教育講演-4
近年,コンピュータを使用した種々の手術支援システムが開発され,手術計画,手術ナビゲーション,手術支援ロボットなどのかたちで臨床的にも使用されるようになってきた。手術支援システムの目的とするところは,より安全な,より正確,精密な,低侵襲性の手術である。単純レ線,CTなどからの様々な画像情報に基づいてコンピュータ処理し,シミュレーションを交えた詳細な手術計画を立て,それをロボットが得意とする正確な再現性で実現することがコンピュータ支援手術システムである。経験を積んだ外科医が行うような非常にレベルの高い治療を,より多くの人が受療できるようになるであろう。本講演では手術支援ロボットシステムによる人工股関節形成術(THA)と人工膝関節形成術(TKA)を中心に,ロボット手術の現況と問題点について述べる。
ロボットシステムの概要
ロボットシステムの一つの分類法としてpassive,semiactive,activeという分け方がある。
1) passive system
ロボット自体は直接手術操作に関与せず,術者に様々な情報を術前,術中に提供するもので,術前に使用する手術計画ソフトや手術シミュレーションソフト,術中に使用するナビゲーションシステムなどがある。
2) semiactive system
術者の手の動きをロボットや器械が誘導,あるいは制限するもので,整形外科領域でいえば,個々の患者の骨の形に合わせてあらかじめ立体的なテンプレートを作成し,骨接合材料の挿入などに利用する方法(individual
template)などがこれに相当する。
3) acitive system
術者の監視のもと,ロボットが手術の一部,あるいは全部を行うシステムである。後述する人工関節用ロボットROBODOCシステムなどはこれにあたる。
システムがpasseiveからactiveへと進むほど正確性は増す反面,安全性への対策はより複雑なものとなる。
4) その他この分類法には該当しないが,今日消化器外科,心臓外科,泌尿器科,産婦人科などで広く行われている内視鏡手術に,内視鏡手術ロボットが導入されてきている。代表的なものはdaVinciとZeusで,いずれもいわゆるmaster-slave
manipulatorに分類されるものであり,操縦者が器械の指令側部分(マスタ部)を操作することにより被指令側部分(スレーブ部)を随意に操縦して目的の作業を行うシステムであり,術者は操作用のコンソールの画面をみながらマスタ部を操作し,スレーブ部に装着された内視鏡手術用鉗子を自在に遠隔操作するものである。術者の動作に対するロボットの動きの縮小割合を自由に設定可能であり,しかも術者の手指の震えなどは術野に伝達されないため微細な手術操作がより容易にかつ安全に行える利点がある。
ROBODOCシステム
手術の一部を自動で行うactive systemで世界で最初に臨床応用が行われた手術支援ロボットが人工股関節形成術用のROBODOCである。1980年代に入り骨セメントを用いない人工股関節形成術が普及するに伴い,大【腿】骨側に挿入するインプラント(ステム)の初期固定不良による大【腿】部痛や早期ステムのゆるみが問題となった。ステムデザインがCADCAM技術で洗練されているにもかかわらず,そのインプラントを設置する大【腿】骨母床の作成がドリル,ラスプ,ハンマーなどの前時代的な器具で行われていることに起因するこれらの問題を克服しようというのが開発の背景であった。1986年からプログラムが開発され,1994年に米国FDAによる一般使用承認のための多施設症例対照研究が行われ,ドイツでは市販使用が始まった。2000年には日本でも臨床治験が開始され,現在までに世界中で8,000人以上の患者がROBODOCを用いた人工股関節形成術を受けている。
このシステムは先ず術前に患者大【腿】骨のCTデータをもとに3次元的なモデルを作成し,人工股関節のCADデータを使って術者がその患者に最適な機種,サイズ,大【腿】骨におけるステム設置位置などをコンピュータ上でシミュレーションし手術計画を立てる。次にこの手術計画のデータをロボットシステムに転送し,大【腿】骨の位置認識の後,ロボットによる大【腿】骨掘削に移る。このロボットはSCARA型と呼ばれる水平多軸関節アームロボットで,アームの先端に力フィードバックセンサーを介してプロペラ型回転カッターを保持し,手術計画データに従って大【腿】骨を掘削する。
ROBODOCシステムは,セメントを使用した人工股関節の再置換術におけるセメント除去の際にも大きなメリットがある。従来,ステムを除去した後に大【腿】骨骨髄腔内に残存する骨セメントを除去する操作には多大な時間と技術を要し,骨折などの合併症も多かったが,このシステムを用いれば,残存する骨セメントを比較的短時間で,安全に除去することができる。また最近では人工膝関節形成術にもROBODOCを応用し,正確なアライメントと良好な可動域が得られている。
ROBODOCシステムの利点と欠点
大【腿】骨ステムの平面テンプレートをX線写真に重ねて2次元的にサイズや設置位置を決める従来の術前計画に比して,計画自体の信頼性が高いこと,立てた計画が手術においてそのまま正確に再現されることにつきる。術前計画を緻密に立てれば,熟練者と同様にインプラントを正確に設置でき,かつインプラントと骨母床との間隙をより少なくでき,早期のみならず長期にわたるインプラントの良好な固定性が期待できること,さらに稀に重篤な合併症を引き起こす骨髄脂肪塞栓が少ないことなどが利点である。一方,30分ほど手術時間が長いことと高いコストが欠点である。
今後の課題
一つの大きな課題はナビゲーションシステムで,低侵襲で,正確な位置情報をいかに取得できるかということと,3次元誘導画像を術野で把握できることが問題である。この問題が解決されれば,人工股関節形成術におけるソケットの設置もより低侵襲,より正確に設置でき,脊椎手術もより正確,より安全に行われるであろう。
さらに縫合,結紮などの個々の手術手技の自動化である。現在,内視鏡手術において微小ステープラーや組織結合器を利用した血管縫合の試みが進行中であり,実用化されればさらなる安全性の向上,手術時間の大幅な短縮が得られるであろう。
ロボット手術は今後数〜十年のうちにさらに進歩し,普及していくと思われる。そのさらなる発展のためには医学,工学のみならず,さまざまな分野からの集学的研究が必要不可欠であると考える。 |