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医師向け情報
2023年12月26日改訂
【目次】
1:COVID-19ワクチン接種に関するJCRの見解
2:COVID-19ワクチンについて
3:COVID-19について
4:AIRDに関連してCOVID-19について知りたいこと
欧米では2020年12月からワクチン接種が始まりました。現時点で、懸念されると思われる二点についてJCRの見解を提示することといたしました。ワクチン接種が先行している欧米のリウマチ学会の見解も参考にしています。
欧州リウマチ学会(EULAR)の見解を紹介します2)。「すべての人にとってCOVID-19ワクチン接種を勧める」としています。また「リウマチ性疾患患者がワクチン接種を差し控える理由がみあたらない」と踏み込んでもいます。米国リウマチ学会(ACR)もワクチン接種を強く推奨しています3)。
mRNAワクチン追加(3回目)接種の有効性に関する報告が、2022年1月22日に米国疾病予防管理センター(CDC)より報告されています4)。オミクロン株に対する症候性感染の予防効果はデルタ株よりも低下する可能性が示唆される結果となりましたが、追加(3回目)接種の変異株に対する有効性が示唆されています。免疫抑制療法中の症例、担癌症例などを含む免疫不全状態(immunocompromising conditions)の成人例(1,077例)に対する追加(3回目)接種の有効性に関しても2022年1月28日にCDCより報告されています5)。追加(3回目)接種完了群と2回接種完了群で入院予防効果に関する検討を行っています。追加(3回目)接種を完了した群での入院予防効果は88%(95%CI: 81%-93%)であったのに対し、2回接種完了群では69%(95%CI: 57-78%)であり、統計学的有意差を持って(p-value<0.001)入院予防効果が高いと示されました。
膠原病・リウマチ性疾患患者さんでの追加(3、4回目)接種の有効性・安全性に関するデータは限られているため、今後も慎重に検討をしていく必要がありますが、SLEなどの全身性炎症性疾患ではCOVID-19重症化のリスクが高いとする報告もあります2) 6) 7)。感染流行の終息が見通せない中、膠原病・リウマチ性疾患における追加(3回目)接種は、EULAR、ACRともに強く推奨をしています2) 3)。膠原病・リウマチ性疾患患者さんへのワクチン接種は追加(3、4回目)接種を含めて十分検討するに値すると考えられます。特に、膠原病・リウマチ性疾患以外に重症化リスクとなるような基礎疾患を有する症例では、追加(3、4回目)接種を含めたワクチン接種の検討が必要と考えられます。
注意すべき副反応は、アナフィラキシーショック、原疾患のリウマチ性疾患の悪化の二つであると考えます。ファイザー社製およびモデルナ/武田社製mRNAワクチンで、アナフィラキシーショックがリウマチ性疾患の患者さんで増えるという報告はありません2) 3) 4)。
欧州リウマチ学会(EULAR)の新型コロナワクチンレジストリであるCOVAXを含め、mRNAワクチンの膠原病・リウマチ性疾患患者さんに対する安全性に関する報告が複数なされていますが、現時点ではmRNAワクチン接種により、膠原病・リウマチ性疾患が悪化する頻度が増えるといった報告は出ていません5-11)。
利点(メリット) | 欠点(デメリット) |
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および重症化の予防 ・弱毒生ワクチン(現在開発中)と異なり、すべての患者で投与が可能 |
・mRNAワクチンは、長期的な有効性や安全性に関して十分に解明されていない ・mRNAワクチンは、アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応や局所の強い反応が認められている ・今後のウイルスの変異に対応できるかどうかがわからない |
COVID-19の重症化リスクとして、高齢、悪性腫瘍、肺気腫など慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期があげられています1)。また、注意を要する状態として、ステロイド、生物学的製剤の使用やHIV感染症があげられています1)。年齢については、30歳代と比して60歳代の重症化率は25倍になると報告されています。日本リウマチ学会(JCR)では、リウマチ性疾患でステロイドをプレドニゾロン換算で5mg/日以上、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害剤のいずれかを使用中の者をワクチン接種順位の上位に位置付けました。米国リウマチ学会(ACR)の提言では、リウマチ性疾患のすべての患者に追加(3、4回目)接種を含めたワクチン接種を推奨するとしています2)。
患者の併存疾患によって重症化リスクはそれぞれ異なり、感染リスクも感染の流行状況によって変動するため、リスクベネフィットを勘案したうえで接種の可否を判断してください。
2020年に欧州リウマチ学会(EULAR)から発表されたワクチン接種に関する一般的な推奨では、高疾患活動性の患者にインフルエンザワクチンを投与した時にワクチンによる抗体産生が低かったという報告を受けて、ワクチン接種は原疾患の疾患活動性が安定している時に行うことが望ましいとされています1)。米国リウマチ学会 (ACR)が2021年6月に公表したClinical guidanceにおいても、原疾患の疾患活動性が安定している時期でのCOVID-19ワクチン接種を推奨しています2)。今後の情報の集積が必要ですが、上記を受けて考えますと原疾患の疾患活動性が安定した状態でワクチン接種することが望ましいと考えます。
2021年8月に米国からリウマチ・膠原病患者に対する新型コロナワクチン(mRNAワクチン)の安全性について報告がされています。mRNAワクチン接種後、11%の症例で治療を要する原疾患の再燃が認められましたが、重度の再燃は認められないという結果でした3)。
一方、欧州リウマチ学会(EULAR)は、リウマチ性疾患患者における新型コロナワクチンの有効性・安全性を検討するregistry(COVAX)を立ち上げており、2021年12月にAnn Rheum Disで発表された報告4)では、ワクチン接種後に原疾患であるリウマチ・膠原病の再燃が認められた症例は全体の4.4%、重度の再燃は0.6%という結果でした。有害事象は37%、重度の有害事象は0.4%と報告されています。COVID-19ワクチン接種との因果関係が疑われる個別の有害事象に関しても報告されています。この結果から、著者らは膠原病・リウマチ性疾患患者におけるCOVID-19ワクチンの忍容性は良好であり、ワクチン接種による原疾患の再燃は稀であると結論づけています。
