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参加者レポート 小俣 康徳

長期プログラム
JCR-ELUAR 若手リウマチ医トレーニングプログラム(長期研修)報告記

小俣 康徳
東京大学医学部整形外科

研修先:Department of Internal Medicine 3, Rheumatology and Immunology, Friedrich-Alexander-University Erlangen-Nürnberg (FAU) and Universitätsklinikum Erlangen, Germany
 
 
この度JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムに選出頂きまして、誠に有難うございました。本プログラムによる支援の下2016年1月から2018年7月まで、ドイツ、バイエルン州、エアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学(FAU)免疫学教室Georg Schett教授の研究室に留学しましたので報告させて頂きます。2014年に東京大学大学院(田中栄教授研究室)を修了後、田中教授のご紹介を頂いてこの度の留学機会を得ました。約2年半に渡りSchett教授の基礎研究グループのMario M. Zaiss先生の研究室に所属させて頂きました。
 
エアランゲンはバイエルン州北部に位置する小さな地方都市です。FAUはエアランゲンと近郊都市であるニュルンベルクに校舎をもつ大学で、医学部、法学部、工学部など11の学部からなります。長い歴史を持ち、1740年代にフリードリヒ伯爵が開校したことが始まりとされています。校舎は一か所にまとまってキャンパスを形成するのではなく、街中に広く溶け込むような形で点在しています。古くから存在する建物を使用しつつ、新しい研究所や施設も建てられてきています。医療、科学、分子生物学、化学、工学系を中心に教育・研究に力を入れており、1年間に大学が外部から得た基金は1.8億ユーロにも上り、ドイツ国内でも研究の盛んな大学の一つです。また子宮頸がん発症に関わるヒトパピローマウイルスを発見してノーベル賞を受賞されたHarald zur Hausen博士がおられた大学としても知られています。
私はSchett教授のInternal medicine 3に所属し、ポスドクとして基礎研究の部門に所属しました。大学病院も研究所の近くに隣接しており臨床と研究の連携がとり易く、直接試薬やサンプルを頂いたりすることもありました。Schett教授の研究グループには10のグループがあり、主に免疫系の研究で、皮膚や関節炎、骨代謝等の免疫が絡む様々な基礎研究並びに臨床研究を行っています。それぞれの研究室は大小ありますが、概ねポスドク1-2名、大学院生が5-10名と実験助手が1-2名おり、グループ全体では100名程度の研究者、大学院生、実験助手の方たちが携わっています。私はその中で、2015年秋にPIとして赴任されたばかりのZaiss先生のもとで研究を行いました。Zaiss先生は以前Schett教授の研究室で働いていた方です。その後スイスの研究室に移り、short chain fatty acidやILC(innate lymphoid cell)についての研究を行い、ドイツに戻って研究室を立ち上げたばかりでした。したがって留学当初はZaiss先生と私だけしかおらず器材や試薬なども始めはなくて他の研究室から借りて行ったりしていましたが、その後大学院生や実験助手の方が次々と加わり、現在では10名を超す人数となりました。私はコラーゲン誘導性関節炎、コラーゲン抗体誘導性関節炎、TNFトランスジェニックマウス、血清誘発性関節炎などの関節炎モデルを作成し、FACSなどを用いて免疫細胞と関節炎の解析を行いました。自然免疫と関節炎について研究テーマを与えて頂き、2型ILC(ILC2)に焦点をあてて研究を行いました。ILCは抗原受容体を持たない、T細胞と類似したサイトカイン産生能を持つ自然免疫細胞です。関節炎モデルや関節リウマチのサンプルを用いてILC2の動態や機能を調べ、学術誌Cell Reportsに報告しました。研究室の仲間と協力し合いながら研究を進められたのはとても良い経験となりましたし、研究を通じて色々な方と知り合うことができ貴重な機会となりました。
 
