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【医師向け】自己免疫性リウマチ性疾患(AIRD)とCOVID-19:ワクチンと診療の考え方(2025年改訂版)
2025年11月4日改訂
【目次】
1:総論
2:AIRDにおけるCOVID-19ワクチンの位置づけ
3:免疫抑制療法と免疫原性・接種時期の最適化
4:AIRD患者が罹患した場合の診療(外来〜入院)
5:入院後の治療
6:重症化リスクの層別化と説明の要点
1:総論
COVID-19は五類相当に移行したが、AIRD患者では年齢、併存症、肺障害、グルココルチコイド投与などの背景から重症化リスクを引き続き考慮する1–4。ワクチン接種は一律推奨ではなく、患者ごとの重症化リスクとワクチンの利益・不利益を比較衡量し、主治医と協議して要否・時期を決定する立場を基本とする。この考え方はACRおよびEULARの枠組みと整合し1–4、免疫抑制療法下で免疫原性が低下し得ること、疾患活動性が高い時期の接種はなるべく避ける1–4。
2:AIRDにおけるCOVID-19ワクチンの位置づけ
AIRD患者では、感染・重症化抑制の観点から高齢、肺障害、心腎代謝疾患、グルココルチコイド高用量などの重症化因子を有する症例ほど、接種の臨床的意義が相対的に大きいと解釈されている1–5。当該シーズンに提供される株対応ワクチンの設計と患者の重症化リスク・既感染/接種歴・前回接種からの経過期間を総合評価し、追加接種の要否・時期を個別に判断するのが一般的である1–6。
安全性については、EULAR(欧州リウマチ学会)COVAXレジストリ等で接種後フレアは全体として低頻度、重度は稀と報告される7。一方でもともとの疾患活動性が高い患者では相対的にフレアが多い傾向があり、活動性が安定した時期の接種が選択されることが多い8。
安全性については、EULAR(欧州リウマチ学会)COVAXレジストリ等で接種後フレアは全体として低頻度、重度は稀と報告される7。一方でもともとの疾患活動性が高い患者では相対的にフレアが多い傾向があり、活動性が安定した時期の接種が選択されることが多い8。
3:免疫抑制療法と免疫原性・接種時期の最適化
AIRD患者では、抗CD20抗体(リツキシマブ)、ミコフェノール酸モフェチル、アバタセプト、グルココルチコイド高用量で抗体応答が低下しやすいことが一貫して示されている1–3,9–11。臨床では次の運用が採られることが多い。
- 抗CD20抗体:次回投与の2–4週間以上前に接種を配置し、B細胞の再出現を考慮して免疫原性確保をめざす1–3。
- メトトレキサート:疾患が安定している場合に限り、接種後1–2週間の短期休薬で免疫原性が上がる可能性が示唆されており、個別に検討する。ただし長期にわたる休薬や根拠の乏しい中断は避ける1–3,9–11。
- ミコフェノール酸モフェチル/アバタセプト/グルココルチコイド高用量:免疫応答低下があることを前提に、接種時期の調整を検討する1–3,9–11。
- ヒドロキシクロロキン/静注用免疫グロブリン:原則接種時期調整不要1–3
薬剤調整は画一的中断ではなく、病勢・既往フレア歴・暴露リスク・患者価値観を踏まえた個別判断で行う。
4:AIRD患者が罹患した場合の診療(外来〜入院)
外来初期対応では、酸素飽和度、呼吸数、体温、既往歴、服薬歴(免疫抑制薬・抗凝固薬・相互作用懸念薬剤)を同時並行で把握し、曝露歴と症状出現日を明確に記録する。検体採取(抗原定量または核酸増幅検査)とリスク層別を同一動線で実施し、年齢、併存症、間質性肺疾患の有無、グルココルチコイド投与量、B細胞枯渇療法やミコフェノール酸モフェチルなど強い免疫抑制の使用状況を総合して重症化リスクを評価する1–3,9–11,19。
抗ウイルス治療は、重症化リスクがある症例で発症早期に開始されることが多い。レムデシビルは外来3日間投与を含め早期投与で入院・死亡を減少させる報告があり12,13、ニルマトレルビル/リトナビル、エンシトレルビル、モルヌピラビルはいずれも発症から概ね5日以内の開始を原則とする。ニルマトレルビル/リトナビル使用時はCYP3A阻害による相互作用を事前に精査し、対応困難な場合は他剤へ切り替える。安全性要件(腎機能・肝機能・妊娠/授乳等)は添付文書および 厚労省『COVID-19診療の手引き 第10.1版(2024年4月)』に従う19。
入院適応は、酸素需要の出現・増加(安静時SpO₂の持続的低下、目安として93%程度以下)、呼吸困難/呼吸数増加、胸部画像の悪化、全身状態の急速な悪化、基礎疾患の急性増悪を基軸に、AIRD特有の高リスク(間質性肺疾患、グルココルチコイド高用量、B細胞枯渇療法・シクロホスファミド施行中等)を上乗せしてより早期に判断することが多い1–3,19,21。転院・搬送時には、直近24–48時間のバイタル推移、SpO₂の経時変化、血算・炎症反応・腎肝機能・Dダイマー、画像所見、薬歴(相互作用を含む)、ワクチン歴・既感染歴を添える。
5:入院後の治療
入院後の薬物治療は、酸素需要の有無・炎症所見・合併症・既存治療・施設体制を総合して個別に決定される。酸素投与を要する患者にグルココルチコイド(例:デキサメタゾン 6 mg/日、最長10日)を基本治療として選択されることが多く、メタ解析などで死亡リスク低下が示されている14,18。酸素不要例では原則用いないことが支持される14,18。
炎症が持続し低酸素が前景の局面、またはHFNC/NIV相当の進行例では、バリシチニブ または トシリズマブの追加が検討されることが多い。バリシチニブは標準治療(多くはグルココルチコイドを含む)への追加で死亡低下や回復促進が報告され15、トシリズマブも低酸素+炎症高値の入院例で有用性が示されている16,17。GCに併用される免疫調整薬は「いずれか一剤を選択」する運用が一般的で、禁忌や併発感染リスク、肝機能・好中球数など安全性所見を踏まえて振り分ける。これらは『診療の手引き 第10.1版(2024年4月)』の整理とも合致する19。
