リウマチ整形外科医(“整形外科医”に限らず“リウマチ医全般”かもしれませんが…)が医師以外のメディカルスタッフと聞いてすぐに思い浮かべるのは、看護師、薬剤師、リハビリテーション関連職(理学療法士、作業療法士、義肢装具士etc.)、検査関連職(臨床検査技師、診療放射線技師etc.)などの職種ではないでしょうか?私見ではありますが、リウマチ整形外科医が日々の診療でこれらの職種の方々に助けられていること、期待していることを記させていただきます。関節リウマチ診療に携わっている方、興味を持たれている方は是非ご一読いただけますと嬉しいです。
<看護師>
関節リウマチ診療に限らずですが、“看護師”はチーム医療が一般的になった昨今において患者さんの一番近くにいる存在、患者さんと(医師も含めた)メディカルスタッフとの間のパイプ役を担ってくれている存在であると考えています。現在の関節リウマチ診療ではTreat to Target(T2T)の考え方が浸透していますが、これを提唱したSmolen博士の論文(Ann Rheum Dis.2010.69:631-637)において基本原則の一番に「関節リウマチの治療は患者とリウマチ医がともに決めなくてはならない(sheared decision)」と記載されています。ここで、「医師の評価や治療目標」と「患者さんの自己評価や治療目標」が一致している必要が生じますし、「患者さんの自己評価」もDAS-28など疾患活動性の評価をするために非常に重要なファクターになります。
関節リウマチ患者さんが実際の生活で困っていることが上手く担当医やリハビリ担当スタッフなどに伝わっていない、医師の評価と患者さんの自己評価に乖離があるけれど原因がはっきりしない、医師が考える治療目標を患者さん自身が具体的にイメージできず共有できていない…など患者さんが誰にも言わないけれどなんとなく困ってしまっていること、ないでしょうか?特にリウマチ整形外科医のもとには関節機能障害を訴えて受診している関節リウマチ患者さんが多くなりがちです。医師が患者さんに薬物療法や手術療法をご提案する時には、今行っている治療やこれから受ける治療で何が改善できて今の自分の生活にどんな好影響があるのか、といった具体的なイメージを患者さん自身に持っていただくことが非常に大切です。具体的なイメージを持っていただくことで治療に前向き、積極的になっていただけると考えています。
看護師さんには治療による有害事象が出ていないかの確認をしていただくことも多いのですが、患者さんの一番近くにいるメディカルスタッフとして、患者さんが良い治療イメージを保ちつつ治療に前向きに取り組めるようなサポートもお願いできると嬉しく思います。
<薬剤師>
現在の関節リウマチ治療の中心が薬物療法であることは異論がないところだと思います。
リウマチ整形外科医といっても手術だけを行うわけではありません。リウマチ整形外科医が関節リウマチの診断から薬物療法、手術まで一貫して行っていることは海外と比較した際の本邦の関節リウマチ診療の特徴の一つと言えますし、お薬をうまく使いこなすことによって疾患活動性をコントロールし、関節リウマチ患者さんのQOLを長期にわたり良好に維持すること、手術に至るような骨・関節の機能障害の発生を未然に防ぐことも我々の重要な役割です。現在の関節リウマチ診療においては多種多様の抗リウマチ薬の使用が可能となった一方で、慢性疾患であるがゆえのアドヒアランスの低下や関節リウマチ患者さんの高齢化に伴うポリファーマシーの問題などにも配慮が必要となっています。これらの薬物療法において非常に重要な役割を担っているのが“薬剤師”であると考えています。
現在の関節リウマチ診療のキードラッグであるメトトレキサートは処方医が指示した用法用量(不均等になることがしばしばです)の順守が求められますし、生物学的製剤においては自己注射製剤の比率が増えてきていて自己注射手技指導の重要性が増しており、JAK阻害薬など新たな機序の内服薬も加わってきています。強力な薬剤が内服や自己注射により自宅で使用可能となったことは通院頻度を減らしたい関節リウマチ患者さんに大きなメリットをもたらしたと思います。一方で正確な薬剤使用がなされているかどうかにリウマチ医の眼が届きづらくなった部分もあります。週1回や月1回などの服薬・注射を忘れてしまうと疾患活動性が悪化してしまうことがありますし、週1回のはずのお薬を連日内服して過量になってしまったり相互作用のある他院処方薬があったりすると重篤な有害事象の原因ともなり得ます。
薬剤師さんにはぜひ上記をご認識いただき、抗リウマチ薬の正確な服用・注射ができているか、ポリファーマシーが疑われる患者さんにおいては特に他の医療機関から相互作用を起こしうる薬剤の処方がないか、などを確認していただき患者さんをサポートしていいただけると嬉しく思います。
<リハビリテーション関連職>
リハビリテーション関連でリウマチ整形外科医がお世話になることが多いのが、“理学療法士”、“作業療法士”、“義肢装具士”といった職種の方々です。2020年に改訂された関節リウマチ診療ガイドラインでは初めて“非薬物治療・外科的治療のアルゴリズム”が作成されています。この中で、薬物治療によっても残存する四肢関節症状・機能障害に対するフェーズⅠの対応として装具療法を含むリハビリテーション治療が明記されています。さらに関節機能再建手術を行った場合でも術後早期のリハビリテーション治療に加えて、その後も長期的に身体機能を維持するためのリハビリテーション治療を継続することが推奨されています。さらに近年の高齢関節リウマチ患者さんの増加に加え、関節リウマチ患者さんではフレイル・ロコモティブシンドローム・サルコペニアのリスクが高いという報告(臨床リウマチ.2021.33:78-84)も出てきていて、患者さんのADL・QOL維持のためにリハビリ介入の重要性が増してくると考えられます。
