T.酸化ストレスとリウマチ性疾患の関わり
ヒトなど有酸素呼吸を行う生物は,酸素の還元反応に伴って生ずる活性酸素に常に暴露されている。この活性酸素は正常の有酸素呼吸時以外に,感染症に伴う好中球やマクロファージの活性化や虚血再潅流,あるいは外界からの紫外線やX線などによっても発生する。活性酸素は,生体構成要素である蛋白アミノ酸残基の酸化,脂質の過酸化,DNAの酸化修飾,アポトーシスなどを引き起こし,生体にさまざまな機能障害をもたらすことから酸化ストレスと称される↑1)↑。
多くのヒト自己免疫疾患は多因子疾患であり,その発症には遺伝素因と環境因子が複雑に関わっている↑2)↑。微生物感染,紫外線,寒冷などは臨床的に自己免疫疾患の増悪因子として知られているが,これらは酸化ストレスとしても作用しうる。感染や炎症に伴う単球や好中球の活性化は大量の活性酸素を放出し,免疫系のホメオスタシスをかく乱する。紫外線やTNFα,あるいはウイルス感染によるアポトーシスでは,活性酸素は細胞死の効果機構として働いている。ケラチノサイトに紫外線を照射すると抗核抗体の対応自己抗原の一つであるSS-A/Roが細胞表面へ発現誘導されることが知られているが,われわれはこの現象が酸化ストレスによりもたらされることを明らかにし,酸化ストレスが自己抗原の構造や細胞内分布を変化させることにより自己免疫応答を惹起しうる可能性を示唆した↑3)↑。酸化ストレスは,熱ショック蛋白などさまざまな分子の発現や,ある種の蛋白のチロシンリン酸化やNF-κBやAP-1などの転写因子の活性化を誘導することから,免疫担当細胞の活性化や増殖あるいは細胞死など,細胞レベルでも作用する。
これらの酸化ストレス対し,生体はさまざまな抗酸化ストレス機構antioxidantsを備え,組織障害を防いでいる。Antioxidantsとしてはvitamin
Cやvitamin Eあるいはglutathioneやthioredoxinなどの抗酸化物質や,SOD,catalase,GST,peroxidaseなどの活性酸素消去酵素系が存在する↑1)↑。以上のようなことから,図1に示すように,過剰な酸化ストレスあるいは抗酸化機構の障害は,炎症の増強やアポトーシス誘導による組織障害,あるいはトレランスの破綻による自己免疫応答の惹起などにより,自己免疫の発症や病態形成に深く関与していると推察される↑4)↑。 U.リウマチ性疾患における酸化ストレスの存在
病因病態における酸化ストレスの関与を研究する上で,個体レベルで酸化ストレスを定量的に測定しその異常を証明することは大変重要である。酸化ストレスを定量的に評価する方法は,@活性酸素によるプロダクト(修飾化合物)を測定する方法と,A活性酸素消去系酵素や抗酸化物質の量を測定する方法に大別される。
前者としては,血液中の4-hydroxy-2-nonenalやmalondialdehydeなどの低分子アルデヒド化合物の測定や,修飾核酸塩基の一つである8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)の尿中排泄量の測定などが行われている↑5)↑。
後者の抗酸化機構に関与する物質の測定も種々試みられている。その中でわれわれはチオレドキシン(thioredoxin;TRX)に注目した↑6)↑。TRXは1988年淀井らにより,IL-2レセプターα鎖(Tac抗原)誘導因子として単離され,当初ATL-derived
factor(ADF)と名付けられ,その後,大腸菌還元酵素チオレドキシンのヒトホモローグであることが判明した↑7)↑。
ヒトTRXは分子量13kDで,分子内に-Cys-Gly-Pro-Cys-というアミノ酸配列を有し,ジスルファイド還元酵素として働く。TRXはプロモーター領域にストレス応答領域を有し,さまざまなストレスに対して細胞内で産生誘導されるが,細胞外へも分泌されantioxidantとして働く。また細胞内でsignal
transductionやnuclear factorの細胞質から核への移行の調節を行っている証拠が蓄積され,totalとしての「redox
regulation」と「その異常による病態」という概念が形成されつつある。このようにTRXは酸化ストレスで誘導され,さまざまの生理作用や病理作用を有し,活性酸素の発生に際して消費されるので,酸化ストレスの良い指標(バイオマーカー)と考えられる。
そこでわれわれは膠原病患者における酸化ストレスの存在を知るために,膠原病患者の血中TRXレベルや尿中8-OHdG排泄量を測定した↑6)↑。図2aに示すように血清TRXレベルは,SLE,RA,皮膚筋炎/多発性筋炎患者で正常人に比し有意に高かった。また尿中の8-OHdG排泄量も図2bに示すように,SLE,シェーグレン症候群(SS),RA,MCTD患者などで正常人に比し有意に増加していた。RA患者においてはこれらの値は疾患活動期に特に高く,病勢と関連していた。以上のように,多くの膠原病患者は過剰の酸化ストレスが負荷された状態にあると推察された。 V.関節リウマチと酸化ストレス
