抗リン脂質抗体症候群とは
抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid antibody syndrome:APS)とは抗リン脂質抗体という自己抗体が原因となって、動脈や静脈の血が固まる血栓症や習慣性流産などの妊娠合併症を発症する病気です。日本人においては1万人から2万人の患者さんがいると推定されています。男女比は1:5程度で女性に多い疾患で、平均発症年齢は30-40歳前後考えられていますが、思春期から高齢者まで幅広く発症し得る病気です。この病気の半数が同じ膠原病疾患である全身性エリテマトーデス (SLE)を合併して発症します。
症状・検査
症状は、動脈の血栓症、静脈の血栓症、妊娠合併症に分かれます。動脈の血栓症としては、通常の脳梗塞と同様の麻痺やしゃべりにくいなどの症状や指趾などの動脈が詰まることで壊疽などの症状がでます。静脈の血栓症としては、下肢の静脈がうっ滞することによっておこる浮腫や下肢の血管が網の目状に浮き上がるリベド様皮疹を発症することがあります。また、下肢の静脈の血栓が剥がれて、血流にのって肺まで到達すると肺塞栓を生じ、急に呼吸ができなくなるなどの症状が出ます。妊娠合併症としては、胎盤に血栓が発生することによる流産や早産などがあります。検査は、脳梗塞や肺塞栓症などの血栓症をCTやMRI、エコーなどの画像で診断したうえで、採血でループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン β2グリコプロテインI複合体抗体を調べます。梅毒の脂質抗体検査が偽陽性になることもあります。
診断
血栓症もしくは妊娠合併症を診断した上で、ループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピン β2グリコプロテインI複合体抗体のうちいずれかが12週間以上の間隔をあけた上で陽性を確認できれば診断となります。抗リン脂質抗体症候群は指定難病のため重症度に照らした上で医療助成の対象となることがあります。また、SLEの合併も多く、SLEで医療助成の対象となることがあります。
治療
自己免疫疾患であるものの副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の有効は示されておらず、低用量アスピリンを主体とした抗血小板療法やワルファリンを主体とした抗凝固療法による再発予防が治療の主体となります。また、血栓症発症前で抗リン脂質抗体陽性のみの場合の発症予防に関しては明確な基準はありません。SLEに合併した場合は、ヒドロキシクロロキンが抗血栓予防に使用されることがあります。妊娠合併症を繰り返す場合は、低用量アスピリンに加え、ヘパリンによる抗凝固療法で妊娠合併症をコントロールすることがあります。
専門医への相談のポイント
若い人が脳梗塞を発症した場合や特に危険因子 (年齢、喫煙歴、高血圧、糖尿病など)がないのに深部静脈血栓症を発症した場合は、抗リン脂質抗体症候群が疑われますので、早めに専門医に相談をしましょう。
産業医科大学医学部第1内科学講座
大久保直紀先生
更新日:2022年5月22日