一般社団法人日本リウマチ学会
会員 各位
本年3月25日付で新規経口関節リウマチ治療薬「ゼルヤンツ」(一般名=トファシチニブ、以下本剤)が承認されました。本剤は、ヤヌスキナーゼファミリーを阻害することによって、サイトカインシグナルの抑制作用を介して抗リウマチ効果を示す薬剤です。
本剤は、本邦における承認に先駆け、米国において昨年11月に承認されましたが、欧州では本年4月に専門委員会においてベネフィット・リスクの観点から承認に対して否定的な見解が表明されました。このような状況で、同剤の適応範囲の患者が米国と比べて広いことや、従来の生物学的製剤と比べ、必ずしも副作用発現のリスクが低くない可能性を勘案し、日本リウマチ学会は厚生労働省およびファイザー社に対し、トファシチニブの上梓にあたっては、きわめて慎重な対応を取るべきであると考え、平成25年2月20日に要望書を提出致しました。これに対しファイザー社より、添付文書に患者が過去にメトトレキサート(MTX)などの治療を受けていることを強調する使用上の注意を盛り込むほか、「警告」を設けて「生物学的製剤と同程度以上の注意喚起を行う」とするなどとの回答を受け取りました。さらに、これまで以上の慎重な製造販売後調査(全例調査)を行い、特に既存薬との比較が可能な3年に及ぶ長期的な調査を行いたいとの考えが示されました。これを受けて、4月17日に開催された理事会にて、その全例調査実施計画ついての協議がなされ、トファシチニブ自体の全例調査を従来通りに協力することに異議はないものの、ファイザー社より提起された対照群を同時に調査する事については、多くの理事より疑義が提起されました。しかし、その後、厚生労働省より正式に本学会に対する全例調査への協力依頼が書面でもたらされ、特にその安全性についての評価に重点を置くように強い要望がありました。また、今回の承認においては、厚生労働省がファイザー社に対し、本剤自体の全例調査に加え、長期的な既存薬との比較調査の実施を要請している実態も明らかとなりました。
このような諸般の事情を勘案し、本件については、理事会および抗リウマチ薬市販後調査小委員会を中心に協議を重ね、本学会としてはまず、本調査に先立ち適正使用推進を目的とした使用ガイドラインを策定する事を決定いたしました。さらに、本剤に関する長期臨床データの更なる蓄積の必要性から、このガイドラインに基づき選択されたトファシチニブ投与群に加え、比較対照群を設置した3年間にわたるファイザー社が実施する市販後調査に協力することを決定いたしました。
本学会は、過去に多くの抗リウマチ薬に関する製造販売後調査の実施に協力してまいりました。このような本学会員の活動が、日本人における薬剤の有効性と安全性の確立に寄与し、リウマチ治療の発展に貢献してきたものと考えています。今回の比較対照群を設置した全例調査は、本製剤の実臨床における真の有用性を世界に先駆けて評価する点で本学会にとっても大きな意義があると考えております。
つきましては、学会員の皆様におかれましては、本剤の適正使用をご理解頂き、この全例調査にご協力戴きますようお願い申し上げます。
平成25年6月18日
一般社団法人 日本リウマチ学会
理事長 髙崎 芳成
抗リウマチ薬市販後調査(PMS)小委員会
委員長 三森 経世