医学生・若手医師のみなさま 医学生・若手医師のみなさま

リウマチ専門医対談

リウマチ専門医対談

5.研修医の指導にはどのような取り組みを行っているか

松下:先生方の病院には研修医の先生も多くいらっしゃると思います。実際に研修医の指導として、どのような取り組みをされておりますでしょうか。
 長谷川先生の病院ではいかがでしょうか。

長谷川:虎の門病院は、研修医の先生も多くまわってくれています。前期の研修の先生は2カ月間のみですので、たまに基礎的な講義をしながら、いっしょにいろいろな症例を実際に診て学んでいただくことが多いと思います。後期研修でまわってくれる先生は、腎臓や膠原病志望の先生も多いため、臨床はもちろんのこと、研究会や学会の発表も積極的に声をかけて、できるだけいっしょに行うというかたちにしています。

松下:研修医の先生方には臨床のみならず学会などにも積極的に参加をしていただくのですね。
 岡野先生のところはいかがですか。どのような取り組みをされていますか。

岡野:そうですね、整形外科にまわってくる研修医はおりますが、希望者だけがまわってくるかたちです。整形外科にはいろいろなグループがありますが、研修医がまわってきた場合は、脊椎や人工関節などのメインのグループから優先的にまわることになりますので、研修医の段階でわれわれリウマチのグループにまわってくる研修医はほとんどおりません。たいてい脊椎外科などを勉強して研修期間は終わりです。一方で、3年目以降の、大学の整形に入局した後期研修医の先生は大学病院を常に8人ずつまわってきます。そのなかで8人を2人ずつ、4つのグループに分け、リウマチのグループも2人ほどローテーションしてくるというかたちです。
 ただ、その人たちがグループをまだ決めかねているという状況が多いですから、リウマチの話などをいろいろします。多くの研修医の先生は整形外科に入ってきた時点で、免疫学にはあまり興味をもっておりません。「整形に入ってきたのになぜそんな難しい話をされるのか」みたいな反応が多いです(笑)。手術をやりたいから整形に入ってきただけなのにということです。そこで、私はエコーをよくやりますから、エコーが今、整形外科の領域で増えているという話をします。肩の腱板が切れているとか、足関節をねんざして靱帯が切れていないかとか、エコーを使う場面が、整形外科の一般診療のなかで増えてきているのですね。そういう話やリウマチのエコーの話を通じて、エコーがらみでいろいろ勧誘しているというような状況ですね。

松下:ありがとうございます。
 宮下先生の施設ではいかがでしょうか。

宮下:順天堂の場合は、主に1~2年目の初期の研修医の先生が2カ月ごとにローテーションでまわってきます。また、3年目は内科を専門とした先生が、今は内科専門医も症例が大変ですので、その取得のために1~2カ月まわってくるようなかたちです。
 1~2年目の先生は、主に内科を専攻されない先生もいますので、一般的に幅広く、点滴の使い方や手技、こういう症例があった場合には膠原病に紹介してほしいなど、さわりの部分だけになります。3年目の先生は、ご自身の専門を決めた先生がまわってこられますので、ご自身の専門分野と膠原病とのかかわりなどを主に、いっしょに診ていくようなかたちで研修してもらっています。

松下:学年によって、指導内容をそれぞれ変えていくということですね。ありがとうございます。

 

6.ライフサイクルについて:結婚、出産、育児、介護、異動など

松下:少し臨床から離れた質問となりますが、結婚や出産、育児、介護、転勤などのライフサイクルに関してお話を伺いたいと存じます。お仕事を継続していくうえで、ライフサイクルに対する職場のサポート状況をお教えいただけますでしょうか。現在の状況および、このようなサポートがあればより充実して働けるのではないかというようなことをお話しください。
 岡野先生、いかがでしょうか。

岡野:私個人としては、例えば子どもが熱を出して休まなければならないとか、そういうことはほとんどありません。ただ、整形外科には女性医師もおりますし、男性医師でも個々に家庭の事情がありますので、そういう人たちには、できるだけ融通をきかせてあげて、仕事を分担するような体制というのを取っております。当然、今の時代ですから、当教室ではそういったことがきちんとできないとダメだという方針で運営されております。大学病院は比較的スタッフの数も多いため、1人抜けてもまわりでフォローしあえる環境があります。ただ、これがやはり中規模・小規模の病院ですと、どうだろうと感じることもあります。当院は大学病院ですので、比較的融通はきくかなというふうに思います。

