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市販後調査のためのメポリズマブ使用の手引き

市販後調査のためのメポリズマブ適正使用の手引き(2020年2月1日改訂版)

メポリズマブ(遺伝子組換え)は血中及び組織中好酸球を調節する主なサイトカインであるヒトインターロイキン5(IL-5)に高い特異性及び親和性で結合するヒト化モノクローナル抗体である。
本剤は重症好酸球性喘息を適応として、本邦で2016年3月承認され、2016年6月より販売されている。この度、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis:EGPA)の適応追加が承認された。

 

本手引きの目的

メポリズマブはEGPA患者の寛解維持期間の延長、寛解状態の割合増加、経口ステロイド薬減量効果が臨床試験1) により証明された薬剤であるが、本剤のEGPAでの使用については、本邦での知見(エビデンス)は乏しく、気管支喘息での4週おき100mgの皮下注射とくらべ、EGPAでは300mgを4週おきに使用する用法・用量であり、予期せぬ有害事象がおこる可能性がある。
本指針は国内外で実施された臨床試験の結果を基に、市販後調査におけるメポリズマブ投与にあたって、その適応や、有害事象の予防・早期発見・治療のための注意点を示し、薬剤の適正使用を促すことを目的とした。 実際にメポリズマブを使用するときは、本手引きのみではなく、添付文書を十分参照いただきたい。
本手引きは、現時点における臨床試験の成績に基づき作成されたものである。市販後調査を実施中にも改訂されることがある。

 

対象患者
1. ステロイド(PSL7.5mg/日以上)や免疫抑制薬等によるEGPAに対する適切な治療を行っても、疾患活動性を有するEGPA患者を本剤の追加投与の対象とする。
2. 喘息および好酸球増多を認め、過去2年以内に再燃をみとめた、または、過去6ヶ月以内に寛解を得られていない難治性のEGPA患者を対象とする。
注1)活動性血管炎による臓器不全を有するEGPA患者や、生命を脅かすEGPA患者では、慎重にリスクベネフィットを考慮して適応を判断する。
注2)寛解維持期のEGPA患者における本剤使用については、ステロイドや他剤の免疫抑制薬の減量を目的として本剤を投与することに十分なエビデンスはないため、慎重にリスクベネフィットを考慮して適応を判断する。

 

用法・用量

通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回300 mgを100 mgずつ3ヵ所に分けて、4週間ごとに皮下に注射する。

 

使用上の注意
1. EGPA患者の診療に十分な経験のある医師が投与すること。
1)リウマチ専門医、リウマチ指導医を取得し、EGPA治療の経験がある。
2)リウマチ性疾患を専門とし、難病指定医、協力難病指定医を取得し、上記1)に該当する医師と適切な連携のもとEGPA治療を行っている。
2. 臨床試験の結果より、本剤による治療反応は投与開始から36週以内に得られると考えられ、36週以内に治療反応が得られない場合は、本剤の治療計画の継続を慎重に再考すること。
3. 本剤の18歳未満の患者への投与は、有効性および安全性が確立していない。
4. ほかの生物学的製剤またはシクロホスファミド静注剤など免疫抑制薬との併用に対する有効性及び安全性は検討されていない。
5. 寄生虫(蠕虫)に感染している患者は本剤導入前に寄生虫感染の治療をすること。

 

投与禁忌
1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者。

 

慎重投与:次の患者には慎重に投与すること
1. 感染症の患者または感染症が疑われる患者。
2. 活動性の抗酸菌感染または抗酸菌感染の既往歴を有する患者。

 

