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参加者レポート 辻 英輝

短期プログラム
研修報告書「カロリンスカ研究所での筋炎研究」

辻 英輝
京都大学医学部附属病院 免疫・膠原病内科

滞在施設:Division of Rheumatology, Department of Medicine Solna, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden
期  間:2023年3月6日から6月9日。
 
 
 この度は、2022年度JCR-EULAR 若手リウマチ医トレーニングプログラムに参加させていただきありがとうございました。ご評価いただきました選考委員の方々をはじめ学会関係者の皆様、ご推薦いただきました森信暁雄先生、留学に際しご協力いただきました荒瀬尚先生、大村浩一郎先生、笹井(中嶋)蘭先生、三森経世先生、京都大学の皆様、慶應義塾大学中澤真帆先生、私の家族にはこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。
 
 私は2023年3月から6月にスウェーデン、カロリンスカ研究所リウマチ科Ingrid Lundberg研究室に滞在しました。留学の理由は、留学に対する単純な憧れと、欧州のデータベースの有用性について勉強したかったためです。主に特発性炎症性筋疾患(以下、筋炎)の臨床研究に従事し、その他外来、病棟、筋生検の見学、基礎や臨床の講演会や会議に出席しました。
 
 MyoNetはスウェーデン、チェコ、イギリスを中心とした筋炎のレジストリであり、現在は欧州など30ケ国が参加しています。一方、スウェーデンにはThe Swedish Rheumatology Quality Register (SRQ)という自己免疫疾患患者のデータベースがあり、その中に筋炎、関節リウマチ、SLEなどが含まれます。筋炎のデータベースはSweMyoNetと呼ばれ、MyoNetと共通性があります。SweMyoNetにはカロリンスカ研究所では10年以上の縦断的な情報があり、600名以上が登録されています。その項目は筋炎の国際的組織であるThe International Myositis Assessment & Clinical Studies Group (IMACS)の提唱する6つの評価指標(筋力テスト、筋逸脱酵素、筋外活動性評価指標、患者VAS、医師VAS、HAQ)、薬剤情報、自己抗体情報が含まれます。筋炎特異的自己抗体の情報は全体の2割程度ですが、最近はEurolineblot法による自己抗体の測定が広まっており、今後自己抗体情報が充実すると予想されます。SRQの精度や活用法について勉強したかったので、実際にSRQを利用して筋炎の寛解と再燃について解析しました。この研究を通じてレジストリとしての必要な評価項目、あるいは活用法がイメージできましたので、将来的には日本でのレジストリ構築に貢献したいと考えています。
 
 滞在中の研究室の週間行事ですが、月曜日はIngrid先生との打ち合わせがあり、とてもラフなスタイルで研究の進行状況や些細なことが相談できます。火曜日はリウマチ科全体のミーティングがあり、研究のプログレスや学位審査の予演会が行われます。関節リウマチ、SLE、筋炎、自己炎症性疾患など基礎研究の主要な先生方や学生が集まる場であり、この会で議論できます。水曜日には筋炎グループの会議があり、抄読会や研究プログレスが行われます。私は滞在中に2度発表する機会があり、一度目は日本での研究内容、二度目はカロリンスカ研究所での研究内容のまとめの発表でした。金曜日は午後にフィーカという茶話会が開かれます。これら定例の行事以外に、不定期に学位審査会、講演会が開かれます。なお、Swedenの人々は英語が流暢であり、留学生が多いためこれらは全て英語で進行します。講演会は基礎系のもの(KISS seminarなど)や臨床系のものなど多岐にわたります。講師は学内あるいは学外から招かれます。滞在期間中にはイギリスやフランスを中心とした著名な先生方の講演を聞くことができました。
 
