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「関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版」発刊に向けて

「関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版」発刊に向けて

 本ガイドラインは、2011年4月に発刊された診療ガイドラインの改訂版です。関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療におけるメトトレキサート(methotrexate:MTX)の役割については、ここであらためて説明するまでもないでしょう。現在使用できる抗リウマチ薬のなかで、最も高い有効率、継続率、関節破壊進行抑制効果を有し、生活機能の改善と生命予後改善効果をもっています。RAに対する目標達成に向けた治療(treat to target:T2T)の概念が世界的に受け入れられつつあり、生物学的製剤を常に考慮しなければならない状況のなかで、MTXの重要性はますます強調されてきています。日本リウマチ学会の「関節リウマチ診療ガイドライン2014」のなかでも、MTXは活動性RA患者に対する第一選択薬として位置づけされています。さらに、日本リウマチ学会からの研究報告書に基づき、2011年2月に成人用量について16 mg/週までの拡大が承認され、寛解をめざし効果を最大限発揮するまで、できる限り早く増量することの必要性が強調されつつありました。

 しかし、現実には16 mg/週までの増量を達成しようとしても、消化器症状や肝障害など用量依存的な副作用が前面に出て、多くの患者でより少ない量で留まる状況が経験されるようになりました。また、頻度は多くないもののMTX誘発性肺障害やそれとの鑑別が必要なニューモシスチス肺炎の誘発も、臨床上の重要な問題となっています。一方、リンパ増殖性疾患の発症がわが国では諸外国の報告に比べて多いのではないかと懸念されており、現在、日本リウマチ学会として全国規模の調査研究を進めているところです。このように効果を期待しつつ副作用を懸念しなければならないMTX治療ですが、薬効と副作用をどのようにモニタリングしていくかの国際的なスタンダードがあるわけではありません。

 これらを考え合わせると、RA診療のなかで最も基本的で多用されているMTXですが、誰もが簡単に処方してよいものではないことがわかります。わが国における問題点を理解したうえで、できる限りの副作用対策を構築し、その意味と対応について患者一人ひとりに理解していただき、慎重に投与することの重要性を再確認することが必要と考えます。本ガイドラインがわが国のリウマチ診療のさらなる向上に寄与することを祈念いたします。

2016年8月

一般社団法人 日本リウマチ学会
山本 一彦

関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2016年改訂版