教育講演-10
1.はじめに
関節リウマチをはじめとする膠原病(結合組織病)には,いろいろな類縁疾患があり,眼科領域に関連のある疾患を合併していることが多い。その上,疾患そのものの治療に用いるステロイド薬(ST薬)や免疫抑制薬が大量に,しかも長期間使われることによる副作用の中にも眼疾患がいくつかある。
2.原疾患に基づく眼疾患
1) 関節リウマチ(RA)
主として眼病変は結膜,角膜,強膜,涙腺などに生じ,それらは全身病変に並行することが多く,特に強膜炎の発生は本症の全身症状の悪化を示唆する。
@乾性角結膜炎:涙液の分泌低下のために生じる病態で,患者の15〜25%にみられ,眼の乾燥感,異物感,眼痛を訴える。乾性角結膜炎のある患者では,ない患者に比してリウマチ因子とIgMが有意に高いとされている。
治療では,まず全身状態の悪化や検査値の変化に対応する全身療法を施し,眼局所には人工涙液や0.1%ヒアレイン○R点眼液を用いて涙液分泌の低下を補う。
A上強膜炎および強膜炎:軽度の眼痛と球結膜下の強膜が充血するこれらの疾患は,RA患者の4〜10%にみられる。
強膜炎の治療としては,対症療法としてST薬の点眼を行い,症状が改善しない例ではST薬や免疫抑制薬の全身投与を行う。
B角膜病変:角膜輪部からの浸潤(硬化性角膜症)や周辺部角膜潰瘍があり,強膜炎を伴うときもある。硬化性角膜症では眼痛も充血も強く,角膜浸潤は周辺部から中央部に拡大し広範な混濁を来す。一方,角膜潰瘍は蚕【蝕】性角膜潰瘍に類似して,角膜と強膜の境(輪部)に生じて下部輪部から次第に拡大し,著名な充血と前房内炎症症状を伴い末期にはデスメ膜瘤となり,穿孔することがある。
治療としては,角膜保護薬,ST薬,抗コラグナーゼ薬,抗菌薬などの点眼を行う。重症例には球結膜切除術,羊膜や角膜移植を行う。
C眼底病変:網膜動脈閉塞症,静脈閉塞症を起こし,網膜出血をみる。視神経炎や視神経症を起こすこともある。
2) 若年性関節リウマチ(JRA)
眼科領域で特に注意すべき疾患は,少関節型の女児に多くみられる難治な虹彩毛様体炎である。眼炎症と関節症状との間には関連がなく,虹彩毛様体炎の発症頻度は少関節型の20%にみられ,他の病型の5%以下に比して多い。両眼性(75%)で,充血,眼痛,流涙,羞明を訴えて発症するが,多くは慢性で充血も眼痛もなく無症状に経過し,学校の視力検査などで視力低下を指摘されるまで気付かないことがある。この再発性で慢性の経過をたどる虹彩毛様体炎は,次第に虹彩前癒着,後癒着を生じ続発緑内障や併発白内障を合併して視力障害の原因となる。また,長期間経過すると,帯状角膜変性症が生じ視力障害はさらに増す。
治療では,散瞳薬とST薬の点眼で虹彩毛様体炎を管理する。帯状角膜変性には,EDTA液を角膜に塗布して混濁部を除去する。最近ではエキシマレーザーを用いた治療的角膜切除術を行うこともある。
3) 全身性エリトマトーデス(SLE)
約30%の患者に眼症状がみられる。眼瞼の発赤,結膜炎,乾性角結膜炎,強膜炎,虹彩炎がみられ,外眼筋の障害による複視も生じる。眼底では網膜循環障害に伴う網膜症を生じ,軟性白斑,出血,網膜血管閉塞病変がみられる。網膜症を伴う患者では生命予後が悪い。約1%の患者に視神経障害がみられる。
治療では,視機能障害を生じやすい広範な網膜血管閉塞域がある時には,汎網膜光凝固を行って増殖網膜症や血管新生緑内障の発生を予防する。
4) 強皮症(進行性全身性硬化症)
眼瞼皮膚の硬化から眼瞼の運動制限,瞼裂狭小などがみられ,乾性角結膜炎を伴うことがある。
5) 多発動脈炎(PA)
種々の眼疾患が報告されている。角膜辺縁潰瘍,強膜炎,虹彩炎,網膜中心動脈の閉塞や網膜血管炎による網膜症(約10%),虚血性視神経症,脈絡膜虚血,外眼筋麻痺,一過性視野狭窄,瞳孔異常などがみられる。
6) 多発筋炎(皮膚筋炎),PM/DM
2%の患者に外眼筋炎による複視が認められる。
7) Wegener肉芽腫症
