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リウマチ Vol.43 No.2             
骨髄幹細胞による再生医療  P.182 - 183
 
中内啓光
東京大学医科学研究所 ヒト疾患モデル研究センター 幹細胞治療研究分野
 
教育講演
教育講演-6


はじめに


 近年の発生生物学,発生工学の進歩は著しく,ES細胞の樹立と遺伝子相同組み換えを利用したノックアウトマウスの作成,体細胞の核移植によるクローン動物の作成,種々の組織からの幹細胞の分離など,以前には考えられなかったような技術が確立された。このような状況下,21世紀の新しい治療法として幹細胞を利用した再生医療が注目を浴びている。本講演では骨髄幹細胞に焦点をあて,幹細胞研究の現状と臨床応用の可能性について概説する。


幹細胞の定義

 幹細胞は教科書的に,いろいろな細胞に分化できる能力「多分化能」と多能性を維持したまま増殖できる「自己複製能」を兼ね備えた細胞と定義されている。このような能力を持つ幹細胞は発生の過程はもちろんのこと,成体においてもいろいろな組織・臓器に存在してその修復・維持に役立っていると考えられる。再生医療という観点から最も注目されているのはES細胞である。ES細胞は個体を形成する全ての細胞に分化する能力を持っているだけでなく,試験管内で培養・維持・増殖することも可能であることから,組織・臓器再生の材料として期待されている。ところが,ES細胞は卵子が受精してから数日経過した後の胚からしか得られないため,患者本人由来の細胞を供給することはできない。したがって現状では例えES細胞から種々の細胞・組織などを得ることができたとしても結局は他人からの(アロ)移植と同じこととなるため,ドナー不足は解消できるかもしれないが免疫拒絶や感染といった問題を解決することは難しい。

 一方で,成体中には組織幹細胞,あるいは体性幹細胞と呼ばれる幹細胞が存在することが示されており,これらの幹細胞を利用することにより再生医療の本来の目的である自己の細胞による組織・臓器の再生が実現する可能性が注目されている。


骨髄中に存在する幹細胞


 組織幹細胞の中で最もよく研究されていて,しかも臨床応用までされている代表的な幹細胞として造血幹細胞がある。造血幹細胞は骨髄中に存在して一生にわたり全ての血液細胞を供給する。また,骨形成に関与する破骨細胞も造血幹細胞由来である。さらに近年,骨髄細胞から骨,軟骨,脂肪細胞,筋細胞などに分化可能な間葉系幹細胞が誘導可能であることが示され,血液細胞以外の組織・臓器の発生・修復・維持にも骨髄由来の幹細胞が関与している可能性が示唆され,臨床応用が期待されている。

 さらに注目されている骨髄幹細胞として昨年Verfaillieらは骨髄中からES細胞とほぼ同レベルの多分化能を持つ幹細胞を分離したと報告し,Multipotent Adult Progenitor Cell(MAPC)と名付けた。これはやはり骨髄細胞から誘導される培養細胞であるが,間葉系幹細胞よりもはるかに低密度で培養することが要求され,細胞自体も非常に小さいと報告されている。MAPCはこれまで報告されたどの組織幹細胞よりも多能性に富んでいて,神経細胞,肝細胞,血液細胞にそれぞれ代表される外胚葉,内胚葉,中胚葉系のすべての胚葉由来の細胞に分化することが可能である。したがって,MAPC細胞を患者の骨髄から誘導することができればES細胞を用いる必要はなくなるかもしれない。現在世界中で追試されているところであるが,こういった細胞が骨髄細胞から分離培養可能であれば倫理的な問題もなくなり再生医療の将来は明るい。


幹細胞の可塑性


 骨髄幹細胞に関してもう一つ注目されていることとしては幹細胞の可塑性(plasticity)があげられる。ここでいう可塑性とは,組織幹細胞が特定の臓器・組織に限局した本来の分化能を超えることを意味している。たとえば神経幹細胞は神経系を構成する細胞に限局した分化能を持っていると考えられているが,1999年にカナダの研究グループは培養神経幹細胞が血液細胞に分化しうることを示唆するデータをScience誌に報告した。その後,類似の報告があいついで一流誌に発表されるに至り,あたかも組織幹細胞がES細胞のように広範な分化能を持っているかのように考えられるようになっている。特に造血幹細胞は神経,肝臓,筋肉,血管内皮,気管上皮,腸管上皮,皮膚など,胚葉を超えて種々の細胞に分化可能であるという論文が多数報告されている。しかしながら,これまでに発表された論文で,1) クローナルな解析であること,2) 血液細胞のマーカーがないこと,3) 分化した組織に特異的なマーカーの発現および形態的な特徴を示すこと,4) 分化した細胞が持つ機能発現の確認,といった造血幹細胞の可塑性を証明するのに必要な基準のすべてを満足している報告は皆無である。我々もGFPトランスジェニックマウス由来の骨髄細胞,造血幹細胞を移植したマウスを多数作成して各組織・臓器を観察したが,多くの論文に発表されている可塑性を再現する所見を得ることはできていない。局所に存在するドナー由来のマクロファージ系の細胞を見誤っている可能性,あるいはドナー骨髄由来細胞とホスト細胞の細胞融合が起こっている可能性が否定できない。一般的にネガティブデータを報告することは難しいが,細胞融合が起こっているという実験結果がNatureに報告されたこと,1個の造血幹細胞の移植によって可塑性がほとんどみられなかったという結果がScienceに報告されたことなどは,問題の重大性を物語っている。組織幹細胞の可塑性を期待する前に,実験系や実験データを厳密に再検討することが絶対的に必要である。


骨髄幹細胞と再生医療の可能性


 骨髄が全身の各組織に幹細胞を供給し,各組織を構成する体細胞の供給・維持を行うという発想は大変魅力的であるが,現時点で造血幹細胞が血液系以外の体細胞の供給源になりえるという説を支持する充分な実験的証拠があるとは思えない。また,間葉系幹細胞から軟骨をはじめとする各種体細胞が分化することは示されているものの,間葉系幹細胞がそのままの形で骨髄中に存在するという証拠はなく,むしろ骨髄中のストローマ細胞をin vitroで培養している過程で細胞に変化(再プログラム化)が起こり,多分化能を持つようになると考えた方がよいように思える。これはMAPCにおいても同様で,骨髄中にMAPCがそのままの形で存在しないことは全骨髄細胞を相当数移植しても全身の体細胞に分化できるような細胞が存在しないことからも明らかである。

 当面は間葉系幹細胞やMAPCを効率よく誘導・利用することが盛んに試みられると予想されるが,再生医療の本質である自己の細胞による組織・臓器の再生を本格的に実現するには間葉系幹細胞やMAPC細胞で観察される体細胞の再プログラム化の機構を理解し,その制御を可能にすることが最も重要と思われる。
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