ドイツ・エアランゲン
エアランゲンは人口10万のバイエルン州北部に位置する地方都市です。環境との調和を軸に政策的に作られた都市でもあり、小さな街ではあるのですがコンパクトに色々な施設が集まっていてとても住みやすい街です。また街では自転車道が細やかに整備されており、1970年代と古くから自転車道が画一的に設けられた国内有数の都市でもあります。中央駅周辺や街の中心部には週末は大勢の人が集まって賑わい、夏季には庭園で数々のイベントが催されとても愉しい街です。毎年5月にはベルクと呼ばれる小高い丘陵地においてビール祭りが開催されます。12日間開催されのべ10万人超の大勢の方が集まり、地元で作られた何種類ものビールを楽しめます。天気の良い週末には家族とともにエアランゲン近郊へ出かけました。近くにニュルンベルク、バンベルク、ヴュルツブルクといった見所が多くあり、また世界遺産にもなっている場所もあります。またドイツ国内には古城が多く残っており、小さなものを含めて3000以上現存していると言われています。ライン川、ドナウ川といった大きな川沿いにある城、街の中心部にある城、山間や丘陵地にひっそりと佇む城など一つ一つ違った趣のものが多くあり、地域のシンボルとなって訪れる人たちを楽しませています。
 
留学を振り返って
この度の留学では多くの皆様に支えて頂きました。この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。
田中栄教授は留学先について相談をさせて頂いた際に、ドイツ、ヨーロッパの免疫研究で第一線を行くSchett教授の研究室を御紹介下さいました。Schett教授の研究室では免疫学多岐にわたり学ぶことができ、従来からの研究手法や新しい取り組みなど知ることができとても良い機会を頂きました。Schett教授には2015年名古屋で開かれたリウマチ学会にて田中教授とともに初めてお会いし当初より気さくな印象を持ちましたが、実際ご指導を頂いた際いつも柔和で丁寧な研究指導を行って下さいました。直接指導を頂いたZaiss先生は気鋭の若手研究者で、免疫研究の基礎から手ほどきを受けました。研究を通じて大学の内外で研究仲間を作ることができ、今後に活かしていきたいと考えています。また生活面では子供たちの学校の方や一般の方たちがとても温かく迎えて下さり、異国の地ではとても有難かったです。家族にとってもドイツ生活は貴重な経験となりました。
日本リウマチ学会からこの度の支援を頂いて、留学を行うことができました。他の国々と比べると、日本からの海外への留学者数があまり増加していないと聞くことがあります。ドイツ・ヨーロッパでは土地柄というのもあるのでしょうが、学生・大学院生・ポスドクが海外に研究の場を求めて移動するということがごく普通に行われているように映りました。海外だけがすべてでは決してありませんが、研究の幅やネットワークを広げられるという点では留学も大切であると不肖ながら感じました。日本リウマチ学会がこうした取り組みを支援して下さることに改めて感謝致します。最後になりますが、お世話になった全ての方々に厚く御礼を申し上げます。有難うございました。
 

写真1: 2015年名古屋で開催されたリウマチ学会にてSchett教授と田中教授と。

2015年名古屋で開催されたリウマチ学会にてSchett教授と田中教授と

 

写真2: 左からZaiss先生、Schett先生、筆者。Schett先生のオフィスにて2016年1月初会合。

左からZaiss先生、Schett先生、筆者。Schett先生のオフィスにて2016年1月初会合。

 

写真3: 毎年夏にはラボのメンバーとZaiss先生宅に集まりBBQ。ラボの皆さんには研究でも生活面でもお世話になりました。

毎年夏にはラボのメンバーとZaiss先生宅に集まりBBQ。ラボの皆さんには研究でも生活面でもお世話になりました。

 

写真4: エアランゲン近郊にある世界遺産にもなっているヴュルツブルグの王宮。広大な庭園に大きな宮殿が構え、見る者を圧倒する。

エアランゲン近郊にある世界遺産にもなっているヴュルツブルグの王宮。広大な庭園に大きな宮殿が構え、見る者を圧倒する。

 

写真5: エアランゲンの丘陵地で毎年5月に行われるビアフェスタ。近隣都市からも大勢の方が訪れる。

エアランゲンの丘陵地で毎年5月に行われるビアフェスタ。近隣都市からも大勢の方が訪れる。