短期プログラム
第1回JCR-EULAR若手リウマチ医トレーニングプログラム訪問記
中村 順一
千葉大学大学院 医学研究院 整形外科学
研修先 : The Leeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine and the Leeds Teaching Hospitals NHS Trust
Leeds大学にはLeeds General Infirmary(LGI)、St. James、Chapel Allertonの3つのteaching hospitalがあります。Chapel AllertonはRheumatology、Dermatology、Orthopaedicsからなる小規模病院です。RheumatologyはChairmanのPaul Emery教授をはじめとしてDennis McGonagle教授とPhilip Conaghan教授の3名の教授がおり、文部教官に相当するconsultantが約10名、医員に相当するregistrarが約20名、大学院生に相当するresearch fellowが約10名、技術者が20名近く在籍しています。研究室に私にも専用の机を割り当てていただき、恵まれた環境で留学生活を過ごすことが出来ました。1週間の流れは、月曜日は午前新患外来、火曜日は朝8時から教授回診と生物学的製剤外来、水曜日は午前新患外来・午後X-ray meetingとAcademic Meeting、木曜日は午前Connective Tissue Clinic、金曜日は午前Spondyloarthropathy Clinicです。外来のスタイルはまずregistrarが問診と所見を取り、別室でconsultantと治療方針を相談するという形式です。英国は階級社会の伝統と分業制が浸透しているためか、registrarとconsultantの役割がはっきりしています。診察はかなり時間をかけて丁寧に行い、患者1人当たり40分、場合によっては1時間以上かける場合もあります。内科研修を積んでいるため関節症状のみで紹介されても血圧や胸部症状などをチェックして全身疾患の鑑別診断をきちんと行う点は評価に値します。診察室は完全個室ですが中待合がなく、看護師も診察につかないので医師が自ら受付まで患者様を送り迎えします。注射も完全セルフサービスで行います。なんだか気の毒な感じがするのですが、私はこちらで医師の資格がないため手伝うこともできずただ見守るだけです。また、意外なことに英国の医師は白衣を着ません。数年前に院内感染が問題になってから、全英で白衣とネクタイの着用が禁止となったそうです。Yシャツは半袖もしくは袖をまくるのがルールです。カルテ記載はICレコーダーに吹き込み、後日typistがdictateするシステムです。これには留守番電話に伝言を残す時のようなコツがいると思います。Emery教授の回診は全員参加ではなく、病棟担当のregistrarが2名、研修医1-2名、学生数名、看護師1名、薬剤師1名で小一時間カンファをしてから回ります。病棟は約10人の大部屋が基本で各ベッドはカーテンで仕切られているだけで、個室は感染など隔離用に使われます。皮膚科との混合病棟でRheumatologyの入院患者数は常時8人くらいです。Chapel Allertonでは30件近い臨床研究が走っていて、ほぼすべての患者様がなんらかの臨床研究に参加しています。それぞれの研究には説明書と同意書がありますが、Emery教授が統括しています。Emery教授は優れた研究者であるだけではなく優れた臨床家でもあります。必ずすべての患者様と会って直接説明をしていました。そのため患者様からの信頼も厚くカリスマ性があります。X-ray meetingは放射線科医との症例検討会で非常に勉強になりました。英国では内科医が直接画像をみることは稀です。一方、検査もあまりしないためか非常に進行した画像が出てきてしばしば驚かされます。Academic Meetingは医局会のようなもので抄読会や研究発表、症例報告などがあり関連病院からも人が集まります。Connective Tissue Clinicは眼科、呼吸器内科、腎臓内科とのcombined clinicになります。皮膚科も隣のフロアで外来をしているので相談に行くことがしばしばあります。Spondyloarthropathy Clinicでは、psoriatic arthritis(乾癬性関節炎)がLeedsで初めて報告されたこともあり、seronegative RAや強直性脊椎炎の研究が盛んです。