その他の報告においても、新たな安全性の懸念や原疾患の再燃リスク上昇は認められておりません5-12)。
とくにMMF、Multitarget療法あるいはRTX/IVCY投与患者では抗ウイルス抗体の陽性化率はいずれも約60%に留まっています。一方、その他の治療群では90%~100%の患者さんで抗ウイルス抗体が陽性となりました。MMF、Multitarget療法あるいはRTX/IVCY投与患者では感染予防にとくにご注意ください。
米国リウマチ学会(ACR)のGuidance Related to the Use and Timing of Vaccine Dosing and Immunomodulatory Therapy in Relation to COVID-19 Vaccination in RMD Patients (Revised Aug 12, 2022)1)では、以下のようなエキスパートオピニオンが紹介されています。
TNF阻害薬、IL-1受容体阻害薬、IL-6受容体阻害薬、IL-17阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-23阻害薬:
ワクチン接種時期と薬剤投与時期に関するタスクフォースのコンセンサス形成ができない
メトトレキサート、JAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ)、レフルノミド、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、カルシニューリン阻害薬、スルファサラジン、経口シクロホスファミド、アプレミラスト:
ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
アバタセプト
アバタセプト静注: アバタセプト静注投与予定の1週間前にワクチン接種時期を調整
アバタセプト皮下注: ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
ベリムマブ
ワクチン接種後1~2週間の休薬(疾患活動性が許せば)
シクロホスファミド静注(IVCY)
IVCYは可能であればワクチン接種の約1週間後に投与
リツキシマブ、他の抗CD20B細胞抗体
リツキシマブなどの抗B細胞抗体の投与予定の2~4週間前までにワクチン接種時期を調整
ヒドロキシクロロキン、免疫グロブリン静注療法
ワクチン接種時期と薬剤投与時期の調整不要
新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2 mRNA)の2回目接種から2~6週後における自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIIRD)患者の免疫原性や免疫抑制薬の影響が報告されています。リツキシマブ、アバタセプト、ミコフェノール酸モフェチル、グルココルチコイドを使用中の患者では中和抗体陽性率が減弱し、一般集団と比較して、それぞれ61%、29% (MTXとの併用で60%)、40%、34%ほど低下することが報告されています1)。
3、4回目のmRNAワクチン接種前後での抗リウマチ薬や免疫抑制薬の投与量の調整や休薬については、今のところ十分なエビデンスがありません。ワクチンの反応性が低下することが分かっている薬剤については、薬剤を減量もしくは一時的に中止することによってワクチンの効果が改善する可能性はあります。日本リウマチ学会(JCR)の研究においても、一部の免疫抑制薬を使用している患者さんではワクチンに対する反応性が低下することが確認されています。
ただし、mRNAワクチンにおいて、どのように減量すれば反応性が改善するかはまったく不明です。加えて、薬剤を減量、中止することによってリウマチ性疾患が悪化する可能性がありますし、原疾患が悪化している場合にCOVID-19となった際にはCOVID-19重症化の可能性があります。
米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)でも推奨が分かれており、ACRは疾患活動性が安定している場合には3回目ワクチン接種後1-2週間の免疫抑制薬の中止を推奨していますが2)、EULARはワクチンの効果増強を目的とした免疫抑制薬の調整については再燃のリスクがあるため一般的には推奨しないとしています3)。
以上をまとめると、ワクチン接種にあわせた薬剤投与時期の調整は確固たるエビデンスに基づいた変更ではありません。一方で、原疾患が悪化しても致命的になる可能性が低く、かつ現在の病状が安定している場合には、ワクチン接種時から短期間(1-2週間程度)の免疫抑制薬の休薬を試みることが有効な可能性はあります。もし治療調整を試みる場合には、十分に個々人の状況を勘案したうえでご検討ください。
なお、1・2回目接種後、新型コロナウイルスに感染した場合の追加(3回目)接種時期に関しては、日本の厚労省は暫定的に3ヶ月を一つの目安時期とすることを紹介しています5)。EULARは、COVID-19から回復後、2-6ヶ月後を目安にワクチン接種を推奨しています6)。本邦では感染から回復後、期間を開けずに追加接種を希望する方についても接種機会を提供する方針ですので、感染流行状況や基礎疾患の状態を踏まえて接種時期をご検討ください。
※健常人(一般集団)でのデータです。
現在の感染状況は患者の不安感を増強しており、服薬の自己中断をしないよう指導します。
2. 感染リスクを下げる
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は飛沫感染・接触感染で伝播します。生活上の注意として、アルコールによる手指消毒や石鹸による手洗い、密閉・密集・密接を避ける、互いの距離を一定以上に保つ、換気をする、マスクを着用するなどがあげられます。
3. 感染を疑った時の対応
発熱や咳などの症状がある場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合、喉の痛み、嗅覚・味覚障害が出現した場合、経皮的酸素飽和度が90%前半以下に低下する、などの際にはCOVID-19を疑い、受診や相談をして頂くようにします。
医療者は、患者を診療する際には、標準予防策(不織布マスク着用、手指衛生など)を徹底するようにしてください。現時点で、COVID-19は小児で重症化することは極めて稀ですが、多臓器系にわたる強い炎症を起こす病態(MIS-C/PIMS)を合併する例があることが報告されています。ACRホームページ上の小児リウマチ性疾患患者のClinical Guidance1) 2) 3)、日本小児科学会ホームページの情報を参考に、小児例に関しては目安どおりの対応をお願いします。
