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参加者レポート 富澤琢也

短期プログラム
研修報告書

富澤 琢也
天理よろづ相談所病院 整形外科

研修先:The Birmingham Rheumatology Research Group, A collaboration between: The University of Birmingham, Sandwell and West Birmingham Hospitals NHS Trust, University Hospitals Birmingham NHS Trust (Prof. Benjamin Fisher)
期  間:2022年4月から9月
 
 
 COVID-19により2年間渡航延期になっていましたが、2022年4月から9月まで英国Birminghamで研修させていただきましたのでご報告いたします。
 
Birminghamについて
 日本人にはなじみが薄いかもしれませんが、英国LondonとLiverpoolの中間付近に位置するWest Midlandに属する都市です。市内中心駅から電車で1時間40分ほどでLondonに結ばれており、小さめですが国際空港もあります。Londonと高速鉄道で結ぶ工事が進行中で、人口は2021年の時点で130万人を超え、現在も増加傾向で、英国第2の都市をManchesterと競っているようです。市内には産業革命時の運河があり、ボートでのアクティビティを楽しんでいる方もしばしば見かけました。学生も多く、日本人と同じFar East系の方々も比較的見かけ、小さな地方都市よりも街を歩いていても、アジア人として殊更に目立たずにすんだと思います。構成人種は渡航前に予想していたよりも、はるかに多様性がある印象でした。
 主に研修を行ったQueen Elizabeth Hospital近くに滞在しましたが、緑が多い郊外にあり、治安も悪くなかったと思います。市内は2階建てのバスがたくさん走っていて、病院のそばにも駅があり、比較的便利に過ごせました。現地に定住されている日本人の、どの方からも大変よくしていただき、感謝に堪えません。
 在籍中にCommonwealth game 2022という英国連邦諸国で行うスポーツの祭典が同市内で行われ、University of Birminghamも会場にされていました。同大学には大きな時計台があり、市のランドマークの一つになっているようでした。英国は緯度が高い影響で、夏は日照時間が長く、6月~7月頃には日没が21時半頃になる日もあり、帰宅後の時間も有意義に過ごせました。
 
Queen Elizabeth Hospital Birmingham(QEHB)について
 University of Birminghamは1825年設立のBirmingham School of Medicine and Surgeryを母体として発展した大学で、Queen Elizabeth Hospital Birmingham(QEHB)はその大学病院の本院であり、1200床程度を有します。Queen Elizabeth HospitalはEULARよりCenter of Excellenceに認定されているとともに、Polytraumaも受け入れているTrauma Centerの一つでもあります。
 HostとなっていただいたBenjamin Fisher先生は、シェーグレン症候群がご専門のQEHBに勤務されているRheumatologistで、私が在籍中にProfessorに昇格されていました。私は研究ではInstitute of Inflammation and Ageing所属のPostgraduate Researcherとして、臨床ではHonorary Observerとして在籍させていただき、個人用のデスクトップパソコンと机を用意してくださいました。
 医学部の敷地内には1世紀にローマがイギリスに侵攻した際に築かれたMetchley Fortがあった事を後で知り、驚きました。病院前の芝生のスペースがあり、たくさんの患者さんや休憩中のスタッフが寛いでいました。
 
研究
 渡航前はシェーグレン症候群の患者さんの検体データで臨床研究を行う予定でしたが、COVID-19の影響か、サンプルがまだそろっていない、との事で断念することになりました。何かアカデミックな研修も行いたいと考え、Benjamin先生にある関節炎のテーマをご提案、ご了承頂き、現地で開始・Progressを数回行って頂き、帰国後もWebで相談し、Clinical fellowのTobias Cox先生にも参加頂いて進めています。
 
外来見学
 Benjamin先生には、シェーグレン症候群の専門外来を見学させて頂きました。個人的にはシェーグレン症候群の方をまとまって経験できていなかったのですが、関節痛を訴えられる方が比較的多いと実感いたしました。関節評価も丁寧に行っておられました。
 Benjamin先生は診断確定のための唾液腺生検もご自身で行っておられました。生検検体の染色スライドも見せて頂き、リンパ球数の評価などを具体的にご教示頂きました。
 また、Schirmer Testを行っている患者さんとお話させて頂き、その様子も拝見しました。
 Paresh Johanputra先生には、RA, SLEなど一般膠原病外来の見学をさせて頂きました。ベテランの先生らしく、Blindでの関節注射も素早く行っておられました。合併症として線維筋痛症の診断がついている方が多くみられ、その点について質問すると、論文を交えて指導してくださいました。患者さんも人種含め、多彩なBack Groundの方が見えました。私の英語力不足で苦労しましたが、患者さんと直接お話をさせて頂くなど、良い経験になりました。COVID-19蔓延後は、電話による外来受診も増えているようでした。本邦とは異なり、RAに対しても、HydroxychloroquineとRituximabがかなり頻繁に処方されていました。
各Consultantの外来通院日の間隔はもちろん症例にもよりますが、3~6か月間隔と長めの方が多い印象で、その間はGeneral Practitioner (GP)がFollow upするというスタイルのようでした。GPへの照会は、電子メールでも行われており、外来中に返事がすぐに届いて確認できたり、電子カルテ記載もすべてタイピングするのではなく、医師がマイクに話しかけて文字起こしを行い、変換がおかしな部分のみ修正するといった方式で、合理的に行われていました。
 
