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参加者レポート 布川 貴博

短期プログラム

JCR-EULAR 研修報告

布川 貴博
東京都立多摩総合医療センター リウマチ膠原病科

研修先 : Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology and Musculoskeletal Science,Oxford University

 

はじめに
 私は、2015年10月から同年12月の3か月間、イギリスのオックスフォードにあるオックスフォード大学リウマチ科で研修をさせていただきました。オックスフォード大学は4つの病院を有しており、これらはNational Health Service (NHS)の一部でもあります。私はこの病院群の一つであるNuffield Orthopaedic Centreに併設されたBotnar Research Centreにて血管炎の臨床研究に参加させていただきました。私がご指導いただいたRaashid Luqmani先生は血管炎を専門とされていて、血管炎に関する複数の臨床研究を主導されています。


DCVASについて

 Diagnostic and Classification Criteria in Vasculitis Study (DCVAS)は、日常臨床や臨床試験で実用できる、全身性血管炎の診断基準や分類基準を新たに策定するための多施設共同研究です。ヨーロッパや北米の施設が中心ですが、日本をはじめとしたその他の地域からも血管炎症例の臨床情報が提供されています。研究は現在も進行中ですが、各国から収集された臨床情報は、血管炎領域のその他の研究にも使用可能であり、いくつかの臨床研究が派生しています。私もこの研究のdatabaseを利用して、以前から興味を持っていたANCA関連血管炎のENT病変に関する臨床研究をさせていただきました。またその結果を英国内の研究グループであるUKIVas (the UK and Ireland Vasculitis Rare Disease Group)のミーティングで発表する機会もいただきました。
 DCVASは数千の症例数を集めている非常に大規模な研究で、参加施設も多くの地域にまたがっているため、どのようにまとまりを持って進行させていくかに興味がありました。核となっている各国の研究者たちは定期的に電話カンファレンスを行っており、そこで重要な議題についてディスカッションをしていました。また上記のUKIVasやアメリカリウマチ学会総会などにおいて、研究の進行状況を逐次報告し、ディスカッションを行う場を設けており、密で継続的なコミニュニケーションを重視している様子がうかがわれました。
 データマネージャーやプログラマーなど医師以外の職種も多く従事しており、Luqmani先生を中心とした研究チームを形成していました。各自が抱えている問題は定期的に行われるチームミーティングで議論され、解決方法が模索されていました。純粋な医学的問題だけではなく、資金や人員面での問題も議題となることが多く、大規模な臨床研究を実施する上では、多方面におけるマネージメント能力が重要であると感じました。


BVASについて

 Birmingham vasculitis activity score (BVAS)はLuqmani先生が提唱された血管炎の活動性指標で、血管炎による障害の指標であるvasculitis damage index (VDI)と共に、血管炎の臨床試験等で良く使用されています。Luqmani先生はこれらのスコアリングに習熟するためのツールとして、模擬患者でスコアリングのトレーニングができるwebsiteを創設されています。私はDCVASのdatabaseを利用して、より実際の臨床像に近い、血管炎患者のシナリオを作ることに従事しました。将来的には日本語でトレーニングできるように日本語版シナリオを作成したいと考えております。


大血管炎について

 Luqmani先生は大血管炎の臨床に強い興味をお持ちで、巨細胞性動脈炎 の専門外来も運営されていました。特に側頭動脈エコーに力を入れていて、診断のみならず、経過のフォローにも使用されていました。診断における側頭動脈生検とエコーの有用性を比較した多施設共同研究も主導されていました。私は過去の自施設での数少ない経験から、あまりこの検査にはよい印象を持っていませんでしたが、エコーで診断し、生検が避けられている症例を目にして、大分考えを改めました。ただし、それなりの性能のエコーや、検者の技量を要するため、巨細胞性動脈炎の有病率が欧州ほど高くないと思われる日本において、質の高い側頭動脈エコーができる環境を、多くの施設が整備することも難しいだろうと考えました。またエコー陰性で、生検陽性という症例もあるようですので、完全にエコーが生検に置き換わることもないと思われます。
 日本と同様に、PTE-CTが大血管炎の診断や活動性評価に用いられていましたが、特に後者の用途では、その利用法や評価法が標準化されるまでには至っておらず、バイオマーカーや画像検査などを利用した疾患活動性評価の必要性を感じました。


イギリスの医療制度について

 イギリスでは政府が保険サービスを運営しており、まずgeneral practitioner (GP)にかかって、必要があれば専門医に紹介されるというシステムをとっています。医療費はかからないものの、専門医の予約や手術をうけるまでに、かなり時間を要することが問題になっているようです。実際、巨細胞性動脈炎が疑われ、GPによりステロイド投与がなされてから、数週経過し、専門外来を受診している症例を何例か目にしました。また関節リウマチのような有病率の高い疾患だけでなく、血管炎のような比較的稀な疾患も、安定している症例はGPにより管理され、専門医の診察は半年毎などであり、日本との大きな違いを感じました。


オックスフォードについて

 オックスフォードはイングランド東部に位置し、高速バスに乗れば、ロンドンへ1時間半程度で出ることができます。オックスフォード大学は英語圏において最も古い大学であり、街には大学関連の由緒ある建築が多くみられ、町全体がキャンパスのようになっています。イギリス伝統の、学科とカレッジから構成される運営方式で、他にはケンブリッジ大学も同様の方式だそうです。カレッジ制は日本には馴染みのないシステムなので、理解が難しかったのですが、学寮のようなもので、すべての学生は40近くあるカレッジのいずれかに所属し、生活や学習の場とするとのことでした。カレッジも歴史的な建造物が多く、一部は一般にも公開されており、観光の名所となっています。オックスフォードは大学都市であるとともに、その古い歴史を魅力とする観光都市でもあります。そのため歴史的建造物が非常に多く残されています。古い建築物を修繕しながら、実用する様子は日本も参考にすべきと思いましたが、不便そうにも見えました。


最後に

 短い期間ではありましたが、多くの新たなことを経験できた濃厚な3か月でした。特にDCVASのような大規模臨床研究がどのように進められているのかをみることができたことは、本当に貴重な経験でした。今後、日常臨床に良いインパクトを与えられるような臨床研究をやっていきたいと決意を新たにしました。最後になりますが、留学をご支援いただきました日本リウマチ学会や、多忙な中、不在期間の業務をカバーして下さった東京都立多摩総合医療センター リウマチ膠原病科の先生方に感謝申し上げます。

 

写真: オックスフォードの街並み

 

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