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強直性脊椎炎(AS)に対するTNF阻害療法施行ガイドライン (2010年10月改訂版)

対象患者

改訂ニューヨーク基準(Modified New York Criteria,1984年)註1)によってASの確実例と診断され、NSAID通常量を3ヵ月以上継続して使用してもコントロール不良のAS患者。

コントロール不良の目安として、以下を満たす者。

  • BASDAI(Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index)スコア註2)が4以上

忍容性に問題があり、NSAIDが使用できない場合も使用を考慮する。

さらに日和見感染症の危険性が低い患者として以下の3項目も満たすことが望ましい。

  • 末梢血白血球数 4000/mm3以上
  • 末梢血リンパ球数 1000/mm3以上
  • 血中β-D-グルカン陰性

 

用法・用量

1 インフリキシマブ

  • 生理食塩水に溶解し、体重1kgあたり5mgを緩徐に(2時間以上かけて)点滴静注する。
  • 初回投与後、2週後、6週後に投与し、以後6~8週間隔で投与を継続する。

2 アダリムマブ

  • 40mgを2週に1回、皮下注射する。なお、効果不十分な場合1回80mgまで増量できる。ただし、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬を併用する場合には80mgへの増量は行わないこと。
  • 自己注射に移行する場合には、患者の自己注射に対する適性を見極め、十分な指導を実施した後で移行すること。

 

投与禁忌

1. 活動性結核を含む感染症を有している。

  • B型肝炎ウイルス(HBV)感染者に対しては、TNF阻害薬投与に伴いウイルスの活性化および肝炎悪化が報告されており、投与すべきではない1)。C型肝炎ウイルス(HCV)感染者に対しては、一定の見解は得られていないが、TNF阻害療法開始前に感染の有無に関して検索を行い、陽性者においては慎重な経過観察を行なうことが望ましい。
  • 非結核性抗酸菌感染症に対しては有効な抗菌薬が存在しないため、同感染患者には投与すべきでない。

2. 胸部X線写真で陳旧性肺結核に合致する陰影(胸膜肥厚、索状影、5mm以上の石灰化影)を有する。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。

3. 結核の既感染者。ただし、本剤による利益が危険性を上回ると判断された場合には、必要性およびリスクを十分に評価し、慎重な検討を行った上で本剤の開始を考慮する。

4. NYHA分類III度以上のうっ血性心不全を有する。II度以下は慎重な経過観察を行う。
※NYHA(New York Heart Association)心機能分類(1964年)

  • I度:心臓病を有するが、自覚的運動能力に制限がないもの
  • II度:心臓病のため、多少の自覚的運動能力の制限があり、通常の運動によって、疲労・呼吸困難・動悸・狭心痛等の症状を呈するもの
  • III度:心臓病のため、著しい運動能力の制限があり、通常以下の軽い運動で症状が発現するもの
  • IV度:心臓病のため、安静時でも症状があり、最も軽い運動によっても、症状の増悪がみられるもの

5.悪性腫瘍、脱髄疾患を有する。

 

要注意事項

1)本邦および海外のTNF阻害薬の市販後調査において、重篤な有害事象は感染症が最多である。特に結核・日和見感染症のスクリーニング・副作用対策の観点から、以下の項目が重要である。

  • 胸部X線写真撮影が即日可能であり、呼吸器内科医、放射線専門医による読影所見が得られることが望ましい。
  • 日和見感染症を治療できる。スクリーニング時には問診・ツベルクリン反応・胸部X線撮影を必須とし、必要に応じて胸部CT撮影などを行い、肺結核を初めとする感染症の有無について総合的に判定する。結核感染リスクが高い患者では、TNF阻害薬開始3週間前よりイソニアジド(INH)内服(原則として 300mg/日、低体重者には5mg/kg/日に調節)を6~9ヶ月行なう。
  • 重篤な感染症罹患歴を有する場合は、リスク因子の存在や全身状態について十分に評価した上で本剤投与を考慮する。本邦におけるインフリキシマブの関節リウマチ(RA)に対する市販後全例調査において、以下のような感染症リスク因子が明らかになっている2),3)。ただし、本邦のASにおける感染症リスク因子については、現時点で明確ではない。
  肺炎のリスク因子 重篤な感染症のリスク因子
インフリキシマブ 男性・高齢・stage III以上・既存肺疾患 高齢・既存肺疾患・副腎皮質ステロイド併用
  • TNF阻害療法施行中に肺炎を発症した場合は、通常の市中肺炎とは異なり結核・ニューモシスチス肺炎・薬剤性肺障害・原疾患に伴う肺病変などを想定した対処を行う(フローチャート参照)。
  • 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきである。
  • 本邦でのRAに対する市販後全例調査において、ニューモシスチス肺炎の多発が報告されており4)、高齢・既存の肺疾患・副腎皮質ステロイド併用などの同肺炎のリスク因子を有する患者ではST合剤などの予防投与を考慮する。
  • 副腎皮質ステロイド投与は、感染症合併の危険因子であることが示されている5)。TNF阻害療法が有効な場合は減量を進め、可能であれば中止することが望ましい。

