教育講演-5
関節リウマチ(RA)を含めた自己免疫疾患の発症には,家族集積性などから遺伝的な背景があることはよく知られている。しかし,従来から研究されているように主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスU遺伝子との相関があることは確実であるが,それ以外はよく分かっていない。遺伝子の解析が進まない理由として,1)
自己免疫疾患では候補遺伝子が明確でなく,検索すべき遺伝子が特定できない,2) メンデルの遺伝形式(優性か劣性か)が分からない,3)
一卵性双生児の罹患一致率に比べ,同胞罹患一致率が極端に低下するので,多因子遺伝であることが想像される,4) 病態は多くの遺伝子座の多様性が複雑に影響しあって決定されていると考えられ,エピスタシスな遺伝子の相互作用(epistatic
interaction)があると考えられる,5) それぞれの遺伝子の浸透率が低く,検出感度が落ちる,6) 環境の影響,確率的影響が大きい,7)
RAなどの比較的高齢発症では,診断確定時に両親の遺伝子型が決定できない,などの問題点がある。
ヒトのMHCであるHLAに関しては多くの研究が行われてきており,RAと相関を示すのはHLA-DR4であることが判明している。さらに詳しく調べると,HLA-DRB1の対立遺伝子の0101,0401,0404,0405などが相関を示し,それらはβ鎖の第70〜74残基に共通のアミノ酸配列(shared
epitope)を持つものである。ただしこれらの対立遺伝子は初発のRA患者と相関するのではなく,慢性化または重症化した患者との相関が強く,とくにこれらの対立遺伝子をホモに持つと重症化しやすいといわれている。相関のメカニズムとしては1)
このHLA分子が特定の自己抗原ペプチドを抗原提示しやすい,2) 胸腺でのT細胞レパトアへの影響,3) EBウイルスや大腸菌の熱ショック蛋白との交叉反応,4)
細胞内の分子シャペロンへの結合の違いで抗原提示が異なる,5) この遺伝子と連鎖不平衡にある別の遺伝子の関与,などが考えられているが詳細は不明である。
一方,HLA以外のRA関連遺伝子の検索は現在さかんに行われているが,それほど容易ではない。研究方法の一つは,RAの病態に関連する可能性のある候補遺伝子を対象にして,その遺伝子について,健常人と患者で比較するという方法である。これに対して特定の候補遺伝子を決めずにゲノム全体をスクリーニングする方法として,マイクロサテライトを用いた罹患同胞対検索法とSNPをマーカーとしたケース・コントロール相関解析が現在主に行われている。
マイクロサテライトを用いた罹患同胞対検索法(affected sib-pair method)はノンパラメトリック連鎖解析であり,メンデルの遺伝形式(優性,劣性,浸透率,遺伝子頻度など)の推定はいらない解析方法である。マイクロサテライトマーカーとは塩基配列が数塩基の単位で繰り返す部分であり,全染色体にわたって一定の幅で標識遺伝子の追跡が可能である。たとえばCAリピートはCAの2塩基の繰り返しで,約300〜500kb毎に分布している。これらをマーカーとして,RAに罹患した同胞のペアを集めてそのゲノムを調べる方法である。罹患同胞対で特定のマーカーが疾患遺伝子の近傍にあれば,同胞間でそのアレルを共有する確率に偏りが生じて連鎖が見出され,2つのマーカー間でも同様の計算ができることから,疾患遺伝子の場所を推定できるというのがその原理である。現在のところ,300〜400のマイクロサテライトマーカーを全染色体にわたって約10cMの幅になるように設定するなどの方法で検討していることが多い。この方法は家系内の複数人のサンプル収集など多大な努力が必要であり,検出できる陽性領域が広いので,相関するという一定の結論が得られても,遺伝子を特定するにはさらなる絞り込みが必要であるなどの欠点を持つ。
SNP(single nucleotide polymorphism)とは1塩基多型ともいわれるものである。一般に多型とは遺伝学的にはある塩基の変化が人口中の1%以上の頻度で存在しているものを指している。このようなSNPは数百塩基対から1000塩基対に1カ所程度の割合で存在していると推測されているので,ゲノム中には300万〜1000万のSNPがあることになる。SNPの大多数は2アレルからなる多型であり,他の多型マーカーと比較して多型情報量は大きくないが,アッセイ法が簡単で大量のサンプルを高速に処理するのに適している。そこで,SNPをマーカーとしたゲノムワイド・ケース・コントロール相関解析が行われている。この方法はcommon
disease common variant hypothesisに基づいて行われている。すなわち,ありふれた疾患で,それが遺伝と関係している場合は,その原因突然変異は家系が異なっていようと共通のものが多いであろうという予測に基づいている。この方法によって見出されるRAとの関連領域はSNPと連鎖不平衡の領域であり,対象とする集団,たとえば日本人全体で非独立性が認められる場合である。これで陽性となった場合,狭い範囲(たとえば数十kb)に標的の遺伝子を絞り込める可能性もあり,特定の原因遺伝子に到達できる可能性が高い。 |