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全例市販後調査のためのアニフロルマブ適正使用の手引き

全例市販後調査のためのアニフロルマブ適正使用の手引き

アニフロルマブ(遺伝子組換え)は、I型インターフェロンα受容体のサブユニット1(IFNAR1)に結合し、I型IFNの受容体への結合を阻害し、またIFNAR1の細胞内移行を誘導することによってその発現レベルも低下させ、I型IFNのシグナル伝達を阻害する抗IFNAR1ヒト型免疫グロブリンG1κ(IgG1κ)モノクローナル抗体である。2021年9月に本邦で全身性エリテマトーデス(SLE)の適応が承認された。

 

本手引きの目的

アニフロルマブは、SLE患者の臨床症状の改善、グルココルチコイド減量効果が臨床試験により証明された薬剤であるが、投与中に重篤な有害事象を合併することがある。本手引きは国内外で実施された臨床試験の結果を基に、市販後調査におけるアニフロルマブ投与にあたって、その適応や、有害事象の予防・早期発見・治療のための注意点を示し、薬剤の適正使用を促すことを目的とした。実際にアニフロルマブを使用するときは、本手引きのみではなく、添付文書を十分参照いただきたい。
本手引きは、現時点における臨床試験の成績に基づき作成されたものである。市販後調査を実施中にも改訂されることがある。

 

対象患者
  1. 抗マラリア薬、グルココルチコイド、免疫抑制薬等によるSLEに対する適切な治療を行っても疾患活動性を有する患者を本剤の追加投与の対象とする。
  2. 原則として抗核抗体または抗dsDNA 抗体が陽性であるSLE患者。
  3. 以下の目的で本剤を投与する場合、十分なエビデンスがないためリスクベネフィットを慎重に考慮して適応を判断する。
    ・ 重篤な臓器病変を伴わないが疾患活動性を有する患者の寛解導入において、初期投与として通常より
      低用量のグルココルチコイドで治療開始することを目的とした投与。
    ・ 寛解維持期の患者において、グルココルチコイドや免疫抑制薬の減量を目的とした投与。

 

用法・用量

通常、成人にはアニフロルマブ(遺伝子組換え)として、300mgを4週間ごとに30分以上かけて点滴静注する。

 

使用上の注意点
  1. SLE患者の診療に十分な経験のある医師が投与すること。
    1) 日本リウマチ学会リウマチ専門医または日本専門医機構膠原病リウマチ内科専門医を取得し、
      SLE 治療の経験がある。
    2) リウマチ性疾患を専門とし、難病指定医、協力難病指定医を取得し、SLE 治療の経験がある。
    3) 十分な SLE 治療の経験があり、上記に該当する医師と適切な連携のもとSLE 治療を行っている。
    4) 上記 1)、2)に該当する医師の直接の指導のもと、SLE 治療を行っている。
  2. 本剤の18 歳未満の患者への投与は、有効性および安全性が確立していない。
  3. 臨床試験において、活動性かつ重症のループス腎炎又は中枢神経ループスを有するSLE患者に対する有効性及び安全性は検討されていない。
  4. 他の生物製剤との併用は安全性が検討されていないため避けること。
  5. 臨床試験において、タクロリムス又はシクロホスファミドとの併用に対する有効性及び安全性は検討されていない。

 

投与禁忌
  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  2. 重篤な感染症の患者
  3. 活動性結核の患者

 

慎重投与:次の患者には慎重に投与すること
  1. 感染症の患者または感染症が疑われる患者
  2. 結核の既往歴を有する患者
  3. HBV 感染者(キャリアおよび既往感染者)

 

注意すべき有害事象

1. アナフィラキシー
本剤はモノクローナル抗体を含むタンパク質製剤であり投与の際にアナフィラキシー等の過敏症が生じる可能性がある。臨床試験の300 mg群においてアナフィラキシーの発現はなかったものの、D3461C00005試験の本剤150 mg群で1例がアナフィラキシー反応を発現した。

2. 重篤な感染症
SLE自体が感染症のリスクが高く、免疫抑制薬の使用も感染症のリスクとなる。また、アニフロルマブは自然免疫系によるウイルス感染の制御の役割を持つI型IFNによるシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクを増加させる可能性が考えられる。第II相・第III相臨床試験の統合解析において、アニフロルマブ300mg群での重篤な感染症の発現は5.0%、プラセボ群で5.8%であった。アニフロルマブ300mg群において肺炎の死亡例が2例認められている。
感染症の発症を疑うときは、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。

1) 結核
本剤の臨床試験では活動性結核の報告はなく、また結核のリスク増加は示されていないが、臨床試験では患者が活動性結核を発症している場合、またはその時点において何らかの慢性感染症に対する治療を受けていた場合は除外したため、本剤による活動性結核への影響は検討されていない。
・ 本剤投与に先立って問診、胸部X線検査、インターフェロン-γ遊離試験、胸部CT検査(適宜)を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。
・ 結核の既往歴を有する場合および結核感染が疑われる場合には、結核の診療経験がある医師に相談すること。
・ 胸部 X 線写真や胸部CT検査で潜在性肺結核に合致する陰影を有する患者、結核の治療歴を有する患者、インターフェロン-γ遊離試験が陽性の患者、結核患者との濃厚接触歴を有する患者は、原則として抗結核薬を予防投与したうえで、本剤を投与すること。
・ 結核の活動性が確認された場合は、本剤を投与せず、結核の治療を優先すること。
2) ヘルペスウイルスを含むウイルス感染症
これまでの臨床試験で、帯状疱疹を含めてウイルス感染症の発生が多く認められているので、ヘルペスウイルスなどの再活性化の徴候や症状の発現に注意すること。また、投与開始前に帯状疱疹等の初発症状と早期受診を患者に説明し、重症化を防止する。
3) B型肝炎およびB型肝炎ウイルス再活性化
臨床試験での本剤投与群においてB型肝炎およびB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化の報告はないが、HBV 感染者(キャリアおよび既往感染者)において、B型肝炎ウイルスの再活性化による肝炎があらわれるおそれがある。HBV感染者(キャリアおよび既往感染者)に対しては、日本リウマチ学会による「B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」および日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」を参考に対処する。

3. 悪性腫瘍
本剤との因果関係は明らかではないが、本剤投与患者に悪性腫瘍が報告されている。悪性腫瘍の発現率は、第II相・第III相臨床試験の併合解析では、本剤300mg群で0.7/100人・年、プラセボ群では0.7/100人・年であった。

 

ワクチン接種

帯状疱疹(水痘)、麻疹、風疹、おたふくかぜ、BCGなどの生ワクチン接種は、アニフロルマブ投与中は禁忌である。また、生ワクチン接種は、本剤投与中止後、一定の間隔を空けることが望ましい。接種に際しては併用薬剤や年齢、肝・腎機能障害など患者背景を考慮する必要がある。特に妊娠後期に本剤を投与した場合は、乳児の生ワクチン接種で感染症のリスクが高まる可能性があるので、生ワクチンを接種する際には本剤投与から一定の間隔を空けることが望ましい。

 

I型インターフェロン製剤との併用

本剤はI型インターフェロンα受容体サブユニット1に対するモノクローナル抗体であり、併用により両剤の効果が減弱するおそれがある。

 

妊婦および授乳婦への投与
  1. 妊婦
    妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
  2. 授乳婦
    治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。

 

全例市販後調査のためのアニフロルマブ適正使用の手引き

 

一般社団法人日本リウマチ学会
調査研究委員会
全身性エリテマトーデス診療ガイドライン作成小委員会
(2021.11.22)