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参加者レポート 村上 孝作

長期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムレポート

村上 孝作
京都大学大学院医学系研究科臨床免疫学

研修先 : Department of Rheumatology, Leiden University Medical Center

 

はじめに
 私は、2013年6月から2014年7月までの間、オランダにあるLeiden University Medical Center (LUMC), Department of Rheumatologyに於いて、基礎研究に携わってまいりました。  LUMCでは、Infliximabの代表的な臨床試験であるBeSt Studyや、抗シトルリン化ペプチド抗体が関節リウマチの診断に意義があることを示したPROMPT studyなど、数々の重要な臨床研究が行われています。また、オランダ国内でも中心的なリウマチ性疾患診療の施設であり、統括責任者であるTom Huizinga教授を中心として、約80人のスタッフ・大学院生が所属している大所帯です。その中で、私はMargreet Kloppenburg教授の専門である、変形性関節症(OA)の研究グループに所属することになりました。
 
研究内容
 OAの発症要因について、特に欧米では慢性炎症の寄与が大きいのではないかと考えられておりますが、LUMCではその中でも脂肪組織に注目し、膝OAの人工関節置換術によって得られた組織を用い、局所近傍にある膝蓋下脂肪体から分泌されるメディエーターがT細胞やマクロファージに影響を及ぼすことが報告されていました。そのなかで、私は、同手術から得られた滑膜を用いて種々の実験を行いました。1年あまりという短い期間でしたので、全ての疑問を解決することまでには至りませんでした。しかしながら、脂肪組織あるいは脂質による炎症を解析するアプローチは、OAに限らず様々なリウマチ性疾患において新たな知見を生み出す可能性があるのではないかと感じました。
 OAグループは、基礎部門と臨床部門に分かれていて、私は主に基礎系のSupervisorであるAndreea Ioan-Facsinayとディスカッションをする機会が多かったのですが、大学院生は基礎系に二人、臨床系に三人が所属していて、毎週月曜日に行なうグループミーティングでは各々の研究の進捗状況を互いに提示していきます。基礎系の大学院生は殆どがいわゆる「理学部」出身である一方で、臨床系の大学院生は専ら疫学的研究を行っており、互いの専門性が異なることになります。それでも皆が互いの研究内容に興味を持ち、OAという一つの病態に取り組む姿勢は非常に勉強になりました。
 実験室にいるメンバーの多くはオランダ人でしたが、2割程度は(私のように)国外からのPost-doctoral fellowとして研究に携わっていました。基礎研究全体のカンファレンスや抄読会なども定期的に行われておりましたが、全て英語で活発なディスカッションがされていました。私は英語が得意ではなく、留学当初は会話の内容についていくことができなかったこともありましたが、出来る限り積極的に話していくことで少しずつ解決することができました。定期的なミーティングも活発で、general professorであるHuizinga教授とは2週間に1度、また基礎系のRene Toes教授にも有用なアドバイスを度々いただきながら実験を進めていくことができました。
 LUMCでは、ほとんどの時間を実験室で過ごすことになりましたが、最初の数ヶ月は外来カンファレンスにも参加させていただきました。基礎でのカンファレンスと違い、オランダ語で討論されるため内容を細部にまで理解することは困難でしたが、少なくとも雰囲気を味わうことはできたと思います。
 
オランダでの生活
 オランダはヨーロッパの北西部に位置する国で、九州よりもやや広いといった程度の国土に1700万人が暮らしています。国土の4分の1は海抜ゼロ以下であり、平坦な土地が続く地形であるため、自転車が主な交通手段となっていました。一年を通じて日本よりも4-5℃低めです。しかし、私が過ごした2013 – 2014年は記録的暖冬であったため、寒さに苦しむことは無く過ごすことができました(スケートを使って運河の上を通勤する光景を見られなかったことは残念でしたが)。ライデンはアムステルダムとロッテルダムの間に位置する人口10万人ほどの小都市ですが、ライデン大学はオランダ最古の総合大学であるため、20-30代の若者たちが多く、非常に活気のある町並みでした。また、日本の文化をヨーロッパに伝えたことで有名なシーボルトが居住していたことや、ヨーロッパで最初に日本語学部が設立されたことでも有名で、毎年5月にはJapan festivalも賑やかに開催されます。
 オランダは交通網も発達しており、ドイツ、フランス、イギリスのいずれにも数時間で到着することができました。また、オランダ国内には至るところに美術館があり、週末の息抜きに事欠くこともありませんでした。2014年はサッカーのワールドカップが開催された年でもあり、学生が多いという土地柄も相俟って、テレビ観戦で盛り上がったこともいい思い出となりました。
 
最後に
 私が京都大学大学院(臨床免疫学講座)に入学した時、三森経世教授から、「留学の意義は、その場所で研究の成果を出す努力をすることは勿論大切であるが、優れた研究者仲間と交流を結んでいくことも同等に大切なことです」と指導していただきました。今になって、そのご指導の深みを強く実感いたします。JCR-EULARトレーニングプログラムへの参加に関して、三森教授をはじめとした教室員の皆様、また滞在前・滞在中に様々なアドバイスや応援をしていただいた皆様に感謝申し上げます。この経験を一人でも多くの患者さんに還元できるよう、今後とも頑張ってまいります。

 

写真1: Weekly meetingの光景
右から三番目がAndreea Ioan-Facsinay(Supervisor, Assistant professor)

 

写真2: LUMCを背景にした筆者

 

写真3: ライデン市内の風車

 

写真4: ライデン市の町並み

 

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