リウマチ性疾患の患者さんには上記の重症化リスクを有する方が少なくありません。リウマチ性疾患の患者さんがCOVID-19を発症した際には、その経過に十分な注意が必要です。
日本リウマチ学会では、「リウマチ性疾患患者に生じたCOVID-19に関する研究」(JCR-COVID-19レジストリ)を行っています。本研究では、COVID-19を生じたリウマチ性疾患患者を対象に臨床情報を収集してデータベース化し、病態、重症化リスク因子、予後因子などについて観察研究を行うことを目的としています。2020年3月から2021年6月までの登録症例を解析した結果が、2022年9月、Modern Rheumatologyに発表されています8)。高齢、高血圧がCOVID-19の重症化(COVID-19による入院、死亡)との相関を認めたことが報告されています。
また、一般的に検査値の重症化マーカとしては以下のものが報告されています1) 6)。白血球増多、リンパ球減少、血小板減少、アルブミン低値、ALT上昇、LDH上昇、CK上昇、高感度トロポニンI上昇、プロトロンビン時間延長、Dダイマー増加、CRP上昇、プロカルシトニン上昇、CK上昇、AST上昇、ALT上昇、LDH上昇、クレアチニン上昇、が人工呼吸や死亡と有意に関連していたと報告されています5)。
核酸アナログ製剤で、コロナウイルスの増殖にかかわるRNAポリメラーゼを阻害し抗ウイルス活性を示します。培養ヒト肺細胞におけるMERS-CoVの複製を抑制し、霊長類モデルにおいて肺損傷を軽減させ、肺機能を改善させることが示されています1) 2)。複数の臨床試験において、すでに人工呼吸や高流量酸素投与を要する重症例では効果が期待できない可能性が高いが、そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性が見込まれています3) 4) 5)。投与期間は、5日間投与群と10日間治投与群とでは有効性・副作用に差がなかったことから原則5日間の投与が推奨されていますが、患者背景に応じた判断が望まれます。また、国内において承認条件に基づき臨床試験成績が提出され、中等症に対しても効果が認められると判断され、2021年1月からは、必ずしも酸素投与を要しなくとも肺炎像が認められる「中等症Ⅰ」にも投与が可能となっています。重症化リスク因子のある発症7日以内の軽症・中等症ⅠのCOVID-19を対象に行われたランダム化比較試験(PINETREE)で、レムデシビルを3日間投与した治療群では、プラセボ群と比較してCOVID-19に関連した入院または死亡が87%減少させたと報告されたことから、重症化リスク因子を有するなど、本剤の投与が必要と考えられる軽症患者への適応拡大が承認されています6)。
適応は「SARS-CoV-2による感染症」で、重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与することとされています。症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは無いため、症状が発現してから速やかに投与する必要があります。
重症化リスク因子については、日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版」2)(2022年8月30日)や、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験MOVe-OUT (002)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、既に承認を受けている英国で、臨床試験(PANORAMIC試験)が想定されますので(下表)を参考にしてください。
また、重症度の高いCOVID-19 患者に対する有効性は確立していません。なお、重症度が高いとは、概ね中等症Ⅱ以上が該当するとされています。
日本感染症学会 COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版(2022年8月30日)より ※妊婦への投与は禁忌のため除く |
・61 歳以上 ・活動性の癌(免疫抑制又は高い死亡率を伴わない癌は除く) ・慢性腎臓病 ・慢性閉塞性肺疾患 ・肥満(BMI 30kg/m2 以上) ・重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患又は心筋症) ・糖尿病 ・ダウン症 ・脳神経疾患(多発性硬化症、ハンチントン病、重症筋無力症等) ・コントロール不良のHIV感染症及びAIDS ・肝硬変等の重度の肝臓疾患 ・臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後 |
適応は「SARS-CoV-2による感染症」とされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験C4671005(EPIC-HR)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「日本感染症学会 COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版(2022年8月30日)」(下表)を参考にしてください。
重症化リスクのある非入院COVID-19 患者を対象に行われたRCTの中間解析結果では、プラセボ群(385名)の28日目までの入院又は死亡が27名(7.0%)に対し、治療群(389名)では3名(0.8%)と相対的リスクが89%減少しました(p<0.0001)。この結果を受け、中間解析以降の被験者登録が中止されましたが、被験者登録が中止されるまでに組み入れられたすべての被験者(2,246名)を対象とした解析の結果においては、プラセボ群(682 名)の28日目までの入院又は死亡が44名(6.5%)に対し、治療群(697名)では5名(0.7%)と、相対的リスクが89%減少となっています。 臨床試験では症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏づけるデータは得られていません。
重症度の高いCOVID-19 患者に対する有効性は確立していません。なお、重症度が高いとは、概ね中等症Ⅱ以上が該当するとされています2)。