 リウマチ科に所属する大学院生の学位審査会が頻繁にあり、私は3度参加し、大変勉強になりました。カロリンスカ研究所の学位の基準として、一つの概念に関連する複数の論文が求められるようです。学位審査委員の主査は他大学のことが多く、3回のうち2回はイギリス、1回はフランスから招かれていました。学位審査会の前日には主査の講演があり、さらにIngrid先生の計らいで個人面談ができました。学位審査会の当日は主査の先生が大学院生のテーマに関連する講演を行うことから始まり、次に大学院生の発表、その後質疑応答になります。見事合格した場合は、昼と夜にパーティーが開かれます。これら一連の行事は両親や子供など家族も参加するイベントであり、カロリンスカ研究所に限らず欧州ではそのような習慣のようです。
 
 以下、病院の内容に触れますので、ここでスウェーデンの医療事情について記載します。医師はGeneral practitioner (GP)と専門医に分かれています。そのため、患者さんはGPを受診し、必要があれば中核病院、さらに大学病院に紹介となります。それぞれで医療の制限があり、免疫抑制薬など特殊な薬剤の投与や検査は大学病院に限定される場合があります。これは北欧に共通するシステムであり、適切な薬剤使用と医療分配、医療従事者の勤務体制の維持、経済的であるなど利点があります。一方、重症例が大学病院を紹介受診するまでに時間がかかる場合があります。また医師の専門医の取得に関しては、日本と同様に内科、外科などの専門研修の上に各専門科の研修がありますが、リウマチ科は内科や外科からは独立しているとのことです。
 
 外来見学に参加する機会がありました。正確な統計はとっていませんが、筋炎の患者は日本より間質性肺炎の頻度は低く、筋症状が主です。使用される薬剤はメトトレキサート(主に注射製剤)やリツキシマブが多く、ステロイドを終了できる患者が多い印象を持ちました。日本のように短時間で多くの患者を診察するスタイルではなく、じっくり時間をかけて診察されていました。筋炎の患者の場合は前述のIMACSの6つのコアセットに関する項目を診察毎に入力されていました。また、放射線科、感染症科医師などに電話でコンサルトができます。また、以前に日本でも紹介されていたコンコトーム法での筋生検を実際に見学することができました。これは外来にて局所麻酔で筋組織を採取することができ、低侵襲です。カロリンスカ研究所では頻繁に筋生検が行われており、発症時だけでなく、症状悪化時にも行うことがあるようです。また筋力回復に対するリハビリの意識が高く、理学療法士による筋力回復プログラムが積極的に行われており、複数の前向き研究が進行していました。
 
 病棟見学をする機会もありました。外来治療が主なため入院病床は少ないです。ストックホルムは100万人都市ですが、市内にはカロリンスカ研究所にしかリウマチ科の病床はなく、皮膚科、腎臓内科との合同の病床で合計20床です。また、集中治療室、準集中治療室が別にあります。SwedenではECMOや肺移植が可能であり重症の肺疾患には積極的に検討しているようです。患者の病床移動、転院などを主に行う医療事務(看護師)、あるいは患者からの電話対応を行う係がそれぞれ1名います。この病棟はチーム制になっており、リウマチ科は2チームあり、チーム内には医師以外に看護師も含まれています。毎朝医師と看護師との合同カンファレンスが開かれており、両者の意志疎通がなされていました。
 
 滞在中の生活について触れます。気候は日本よりも温度が低く、乾燥しています。4月半ばまで雪が降りましたが、5月以後は過ごしやすくなりました。住宅は空き物件が少ないようですが、私は幸運にもキッチン付きの大学の宿舎に入ることができました。大学が中心部から少し離れていることと物価が高いため自炊を中心に食事をとりましたが、近くのスーパーや市内のアジア食材店が役に立ちました。
最後に、貴重な経験を得ることができ、とても感謝しています。また、今後カロリンスカ研究所に興味を持たれる先生がおられましたら、ご連絡いただければ幸いです。
 

カロリンスカ研究所の一風景

カロリンスカ研究所の一風景

6月、カロリンスカ研究所のマークの下にて

6月、カロリンスカ研究所のマークの下にて