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参加者レポート 藤田 健司

短期プログラム

JCR-ELUAR 若手リウマチ医トレーニングプログラム(短期研修)報告記

藤田 健司
富山市民病院 整形外科

研修先 : Tübingen university, BG Klinik, Germany:2017年2月-8月
研修先 : St.Josef-Stift Sendenhorst, Germany:2017年9月

 

はじめに
この度はJCR-EULA若手リウマチ医トレーニングプログラムにご選出いただき、誠にありがとうございました。短期研修として3ヶ月間の助成を頂きましたが、この貴重な機会を最大限利用したいと思い、ドイツの2施設で計8カ月間の臨床研修、主に手術の研修をさせて頂きました。
 
Tübingen university, BG Klinikについて
Tübingenはドイツ南部にある人口8万人超の小さな町です。町の中心部は中世の面影が残り、とても美しい町です(写真1)。Tübingen universityは創立1477年で古くから大学町として知られ、人口の4割弱が大学関係者であり、若者が多く活気があります。
 Tübingen university, BG Klinikは、ドイツでも有数の外傷センターとして知られており、主任教授のStöckle先生は外傷(特に骨盤骨折)で世界的に有名な方です。整形外科医は約30-40名(レジデント含む)いるようでした。手術室は、整形外科だけで10部屋ほどあり、約40件/日ほどの数多くの手術を行っていました。私の所属した膝周囲骨切り術・関節鏡チームは、上級医が3名、レジデント3-4名で、外来日の火曜日以外は毎日7-8件の手術を行っていました。自分は毎日約4件の手術に参加させて頂きました。自分のボスのSchröter先生(写真2)は、膝周囲骨切り術のスペシャリストで、膝骨切り術・関節鏡手術を中心に、膝・肩・足のいろんな手術を行っていました。膝骨切り術に関しては、一般的な高位脛骨骨切り術に加えて、大腿骨遠位骨切り術や、高度変形に対するdouble level osteotomy(大腿骨・脛骨の骨切り術の組み合わせ)、外傷後変形に対する骨切り術など、高度な骨切り術を得意とされていました。関節内の病変(半月板・靭帯・軟骨など)に対する関節鏡視下手術、変形に対する骨切り術など、人工関節以外の関節外科の技術を学ぶことができました。特に高度な内反変形膝・外反変形膝に対する膝周囲骨切り術の技術が勉強になりました。
 
St.Josef-Stift Sendenhorst(写真3)について
Sendenhorstはドイツ北西部にある人口約2万人の小さな田舎町です。病院は創立130年弱の歴史があります。この病院は、一般整形外科(関節・スポーツ・脊椎など)と、リウマチ科(リウマチ整形外科・リウマチ内科・小児リウマチ)に特化した巨大センターです。ドイツに3つある大きなリウマチセンターのうちの1つだそうです。患者さんの1割はドイツの他の州など遠方からきていました。整形外科医は全体で約40名(レジデント含む)で、そのうち自分の所属したリウマチ整形外科グループは11名でした。部長のBause先生(写真4)は、2017年度のドイツリウマチ整形外科学会の会長を務められていました。ドイツではリウマチ性疾患の薬剤加療は内科医が行います。よって、リウマチ整形外科医の業務は手術に特化しており、すべての医師が脊椎以外のすべての部位の手術を担当するスタイルでした(とは言っても医師ごとに得意な部位はあるようでした)。多部位の関節変形・機能障害を有するリウマチ患者にとっては総合的に評価・手術加療を受けることができるのでメリットが大きいと感じました。一方、術者にとってはすべての部位の手術に精通する必要があります。リウマチ整形外科の手術件数は、約1700件/年・約7件/日で、手術の約75%がリウマチ患者の症例(他は変形性関節症などの症例)だそうです。自分は毎日約3-4件の手術に参加させて頂きました。具体的には、滑膜切除術、腱縫合・腱移行術、手指の人工関節置換術・固定術、手関節の遠位橈尺関節の手術、足趾の関節形成・切除関節形成術、足関節の固定術、股・膝・肩の人工関節置換術、および再置換術などあらゆる関節手術がありました。高度な変形やrevision手術など難しい症例が多い事が印象的でした。経験不足であった手足の手術、かなり難症例である人工関節再置換術を経験できました。また、関節リウマチの薬物治療においてパラダイムシフトが生じて久しいですが、これからのリウマチ外科において求められる手術を知ることができました。
 
