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海外留学体験記 有沼 良幸(64号)

Feinstein Institutes for Medical Researchに留学して

有沼 良幸
北里大学医学部膠原病・感染内科学

北里大学医学部膠原病・感染内科学の有沼良幸と申します。2015年4月から2017年3月まで、アメリカ・ニューヨーク州にあるThe Feinstein Institutes for Medical Research、The Center for Autoimmune and Musculoskeletal DiseasesのDr. Betty Diamondのラボに留学させていただきました。Diamond先生は、抗グルタミン酸受容体サブユニットN2 (GluN2) 抗体が直接的なニューロン障害を介してマウスの行動異常を引き起こすことを証明されました。ちなみに、抗GluN2抗体は、抗ds-DNA抗体と交叉反応を示すことから発見された自己抗体で、この研究が私の学位論文の研究の元となりました。そういった縁もあり受け入れてくださったと思います。

Diamondラボには4つのグループ (B細胞チーム、自然免疫チーム、自閉症チーム、NPSLEチーム)があり、私はNPSLEチームで「抗NMDAレセプターサブユニット抗体によるニューロン変性メカニズムの解明」というテーマを与えられました。これまでは臨床の立場から中枢神経を見ていましたが、細胞レベルでの基礎研究はほとんど経験がなく、大変戸惑いました。幸い、藤枝雄一郎先生(現北海道大学大学院医学院・医学研究院免疫・代謝内科学教室) が同じチームに留学中で、モデルマウスを用いた実験を行っておられました。大変お世話になり、私も何とか研究を始めることができました。

私は、Primary neuronを用いて、急性ニューロン障害が起きる原理をin vitroで検討しました。急性ニューロン障害に関する既報はstrokeやウイルス感染によるものがほとんどで、抗体による直接的ニューロン障害と変性は手本がなく苦労しましたが、アルツハイマー病でアミロイド蛋白が蓄積することに着目し、これを急性期タンパクで置き換えることを思いつきました。迷走神経刺激が自己免疫異常を改善するという画期的な成果を出されたKevin Tracey先生からHMGB1を頂き、これを利用してようやく形になりました。同じチームのin vivo実験と合わせて、帰国後になってしまいましたが、論文化することができました。

Diamondラボのほとんどのメンバーはいわゆる基礎研究者でしたが、M.D.である私の考えに興味を持っていただき大変感謝しております。またメンバーはほとんど海外からの留学生でしたので英語がほとんどできなかった私にも非常に寛容で親切に接してくれました。

留学でもっとも感じたことは、「きちんと言いたいことは言う」ということでした。日本とは全く違い、ミーティングで何も言わないことは意見がないとみなされることに、1年ぐらい経ってから気がつきました。自分の主張をきちんと言葉で外に表すことで、私自身にも意見があることを認識され、多様な意見をもらう機会がすごく増え、ときには意見を求められるようになりました。結果をきちんと伝えることで、ボスにも一人の研究者として気づいてもらえ、その後はものすごい勢いで指令が来たことをよく記憶しています。

アメリカへの留学は家族も一緒でした。子供たち、妻にもだいぶ苦労はかけたと思いますが、今では非常に貴重な時間だったと言ってくれています。多様な意見を受け入れる寛容さと、それを達成するためのコミュニケーションの重要性を学ぶことができたことが、一番の成果であったと思います。

これからも留学での経験も踏まえ、今後もリウマチ学の発展に寄与できるよう精一杯頑張ります。また本稿が今後留学をお考えの先生方にとって、良いきっかけとなることを希望します。

 

Dr.Diamondと筆者(ラボにて)

Dr.Diamondと筆者(ラボにて)

ブルックリン橋の見える公園にて

ブルックリン橋の見える公園にて