松下:岡野先生の診療科では、女性および男性医師の比率はどれくらいでしょうか。

岡野:整形外科の女性医師は1割くらいだと思います。

松下:比較的、男性医師が多い診療科ですね。

岡野:そうですね、おじさんばっかりですね。

松下:(笑)ありがとうございます。宮下先生、いかがでしょうか。

宮下:私も、独身で働いているときには、特にライフサイクルに関してあまり考えることはなかったです。しかし、自分が子どもをもち、今も妊娠しているのですが、どうしても働きたいように働けない状況になってくると、少し仕事の負担を減らしてもらわないとまわっていかないというのが、正直実感したところです。
 膠原病の先生のなかには女性医師もたくさんいらっしゃいますが、妊娠・出産を契機にやめてしまう先生も多く、出産後、育児をしながら仕事をされている先生はすごく少なかったです。幸いなことに、私は、子どもを産んでからも仕事ができるように、仕事の終わりを決めていただいて、保育園にきちんとお迎えにいける体制をとっていただいたので、なんとか仕事を続けられている状況です。
 たぶん、一度、まったく仕事をやめてしまうと、次に、仕事を始めるというのはすごくパワーがいる。週1回だとしても、外来診療だけだとしても、内科医として貢献できると思いますので、そういった体制を医局なり、病院等が考えてくだされば、たくさんの先生が継続して仕事ができるのではないかと思っています。

松下:一度、職場を離れてしまうと復帰が困難となってしまいますか。

宮下:そうですね、その間に医療も進歩してしまいますし、ブランクがありますと、なかなか仕事についていけなくなり、仕事を継続するのも億劫になってきます。ですので、そういったことがサポートされる体制があると、すごくありがたいと思います。

松下:ありがとうございます。長谷川先生、いかがでしょうか。

長谷川:私は出産や育児を経験しておりませんので、実体験からのお話はできないのですが、仕事と結婚・子育ての両立はすごく難しい問題と思います。
 最近は、結婚・子育てをしながら、がんばって続けている女性医師も多くはなってきたと思いますが、みんなすごく大変そうで、どうやったらうまく両立できるのか、身近で子育てをしている先生を見ていても思います。私も徐々に上の立場になってきて、そういう女性医師がいれば、透析当番や外来だけとか、うまく調節してあげられればいいなとは思います。

松下:仕事と家庭などの両立が難しいというお話が出ましたが、これはどこの施設でも大きな問題になっていると思います。どのような工夫があればさらに良くなると思われますか。
 長谷川先生、何かご意見はございますか。

長谷川:そうですね、これはもう社会全体の問題になってきますし、個人での意識改革ではなかなか難しいと思います。たとえば働き方改革で、当院でも、去年くらいから年休を5回は絶対に取るようにと言われているのですが、それでも取らない人はけっこう多いのです。男性も女性も働きやすい職場が子育てとの両立を可能にすると思います。それぞれの働き方をみんなで認め合いサポートできるような制度設計を枠組みから構築することも必要だと思います。

松下:ありがとうございます。
 岡野先生の診療科は、女性の医師の割合が非常に少ないということでしたが、妊娠や出産を契機に第一線から退いてしまう方もいらっしゃるのでしょうか。

岡野:まず、そもそも整形外科に入ってくる女性医師が少ないということがあります。私の同期で女性医師は2人いましたが、1人は、結婚がきっかけというわけではないかもしれませんが、皮膚科に転科されました。手術をバリバリやる整形外科の女性医師は少なくて、リハビリのほうに行かれる女性医師がけっこういらっしゃいます。リハビリに行くと時間も取りやすい、子育てもしやすいといったことがありますので、同じ整形外科のなかで融通がきくような仕事を選択される方もおられるのかなと思います。

