Google
ウェブ全体を検索 サイト内を検索

参加者レポート 多田 昌弘

短期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムレポート

多田 昌弘
大阪市立大学整形外科

研修先 : Division of Rheumatology, Department of Internal Medicine 3, Medical University of Vienna

 

 私は、平成26年4月25日から7月30日までの3か月間、オーストリアのウィーン医科大学第3内科リウマチ学教室(Division of Rheumatology, Department of Internal Medicine 3, Medical University of Vienna)に留学する機会を得ましたのでここに報告させて頂きます(写真1)。

 最初に当教室に留学する事になったいきさつを記載させて頂きます。生物学的製剤が、関節リウマチ(RA)の疾患活動性を低下させるだけでなく、骨破壊抑制効果を有していることは周知されています。しかし、疾患活動性の低下と骨破壊抑制効果には乖離があると当教室のJ. Smolen教授(写真2)が報告されました(Ann Rheum Dis 2009;68:823-7 and 2013;72:7-12)。そこで、「TNFやIL-6などの炎症系サイトカインは、いったい骨(骨芽細胞、破骨細胞)に対してどのような直接的、間接的作用を有しているのか?」に興味を持つようになりました。このことを、教授にお話ししたところ、快く留学を引き受けてくださいました。

 当教室は、J. Smolen教授が世界的に有名ですが、動物モデルを用いた病因論の解明や画像評価等の基礎的な研究に関してもたくさんの報告を行っています。当教室では、関節炎動物モデルにヒトTNF transgenic (hTNFtg) マウスを用いて実験を行っています。この関節炎モデルは、炎症が慢性的に継続し、重度の関節破壊を生じるモデルで、今まで使用してきた関節炎モデル動物(CIA, AA, CAIA)よりも人間のRAの病態に近いと感じました。また、画像評価のツールとして、動物用μCT、PET-CT、MRIを完備しており、最新の機器を用いて実験を行うことが可能です。私は、准教授のRedlich Dr、Hayer, PhDが中心となって行っているRA病態解明グループで実験のお手伝い(組織学的評価)をさせて頂きました(写真3)。具体的には、hTNFtgマウスの破骨細胞数カウントおよび炎症領域, びらん領域、軟骨領域の定量を行いました。また、hTNFtgマウスとIL-1, 6のdouble knockoutマウスを交配したモデルの実験にも参加させて頂きました。これらの実験は、RAの更なる病態解明に繋がるため、結果が期待されます。

 留学期間中、Be the cure for rheumatoid arthritis (BT cure) 主催の関節炎動物モデルのワークショップが当教室主催で行われたので参加させて頂きました。BT cureとはヨーロッパ15ヵ国37の団体(大学、製薬会社、患者団体)が参加する組織で、10のワーキンググループに別れています。共同でガイドラインの作成、評価基準の統一、論文の作成などが目的です。今回のワークショップでは、主にCIAマウスの統一プロトコール作成(作成方法、マウス購入先、餌、飼育環境の統一)および組織評価方法のガイドライン作成について議論が行われていました。単一組織ではなく、ヨーロッパ全体で決定するというコンセプトにスケールの大きさを感じました。

 臨床に関しても研修の機会がありましたので報告させて頂きます。当教室は、教授を始めとして、Dozと呼ばれる専門医が7名、専属医師が11名、研修医2名の計21人で構成されています。また、身体所見をとる(DASやSDAI評価)専門の看護師4名と関節エコーの専門スタッフ1名がサポートメンバーとして所属しています。教授自身は多忙のため外来をされることがなく、教授以外のスタッフで日々の診療を受け持っています。外来は8時30分から開始され、14時くらいには終了します。当教室では、主治医制をとっておらず、毎日40~50名くらいの患者を4~5人の医師で担当するというシステムを採用しています。患者一人あたりの診療時間は20~30分と日本に比べて長く、患者さんとの握手から診察が始まります。「すべての患者を医局員全員で担当しても、治療の一貫性が保たれるのか」と質問をしたところ、全員で治療方針を統一しているので、問題にならないとのことでした。診察開始前にミーティングが開かれ、治療に難渋する症例や診断が困難な症例に関して熱い議論が繰り広げられていました。相談し議論することで問題を解決する重要性を感じました。また、定期的に皮膚科医、放射線科医と合同カンファレンスがあり、科を超えた協力関係はうらやましくもありました。他にも全体のカンファレンスと抄読会が週に1回ずつあり、活発な議論がドイツ語で行われていました。ドイツ語をもっと勉強しておけば良かったと後悔しました。疾患に関して、欧米では脊椎関節炎(SpA)患者が多く、当科の扱う疾患の中ではRA、SLEに次いで3番目に多い疾患でした。治療抵抗例には抗TNF製剤の投与が積極的に行われていたことが印象的でした。

 病棟に関しては、専属の病棟スタッフ(半年交替)を決め、入院患者の治療を行っていました。この分業体制によって、外来担当の医師は病棟患者を治療する必要がなく、非常に合理的に仕事をされていました。また、日帰りの点滴センターも併設されており、生物学的製剤の点滴加療にたくさんの患者さんが通っておられました。日本ではRAに使用できないリツキシマブの効果が良好であることに驚かされました。

 ウィーンの夏は、日没が9時から10時と遅いため、平日仕事を終えてから、家族と町に買い物に出かけたり、子供と公園に遊びに行くという日本では考えられない経験をさせて頂きました。週末にはハイキングに出かけたり(写真4)、隣国のチェコ、ハンガリー、スロバキアに行く機会にも恵まれ、一生の思い出になりました。また、ウィーンでは、ケーキを始めとしたスウィーツが美味しく、家族も大喜びしていました。オーストリア人の休日は、ゆっくりカフェでお茶をしながら、家族や友人と会話をして過ごすと同僚に教えてもらいました。時間があれば、日本でも実践してみたいところです。

 今回の留学を通して、情報を共有する事の重要性、コミュニケーションの必要性、ネットワーク構築の有用性を学びました。治療方針やガイドラインの作成、新しい研究の開始には、情報共有及び話し合いが不可欠です。一人一人の力は小さくても協力する事で大きな力になり、物事を動かすことができる。この当たり前の事が今まで出来ていなかった事に気付かされました。最後に、このような貴重な機会を与えてくださった日本リウマチ学会国際委員の先生方ならびに会員の先生方、留学を快諾くださった大阪市立大学整形外科の中村博亮教授、不在中の日常業務を快く引き受けてくれたリウマチグループの同僚の皆様に心から感謝させて頂きます。Vielen Dank für ihre Unterstützung!

 

写真1: ウィーン医科大学病院。2000床でヨーロッパ最大規模。

 

写真2: Smolen教授。気さくな人柄で、笑顔が印象的!

 

写真3: ラボの美しき女性たち。

 

写真4: シュネ-ベルク山頂から家族と。遠くハンガリーまで続く大平原及びウィーンを望む。

 

<    一覧に戻る

上に戻る