また、リトナビルはCYP3Aで代謝される薬剤の血中濃度を上昇させます。カルシウム拮抗剤・スタチン、精神安定剤など多くの薬が影響を受けます。添付文書でも細かな併用禁忌・注意が設定されております。詳細は最新の添付文書等※をご確認ください。
副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤、JAK阻害剤などによる治療中の膠原病・リウマチ性疾患患者さんは重症化リスク因子を有していると考えられます。COVID-19罹患時には、重症度や併存疾患等を考慮した上で、中和抗体薬の適応についてご検討ください。
日本感染症学会 COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版(2022年8月30日)より |
・60歳以上 ・BMI 25kg/m2 超 ・喫煙者(過去 30 日以内の喫煙があり、かつ生涯に 100 本以上の喫煙がある) ・免疫抑制疾患又は免疫抑制剤の継続投与 ・慢性肺疾患(喘息は、処方薬の連日投与を要する場合のみ) ・高血圧の診断を受けている ・心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニトログリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈形成術、頚動脈内膜剥離術又は大動脈バイパス術の既往を有する) ・1 型又は 2 型糖尿病 ・限局性皮膚がんを除く活動性の癌 ・慢性腎臓病 ・神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群等)又は医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常等) ・医療技術への依存(SARS-CoV-2 による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法等)、等 |
適応は「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)」とされています。JAK阻害薬は、抗炎症作用やサイトカインストームの抑制効果が期待され、一部の薬剤ではエンドサイトーシス経路の阻害作用も推測されています。JAK1/JAK2阻害薬であるバリシチニブに関する国際共同臨床試験(ACTT-2試験)では、バリシチニブ・レムデシビル併用群が、レムデシビル単独治療群と比べ、回復までの期間(中央値)が約1日短縮(高流量酸素投与例では8日短縮)しました1)。また、COV-BARRIER試験では、標準療法(副腎皮質ステロイド投与79%、レムデシビル投与19%)に加えて、バリシチニブ又はプラセボ投与群の比較を行っています。主要評価項目である28日目までに非侵襲的若しくは侵襲的人工呼吸管理へ移行又は死亡に至った患者の割合は、統計学的有意差は認められませんでしたが(オッズ比0.85;95%CI 0.67~1.08;p=0.18)、28日以内の死亡に関しては、バリシチニブ群で8.1%、プラセボ群で13.1%とバリシチニブ群で低かったと報告されています2)。標準的な投与方法は酸素吸入を要する患者に対して、バリシチニブとして4mg1日1回最大14日間までとなっています。本邦ではバリシチニブは、中等症Ⅱ〜重症例かつ、レムデシビルの併用においてCOVID-19治療薬として効能追加を承認されています。
日本国内での使用に関しては、後ろ向きの観察研究3) 4)などが報告されています。
英国での入院患者を対象とした臨床試験(RECOVERY試験)では、デキサメタゾンの投与を受けた患者(2104人)で死亡率の減少が示されています。予後改善効果は無作為化時に侵襲的人工呼吸器管理を要した患者で最大(29%対41%)であり、酸素投与を要さなかった集団では予後改善効果はみられませんでした1)。重症例に全身ステロイド投与を行ったメタアナリシスにおいても生存率の上昇が報告されています2)。本邦では中等症II以上の重症例に対するデキサメタゾンの使用が承認されており、標準的な投与方法はデキサメタゾンとして6mg1日1回10日間となっています。
※カシリビマブ/イムデビマブはオミクロン株(BA1.1.529系統/BA.2系統、BA4系統およびBA.5系統)に対して有効性が低下するおそれがあることから、他の治療薬が使用できない場合に本剤の投与を検討することとされています2)。
適応は「SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者」などとされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅲ相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定されます(下表)。海外では主に外来で用いられており、入院または死亡リスクを減少させる効果があったと報告されています3) 4)。また、同居家族などの濃厚接触者や無症状病原体保有者における発症抑制効果もあり、「SARS-CoV-2による感染症の発症抑制」の適応も有していますが、オミクロン株に対しての減弱するおそれがあること、同様の対象者に使用可能な他の治療薬がないことなどから、慎重に投与を検討することとされています5)。添付文書上、発症抑制での投与においては、COVID-19の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではないとされています。
COV-2067試験組入れ基準 | 診療の手引き第8.0版 | 米国 EUA |
・50 歳以上 ・肥満 (BMI 30 以上) ・心血管疾患 ・慢性肺疾患 ・1 型又は 2 型糖尿病 ・慢性腎障害 ・慢性肝疾患 ・免疫抑制状態 |
・50 歳以上 ・肥満(BMI 30 以上) ・悪性腫瘍治療 ・骨髄・臓器移植 ・免疫不全 ・コントロール不良のHIV/AIDS ・免疫抑制剤の長期投与 ・心血管疾患 ・高血圧 ・慢性閉塞性肺疾患(喘息を含む) ・慢性腎臓病 ・慢性肝疾患 ・糖尿病 ・鎌状赤血球症 ・サラセミア |
• Obesity or being overweight • Pregnancy • Chronic kidney disease • Diabetes • Immunosuppressive disease or immunosuppressive treatment • Cardiovascular disease • Chronic lung • Sickle cell disease • Neurodevelopmental disorders • Having a medical-related technological |
