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海外留学体験記 久保 智史(67号)

コロナウイルスによるパラダイムシフト

久保 智史
産業医科大学第一内科学講座

2019年4月から米国立衛生研究所(NIH)で研究しています。といってもNIHには多くの日本人研究者が在籍しており、これを読んでいる方の中にも、NIHに留学された方も少なくないと思います。そのためNIHのことについてことさら詳しく書いても面白くないでしょうし、今回はCOVID-19を巡る経験について中心に書いていこうと思います。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が危ないウイルスだという認識が広まりだしたのは2020年2月くらいだと思いますが、3月13日にトランプ大統領が非常事態宣言を出して以降、急速に多くの規制が始まりました。NIHは準シャットダウン(COVID-19に関わる研究以外の全ての研究は中止)になり、ウェットな研究をしている人々にとっては事実上何もできない(論文を読んだり、データがあればまとめたり)ことになり、いきなり厳しい環境に立たされました。そればかりか基本的には外出も禁止、もちろん学校(オンライン授業に変更)、博物館、動物園なども全て閉鎖、という異常な事態になりました。私のボスはラボの研究を一時的にCOVID-19に切り替え、私は渡米2年目にしていきなりCOVID-19の研究もすることになりました。

6月頃からレストランなどが一部再開し、日常が少し戻りましたが、まだなお多くの規制が続いています。NIHは通常の研究再開となりましたが、入り口に検閲官がいて、毎日症状の有無を確認してから建物に入ります。人数制限もかけられ、全員がフルタイムで研究はできません。ミーティングも全てオンラインです。

アメリカ人はマスクをしないことで有名でしたが、この一件で、ほぼ全員がマスクをつけるようになりました。そもそもマスクをつけていないと店にもNIHにも入れません。職場でもsocial distance(人との距離が6フィート)を遵守しています。これらは瑣末なことですが、SARS-CoV2発生前後でパラダイムシフトが起きたといってもよいくらい、生活の全てが変化しました。そのほとんどが悪い面に働き、そして残念ながら、当面は元の生活に戻ることはないだろうと思います。私もなかなか辛い環境ですが、それでもやれることをやるしかないと、開き直っています。

最後になりましたが、私が所属しているDr. Michael Lenardoラボはこれまで30人近くのprincipal investigatorや教授を輩出しているプロダクティブなラボです。ポスドクとして希望される方がいれば是非。そして、私を今のラボに推薦してくださった田中良哉先生、山岡邦宏先生、中山田真吾先生に深く感謝いたします。

ボスのMichael Lenardo 博士、social distanceで撮影

ボスのMichael Lenardo 博士、social distanceで撮影

送別会もバーチャルで行われた

送別会もバーチャルで行われた