松下:先生の診療科での取り組みはいかがですか。

岡野:基本的には定時できちんと帰れるようにということですね。これはべつに女性に限らず、男性のほうも同様です。昔であれば、先輩が遅くまでいれば先には帰れないみたいなところがありました。遅くまでいるのが美徳、がんばっているみたいなところはありました。逆に最近では、「もう、あの先生帰ったのか」というようなケースもありますよね(笑)。でも、やるべきことをきちんとやって終わっていれば、それでまったく問題ないと思います。そこを「早く帰るなんて、がんばってないな」とかいうことではなく、個々のやり方なども尊重し、決まりきったやり方を押しつけない。最近はそういう風潮に少しずつなっているのかなとは思っています。

松下:ありがとうございます。
 宮下先生、こういった取り組みがあれば、良いのではないかという何かご意見はございますか。

宮下:人によって、どこまで仕事ができるかというのは、その人のキャパシティーの問題もありますし、施設によっても違うと思います。やはり、上の人がある程度全力で働けない人に対して理解があるということが、いちばん大事だと思います。週1回しか働けなくても、継続して働いてもらいたいと思っていただけるかどうかというのは、すごく重要なことです。ですので、上の先生の意識改革というのも必要になってくると思います。
 また時間どおりに終われるというのはすごく重要なことです。家庭がまわらなくなると仕事どころではなくなってしまいますので、定時に帰れる、子どもが熱を出して休んだときにはバックアップの体制がとってある、そういった理解があれば、残っていく女性医師も増えてくるのではないかなというふうに思います。

松下:ありがとうございました。

 

7.これからリウマチ専門医を目指す方へのメッセージ

松下:それでは最後のテーマですが、これからリウマチの専門を目指す研修医の先生、もしくは医学生の方々に、力強いメッセージをお願いしたいと思います。

長谷川:リウマチ膠原病疾患は、診断までの過程がとても奥深く、さらに最近では、生物学的製剤等の治療の選択肢が飛躍的に増えたことで、患者さんの満足度が向上していますので、非常にやりがいのある分野になってきているということは確実に言えるのかなと思います。
 内科医として、総合的な判断能力が鍛えられますし、また、岡野先生も先ほど述べられていたように、関節リウマチに関しては関節エコーという診断のツールも増えたことで、私たちが今まであまりわかっていなかった筋骨格系の解剖の知識や注射の手技など、守備範囲もすごく広がっていると思います。
 最初は難しそうとか、けっこうとっつきにくいところがあるかと思いますが、医者人生は何十年も続きます。非常に多彩で、奥深く、飽きることのない、やりがいのある領域だと思いますので、ぜひいっしょにリウマチ診療を志していただければなと思います。

松下:ありがとうございます。岡野先生、お願いいたします。

岡野:整形外科医の立場としては、運動器として、関節をとらえるという見方でいくと、関節が痛いとか、腫れているとか、そういう人が整形外科にはたくさん来るわけです。そのなかで、関節炎疾患ですね。リウマチを筆頭に、きちんと診断をしないで放っておくと関節破壊が進行します。そういう全身状態にかかわってくるところを、整形外科医である以上、どの分野にいってもきっちり診られるようにならないといけないですし、そのなかで、興味が少しでもある人は、ぜひ整形外科のなかでも、リウマチ診療をやってくれる人が、少しでも増えたらいいなというふうに思います。

松下:ありがとうございます。では、宮下先生、お願いいたします。

宮下:リウマチ膠原病の分野というのは、かなり専門性も高く、内科で、全身が診られる科というのはなかなかありませんから、そこはすごく内科医として魅力的な分野と思います。
 また、今でも地方都市の中には専門医の先生がいらっしゃらなくて、診断に苦慮された患者さんで、東京に診断のために来られる患者さんもいらっしゃいます。これから、どんどんリウマチ専門医の先生が増えると、患者さんにとってもメリットが多くなります。ぜひいっしょに働ける先生方がたくさんいらっしゃるといいなと思います。

“リウマチ膠原病疾患は、非常にやりがいのある分野です!”(長谷川先生)
“整形外科でも興味があれば、ぜひリウマチ診療を!”(岡野先生)
“リウマチ専門医が増えると、患者さんにもメリットが多いです!”(宮下先生)

松下:座談会はこれで終了したいと思います。本日は大変お忙しいなか、貴重なご意見をいただきまして誠にありがとうございました。