※ソトロビマブはオミクロン株(BA1.1.529系統/BA.2系統、BA4系統およびBA.5系統)に対して有効性が低下するおそれがあることから、他の治療薬が使用できない場合に本剤の投与を検討することとされています2)。
適応は「SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者」などとされています。重症化リスク因子については、承認審査での評価資料となった海外第Ⅱ/Ⅲ相試験(COMET-ICE試験、214367試験)の組み入れ基準、国内の主要な診療ガイドラインである「COVID-19診療の手引き」、米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定されます(下表)。少なくとも1つ以上の重症化リスク因子を持つ軽症COVID-19患者を対象とした第3相のランダム化比較試験では、中間解析において発症から5日以内にソトロビマブ500mg単回投与群(291名)では、プラセボ投与群(292名)と比較して、主要評価項目である投与29日目までの入院または死亡が85%減少した(p=0.002)と報告されています。
これらの重症化リスク因子のうちいずれかを有するものであって、医師が必要と判断した場合に投与対象になりうると考えられますので、投与の際には参考にしてください。添付文書上の注意点として、症状が発現してから速やかに投与すること(症状発現から1週間程度までを目安に投与が望ましい)とされています。ACRのClinical Guidance2)にもCOVID-19治療薬としてソトロビマブが紹介されていますが、オミクロン株に対する有効性の低下が懸念として挙げられています3)。
副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などによる治療中の膠原病・リウマチ性疾患患者さんは重症化リスク因子を有していると考えられます。COVID-19罹患時には、重症度や併存疾患等を考慮した上で、中和抗体薬の適応についてご検討ください。
COMET-ICE試験、214367試験組入れ基準における重症化リスク因子 | 診療の手引き第8.0版 | 米国EUA(2021年8月時点FACT SHEET) |
・55歳以上 ・薬物治療を要する糖尿病 ・肥満(BMI 30 kg/m2超) ・慢性腎障害(eGFRが60mL/分/1.73 m2未満) ・うっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスⅡ以上) ・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患又は労作時の呼吸困難を伴う肺気腫) ・中等症から重症の喘息(症状コントロールのために吸入副腎皮質ステロイドを要する又は組み入れ前1年以内に経口副腎皮質ステロイドが処方されている者) |
・55歳以上 ・肥満(BMI 30 以上) ・悪性腫瘍 ・慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・慢性腎臓病 ・糖尿病(薬物治療が必要) ・うっ血性心不全(NYHA≧Ⅱ) ・COPD、喘息(中等症〜重症) |
• Older age (for example, age ≥65 years of age) • Obesity or being overweight (for example, BMI >25 kg/mhttps://www.cdc.gov/growthcharts/clinical_charts.htm2, or if age 12-17, have BMI ≥85th percentile for their age and gender based on CDC growth charts, https://www.cdc.gov/growthcharts/clinical_charts.htm) • Pregnancy • Chronic kidney disease • Diabetes • Immunosuppressive disease or immunosuppressive treatment • Cardiovascular disease (including congenital heart disease) or hypertension • Chronic lung diseases (for example, chronic obstructive pulmonary disease, asthma [moderate-to-severe], interstitial lung disease, cystic fibrosis and pulmonary hypertension) • Sickle cell disease • Neurodevelopmental disorders (for example, cerebral palsy) or other conditions that confer medical complexity (for example, genetic or metabolic syndromes and severe congenital anomalies) • Having a medical-related technological dependence (for example, tracheostomy, gastrostomy, or positive pressure ventilation (not related to COVID 19)) |
新型コロナウイルス感染症及び曝露前の免疫抑制状態者の発症抑制を目的とした薬剤として特例承認されました。ワクチン接種では十分な免疫の獲得が期待されない者に対するウイルス曝露前の投与(発症抑制目的での投与)を対象とした薬剤は日本国内では初めての承認となります。添付文書において、SARS-CoV-2 による感染症の発症抑制について「SARS-CoV-2 による感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない。」とされています。本剤は濃厚接触者における有効性は示されておりません。
投与対象者の範囲は日本感染症学会の「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 14 版」(2022 年8月 30 日)2)を踏まえ、以下のとおりとされています。
・B 細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから 1 年以内の患者
・ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者
・キメラ抗原受容体 T 細胞レシピエント
・慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント
・積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者
・肺移植レシピエント
・固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから 1 年以内の患者
・T 細胞又は B 細胞枯渇剤による急性拒絶反応で最近治療を受けた固形臓器移植レシピエント
・CD4T リンパ球細胞数が 50 cells/μL 未満の未治療の HIV 患者
ACRのClinical GuidanceにもCOVID-19曝露前発症予防薬としてチキサゲビマブ及びシルガビマブが紹介されていますが、オミクロン株に対する有効性の低下が懸念として挙げられています4)。
中等症II以上の重症例を対象に追加承認されました。ICU入室例を抗IL-6受容体抗体群(トシリズマブまたはサリルマブ)、コントロール群に割り付けた臨床試験では、主要評価項目であるorgan support-free daysの改善が認められました(REMAP-CAP試験)1)。COVID-19肺炎389例を対象とする試験(EMPACTA試験)では、主要評価項目である死亡および人工呼吸器を必要とする患者の割合が有意に低減しました(トシリズマブ群12.0% vs プラセボ群19.3%)2)。
WHOにおいて実施されたメタアナリシス(27のRCT)において、全死亡オッズ比(95%CI)は全体集団で0.86(0.79-0.95)、副腎皮質ステロイド薬併用あり集団で0.78(0.69-0.88)、副腎皮質ステロイド薬併用なし集団で1.09(0.91-1.30)でした。このうち、トシリズマブが用いられた19試験における当該オッズ比(95%CI)は全体集団で0.83(0.69-0.88)、副腎皮質ステロイド薬併用あり集団で0.77(0.68-0.87)、副腎皮質ステロイド薬併用なし集団で1.06(0.85-1.33)でした。これらの結果より、副腎皮質ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡割合が低下することが示唆されました3)。
海外医師主導治験では、室内気SpO2が92%未満または酸素投与中でCRP 7.5mg/dL以上の肺炎症例を対象として実施されています。副腎皮質ステロイド薬の併用下でのトシリズマブの有効性が確認されていること、副腎皮質ステロイド薬を併用していない患者においては本剤投与により全死亡割合が高くなる傾向が認められたことなどから4)、上記臨床試験の結果を参考にして適応症例を慎重に検討する必要があります。また、バリシチニブとの併用については有効性、安全性は確立していません。
日本国内での投与実績に関しては、第Ⅲ相臨床試験(J-COVACTA試験)5)の一部の結果、単施設での後向き観察研究6)の結果などが報告されています。
酸素投与や入院を要する中等症例、人工呼吸器などの集中治療管理を要する重症例では、深部静脈血栓症(DVT)などの血栓症のリスクがあります1) 2)。肥満、不動などの血栓症の発症リスクを有する場合あるいはDダイマーが正常上限の3〜4倍を超えるような場合には、ヘパリンなどによる抗凝固療法が推奨されます1) 2) 3)。厚生労働省の「COVID-19診療の手引き」には、低用量(10,000単位/日程度)での未分画ヘパリンの投与が紹介されています。各学会の診療指針、ガイドライン等を参考に、抗凝固療法の適応についてご検討ください2) 3)。
参考となるサイト
厚生労働省ホームページ
・医療機関向け情報(治療ガイドライン、臨床研究など)
・「自治体・医療機関向けの情報一覧(事務連絡等)(新型コロナウイルス感染症)」
国立感染症研究所
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報
国内学会ホームページ
・日本感染症学会(感染症トピックス 新型コロナウイルス感染症)
・日本集中治療医学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報)
・日本呼吸器学会(新型コロナウイルス感染症 COVID-19関連情報)
・日本環境感染学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について)
・日本血栓止血学会(新型コロナウィルス特設ページ)
・日本プライマリ・ケア連合学会(新型コロナウイルス感染症 プライマリ・ケアのための情報サイト)
・日本産婦人科学会(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報)
・日本小児科学会(新型コロナウイルス関連情報)
・日本癌学会(新型コロナウイルス感染症とがん診療について(医療従事者向け)Q&A)
・日本循環器学会(COVID-19関連情報)
・日本医師会(COVID-19有識者会議)
海外学会・関連機関ホームページ
・ACR (COVID-19 Guidance)
・EULAR (Rheumatic Musculoskeletal Diseases and COVID-19 repository for clinicians)
・APLAR (COVID-19 on Rheumatic Disease Publications)
・Infection Diseases Society of America (IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19)
・WHO (Therapeutics and COVID-19: living guideline)
・NIH (COVID-19 Treatment Guidelines)
はじめに
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が、我が国の自己免疫性リウマチ性疾患(AIRD)の診療に与えてきた影響は甚大ですが、病態の理解、治療・ワクチンの開発やウィルス株の変異が進むに連れて、リウマチ・膠原病をお持ちの患者様や担当医のCOVID-19における関心事が変わってきました。そこで、今回、この記事の改訂に際して、リウマチ診療医に「AIRDに関連してCOVID-19について知りたいこと」をアンケートで聴取して、上位のトピックスについてまとめました。
Q. SARS-CoV2ワクチン接種によるAIRDの誘発について