最も一般的な眼科的所見は眼窩内の肉芽腫形成による眼球突出,眼球運動障害,結膜浮腫,有痛性眼筋麻痺,網膜静脈のうっ血と蛇行,視神経障害である。また角膜潰瘍は難治で時には穿孔を来すことがある。
治療ではST薬および免疫抑制薬の全身投与を行うとともに,眼局所にはST薬の点眼を用いる。
8) 抗リン脂質抗体症候群
眼合併症はその60%にみられるとされ,なかでも眼底病変が多い。特に網膜血管炎をはじめ網膜中心動静脈閉塞や網膜中心動脈の閉塞と関連する虚血性視神経症の報告がある。
9) Sjo¨gren症候群
眼症状としては,両側性で慢性の経過を取る【灼】熱感,異物感などの眼乾燥症状があり,点状の角結膜上皮障害を認める。厚生労働省の診断基準では,ローズベンガル試験(++)以上でかつShirmerテスト10mm以下,または蛍光色素試験(+)とされている。治療では軽症例には防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア○R点眼液,ヒアレインミニ○R0.1%または0.3%点眼液)の頻回点眼,中等例および重症例には人工涙液の点眼に加えドライアイ保護用眼鏡の使用,涙点フラグの挿入を行う。
10) 混合性結合組織病(MCTD)
眼症状として,眼瞼皮膚の硬化,乾性角結膜炎,強膜炎,虹彩毛様体炎のほかに,眼底の軟性白斑,網膜出血など網膜動脈閉塞症状や多発後極部網膜色素上皮症を認める。
11) リウマチ性多発筋痛症(PMR)
側頭動脈炎による網膜中心動脈の障害がみられ,視力予後は不良である。
12) 乾癬性関節炎
結膜炎(20%),急性前部ぶどう膜炎,ドライアイなどの眼症状が報告されている。
13) Felty症候群
RAと同様に周辺部角膜潰瘍,乾性角結膜炎,強膜炎などがある。
14) Beh〓et病
眼症状の出現率は60〜70%で最も低い。眼症状では虹彩毛様体炎型と網膜ぶどう膜炎型とがあり,後者は予後不良である。通常発生時は片眼性のことが多く,しばらくして90%以上が両眼性となる。治療としては,虹彩毛様体炎に対して散瞳薬による瞳孔管理と消炎を目的としてST薬の点眼やテノン【嚢】内注射を行う。網膜ぶどう膜炎には,コルヒチン,シクロスポリン,シクロホスファミドを重症度や反応性を基にして併用し,全身投与する。なお,ST薬単独の長期にわたる全身投与は網膜ぶどう膜炎の長期予後を不良にするので用いてはならない。
3.膠原病の治療に用いられる薬剤と眼疾患
1) ST薬
本剤はしばしば白内障,眼圧亢進,緑内障,眼球突出を引き起こす。
@白内障:ST薬の総投与量や投与期間と密接な関係がある。通常両側性で視力低下,霧視(かすみ),羞明などを訴える。視力低下により日常生活に支障を来したら,白内障手術を行う。
A緑内障,眼圧亢進:点眼に比して頻度は少ないが全身投与によっても本症が生じることがある。
2) 非ステロイド薬(NSAID)
時に結膜炎,霧視,まれにStevens-Johnson症候群,視神経炎が起きることがある。
3) 抗リウマチ薬
@ペニシラミン:まれに視神経炎,白内障を生じる。
A金チオリンゴ酸ナトリウム:まれに結膜炎,角膜潰瘍,角膜金沈着症,網膜出血がみられ,Stevens-Johnson症候群も起きることが稀にある。
4) 点眼薬に含まれる防腐剤による眼疾患
点眼薬には通常塩化ベンザルコニウムやクロロブタノールなどの防腐剤が含まれていてこれらによる角結膜上皮障害を生じる可能性があり,特に涙液減少症の患者では起きやすい。
4.治療に伴う合併症から起きる眼疾患
免疫抑制薬の使用により続発免疫不全が生じ,これが背景となり角膜および網膜に日和見感染が起きることが知られている。SLEの治療中に出現したサイトメガロウイルス網膜炎の報告が時にある。
5.おわりに
リウマチ類似疾患には多くの眼合併症をはじめ,治療薬の副作用による眼科疾患も多くみられる。なかには重篤な視力障害を来す疾患があるので,日常診療においてはこれらに注意することが大切である。 |