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参加者レポート 峯岸 薫

長期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムを終了して

峯岸 薫
横浜市立大学大学院医学研究科 病態免疫制御内科学

研修先 : The Leeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine and the Leeds Teaching Hospitals NHS Trust

 

英国での留学生活
 平成24年4月から平成25年3月まで、英国リーズ市にあるChapel Allerton Hospitalにて研修を行ってきました。近年、生物学的製剤が導入されたことにより関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)の治療は一変し、早期診断、的確な疾患活動性の評価が再認識され、超音波画像(Ultrasonography; US)や核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging; MRI)はその目的にかなう診断法として、高い有用性が国内外で報告されています。私は初期臨床研修終了後に大学院に在籍し、USやMRIと滑膜病理像の比較といったテーマに取り組み(Clin Exp Rheumatol. 2012;30:85-92.)、RAの画像評価に関する臨床研究を行ってきました。そのため、生物学的製剤の使用法や画像診断について更に学びたいと考え、RAの臨床研究が最も盛んな英国リーズ大学への留学を希望し、JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムへの応募を行うことにいたしました。
 
診療の特徴
 Chapel Allerton Hospitalは、Rheumatology、Dermatology、Orthopaedicの3科から成るリウマチ専門病院です。リウマチ科、整形外科、皮膚科が協力しながら、リウマチ性疾患の診療と研究にあたっており、リウマチ膠原病外来の患者数は、年間3万人を超え、特に生物学的製剤の使用においては、ヨーロッパでも最大規模の患者数を誇り、専門性の高い診療を行っています。最先端のリウマチ診療を学ぶ機会も豊富にあり、国内外から常に多くのリウマチ科医が研修に訪れ、多彩な症例を経験することができます。
 
研究
 ヨーロッパリウマチ学会の中心となり、臨床データを用いた研究が盛んで、施設長であるPaul Emery教授のもと、データベースに管理されたRA患者に対する前向き研究であるコホート研究を積極的に行っている施設です。特に早期関節炎や生物学的製剤のコホート研究からは多数の研究成果が報告されていますが、他にも、臨床的寛解における再燃に関する因子、“pre-clinical RA” コホートとしての抗CCP抗体陽性患者の前向き観察研究など、画像評価を含めた解析がなされ、多くのデータが蓄積されています。またRA以外の膠原病関連の疾患に関するプロジェクトも多数あり、基礎研究に関してもゲノム研究や自己炎症症候群など、幅広い研究実績を持った施設です。
 

主な臨床研究のテーマおよび疾患
 ・ Early inflammatory arthritis, early & established RA & biological therapies
 ・ Spondyloarthropathies
 ・ Cardiovascular Disease
 ・ OA
 ・ Imaging research (ultrasonography, magnetic resonance imaging, DEXA)
 ・ Scleroderma
 ・ Large vessel vasculitis
 ・ GCA/PMR
 ・ Sjögren’s Syndrome
 ・ SLE

 
トレーニングプログラム
 英国では、医師は家庭医(General Practitioner; GP)と専門医(Specialist)に分かれ、卒後の研修制度が異なっています。専門医研修においては、Consultantという専門の資格を獲得するためには、卒後の一般研修の後に専門研修を行う必要がありますが、リウマチ診療における知識や経験、手技だけでなく、責任感や信頼性、コミュニケーション能力、リーダーシップ能力など、総合的な判断力が必要とされます。普段の診療現場では、チームが担当する患者の責任医が常にConsultantであるため、全ての医療行為(処方や検査、入退院など)はConsultantの名前のもとに行われ、それぞれの患者に関してConsultantの指導を受けながら診療を行う必要があります。
 Chapel Allerton Hospitalでは、Specialist Registrarと呼ばれる病棟や外来業務を中心に行っている医師6名と、Research Fellowと呼ばれる臨床研究を中心に行っている医師10名が、十数名の指導医のもとで日常診療を行っております。普段の診療では、個々の病態や治療方針については毎回活発な話し合いがなされ、他科との協力体制も円滑です。特に、画像診断においては週1回の放射線科医とのミーティングの機会が設けられており、加えて、近隣の病院の医師も含めた研究会が毎週開催され、1年を通して様々なテーマを学習することができます。今回の研修では、日常診療を見学しながら、実際に診療に携わる機会もあり、日本でも勉強を続けていた関節超音波の手技に関しては、Richard Wakefield先生の外来で経験を積むことができ、更に、リウマチ・膠原病外来や病棟でも、実際にエコーを使用して評価を行う症例を多数経験できました。英語での説明などは苦労した点が多かったものの、その場ですぐに病態を評価することのできる関節超音波検査の有用性については、改めて実感することができました。
 
留学中に携わった臨床研究について
 今回の研修では、日常臨床の経験を積むことの他に、臨床研究に携わるという目的も持っていました。前述のように、RA診療においてはヨーロッパ最大規模の施設であり、特に豊富な生物学的製剤の経験とデータの蓄積があります。Biological Monitoring Clinicの担当をしているMaya H Buch先生に研究テーマに関しては指導していただき、数年分の臨床データのまとめと解析を行い、特に生物学的製剤の適応と有用性、有害事象に関する検討を担当することができました。具体的な内容に関しては未発表データのため、今回の報告では記載することができませんが、新規製剤が増える中で、リスクマネジメントに精通しておく必要があるという点を再認識する研究結果となりました。
 今回の臨床研究に携わる中で、臨床研究の進め方や研究デザイン、結果のまとめ方など、多くのことを学ぶことができましたが、いくつかの課題もありました。まず、第一に英語力の問題があります。日常会話や学会発表の経験は過去にもありましたが、会議に参加し、ディスカッションを重ねていくことは容易ではありませんでした。研究背景に関する知識を習得し、得られた結果をもとに話し合いを進めていくためには、論理的な思考を限られた時間で簡潔に説明を行う必要がありましたが、相手の求めている内容を理解し、自分の考えを伝えることの難しさを実感する場面が多々ありました。医療システムの違いなど、不慣れな点もありましたが、同僚のサポートもあり、非常に貴重な研修生活を送ることができたと思います。また、帰国直前には、診療ガイドラインを作るためのシステマチック文献検索に携わる機会があり、論文検索、データ解析など、今後の課題も発見することができました。
 
留学先での生活について
 国内外から多くの医師が研修に訪れている施設であったため、他国の文化や生活習慣に触れる機会もあり、国際交流という面においてもいい研修を送ることができたことに非常に感謝しております。日本の文化を紹介できる機会は限られていましたが、近所の方々を含めて、様々な場面で交流を深めることができ、雨の日が多く、年間を通して気温もやや低めでしたが、街の方々も皆親切で、院内でも院外でも人種差が気になることはありませんでした。帰国前に同僚が送別会を計画してくれましたが、”カラオケ”に行こうと提案されるなど、皆様の心遣いに感謝しております。
 最後になりましたが、留学に際してご尽力いただきましたJCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラム関係者、ならびに石ヶ坪教授をはじめ留学中を通じてサポートしてくださった諸先生方、英国で指導してくださったPaul Emery教授、Maya H Buch先生をはじめ、お世話になったスタッフの方々に厚く御礼を申し上げます。様々な国の人々と一緒に研究ができ、特にリーズ大学のような恵まれた施設で研修することは、その後の臨床および研究活動の糧となることは間違いないと感じました。

 

Figure 1. エメリー教授

 

Figure 2. クリスマス会1

 

Figure 3. クリスマス会2

 

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