Rheumatologyは内科のsubspecialityと位置づけられており原則的には炎症疾患が対象ですが、専門医の増加を反映してmechanical stress (テニス肘や肩関節周囲炎、腰痛など)、慢性疼痛や不眠、骨粗鬆症、関節内注射、リハビリなど境界医学にも関わるようになってきています。英国のRheumatologistはmusculoskeletal disorderの保存療法を一手に引き受けており、整形内科医と呼んだ方が正しいかもしれません。一方、英国の整形外科医は4000名しかおらず、日本23000名、米国37000名と比べ極端に少ない数です。必然的に整形外科医は手術療法に特化しています。投薬に関しては鎮痛にカプサイシン、トラマドール、モルヒネなどが積極的に処方されていました。骨粗鬆症で特筆すべきは、人種や文化、地理的条件が関係しているかもしれませんが、ビタミンD摂取を重視していました。関節リウマチについては、メトトレキサートを15mg1回内服/週から始めて25mg1回内服/週まで増量(症例により皮下注投与)、フォリアミンは5mgをMTX内服日以外の週6日内服処方していました。生物学的製剤についてはrituximabを適応しているのが我が国との違いです。一方、世界のトップであるLeedsにおいても寛解や骨破壊の防止が達成できるのは限られた症例のようです。したがって整形外科医の存在はまだまだ必要であり薬物療法と手術療法をうまく組み合わせて集学的に治療にあたるのが正しいのではないかと感じました。
渡英してしばらく経った頃Emery教授から「ここでやることは決まったのか?」と聞かれました。どうやら単なる施設見学にとどまらず何らかのacademic activityを期待されているようでした。私としても貢献できることはないかと模索しはじめましたが、3ヵ月間で成果を上げるのは過酷な試練です。しかも研究テーマが決まっていないのです。Emery教授は彼らとdiscussionするようにと数名のリストをくれました。今どんな研究をしているのか話を聞くことで親睦を深めることが出来ました。今思えばEmery教授の狙いは仲間をつくれということだったのかもしれません。そういう意味において彼は優れた指導者でもあります。研究については早期関節炎のデータベースと私の好きなMRIに携わりました。後者については非常に興味深い知見を得ることができました。
さて留学先に英国を選んだのは私の内なる憧れがありました。歴史や文化、音楽性など自分の嗜好はイギリス的な何かを求めていました。週末にはいろいろな旅にでかけました。York, Manchester, Liverpool, Wrightington, Chester, Peak District, Bath, Salisbury, Stonehenge, Birmingham, Oxford, Cambridge, Brighton, Seven Sisters, Exeter, Jurassic Coast, Chisel Beach, Port land, Weymouth, Shard, 30 St Mary Axe, Millennium Bridge…たくさんの場所を訪れることが出来ました。旅先で出会った地元の人との会話は楽しみの1つでもありました。整形外科医としても日整会の香港トラベリングフェローで知り合った友人と再会を果たし、友好を深めることが出来たことは喜びです。英国は歴史と伝統、紳士淑女の国です。この国には世界初と呼ばれるものがたくさんあります。先駆者には光と影がつきものですがどちらも学ぶものが多いように思います。大都会と田園風景のコントラストに大人の余裕を感じました。また実際には多民族国家であることも分かりました。将来海外留学をお考えの若手リウマチ医の先生にはLeeds Chapel Allertonを強くお勧めします。
最後にこのような貴重な機会を与えて下さいました日本リウマチ学会のみなさまに心より御礼申し上げます。今後も本プログラムがますます発展し、本学会の会員がヨーロッパで貴重な経験を得られるように願ってやみません。横浜市大の高瀬薫先生には渡航準備から空港でのお出迎えまで公私ともに大変お世話になりました。また長期不在となることに主治医として後ろ髪を引かれる思いでありましたが、励ましのお言葉を頂いた患者様に深謝いたします。ありがとうございました。





