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参加者レポート 横田 雅也

長期プログラム
JCR-ELUAR 若手リウマチ医トレーニングプログラム(長期研修)報告記

横田 雅也
千葉大学医学部附属病院 アレルギー・膠原病内科

研修先:Center of Experimental Rheumatology, Department of Rheumatology, University Hospital Zurich, Switzerland
 
 
私は、JCR-EULAR 若手リウマチ医トレーニングプログラムの支援をいただきまして、2016年1月から2019年1月まで、スイス・チューリッヒ大学病院リウマチ科の基礎研究部門であるCenter of Experimental Rheumatologyに留学しましたので、ここに報告いたします。
 
研究について
 Center of Experimental Rheumatology研究室は、大学病院のあるチューリッヒ市内中心部からバスで30分ほどのSchlieren市にあるBIO-TECHNOPARKに位置します。ここは、大学病院の研究室だけでなくRocheといった製薬企業、バイオリサーチ企業の研究所が入ったビル群で構成されています。また、チューリッヒやその近郊にはスイス連邦工科大学(ETH)やポール・シェラー研究所(PSI)といった世界的な自然科学・工学の研究機関があるため、コラボレーションも盛んです。
当研究室は、DirectorのOliver Distler教授のもと5人のPI(principal investigator)がそれぞれ研究グループを形成し、ポスドク、博士課程学生らとともに活発な研究を行なっています。研究テーマは、関節リウマチ、強皮症に大きく分かれます。臨床検体へのアクセスがよく、血清だけでなく、滑膜細胞や皮膚線維芽細胞、関節や皮膚の病理組織を用いたトランスレーショナルリサーチが行なわれています。また、チューリッヒ大学病院リウマチ科は、ヨーロッパのトップリサーチセンターとして、EULAR Centre of Excellenceに指定されており、Center of Experimental Rheumatologyにもドイツ、フランス、イタリア、ギリシャ、スロベニア、ポーランドといったヨーロッパ各国から研究者、学生が集まっています。そのため研究室の「公用語」は英語でしたが、病院のカンファレンス等は主にドイツ語で行なわれていました。
私は、Dr. Britta Maurerのグループに所属し、強皮症患者由来の皮膚線維芽細胞(初代培養細胞)を用いて研究を行ないました。従来無菌とされていた真皮においても皮膚常在菌が検出されるという報告(Nakatsuji et al. Nat Commun 2013;4:1431)から着想を得て、皮膚線維化におけるブドウ球菌の皮膚線維芽細胞への作用をテーマに研究を開始しました。当初ブドウ球菌は、線維芽細胞に対し線維化を促進するように働くだろうと考えていましたが、予想に反し線維化を抑制するように作用することを見出しました。その後の研究により、指尖潰瘍における創傷治癒の遅延を説明しうる、黄色ブドウ球菌に対する線維芽細胞の応答メカニズムを明らかにしました(論文投稿準備中)。また、アメリカリウマチ学会(2017年、サンディエゴ)やSystemic Sclerosis World Congress (2018年、ボルドー(仏))で発表する機会も得ました。 また、修士課程学生とともにブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスを用いた研究を平行して行なったり、研究室に配属された医学生の講義、実習を担当したり、肺線維症を起こしたマウスの呼吸機能検査のセットアップに従事したりと、多くの経験をさせていただきました。
スイス(あるいはヨーロッパ)で基礎研究を進めるうえでの弱点として、動物実験を行なう際のregulationが厳格であることが挙げられます。実験に関わる者には、40時間以上の実技を含むコースを修了する義務が課せられています。このコースは、社会が求める適正な実験を行なうためにも非常に役立つものでしたが、当局による実験プロトコルの承認や更新・変更のプロセスには非常に時間がかかり、スイスのシステムはプロジェクトを進めていくうえでdisadvantageになりうると感じました。
 
チューリッヒでの生活
 スイスは、ヨーロッパの中央部に位置し、日本から直行便で12時間ほどです。言語は州によりドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語がそれぞれ公用語として使用されています。人口は約800万人で、面積は北海道の半分ほどです。
チューリッヒは、200万人の都市圏人口を有するスイス最大の都市で、世界有数の金融都市として有名です。ドイツ語が公用語として使用されています。チューリッヒには、チューリッヒ湖や二つの大きな教会、旧市街といった趣のあるエリアもあり、他のヨーロッパの主要都市に比べ地味ですが美しい街です。都会的である一方、森や公園などの緑地も多く、トラムやバスでほとんどのエリアにいくことができるコンパクトで非常に住みやすい街です。また、チューリッヒはヨーロッパの中央に位置し、鉄道、航空機等を利用して、他の国や都市へ移動するのに便利です。4週間の有給休暇を消化しないと雇用者が罰せられるとのことで、滞在中、10数カ国へ旅行することができ、家族とのかけがえのない時間を過ごすことができました。
チューリッヒの夏は湿気が少なく過ごしやすく、冬も氷点下にはあまりならず雪もほとんど積もらない穏やかな気候でした。街は清潔で静かで、人々も親切で特に子供に優しいのが印象的でした。日常生活はたいていのことは英語で事足りますが、街で行き会った人にドイツ語で話しかけられたり、役所から送られてくる書類はすべてドイツ語で表記されていたりといったことがあり、長く生活するにはドイツ語の習得が必須であると感じました。スイス人は概して勤勉で時間に正確であり、その点は日本人にも通じるところもあり親近感を感じました。一方、夜はシャワーや洗濯機を使用してはいけないというルールが集合住宅にあったり、日曜にはほとんどの店が閉まったりなど、当初は我々とは異なる文化にとまどうこともありました。
チューリッヒ大学病院には、常時数人の日本人医師が留学しており、生活面のセットアップ等で大変お世話になりました。また、チューリッヒには先述したようにETHという世界有数の大学があり、多くの優秀な日本人のポスドク、学生が滞在していました。また、企業の駐在員や現地企業に勤務する方々などとも交流し、様々な価値観や生き様に刺激を受けました。
 
留学を終えて
 今回の留学で、異なる文化的バックグラウンドを持つ上司、同僚と協力し、仕事を行なったことは貴重な経験となりました。また、日常生活、旅行を通して様々な文化に触れることができ、今まで日本が秀でていると思っていた点がそうでなかったと気付かされたり、また逆に日本の良さを再認識することができました。今後は、後輩の指導を行ないながら日本のリウマチ膠原病診療に貢献できる仕事ができるよう努力します。
今回の留学に当たっては、当初1年の生活資金(給料)を自分で用意することが受け入れの条件であったため、本プログラムの支援のおかげで、留学を実現できました。採択してくださった日本リウマチ学会国際委員会の先生方やリウマチ学会会員の皆様に感謝申し上げます。
また、今回の留学を快く許可し支援してくださった、千葉大学病院アレルギー・膠原病内科の中島裕史教授と、渡航前、滞在中に助言やアドバイスいただいたすべての方々にこの場を借りて御礼申し上げます。
 

写真1: 左上から時計回りにチューリッヒ大学病院正面玄関、Oliver Dislter教授と筆者、Grossmunster 大聖堂、グループメンバー

左上から時計回りにチューリッヒ大学病院正面玄関、Oliver Dislter教授と筆者、Grossmunster 大聖堂、グループメンバー