会員のみなさま 会員のみなさま

参加者レポート 中込 大樹

長期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムレポート

中込 大樹
千葉大学アレルギー膠原病内科 / 下志津病院リウマチ膠原病センター

研修先 : Lupus and Vasculitis Clinic, Addenbrooke’s Hospital, Cambridge University Hospitals

 

はじめに
 私は、2014年5月から2015年5月まで医局の先輩の紹介で、イギリスのケンブリッジ州にあるCambridge University Hospitalsの一つであるAddenbrooke’s HospitalのLupus & Vasculitis Clinicに留学させて頂きました。1400床の非常に大きな病院であるAddenbrooke’s Hospitalの中でLupus & Vasculitis ClinicはSLEおよび血管炎症候群全般を担当している診療科で、腎臓内科の一部となっていますが、ほぼ独立した状態で診療・研究を行っています。European Vasculitis Societyの会頭でもあるDavid Jayne先生を筆頭にコンサルタントと呼ばれる専門医が2人、非常勤医師、research nurse 4~5人、researchの専門職員3人、留学生6~7人で構成されています。David先生は血管炎、特にANCA関連領域の臨床試験に関して世界のリーダー的存在であるため、先生のもとには私と同じような留学生が世界各国から集まっていました。留学生の経歴は医師になって3年目くらいから20年目くらいまで、滞在期間も1ヶ月~数年までと様々でした。臨床研究をやっている留学生が多いですが、免疫学等の教室と協力して基礎研究をやっている留学生もいました。週に一回症例および研究についてのグループのカンファレンスがある他、呼吸器内科や放射線科との合同の症例検討も定期的かつ頻回に行われており、大きい病院ではありますが科の垣根が低いことが良い点でした。腎臓内科に関わるカンファレンスも幾つかあり非常に充実した毎日でした。
 
外来
 臨床研究やカンファレンス以外の空いた時間で外来や病棟の見学もしました。外来では、イギリス国内でも何百キロも離れた遠くの町のみならず、他のヨーロッパ諸国やアメリカ等からもDavid先生の診察を受けるために患者が来院していました。research nurseがレジストリーに登録するところから、臨床研究の登録等まで医師のサポートは万全でした。半日あたりの患者数は医師一人あたり4~5人でしたが、David先生の外来は常に20人以上と忙しい状態でした。日本とイギリスの診療および治療内容の同じ点違う点が比較でき非常に勉強になりました。また、自分自身の臨床研究の対象患者に対して、問診をさせてもらいましたがどの方々も非常に親切で協力的であったことには感銘を受けました。
 
臨床研究
 留学生は現在進行中のRandomized Controlled Trialに主たる研究者として従事する事はできませんので、David先生は留学生の希望にそって研究テーマを検討してくださいました。偶然かもしれませんが、留学生ごとにIgA血管炎、Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis (EGPA)、Granulomatosis with polyangiitis (GPA)、Systemic lupus erythematosus (SLE)等と別の疾患を割り当てられているようにも感じました。私は留学前の面接の段階で、大血管炎に従事したい希望を伝えており、これまでDavid先生の元で誰も大血管炎に従事していませんでしたので歓迎してくれました。大血管炎とくに高安動脈炎は小血管炎と比較し、大規模な臨床研究がほとんど行われておりません。その理由の一つとして、小血管炎のBVASやVDIのような確立されたアウトカム評価が存在しないということが挙げられます。そこで、私には大血管炎のアウトカム評価法の確立という研究テーマが与えられました。アウトカムの評価ツールには、関節リウマチにおけるDAS28のようなactivityを評価するものと、Sharpスコアのようなdamageを評価するものがありますがdamageの評価方法の確立から取り組みました。具体的には、高安動脈炎とGiant cell arteritis (GCA)の患者の画像と、血管炎全般のdamage評価ツール、QOLを比較することによって新たなdamage評価ツールの作成を行いました。症例数確保のため、Oxford UniversityのRaasshid Luqmani先生にも協力していただき、画像読影のため放射線科の先生からも協力を得ました。この研究結果は、2015年4月にロンドンで開催されましたVasculitis2015で発表することができ、血管領域で高名な先生方から貴重なご意見を頂く事ができました。2017年3月にはVasculitis2017が初めて日本で開催されますので、そこでこの研究の続報を発表できればと思っています。
 
今後の研究
 Raasshid Luqmani先生にお願いし、Raasshid先生が主導で行っております大規模な血管炎のレジストリーであるDiagnostic and Classification criteria for primary systemic vasculitis(DCVAS)のデータを使わせていただけることとなりましたので、高安動脈炎とGCAのdamageと画像評価の検証を行って行く予定です。また、留学期間中の2015年4月にノルウェーにおいて、大血管エコーの講習会に参加する事ができました。この講習会では側頭動脈・頸動脈・椎骨動脈・鎖骨下動脈・腋窩動脈の撮像方法、診断・活動性評価のためのエコー手技を身につけることができヨーロッパ各国の医師が参加していました。関節超音波よりも難易度は低く今後普及していく可能性を感じました。帰国後も研究テーマの1つとして続けていきたいと思いました。高安動脈炎は日本から報告された血管炎でありながら、現状では日本が世界をリードできているとは言い難い状況です。今後、日本が世界の高安動脈炎の診療および研究をリードしていけるよう貢献していきたいと考えています。
 
留学先での生活
 留学期間は1年間と決して長くはないものでしたが、充実した生活を送ることができました。臨床研究の方法論を教わりながら、実際に研究を形にできたことはもちろん非常に貴重な経験となりましたが、同僚や共同研究者の先生方等の人との繋がりを作ることができるのが留学の重要なところだと思いました。Raasshid先生の自宅へ食事に招待されたことがありましたが、その自宅が築400年くらいであり、イギリスでは古い物ほど価値があることを実感しました。イギリスでは、電気やインターネットの契約等がスムーズに行えないことや、一部いい加減なところもありましたが、列に並ぶ等のマナーや、謙虚なところは日本と似ているので日本人にとってはストレスが少ない住みやすい国だと思います。帰国後は英国紳士の様に常にgentleに人に接することができるように心がけたいと思います。

 最後になりますが、イギリス留学をご支援いただきましたリウマチ学会をはじめ、千葉大学アレルギー膠原病内科の中島裕史教授、池田啓先生、古田俊介先生、下志津病院リウマチ膠原病センターの杉山隆夫先生、末石眞先生には心より感謝申し上げます。

 

写真1: ケンブリッジの地元のラグビークラブ

 

写真2: 一番大きいカレッジのキングスカレッジ

 

写真3: 観光名物のケム川のパント

 

写真4: 筆者の送別会 右奥がDavid Jayne先生

 

<    一覧に戻る