2)インフリキシマブ投与においてInfusion reaction(投与時反応)の中でも重篤なもの(アナフィラキシーショックを含む)が起きる可能性があることを十分に考慮し、その準備が必要である。

  • 緊急処置を直ちに実施できる環境:点滴施行中のベッドサイドで、気道確保、酸素、エピネフリン、副腎皮質ステロイドの投与ができる。
  • 本邦におけるRAに対する市販後調査において、治験でインフリキシマブを使用し2年間以上の中断の後に再投与を行なった症例で重篤なInfusion reaction(投与時反応)の頻度が有意に高かったため、長期間の中断や休薬の後の再投与は特に厳重な準備とともに行なうことが望ましい。

3)手術後の創傷治癒、感染防御に影響がある可能性があり、外科手術はインフリキシマブの最終投与より4週間の間隔の後、アダリムマブの最終投与2〜4週の間隔の後に行なうことが望ましい。手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できれば再投与が可能である。

4)TNF阻害薬の胎盤、乳汁への移行が確認されており、胎児あるいは乳児に対する安全性は確立されていないため、投与中は妊娠、授乳は回避することが望ましい。ただし現時点では動物実験およびヒトへの使用経験において、児への毒性および催奇形性の報告は存在しないため、意図せず胎児への曝露が確認された場合は、ただちに母体への投与を中止して慎重な経過観察のみ行なうことを推奨する。

5)TNF阻害薬はその作用機序より悪性腫瘍発生の頻度を上昇させる可能性が懸念され、全世界でモニタリングが継続されているが、現時点では十分なデータは示されていない。今後モニタリングを継続するとともに、悪性腫瘍の既往歴・治療歴を有する患者、前癌病変(食道、子宮頚部、大腸など)を有する患者への投与は慎重に検討すべきである。

参考文献
1) Ann Rheum Dis 2006; 65: 983
2) Ann Rheum Dis 2008; 67: 189
3) Arthritis Rheum 2007; 56: S182
4) N Engl J Med 2007; 357: 1874
5) Arthritis Rheum 2006; 54: 628

註1)改訂ニューヨーク基準(Modified New York Criteria,1984年)
A.診断
 1. 臨床基準
 a)運動により改善し、安静によって改善しない、3ヵ月以上持続する腰痛
 b)矢状面、前頭面両方における腰椎可動域制限
 c)年齢、性別によって補正した正常値と比較した、胸郭拡張制限
 2.X線基準
 両側のgrade 2以上の仙腸関節炎、あるいは一側のgrade 3~4の仙腸関節炎

B.等級
1.確実例:X線基準と、1項目以上の臨床基準を満たす場合
2.疑い例:
 a)X線基準を満たさないが、臨床基準3項目を満たす場合
 b)X線基準を満たすが、臨床基準が一つもみなれない場合
 Ⅹ線基準のgrade
 grade 0:正常
 grade 1:疑わしい変化
 grade 2:軽度の仙腸関節炎(関節裂隙の変化を伴わない限局的な骨侵食や硬化)
 grade 3:中等度の仙腸関節炎(骨侵食、硬化、裂隙の拡大や狭小化、部分的な強直を伴う)
 grade 4:完全な強直

註2)BASDAI(Bath Ankylosing Spondylitis Disease Activity Index)スコア
以下のA)~F)についてVAS(10cmスケール)により評価し、以下の計算式で算出した値(0~10)とする。
BASDAI=0.2(A+B+C+D+0.5(E+F))
 A)疲労感の程度
 B)頚部や背部~腰部または臀部の疼痛の程度
 C)上記B以外の関節の疼痛・腫脹の程度
 D)触れたり押したりした時に感じる疼痛の程度
 E)朝のこわばりの程度
 F)朝のこわばりの継続時間(0~120分)

強直性脊椎炎(AS)に対するTNF阻害療法施行ガイドライン (2010年10月改訂版)

一般社団法人 日本リウマチ学会
調査研究委員会
生物学的製剤使用ガイドライン策定小委員会
委員長 竹内 勤
(2010.10.25)