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参加者レポート 小豆澤 勝幸

短期プログラム
JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラムを参加して

小豆澤 勝幸
独立行政法人国立病院機構 姫路医療センター 整形外科

研修先:The Leeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine and the Leeds Teaching Hospitals NHS Trust (Prof. Philip G. Conaghan and Prof. Paul Emery)
 
 
令和元年10月から同12月まで、英国Leeds大学のTeaching hospitalの一つであるChapel Allerton Hospital (CAH)で研修を受けさせていただきました。CAHでの研修につきましては、これまでにも詳細なご報告をいただいておりますので、可能な範囲で内容の重複を避けたご報告をさせていただきます。
 
LeedsとCAHについて
 LeedsはEngland北部のWest Yorkshire州にある地方都市の一つです。Londonからは鉄道を利用して約2時間15分で行くことができます。Leeds大学にはTeaching hospitalが3施設ありますが、CAHはその一つでありRheumatologyとOrthopaedicsとDermatologyで構成されています。RheumatologyはCAHの施設内にThe Leeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine (LIRMM)という研究室を保有しています。LIRMMは、Professorを始めとするConsultantと呼ばれる専門指導医が約15名、Consultantを目指す医師や研究留学の医師で構成されるResearch fellowが10名強と、同じくConsultantを目指すSpecialist registrarが10名弱在籍をしていました。LIRMMのDirectorはPhilip Conaghan教授が現在務められております。前DirectorのPaul Emery教授は、Rheumatoid arthritis (RA)グループのリーダーとして臨床、研究指導を続けておられます。私は短期ではありましたが、LIRMM内のVisiting research fellowとして登録の上、研修を受けさせていただきました。
LIRMMには私以外に10名弱のResearch fellowが在籍していました。私以外のFellowは全員医師としてLIRMMで勤務していました。また、英国外から留学し、現在ConsultantやFellowとして在籍しているドクターも10名以上おられました。イタリア、スペイン、ベルギー、ルーマニア、南アフリカなど様々な国から来られていました。英国外出身のドクターは英国内で勤務するために、IELTS overall 7.5以上という採用条件をクリアする必要がありました。イタリア、スペインのドクターからは、本人以外は家族も含めて英語を話せる人がほとんどいない、母国では英語は通じない、という厳しい環境の中で英語を習得した、という話を聞かせていただきました。卒後7年でスペインから留学中のFellowに、英語を習得した時期について興味本位で質問したところ、「英語はまだ習得していない。今もずっとトレーニング中だ。」と言われました。欧州の人たちは英語を習得することに苦労していない、というのは私の誤解だったと気付きました。
 
CAHの医療体制について
 私が研修させていただいたCAHは、National Health Service (NHS)という国営保健サービスの下で運営される公的病院です。NHSの下では基本的に自己負担なしで医療が提供されています。ただし、CAHなどの専門医療機関へ定期通院中の患者さんであっても、それぞれの専門医療機関を自由に受診することはできません。受診の際には、総合診療医(General Practitioner; GP)からの紹介状(Referral letter)と受診予約が必要となっています。GPについては、患者さんの住所によってかかりつけ医として指定されているそうです。また、CAHの受診間隔は症状増悪時など特別な場合を除き、概ね3ヶ月ごとで設定されていました。CAHでは時間外の対応について日替わりで担当医が決められていましたが、急病時は(公的または民間の)救急医療機関へ受診するように指示されていました。
NHSの医療機関で厳格に決められているのは受診だけではありません。疾患における治療開始の条件についても厳格に決められています。例えば、関節リウマチ患者に対する生物学的製剤の開始基準は「DAS28が5.1以上」です。乾癬性関節炎に対するメトトレキサートの開始基準は「BASDAIが7.5以上」です。イタリアから留学中のドクター曰く、NHS独自に定められた厳格なルールとのことでした。
また、CAH通院中のほぼ全ての患者さんは、何らかの臨床研究に参加されていました。私が特に興味深いと感じた臨床研究は、ACR/EULAR関節リウマチ分類基準2010を満たさなかった抗CCP抗体陽性の患者さんに対する観察研究でした。将来的にRAを発症するリスクが高いと考えられる患者さんを前向きに調査するコホート研究であり、LIRMMにおいて力を入れている研究の一つでした。CAHではこの研究に登録された患者さんが、毎週月曜に20人近く来院されていました。受診された患者さんの多くは特に症状を訴えませんが、次回の予約を取った後に笑顔で診察室を後にされました。患者さんにとっては、医療費の自己負担がないとしても通院など労力のかかることだと思われました。患者さんが受診するメリットがあるかどうかをFellowの一人に質問したところ、「通院することに対して患者さん側にはあまりメリットはない。この研究のために通院してもらえることは貴重なことだと思う。」と話していました。もちろん、不来の患者さんもおられて、外来後のミーティングでは不来について“DNA (did not attend)”と呼んでいました。
 