ドイツの生活
ドイツの冬は気温がマイナスになることも多く厳しいものでしたが、一方、夏は全体的に涼しくカラっとしており過ごしやすい気候でした。一般にドイツの家庭にクーラーはないそうです。病院内でクーラーがあるのは手術室のみで、病棟や外来ですらありませんでした。夏は21時頃まで明るく、平日帰宅後や夕食後に家族といっしょに公園に出かけたり散歩したりできました。
 
ドイツの医療
外来診療は家庭医、入院診療は病院というように厳密に分かれており、病院での診療を受けるには原則紹介状が必要だそうです。そのため、病院の整形外科の外来は術前と術後フォローの患者だけであり、薬剤の処方や注射をしている姿はほぼ見ませんでした。病院は集約化・専門化がすすんでいるようです。また、人工股関節置換術や人工膝関節置換術は1年間に50症例以上あることが手術施設の条件であり、もし下回ると翌年度からその手術に対する保険が認められなくなくなってしまうという話も聞きました。また、どちらの病院でも手術室が非常に効率的に運用されていました。手術は朝8時頃から一斉に始まり、1部屋あたり3-4件が行われ、15時頃までにだいたい終わります。手術が終わりに近づくと、次の患者が麻酔のための前室に呼ばれて麻酔が開始され、麻酔がかかった状態で手術室に入室します。そのため、手術終了から、次の患者の入室・執刀開始までの時間が極めて短かったです。病院の集約化・専門化は、医療の効率化・質の向上に直接つながり、大きなメリットだと思いました。しかし、病院の集約化と地域医療の充実とは相反する事柄で、患者さんは専門的な医療を受けるために遠方の大病院に紹介受診しなければなりませんし、一長一短と思いました。
 
ドイツの医学生
病院では医学生をほぼ毎日見かけました。ドイツの医学部は日本と同様に6年間(半年×12セメスター制)で、5-10セメスターの3年間に4ヶ月間、長期休みを利用して、個々で臨床実習を行うことが義務づけられています。最後の11-12セメスターは、授業はなく臨床実習のみだそうです。実習とは別に、アルバイトで月に5回程度、病院の外来や手術室で働いている学生もいました。全体的に学生の意識が高く、医療現場に早いうちから関わるのはいいことと思いました。
 
ドイツの研修制度 
医学部卒業後、少なくとも最初の6年間は整形外科のレジデントドクターとして経験を積み、晴れて一人前の整形外科医になります。レジデントドクターの間は上級医の指導下にのみ手術を執刀できるようです。リウマチ整形外科医を名乗るにはさらに最低3年のトレーニング期間が必要であるようです。日本でも専門医制度がありますが、必須ではありませんし、専門医でなくても自身で執刀できるので、日本より厳しい制度のように感じました。
 
最後に
この研修期間に約500症例の関節外科手術を助手として経験することができました。「百聞は一見に如かず」という諺もありますが、手術の上達にはテキストや論文では学べない部分があり、どうしても経験が必要です。自分にとってエキスパートの洗練された手術を数多く経験できたことは何より貴重な財産となりました。新しい発見に感動することもしばしばありました。また、同僚の方々にはとても親切にしていただき、ストレスなく過ごすことができました。病院以外でも、ホームパーティーに招いて頂いたり、ディナーや観光に連れていっていただいたりと温かくもてなしていただき、感謝が尽きません。Tübingen university、およびSt.Josef-Stift Sendenhorstで研修できたことを幸せに思います。このような貴重な機会を与えていただいたリウマチ学会国際委員会、および土屋弘行教授・加畑多文准教授をはじめ、医局・同門の諸先生方に、心より感謝申し上げます。ドイツでの経験を日本での診療に生かすことができるよう、精一杯頑張りたいと思います。

 

写真1: Tübingenのネッカー川沿いの街並み

 

写真2: ボスのSchröter先生(右)、主任教授のStöckle先生(中央)とともに。筆者は左

 

写真3: St.Josef-Stift Sendenhorstの看板

 

写真4: 部長のBause先生(前列・右から2番目)、リウマチ整形外科グループの医師とともに。筆者は前列・左

 

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