注意すべき有害事象
1. 重篤な過敏症
1) アナフィラキシー(血圧低下、蕁麻疹、血管浮腫、呼吸困難等)等の重篤な過敏症があらわれることがある。
2) 蕁麻疹などの皮膚症状、消化器症状、呼吸困難などの呼吸器症状等のアナフィラキシー反応の前駆症状がみられた場合には本剤の投与を中止し適切な処置を行うこと。
3) 過敏症反応(発疹、悪心、疲労、筋肉痛、頭痛および顔面浮腫等)の発現が遅れてあらわれることがある。観察を十分に行い、以上が認められた場合にはただちに使用を中止し、適切な処置を行うこと。
2. 感染症
EGPAでは本剤に加えて、ステロイドや免疫抑制薬の使用が感染症のリスクとなる。患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には本剤の投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。
1) 結核
本剤の臨床試験では結核のリスク増加は示されていないが、国内外の臨床試験では患者が活動性結核を発症している場合、またはその時点において何らかの慢性感染症に対する治療を受けていた場合は除外したため、本剤による活動性結核への影響は検討されていない。
  • 本剤投与に先立って問診、胸部X線検査、インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)またはツベルクリン反応検査、胸部CT検査(適宜)を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。
  • 結核の既往歴を有する場合および結核感染が疑われる場合には、結核の診療経験がある医師に相談すること。
  • 胸部X線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影を有する患者、インターフェロン-γ遊離試験やツベルクリン反応が陽性の患者、結核患者との濃厚接触歴を有する患者は、原則としてイソニアジド(INH)による潜在性結核感染症治療を行ったうえで、本剤を投与すること。
  • 結核の活動性が確認された場合は、本剤を投与せず、結核の治療を優先すること。
  • 結核以外の抗酸菌についても、上記を参考に対応すること。
2) B型肝炎およびB型肝炎ウイルス再活性化
国内外の臨床試験での本剤投与群においてB型肝炎およびB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化の報告は確認されていないが、HBV感染者(キャリアおよび既往感染者)に対しては、日本リウマチ学会による「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制法に関する提言」および日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」を参考に対処する。
3.高齢者
本剤の臨床試験において、65歳以上のデータは限られている。一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。
4.妊婦、産婦、授乳婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
5.小児等への投与
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。
6.悪性腫瘍
因果関係は明らかでないものの、固形癌、胃癌、前立腺癌の発現が国内外の臨床試験で報告されている。これらの点を踏まえたリスク•ベネフィットを十分考慮し、患者に十分説明した上で、適応を慎重に判断すること。
7.結核の無症状病原体保有者
結核の無症状病原体保有者への対応については、厚生労働省健康局結核感染症課長通知(平成19年6月7日健感発第0607001号)を参照すること。(同内容は厚生労働省ホームページ「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 2結核」の項https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.htmlに掲載。)すなわち、結核の無症状病原体保有者と診断し、結核医療を必要とすると認められる場合は“潜在性結核感染症“として、感染症法(平成10年法律第114号)第12条第1項の規定による事項を最寄りの保健所に直ちに届出なければならない。
8.要注意事項
手引きは保険診療の規則とは必ずしも一致しえないため検査や治療については保険診療の規則に留意すること。特に、β-D-グルカン、インターフェロン-γ遊離試験(クオンティフェロン、T-SPOT)、KL-6、CT、心電図、INH等による潜在性結核感染症治療、ST合剤によるニューモシスチス肺炎の発症抑制などの保険適応については注意されたい。潜在性結核感染症の治療については日本結核病学会の潜在性結核感染症治療指針(Kekkaku Vol. 88, No. 5 : 497_512, 2013)を、また、その公費負担の適応については感染症法第37条および厚生労働省健康局結核感染症課長通知(平成19年8月1日健感発第0801001号)を参考に検討すること。ST合剤によるニューモシスチス肺炎の発症抑制については、厚生労働省保険局医療課長通知(平成24年2月1日保医発0201第2号)を参考に治療と公費負担の適用について検討すること。

 

一般社団法人 日本リウマチ学会
ガイドライン委員会
RA治療薬ガイドライン小委員会
委員長 川人 豊
(2020.2.1)

文献
1) Wechsler ME, et al. Mepolizumab or Placebo for Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis. N Engl J Med. 2017;376(20):1921-32.

 

更新記録
2018年4月25日 市販後調査のためのメポリズマブ適正使用ガイドライン策定
2019年6月29日 改訂第2版
2020年2月1日 改訂第3版

 

市販後調査のためのメポリズマブ適正使用の手引き (2020年2月1日改定版)