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参加者レポート 金子 祐子

短期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムに参加して

 

金子 祐子
慶應義塾大学医学部リウマチ内科

研修先 : Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology and Musculoskeletal Sciences, University of Oxford (Prof. Peter C. Taylor)

 

 平成24年11月から平成25年7月まで、英国Oxford大学のRheumatology Departmentで研修をさせて頂き、ここにご報告申し上げる。
 私がご指導頂いたPeter C. Taylor教授は、以前Imperial College LondonのKennedy Instituteで臨床研究を中心に活躍されていた方で、Kennedy InstituteがOxford大学に移転したことに伴い、平成23年にOxford 大学Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology and Musculoskeletal Sciencesに教授として着任しClincal Trials Unitを立ち上げ、現在は複数のグローバル臨床研究を主導している。

   私は関節リウマチを中心とする臨床研究を行ってきており、今回の滞在で、英国におけるClinical Trials Unitの確立、運営から臨床研究の進行を経験する事ができた。また病棟ミーティングや回診、外来見学を通じて様々な医療体制の違いを経験した。

 医療体制は日本と英国では全く異なり、どちらも一長一短があることから、理想の体制について考えさせられた。GP(General Practitioner)制度が発達している英国では、患者はまずGPを受診する。Consultantと呼ばれる大学病院等の専門医を受診するためにはGPからの紹介状が必須である。このシステムではGPである程度の篩い分けが行われる一方で、専門医受診が遅れてしまうリスクがデメリットとしてある。また、慢性疾患の場合でも診療は基本的にGPのもとで行われ、専門医には半年に1回程度の頻度で受診する。専門医は必要なら治療方針を変更した方がよい旨GPへ伝え、実際の変更はGPが行う。専門医の外来は午前、午後で患者4-5人ずつというのが通常で、患者ひとりひとりにゆっくり時間をとれるメリットがあるが、逆に予約をとるのが困難で、GPから紹介されても予約が2ヵ月後だったとか、1回予約をキャンセルしたら次が3ヵ月後になったといった話も耳にした。

 英国では医療費は無料だが、NICE guidelineという投薬に関する厳格な規制がある。例えば関節リウマチ(RA)の生物学的製剤に関しては、2剤のDMARDsが無効(うち1剤はMTX)でDAS28>5.1が2回以上続いた場合に使用できることになっており、この規制は遵守されている。日本では添付文書上このように細かい指示がなく医師の裁量が大きく認められており、JCR guidelineではより早期からあるいは予後不良と予想される場合に推奨されているため、 全体としてはRAのコントロールは日本の方がよいかもしれない。

 また英国では関節超音波が診療に頻用されていた。BSR年次学会でも超音波に関する発表や講演が非常に多く認められた。日本でもかなり普及してきているが、MRIと超音波を組み合わせての診療、研究はぜひ日本に戻って行っていきたいことのひとつである。

 関節リウマチに使用できる薬剤も異なる。まず大半の患者にHydroxychloroquinne (HCQ) が投与されているのは驚きであった。日本ではHCQは使えないと伝えると、英国の医者も逆に驚いていた。また、RAに対してRituxymubがTNF阻害薬無効例の2nd lineとして多用されていたが、一方でTocilizumabの使用頻度は多くなかった。Methotrexate(MTX)は当然の如く20-25mg/週が常用量で、消化器症状のため10mg以上飲めない患者の話し合いの際には「10mg以下のMTXなんて有効性は全く不明だから飲ませる意味がわからない」ということで中止する結論になっていた。Sulphasalazopyridine(SASP)は2g/日が当然で、日本の1g/日はbaby doseと言われてしまった。しかし日本ではMTX 8mg/日やSASP 1g/日で効果がある患者がいるのも事実であり、その事実や理由についても研究を進め世界に発信していく必要があると感じた。

 臨床研究実施にあたっての大きな違いは、新薬の治験と医師主導型の介入試験が同様の形式で行われていることであった。日本では治験と医師主導型試験は区別して行われていることが多いと思うが、英国では両者が同次元で捉えられ外来診療とは切り離された状態で行われる。臨床研究のvisit時に時間をかけて診察可能な反面、患者が外来以外に多数来院する必要があり、それを理由としたdropoutも少なからず見られた。

 また臨床研究実施の際、患者リクルートが課題のひとつになっているのは日本と同様でした。多数の臨床研究が自施設または多施設共同で走っていることは共通の理由だが、異なる理由もある。前述のように日本ではコントロール不良なRA患者自体が少なく、生物学的製剤が積極的に使用されていることから、選択基準に合致しないことをしばしば経験するが、英国では1日の外来患者数が少なくフォローも半年に1回程度であることから患者全体をスクリーニングするのにも時間を要するし、臨床試験自体もNICE guidelineに沿う必要があるため、生物学的製剤を使用する臨床試験ではDAS28 >5.1が選択基準の大前提になる。日本ではこの患者数の多さを生かして、さらに臨床試験を組んでいけるようにしたいと感じた。

 この英国滞在中、本当に皆から親切にして頂いた。英国の人たちは少しシャイで、贈り物を渡すときは”This is a little, little present.” という言葉をかけるし、ほめられると謙遜するし、待つときには列をきちんと作り不満を言うこともなくじっと待つし、日本人にとっては溶け込みやすい風土ではないかと思う。冬場は日照時間が短く寒くつらい時期もあったが、4月になると春の足音を毎日実感することができる。異国の地で生活し、外から日本を見ることができたことも大きな財産、自分の視野が少し広がったことを感じている。

 最後になりますが、このような貴重な機会を与えて頂いた日本リウマチ学会、国際委員会の先生方、慶應大学リウマチ内科竹内教授、そして様々な形でサポートしてくれた医局の皆様にこの場を借りて心より御礼申し上げます。本研修で得られた経験を生かし、今後も研究、教育に精一杯力を尽くす所存です。