リウマチ Vol.43 No.3 index
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リウマチ Vol.43 No.3             
リウマチとのかかわりと,poly(ADP-ribose)の研究中の偶然による発見
 
杉 村   隆
 
Editorial
 母がリウマチになったのは60歳を一寸超えた頃だったと思う。私が結婚して,大塚仲町近辺に済んでいた頃である。冬だったと思うが,山形県鶴岡市に住む母より,発熱感冒だという便りが届いた。そのうちに,指や腕の関節等が痛いというので,東大の物療内科の,同級生であった村中正治先生に診ていただいた。いわゆるリウマチ関節炎だった。物療内科にも入院した。初めはACTHを注射して副腎を刺激するということであった。だんだんにコーチゾンとアスピリンの投与を受けるようになった。何を服用するかは,体調や生活パターン,天候などにより,自分でコントロールしていた。コーチゾンは塩野義,アスピリンはバイエルが良いとかいいながら,量も自分の思うように分割していた。大体コントロールされて,86歳で別の疾患で亡くなった。一人で買い物に出かけ,手紙もきれいな字で書いていたので,軽い例だったのだと思う。
 物療内科と再び御縁ができたのは,1966年に国立がんセンター研究所の生化学部でpoly(ADP-ribose)というNADを基質として出来るpolymerを発見した後のことである。当時,国立がんセンターで一緒に仕事をしていた金井芳之博士(後に東大医科学研究所助教授)が,ウサギにpoly(ADP-ribose)を注射して,ポリクローナル抗体を作った。
 また,自己免疫疾患の患者血清に抗核抗体があることが知られていたので,抗poly(ADP-ribose)があるかと思い,血清を御分与いただけないかと,村中先生にお尋ねした。まず一声「poly(ADP-ribose)などというものは聞いたことがない」。それは確かに正しい。「おっしゃる通りだと思うが,友人である小生の研究室で発見された新ポリマーであるから」と御説明して,理解をいただいた。それを調べ,抗poly(ADP-ribose)抗体があることがわかった。
 それを1974年に苫小牧で行われた第1回のpoly(ADP-ribose)の会で,金井君が報告した。それがpoly(ADP-ribose)が,天然に存在するものであり,試験管内人工産物ではないことを示した世界初の報告で,やがて詳しく1977年にNatureに発表された。これでリウマチに少し関係する仕事をしたことになる。物療内科の横張龍一先生にもお世話になった。
 そもそも,poly(ADP-ribose)の発見にいったのは,1965年頃のある日,通勤の地下鉄で,An. Rev. Biochem. を読んでいたら,ストラスブルグのP. ChambonとP. Mandelの「ニワトリの核にNMN依存性のpolyA polymeraseがある」という論文が引用されていた。低分子物質による高分子物質の合成調節と思い,ラットの肝と肝がんの核で比較したいと思った。藤村真示君(後千葉大学教授)が確かにNMNを入れると,↑14↑C-ATPのとりこみが1000倍以上になることを見つけた。 しかし藤村君はどうしても反応生成物がpolyAを分解するアルカリ条件で,分解されないことに気がついた。 紆余曲折を経て,NMN+↑14↑C-ATP→↑14↑C-NAD→↑14↑C-poly(ADPR)であることをつきとめられた。 Poly(ADPR)とその合成酵素poly(ADR-ribose)ポリメラーゼ(PARP)を見つけた頃の【昂】揚した気分は,忘れることができない。最近,poly(ADP-ribose)revisitedのように,面白くて仕方がないことが,また続いている。
 何でも新しく発見したことは幸運によっている。あまり沢山の研究費も使わず,シコシコと楽しんでいると,神様が少しずつ面白いことを分けて下さる。これが私らのグループの研究の心得で,あまりひどく緻密な研究計画や,系統的な研究より,日々のラボベンチで,何かに気がつくと面白いものであったというのが実感である。
 Poly(ADP-ribose)はRNAのようにアルカリで分解せず,DNase,RNaseでも分解しないが,ピロリン酸結合を分解するホスホジエステラーゼ,PDE(蛇毒,ラット肝)等で分解する。反応生成物はホスホリボシル-AMP(〓ADP-ribose)である。研究室で三輪正直君(現筑波大教授)がPDEで分解している時に,どうしても〓ADP-riboseでない本当のADP-riboseが出来ることを見つけて,poly(ADPR)のリボース・リボース結合を分解する酵素poly(ADP-ribose)glycohydrolase, PARGを見つけた。また分子量を決めるために,末端から出てくる5'-AMPと〓ADP-riboseの比率では説明できない大きな分子量のものがあり,さらにそのPDE分解産物にある小さな未同定のピークがあることに気づいた。(ホスホリボシル)↓2↓-AMPという糖鎖分岐構造物を認めた。すべて三輪君の執着心と観察眼によっている。
 Poly(ADP-ribose),PARPについては,世界中で様々な研究が進み,今やPARP familyも十数種に及んでいる。PARP,PARGのノックアウトマウスはDNA損傷に感受性が高い。国立がんセンター研究所の益谷美都子室長,中釜斉部長らのグループが,日々面白いことを見つけている。
 最近,モンシロチョウ(Pieris rapae)の幼虫と蛹が沢山余る事態が,研究室で生じた。暫時考えて,それが有用な研究材料にならないかと思い,そのうちに変態(metamorphosis)に必要な因子がないかと,当てずっぽうに考えたら,実際,体液を10↑6↑に希釈しても哺乳動物細胞にapoptosisを起こす100kDaの蛋白質が見つかった。ピエリシン(pierisin)と名付けた。このcDNAをクローン化してみると,このN末端にはADP-ribosyl化を作用機作とする細菌毒素(コレラ毒素,百日咳毒素)に近いアミノ酸配列がある。若林敬二副所長,小山恒太郎博士,渡辺雅彦博士を中心とするグループの仕事である。さらにADP-ribosyl化されるのは,蛋白質よりもDNAのグアニンの2位のアミノ基にADP-ribosyl化を起こすものであることがわかった。哺乳動物細胞はDNA上のADP-ribosyl化残基が多いとアポトーシスを起こし,少ないと突然変異を起こす。静脈内注射だと,1匹のアオムシ分のピエリシンで約1000匹のマウスが死ぬ。これを単純に計算すると,アオムシ3匹分のピエリシンで一人のヒトが死ぬことになる。
 自然は未知のものに満ちている。あまり世の毀誉褒貶にとらわれないで,研究を楽しむのもよい。