SARS-CoV2ワクチン接種後にAIRDを発症した報告が散見されますが、症例報告やケースシリーズがほとんどであり、大半の例で明確な因果関係を示すのは困難です。ワクチン接種によりAIRDが誘発される頻度について検討された報告は多くないのが現状です。
解説:2023年1月に日本リウマチ学会で実施した全国調査では、リウマチ学会教育施設から2回目までのワクチン接種後1ヶ月以内に新規にAIRDを発症した患者情報が収集され、合計100例が報告されました。報告数が上位の疾患としては有病率の高さを反映してか、27例が関節リウマチ(RA)、11例がリウマチ性多発筋痛症(PMR)でした。次いで血管炎、中でもANCA関連血管炎が19例報告されています。また、11例の皮膚筋炎・多発性筋炎(抗MDA5抗体陽性が3例、抗TIFγ抗体3例)が報告されており、全身性エリテマトーデス(SLE)は6例が報告されています。
本邦のワクチン接種状況を反映し、大半のAIRD症例がmRNAワクチン(なかでもファイザー社性ワクチン)接種後7-8日後に最初の症状が出現したとされています。AIRDの治療としてはグルココルチコイド製剤を中心に使用されています。
主に海外からはウイルスベクターや不活化ワクチンでも報告が散見され、mRNAに特有の現象ではありません(1)。
日本リウマチ学会の調査や海外から報告も含め、頻度については言及できませんが、ワクチン導入以前のhistorical cohortと比較してSARS-CoV2ワクチン導入後にはANCA関連血管炎の新規発症症例が1.5倍程度増加しているとの本邦からの報告もあります(2)。
SARS-CoV2ワクチンによってAIRDが誘発されるメカニズムとしてMolecular mimicly、バイスタンダー活性化、アジュバントの影響などが考えられていますが、明らかではありません(1)。SARS-CoV2ワクチンとAIRD発症の因果関係の有無について確立するには、さらなる調査が必要と考えられます。
Q. SARS-CoV2ワクチン接種によるAIRDの増悪について
SARS-CoV2ワクチンを接種したAIRD患者において、一部の症例で疾患活動性の増悪が報告されています。
解説:AIRDはCOVID-19罹患時に重症化リスクが高いと考えられますが、ワクチン接種による疾患活動性増悪への懸念が、AIRD患者がワクチン接種を躊躇する要因になり得ます。ワクチン接種は患者の自由意志において行われるべきです。
COVAD(COVID-19 in Autoimmune Rheumatic Diseases)試験は、国際的に行われたオンライン調査を用いた調査です。AIRD患者および健常人集団におけるSARS-CoV2ワクチン接種関連の疾患増悪について検討されており、3,453人のAIRD患者が検討されました。本研究では疾患増悪(フレア)が9.5%から26.7%の頻度で見られました。(フレアを4種類定義)最も多く報告されたフレアは関節炎と疲労でした。この報告ではAIRDを複数合併した患者や精神疾患を併存する患者、Modernaワクチン接種者では、フレアが多く報告されました(3)。
日本リウマチ学会でもリウマチ専門医の勤務する13施設に通院中のAIRD患者のうち、初回および2回目のmRNAワクチン投与を受けた患者を対象においての疾患活動性への影響を検討しています。2021年4月から2022年12月にかけて、3611例が登録され、ワクチン接種後2回までに治療強化を要した場合に疾患の悪化と判定しています。
全疾患において4.8%でワクチン接種後にAIRDの疾患活動性が増悪したと判定されました。ワクチン接種により疾患活動性の増悪を呈しやすい要因としてAIRDの疾患活動性が高いことが関連していました。なかでもRA患者ではメトトレキサート治療を受けていない患者で活動性の悪化が多く観察されています。原疾患の疾患活動性のコントロールが良好な症例、特にメトトレキサートで治療を行っているRA患者ではワクチン投与後の疾患活動性も低いままであることが示唆され、日頃から適切に薬物療法を行い、疾患活動性を良好に維持することが必要と思われます。
Q. ワクチン接種のメリット・デメリットは何でしょうか?/ワクチン接種を継続すべきですか?
【ワクチン接種のメリットとデメリット】SARS-CoV2は2019年にパンデミックを引き起こし、2022年にかけて本邦でも死亡者、重症者が生じました。しかしウイルスの変異により次第に重篤な患者の減少を認め、世界保健機関(WHO)は 2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言しました。本邦においての2023年5月8日から従来の2類感染症からインフルエンザと同じ5類相当とされています。
SARS-CoV2に対するワクチンは、本邦ではmRNAワクチン、アデノベクターワクチン、リコンビナントワクチンが使用可能です。いずれのワクチンもアジュバント効果を有しており、アジュバント効果を利用して免疫原性を増強しています。また対応抗原はSARS-CoV2ウイルスのスパイク蛋白ですが、いずれのワクチンも投与開始時は初期に流行したウイルスのスパイク蛋白を抗原として用いております。これらのワクチンのうち、mRNAワクチンはウイルスの変異に対応可能な、BA4.BA5およびXBB1株に対するワクチンが供給されました。
2023年10月現在、投与が推奨されているワクチンはXBB1に対する単価mRNAワクチンとなっています。
一般的にワクチンのメリット・デメリットは、社会の維持と各個人における立場から判断されますが、各個人においては、感染症により想定される重症化・死亡のリスクとワクチンの副反応・副作用の強度・頻度により判断されます。パンデミック初期においては明らかにワクチン接種によるメリットがデメリットを上回ったと考えられます。しかし2023年5月以降は前期の事情により、インフルエンザと同様に考慮すべきと考えられます。
AIRD患者においては、疾患および治療の性質から免疫抑制状態と考えるため、感染症には注意が必要であり、ワクチンにより予防が可能な感染所においては積極的に利用すべきと考えられます。一方、アジュバント効果を有するワクチンでは自然免疫を活性化することから原疾患の増悪を来す可能性も否定できず、mRNAワクチン接種後に原疾患の増悪を来した症例の報告も認められます。正確な頻度や対象群との比較は不明ですが、必ずしも頻繁に認められる事象ではないことから、ワクチン接種のデメリットとは考えにくいです。またリウマチ性疾患患者において重篤な副反応が多いことはないため一般的にはSARS-CoV2ワクチン接種は勧められます。ただし、個別の事情により接種しない事を否定することではありません。