私の研修について
 私の研修では、外来見学と臨床研究の手伝いをさせていただきました。外来見学では、診察室での診療内容を見学しました。外来患者さんに対しては、Research fellowまたはSpecialist registrar が最初に問診と身体診察を行います。CAHの外来診察ですが、ドクターが診察室を出て入口近くの待合まで行き、呼び出した患者さんに挨拶をした後、診察室まで案内するところから始まります。患者さんの身体診察の際には、ドクターは必ず靴と靴下を脱ぐように指示をしていました。肩・肘・膝についても、触診できるように適宜脱衣を指示していました。腫脹関節を認めた場合は、必要に応じて別室で関節エコー検査を行っていました。Specialistは問診・理学所見の結果をProformaという下書き用紙に記録すると、診察室を出て別室に控えているConsultantに相談します。全ての外来患者さんの主治医はConsultantであり、FellowやRegistrarの診察結果に対してConsultantの責任の下で治療方針が決定されます。その後、Consultantは説明のために診察室に当日担当医(と私)を連れて診察室に入ります。Consultantは患者さんに治療方針を説明し、患者さんと会話をした後に再び別室に戻ります。最後に、当日の検査、処方箋を渡して、患者さんの診察が終了します。診療録は紙媒体ですが、検査オーダーやReferral作成は電子媒体で行われていました。処方箋については、通し番号付きの紙伝票を順番に使用するという方法でConsultantの控室に管理されていました。
CAHの診療スタイルとして、特徴的な点も教えていただきました。NHS医療機関では、医療者は患者さんに診察行為以外で不必要に触れてはいけない、と決まっているそうです。例えば、「右肩が痛い」と言っている患者さんに対して、問診の途中で右肩に手を当てるような行為は禁止されているそうです。コミュニケーションの手段としては悪い方法ではありませんが、診療でのトラブルを避けるために禁止されている、と聞きました。ただし、呼び込みの際の自己紹介や、診察終了時には握手はしていたので、握手については例外のようでした。
CAHでは注射外来が設けられていました。欧州のリウマチ診療の特徴として、ステロイド関節腔内注射を積極的に併用することを聞いていたので、注射外来について興味を持って見学させていただきました。CAHでは、触診下で注射を行うInjection Clinicと、エコー下で注射を行うUltrasound Clinicの両クリニックを見学させていただきました。特に、Ultrasound Clinicでは、ConsultantのRichard Wakefield先生を中心としてドクターたちがエコーの技術向上を目指して切磋琢磨していました。注射希望で予約された患者さんに対してエコーで評価した上でステロイド注射を行っていました。週1回午後から6-8名程度注射していました。午前の外来と異なり複数のドクターがエコー室に集まるため、必然的に会話が弾んで楽しい時間を過ごすことができました。
私の研究については、Emery教授とConaghan教授にご多忙の中で検討をしていただきました。短期滞在のため一から研究を始めることは難しいということで、Reviewの作成をいくつかお手伝いすることになりました。そのうち1編は、提出締め切り1ヶ月前かつ帰国3週前というギリギリの案件でした。Fellowの一人が私に、“Later is better than never.”と笑顔でReviewの作成を持ちかけてきたことは本研修のよい思い出となりました。
今回、英国の医療と研究に触れることできたこと、そして海外のドクターを始め医療スタッフと交流できたことは、医師としての自分における大きな財産になったと感じております。最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて下さった日本リウマチ学会国際委員の先生方、これまでご指導いただいた京都大学整形外科 松田秀一教授・リウマチセンター 伊藤宣教授を始め同門の先生方、赴任早々の留学を快諾くださった姫路医療センターの和田康雄院長を始めスタッフの皆様に深く感謝を申し上げます。この経験を今後の診療や教育に還元できるように努力して参ります。
 

写真1: CAHのウェルカムボード, 写真2: CAHの外来診察室,
写真3: クリスマス会にて, 写真4: Wakefield先生とDi Matteo先生と私,
写真5: Mankia先生と私, 写真6: CAHの外観,
写真7: CAHの正面玄関, 写真8: Leeds市街中心部