これまでのリウマチ整形外科医とリハビリテーションスタッフの接点は術後患者さんのリハビリ依頼が主であったように思います。しかし上記のように新たなガイドライン記載などもあり、今後より早期からのリハビリ介入が望まれるようになります。関節リウマチのリハビリテーションは同じ患者さんにおいてであってもその時々の障害の原因となる炎症の程度や疾患活動性の状況に応じて、保護的に行うか積極的に行うかを検討していく必要があります。疾患活動性の評価やリハビリでどの程度の負荷を与えてよいのかなどについてはメディカルスタッフ間で情報が共有されなくてはなりません。特に罹患期間の長い関節リウマチ患者さんでは骨関節の変形や拘縮、骨脆弱性が生じていることも多いため、愛護的にリハビリをすすめるなど特別な配慮が必要なこともしばしばあります。また、関節変形が進んでしまった個々の患者さんに自助具や装具の作成が必要になるケースは現在でも少なくありません。
リハビリテーション関連職の方々には整形外科術後のリハビリへの介入はもちろんのこと、リハビリテーションが関節リウマチの保存治療の一部としてガイドラインでも中心的位置に据えられていることをご理解いただき、関節リウマチ患者さんのADL・QOLの維持、向上のサポートをしていただけると嬉しく思います。
<検査関連職>
関節リウマチ診療において日常診療の中で疾患活動性の評価のために関節の腫脹や圧痛の有無の評価など診察所見が最も重要でありますが、加えて血液・尿などの臨床検査や単純X線やMRIなどの画像検査も欠かすことができません。“臨床検査技師”、“診療放射線技師”といった職種の方々が我々の関節リウマチ診療を縁の下の力持ちとして支えてくださっていると考えています。関節リウマチを疑った際に考慮する分類基準に沿った評価では炎症所見や自己抗体などの血液検査は必須であり、日常診療の中では疾患活動性の評価や有害事象を早期に察知するために適切な頻度での臨床検査は必須と言えます。画像診断としては肺合併症や関節破壊進行の有無の確認目的には定期的な単純X線検査が望まれます。また、リウマチ整形外科医として関節手術の適応を考慮することもしばしばですが、この際に単純X線像やMRI画像が適切に撮影されていることが必要不可欠となります。
近年の関節リウマチ診療では関節超音波検査も一般的になってきており、診療水準の向上に寄与していると考えられています。関節リウマチ以外の整形外科診療(スポーツ整形、小児整形など)においても関節超音波の使用頻度は高まってきていますが、リウマチ整形外科医においても例外ではありません。関節超音波検査は被曝がない点、MRIと比べ一度に多部位の評価が可能な点などで優れていますが、診断精度が検者の技量に依存する部分が大きいこと、医師が診察室で行うには時間的・スペース的な問題から頻回には行いづらいことなどの課題も残っています。関節超音波検査は臨床検査技師、診療放射線技師も施行が可能な検査であり、各職種の今後の活躍が期待される領域です。本学会では2014年から「日本リウマチ学会登録ソノグラファー制度」が開始されています。
これまで関節リウマチに関するメディカルスタッフとしては前面に出てくることの少なかった検査関連職種の方々の中からも、今後関節リウマチに興味をもって一緒に診療の充実・発展に取り組んでくださる方が多く出てきますと嬉しく思います。
横浜掖済会病院 整形外科部長
藤巻 洋
参考文献
1. Smolen JS, et al. Treating rheumatoid arthritis to target: recommendations of an international task force. Ann Rheum Dis. 69:631-637, 2010
2. Salaffi F, et al. Clinical disease activity assessments in rheumatoid arthritis. Int. J. Clin. Rheumatol. 8:347-360, 2013
3. Yamanaka S, et al. A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today’s treatment options. Mod Rheumatol. 30:1-6, 2020
4. 本間丈士, ほか. 病院薬剤師と薬局薬剤師を対象とした関節リウマチ治療に関する意識調査. 応用薬理. 101:7-14,2021
5. 雪矢良輔, ほか. 関節リウマチ患者のメトトレキサート服薬アドヒアランスの向上を目指した薬剤部の取り組み. 天理医学紀要. 23:104-112,2020
6. 田幸稔, ほか. 薬剤アドヒアランス不良な関節リウマチ患者に対する在宅患者訪問薬剤管理指導の有用性. 長野赤十字病院医誌. 33:33-41,2020
7. 日本リウマチ学会(編). 関節リウマチ診療ガイドライン 2020. 診断と治療社: 2021
8. 小嶋雅代, ほか. 高齢関節リウマチ患者の疫学. 臨床リウマチ. 33:78-84,2021