抗凝固療法はVTEリスクやDダイマー等を踏まえて適応を検討する。中和抗体薬はオミクロン系統に対する有効性低下が報告され、現在は一般に選択されにくい20。薬剤選択・用量・相互作用・禁忌は、各薬剤添付文書と手引き 第10.1版に従って最終判断する19。
6:重症化リスクの層別化と説明の要点
AIRD患者では、高齢、肺障害、心腎代謝疾患、グルココルチコイド高用量投与、および一部の強い免疫抑制療法が重症化と関連する。国内レジストリでは年齢や高血圧が入院・死亡に関連した因子として示されており、外来・病棟とも重症化リスクの早期同定が重要である21。患者説明では、重症化抑制としてのワクチンの位置づけ、免疫原性に影響する薬剤、接種後フレアが概して低頻度であること、罹患時の早期治療選択肢を簡潔に共有し、共有意思決定で治療・接種の方針を定める。
参考文献
- American College of Rheumatology. COVID-19 Vaccine Clinical Guidance Summary for Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases. Version 5; 2022.
- EULAR. View-points on SARS-CoV-2 vaccination in patients with RMDs. Updates 2021–2022.
- Furer V, Rondaan C, Heijstek MW, et al. 2019 update of EULAR recommendations for vaccination in adult patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases. Ann Rheum Dis. 2020;79(1):39–52.
- 一般社団法人日本小児感染症学会 免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024 ~がん患者、移植患者、原発性免疫不全症、小児期発症疾患に対する免疫抑制薬・生物学的製剤使用者、等~;2024-04
- 一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会・COVID-19 ワクチンタスクフォース、COVID-19ワクチンに関する提言 第11版;2025-09
- Centers for Disease Control and Prevention. Effectiveness of a third mRNA dose in preventing COVID-19 hospitalization among adults. MMWR. 2022;71(4):118–124.
- Machado PM, Lawson-Tovey S, Strangfeld A, et al. Safety of vaccination against SARS-CoV-2 in people with RMDs: EULAR COVAX registry. Ann Rheum Dis. 2022;81(5):695–709.
- Connolly CM, Ruddy JA, Boyarsky BJ, et al. Disease flare and reactogenicity after two-dose mRNA vaccination. Arthritis Rheumatol. 2022;74(1):28–32.
- Furer V, Eviatar T, Zisman D, et al. Immunogenicity and safety of BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in AIIRD. Ann Rheum Dis. 2021;80:1330–1338.
- Geisen UM, Berner DK, Tran F, et al. Vaccination responses in IMIDs under anticytokine therapy. Ann Rheum Dis.2021;80:1312–1316.
- Tzioufas AG, Bakasis AD, Goules AV, et al. Immunogenicity and safety in systemic autoimmune diseases. J Autoimmun. 2021;125:102743.
- Beigel JH, Tomashek KM, Dodd LE, et al. Remdesivir for the treatment of Covid-19. N Engl J Med.2020;383:1813–1826.
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- 厚生労働省. COVID-19診療の手引き 第10.1版;2024-04.
- Iketani S, et al. Efficacy of antibodies and antivirals against Omicron subvariants. N Engl J Med. 2022;387:468–470.
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