関節エコー実習
 EULARのguidelineに則り、Mark Maybury先生から各国から来ているFellowやRheumatologistと実習をさせて頂きました。手関節、膝、肩、肘、手指、足などに日ごとにテーマを分けトレーニングさせて頂きました。各関節の自分で知らなかったスキャン方法も学べ、非常に勉強になりました。臨床ではエコー下に足指などの小関節にも関節内注射を行っているそうで、大変参考になりました。
 
Rheumatology Research Group meeting
 週に1回、ラボのメンバー(大学院生・スタッフ)が持ち回りで研究進捗を発表するミーティングにも参加させていただきました。テーマはコントロール困難なRAについての臨床研究や、関節炎モデルマウスを用いた基礎研究など、実に様々で、他大学とのコラボレーションした研究も盛んに行われており、質問・討議も活発に行われていました。
 
関節生検
 RA患者さんの膝関節内の滑膜生検も見学させていただきました。局所麻酔後Suprapatella Bursaに生食を注入しElastic Punchで20個ほど検体を採取していました。採取中はあまり痛みの訴えは見られませんでしたが、多数の検体を採取しているにも関わらず、処置後に当日帰宅とされている事に驚きました。検体を免疫染色・Single Cell解析などに回すとの事でした。
 
手術見学・参加
 私は整形外科医ですので、ぜひ手術見学もしたいと考え、同院整形外科医師に連絡を取らせて頂き、Rheumatology研修の合間に手術参加もさせていただきました。
 朝7時45分からMajor Trauma 症例のカンファレンスを毎日行っており、なるべく聴講させて頂きました。外傷後の変形性関節症につながるような関節内骨折、開放骨折の症例も多数見受けられました。
 手術室では日によって異なる執刀医のConsultantに頼み、なるべく手洗いして助手として参加させて頂きました。皮弁を用いた形成外科との合同手術も行われており、非常に分業がスムーズに行われてしました。Mark Foster先生には、Handの症例も見せて頂きました。Negative Pressure Wound Therapyを頻用されていました。
 研修途中から整形外科ConsultantのMark Dumbar先生より、別の附属病院で慢性疾患の関節手術見学も許可して頂き、Trevor Lawrence先生やPanos Makrides先生など、様々なConsultantの先生方の元、手洗いして助手として参加することができました。他病院から紹介されたケースも含め、人工関節の再置換が比較的多く行われており、努めて参加させて頂きました。
 
最後に
 Benjamin先生には、恐れ多くも個人的にご自宅にご招待いただき、奥様の手料理をふるまって頂く機会がありました。日本と英国間での、社会や医療システムの違いなど、いろいろなお話をさせて頂きました。月並みかもしれませんが、ある程度母国を離れてみて、良くも悪くも、他国から見た日本・日本人の特徴・立ち位置を、実感・意識する事ができたと思います。
 現在、Web上で多くの事を完結できますが、文化・医療・言語の壁・現地の方との交流など、実際に「体験」できた事は、何にも代えがたい有難い時間であったと感じております。
 このような素晴らしい機会を与えて頂いた、日本リウマチ学会国際委員会の諸先生方や、 松田秀一 教授、伊藤宣 リウマチセンター前教授、診療応援の先生方を派遣頂いた西谷江平 医局長、不在中ご負担をおかけした当院の先生方、病院スタッフ、患者の皆様には感謝の念に堪えません。私事で恐縮ながら、単身渡航中に苦労をかけた家族にも、感謝の念を記したいと思います。
 本経験を何らかの形で本邦に還元できるよう、今後も精進させて頂く所存です。今後ともどうかご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
 


写真左上:Queen Elizabeth Hospital Birmingham(QEHB)
写真右上:University of Birmingham (UoB)
写真下段左から:「Benjamin Fisher教授と」「Paresh Johanputra先生の外来見学」
        「Mark Maybury先生の関節エコー実習 Rheumatologistの先生方と」
        「Mark Dumbar先生の関節手術に手洗いして参加」