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参加者レポート 清水 正樹

短期プログラム

JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラム(短期)に参加して

清水 正樹
金沢大学 医薬保健研究域 医学系 小児科

研修先 : Pediatria II, Reumatologia, Department of Pediatrics, University of Genoa, G. Gaslini Research Institute, Italy. (Prof. Alberto Martini)

 

  私は、イタリア、ジェノバへ3か月間の研修に行って参りました。研修先のジェノバ大学Gaslini病院小児リウマチ科は、51か国200の施設が参加するPRINTO(Paediatric Rheumatology International Trials Organisation)の中心施設で、JIAを中心とする小児のリウマチ膠原病の診療と研究において世界をリードする施設の一つです。病院はジェノバの東、地中海に面する高台にあり、青く美しい地中海を見渡すことのできる風光明媚なところにあります。イタリア、そしてこども病院らしく、たとえば、サボテンの形をしたコートかけや、動物を模った点滴台、魚の椅子など、洗練された可愛らしい家具に囲まれた診察室はとても印象的でした。

 私は、全身型若年性特発性関節炎(s-JIA)および本症の重篤な合併症であるマクロファージ活性化症候群(MAS)の病態解析をテーマとして研究を行っています。特に本症の病態におけるサイトカインプロファイルに関する検討を行い、IL-18やIL-6を中心とするサイトカインプロファイルがMASの基礎疾患の鑑別診断やs-JIAの疾患活動性の有用な指標となること、IL-10, HO-1など抗炎症性サイトカインnactive phaseにおいても持続的に高値を示し、炎症制御に働いていることを明らかにしました。また、小児リウマチ学会のメンバーで構成されるMAS症例診断治療基準検討ワーキンググループのメンバーとして、MASに関して非常に興味を持ちながら、細胞およびサイトカインの解析を続けています。

 研修先のジェノバ大学Gaslini病院小児リウマチ科は、s-JIAおよびMASに関する研究を精力的に行っており、MASの診断基準案を世界に先駆けて報告したグループです。しかしながら、現行の基準案は早期診断に対しては不適切であることから、MASの適正な診断基準の作成が世界的に課題となっています。今回の研修の目的の一つは、このMASに関してexpertである彼らと意見交換を行うことでした。実際に数多くの患者さんを治療している彼らから多くのことを学ぶことができ、自分にとって非常に有意義な財産となりました。前述のMAS症例診断治療基準検討ワーキンググループにおける、MASの診断治療基準の作成にむけ、この経験を生かしていきたいと思います。

 もう一つの目的は、s-JIAに対するIL-1blockerの効果を実際にみてみたいということでした。わが国では、s-JIAに対してtocilizumabが導入され、劇的な効果をあげていますが、一部の症例では投与中にMASを合併することが明らかになっています。一方、イタリアでは先にanakinraやcanakinumabが導入され、s-JIA症例に対して非常に有効である一方で、一部の症例では効果に乏しく関節炎を繰り返し、tocilizumabに変更され、効果を認めている症例がいることがわかりました。このようにs-JIA症例では、IL-1またはIL-6 blockingに対して異なる反応を示す、臨床像の異なる2群の存在があることが明らかになっています。我々はs-JIA症例の初発時や再発時のサイトカインプロファイルを解析し、プロファイルのパターンの異なる2群が存在し、それぞれ群で臨床像が異なっていることを明らかにしました。今後、彼らとの共同研究により、生物学的製剤の反応性とサイトカインプロファイルの関連についての解析を通じて、s-JIAに対する適正な治療方針の確立に向けた検討を続けていきたいと考えております。

 このように今回の研修は、現在行っている研究の発展に対して非常に有意義だったのみならず、我々の施設の若手の研修、教育システムを向上させる多くのヒントを与えてくれました。我が国において小児リウマチ専門医の数は非常に少なく、専門医の養成が課題となっています。特に私の所属する北陸地区は専門医が不在の地域であり、今後私たちの施設が北陸地区の小児リウマチ診療の中心となるとともに、教育システムについても確立していきたいと考えておりました。ジェノバ大学Gaslini病院小児リウマチ科は2002年から今までに23か国からの70名の医師の教育を行った実績がありますが、指導医による研修医への指導の実際をみて、その丁寧な指導ぶりには驚かされました。特に多くの種類のformを準備して、それらへ記入しながら診察をすすめていくことは、漏れなく確実に診察することができ、研修する若い医師の技術向上に非常に有効であると思いました。イタリアと同じように、日々の診療においてなかなか一人一人の患者さんにゆっくりと時間をかけて診察をしていくことは難しいですが、研修を通じて学んだ良い点を抽出して、研修医や医学生の教育に応用、実践していきたいと思います。

 このほか、s-JIA症例のみならず、ジェノバでは、その他の小児膠原病、免疫不全症、自己炎症疾患など多くの患者さんを一緒にみさせていただき、今までにみたことのない数多くの疾患についても幅広く学ぶことができました。また、研修期間中、チェコ、ポルトガルからの研修生と一緒に診療を行いました。イタリアのみならず、各国の医療事情についても意見交換ができ、非常に有意義でした。日本は非常に恵まれた環境にある一方で、無駄な部分が多々あることも再認識できました。

 反省すべき点は、イタリア語の勉強が足りなかったことです。英語で丁寧に解説してもらえたので、多くのことは理解できましたが、イタリア語がもっとわかっていれば、さらに充実した日々が送れたことと思います。

 私は以前2年間、米国で研究留学をした経験があり、今回は2回目の海外での研修になりました。1回目の留学とは異なった経験ができ、今後の自分の人生にも大きな影響を与えるものになったと思います。海外留学は自分の視野を広げる絶好の機会になると思います。今後もこのプログラムを通じて多くの先生が素晴らしい経験をされることを希望します。

 最後にこのような素晴らしい機会を与えていただきました日本リウマチ学会、国際委員会の先生方、金沢大学小児科の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。研修で得られた経験を生かし、今後も研究の進展、若手の教育に尽力してまいりたいと思います。ありがとうございました。

 

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