著者紹介
 1949年 東京大学医学部医学科卒業
 1950年 同大放射線医学教室 助手(文部教官)
 1954年 財団法人癌研究会癌研究所 助手所員(化学部)
 1957年 米国国立癌研究所生化学部留学 Visiting Scientist
 1959年 米国ウエスタンリザーブ大学生化学教室留学 Research Associate
 1960年 財団法人癌研究会癌研究所 所員(化学部)
 1962年 国立がんセンター研究所 研究員(生化学部)
 1964年 同 生化学部長
 1970〜1985年 東京大学医科学研究所教授併任(癌生物学研究部長)
 1972年 国立がんセンター研究所 副所長
 1974年 同 所長
 1984年 国立がんセンター 総長
 1992年 同 名誉総長(現職)
 1992〜1994年 厚生省 顧問
 1993年 日本対がん協会 会長(現職)
 1994〜2000年 東邦大学 学長
 2000年 同 名誉学長(現職)

〈各国学士院会員・名誉会員等〉
 1980年 米国癌学会名誉会員
 1982年 米国国立科学アカデミー外人会員
 1982年 日本学士院会員
2001年9月より第二部部長
 1986年 日本薬学会名誉会員
 1987年 オランダ学士院外人会員(オランダ王立芸術科学アカデミー外人会員,科学部門)
 1987年 日本環境変異原学会名誉会員
 1987年 スウエーデン学士院外人会員(スウエーデン王立科学アカデミー外人会員,医科学部門)
 1988年 米国生化学分子生物学会名誉会員
 1990年 日本生化学会名誉会員
 1992年 韓国癌学会名誉会員
 1994年 Honorary Degree of Doctor of Science, Thomas Jefferson University(USA)
 1994年 日本癌学会名誉会員
 1994年 米国国立医学アカデミー外人会員
 2000年 Honorary Degree, Leiden University(the Netherlands)
 2000年 日本結合組織学会名誉会員
 2002年 Honorary Doctor of Medicine and Foreign Adjunct Professor, Karolinska Institute(Sweden)

〈賞〉
 1969年 高松宮妃癌研究基金学術賞受賞
「胃癌に関する実験的研究」
 1974年 武田医学賞受賞
「化学発癌とくに実験胃癌に関する研究と癌の生化学的特性に関する研究」
 1975年 藤原賞受賞
「Poly(ADP-ribose)の発見 その合成分解酵素,生物学的意義に関する研究」
 1976年 日本学士院賞,恩賜賞受賞
「胃癌発生に関する実験的研究」
 1977年 Fogarty Scholar in Residence, 米国National Institute of Health
 1978年 米国環境変異原学会賞受賞
「変異原物質と発癌物質の関連及び環境変異原物質の構造決定」
 1978年 文化勲章受章
 1981年 米国バートナー癌研究学術賞受賞
「通常食品に関連した発癌イニシエーターとプロモーター」
 1981年 米国ジェネラルモータース癌研究基金モット賞受賞
「日常食品中の変異原物質,癌原物質及び発癌促進物質」
 1992年 吉田賞受賞
 1994年 日本環境変異原学会学術賞受賞
 1996年 フランス共和国国家功労賞オフイシエ叙勲
 1997年 日本国際賞受賞
 1998年 勲一等瑞宝章

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