最後にSARS―CoV2ウイルスの変異が比較的早く、2023年10月の時点においてもワクチン株との相違が認められる事は注意すべきです。
Q. COVID-19罹患後の自己免疫性リウマチ性疾患(AIRD)発症や増悪のリスク因子は何ですか?
COVID-19罹患後のAIRDの発症や増悪は、前者を中心に報告が多数ありますが、主に症例報告で、その結果もばらつきが大きいです。多数例での解析ではCOVID-19の重症化がAIRD発症のリスク因子とされています。また、性別や年齢の違いにより特定のAIRDの発症リスクが異なるとの報告もあります。COVID-19罹患後のAIRD増悪の多数例解析は比較的少数例で限られた疾患群を解析しています。リスク因子を解析した報告は認めませんでした。
解説:AIRDの発症や増悪にウイルス性感染症が関与する例は様々あり、COVID-19もその一つと考えられます。一方、AIRDの一般的な合併症である関節炎・関節症、皮疹(網状皮斑・凍瘡様皮疹など)、筋炎などの筋病変や間質性肺疾患はCOVID-19にも比較的高頻度に出現し、それゆえにCOVID-19罹患後のAIRD発症や増悪の診断は困難です。多数例での解析や発症・増悪のリスク因子を解析した報告は少なく、多くが症例報告です。
大規模(数10万人以上)な後方視的コホート試験としてCOVID-19罹患/非罹患群を観察し解析した報告(4-6)では、いずれもCOVID-19罹患後1−12ヶ月間でのAIRD発症率が37〜85%上昇していました。RA、SLE、強皮症(SSc)、炎症性筋炎、血管炎などAIRDの発症率が全般的に上昇したとの報告(1)や、血管炎、シェーグレン症候群(SS)、RAなど特定の疾患の発症率が有意に高かったとする報告があります(5)(6)。これらのうちリスク因子を解析した報告ではいずれもCOVID-19の重症例がより高い発症リスク比を示しました(5)(6)。また、SARS-CoV2ワクチンの接種によるCOVID-19罹患後のAIRD発症リスクへの影響は明らかでありませんでした(3)。女性や若年(40歳未満)ではStill病が、男性ではSSやSLE、40歳以上ではANCA関連血管炎が有意に多かったとして性別や年齢によって異なる疾患リスクがあるとの報告もありました(6)。
COVID-19後のAIRDの活動性の変化は、COVID-19の治療薬やCOVID-19罹患時のAIRD治療薬の中断など交絡因子が更に多彩で評価が難しいと考えられます。実際に多数例での解析は乏しく、RAまたは脊椎関節炎(SpA)症例でCOVID-19を罹患した計32例の検討で、COVID-19の罹患が活動性変化と無関係であったとの報告(7)がある一方、COVID-19に罹患した117例を含むRAまたはSpA患者362例を観察し、1ヶ月間の再燃率がCOVID-19罹患例で有意に高かった(8)との報告もあります。リスク因子の言及をした文献はこれらを含め乏しいのが現状です。
Q. COVID-19の重症化リスク因子は?
COVID-19診療の手引き(2023年8月版)では、以下の重症化リスク因子が示されています。これは米国CDCによる「Underlying Medical Conditions Associated with Higher Risk for Severe COVID-19: Information for Healthcare Professionals. Updated Feb. 9, 2023 」を参照したものとなっています(9)。ここでは重症化とは、「入院・集中治療室への入室・人工呼吸器の使用・死亡、のいずれかでもあること」と定義されています。
・高齢
・悪性腫瘍(血液腫瘍)
・代謝疾患(1型および2型糖尿病、肥満(BMI≧30))
・心血管疾患(脳血管疾患、心不全、虚血性心疾患、心筋症)
・呼吸器疾患(間質性肺疾患、肺塞栓症、肺高血圧、気管支喘息、気管支拡張症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、結核、嚢胞性線維症)
・肝疾患(肝硬変、非アルコール性脂肪肝、アルコール性肝障害、自己免疫性肝炎)
・腎疾患(慢性腎臓病(透析患者))
・精神神経疾患(気分障害、統合失調症、認知症)
・運動不足
・妊娠、産褥
・喫煙(現在および過去)
・遺伝性疾患(ダウン症候群)
・免疫不全(HIV感染症、臓器移植・幹細胞移植、ステロイド等の免疫抑制薬の投与、原発性免疫不全症候群)
年齢は最も強いリスク因子です。死亡リスクは18-29歳に比して、25倍(50-64歳)、60倍(65-74歳)、140倍(75-84歳)、340倍(85歳以上)と、50歳以上でリスク増加がみられ、特に65歳以上ではリスク増加は大きくなっています。高血圧症については、エビデンスが関連性の明確な方向性を示唆しておらず、確固たる結論を引き出すことができていません。これらの重症化リスク因子を有する場合、ワクチンの接種、発症早期における抗ウイルス薬の使用、マスクや行動制限による感染予防などが考慮されます。
本邦での重症化リスク因子の解析(第7波における新型コロナウイルス感染症 重症化リスク因⼦について(速報))では、以下が示されています(10)。
・中等症Ⅱ以上への重症化は、オッズ比63〜283(70歳以上、対30歳代)と高齢で高い。
・中等症Ⅱ以上への重症化の割合は、1.02%(70-74歳)、1.60%(75-79歳)、2.32%(80-84歳)、5.34%(85-89歳)、5.81%(90歳以上)であった。
・重症化のリスク因子は、⾼齢(70、80歳代以上)、ワクチン未接種、慢性呼吸器疾患(COPD、間質性肺炎、喘息)、⾮透析の慢性腎臓病、男性、やせ(BMI<18.5、⾼齢者のフレイル等)であった。
本解析は中等症Ⅱの症例数が少なく限定的な分析となっており、リスク因子が統計的に抽出しきれていない可能性があると言及されています。
日本リウマチ学会において、COVID-19を発症したリウマチ性疾患220例(関節リウマチ 46.8%、全身性エリテマトーデス 14.5%、脊椎関節炎 5.5%, シェーグレン症候群 5.5%, リウマチ性多発筋痛症 5.0%, ANCA関連血管炎 5.0%などを含む)の調査が施行されています。COVID-19による入院リスクは年齢(オッズ比1.03/+1 year = 1.34/+10 years)と高血圧の合併が、死亡リスクは年齢(オッズ比1.14/+1 year = 3.70/+10 years)が有意なリスク因子でした (11)。
参考文献