1.RA関節での酸化ストレス
RAは滑膜細胞の増殖を伴う慢性炎症性疾患であり,リンパ球,単球,好中球などの細胞が浸潤し,これらの細胞が産生するサイトカインや蛋白融解酵素が関節破壊に関わっていると考えられている(図3)。単球や好中球が産生する活性酸素や増殖した血管の再灌流により生じる活性酸素も軟骨や骨の破壊に重要な役割を有すると考えられる↑1,9)↑。RA患者では,xanthine
oxidaseの増加,glutathione還元能の低下,ミトコンドリアにおけるラジカルの産生亢進,酸化による最終糖化産物であるpentosidineの増加など酸化ストレスの関与を示す報告がある↑10)↑。最近尿中の8-OHdG排泄が増加しているとの報告もなされた↑6,11)↑。
前述のようにRA患者の血中TRXレベルは健常人に比し有意に高いが,図4に示すようにRA患者関節液中のTRX濃度はOA患者に比し有意に高かった↑8)↑。このようにRA患者では,関節液中には末梢血の数倍のTRXが含まれていることから,関節がTRX産生の場であると考えられる。そこで関節組織でのTRX産生を確認し,TRX産生細胞を同定するために,RA患者関節滑膜組織を抗TRX抗体で染色した。図5に示すように,滑膜表層細胞とその直下の滑膜細胞,および浸潤単核球の一部においてTRXが強く染色された。このことは,RA患者の滑膜細胞には,好中球などが産生する活性酸素種(ROI),Fas-LやTNFα,あるいはアデノシンなどの強い酸化ストレスが作用していることの証拠である。酸化ストレスにより産生誘導されたTRXは,過酸化水素あるいはhydroxyl
radicalに対する直接的な消去系として,あるいは酸化により失活した蛋白の再生などを通じて,滑膜や関節の障害を防いでいるものと推察される。
コラーゲン誘発性関節炎を発症したマウスに,SOD遺伝子を導入した線維芽細胞を皮下に移植することにより,関節炎の進展を抑制しうることが報告された↑12)↑。ヒトにおいても,フィンランドのコホート研究で,αトコフェロール,βカロテン,セレニウムなどの抗酸化物質の血清レベルの低下が,RAのリスクファクターであることが報告されている↑13)↑。Glutathione
S-transferase(GST)は抗酸化に重要な役割を果たす酵素であるが,GSTM1やGSTT1には遺伝的欠損者(null
genotype)が存在する。最近RA患者について,GSTM1 nullで喫煙歴のある女性患者では重症化とともにRF産生と相関することも報告された↑14)↑。われわれはシェーグレン症候群(SS)でGSTM1
nullが有意に多く,抗SS-A抗体産生と相関することを報告している↑15)↑。これらの事実は,抗酸化機構の遺伝的障害や酸化ストレスが,RAやSSの病態のみならず自己抗体産生にも関与している可能性を示唆する。 2.酸化ストレスと滑膜増殖
RA患者関節における最も大きな特徴は,滑膜細胞の異常増殖とそれを指示する血管の増生である。滑膜細胞の腫瘍性にもみえる増殖機構については,数多くの研究がなされているが,その原因は未だ特定されていない↑16)↑。RA患者滑膜細胞にはアポトーシスの障害が存在し,その結果異常増殖をもたらすとの報告も多い↑16,17)↑。その原因として,p53の突然変異やNF-κBの異常活性化も示唆されている↑18)↑。活性酸素はDNA損傷による細胞増殖やNF-κBの活性化によるサイトカインの産生亢進などを誘導しうることから,酸化ストレスの滑膜増殖への直接的関与も考えられる↑1,16)↑。
一方,酸化ストレスは多くの細胞にアポトーシスを誘導するが,TRXは活性酸素のスカベンジャーとしてのみならずASK1やp38などのアポトーシスシグナルの阻止や,ミトコンドリアからのチトクロームc放出の抑制(TRX2)など,種々の機構でこのアポトーシスを阻止する↑19)↑。HTLV-IやEBウイルス感染細胞ではTRXが過剰に持続発現していることが知られている↑7,19)↑。HTLV-I感染やパルボウイルス感染がRA様関節炎を起こすなど,RAの病因病態にウイルス感染などの関与も推察されており,ウイルス感染によるTRXの過剰発現が滑膜細胞のアポトーシスを障害し結果として滑膜増殖をもたらしている可能性も考えられる。
W.酸化ストレスとアデノシン
メトトレキサート(MTX)は最も頻繁に使用される抗リウマチ薬であるが,近年,その効果は炎症局所(関節)のアデノシンの濃度を上昇させることによるとの報告がなされた↑20)↑。詳細は別紙にゆずるが,アデノシンは代表的な内在性の抗炎症性物質であり,好中球の活性化や活性酸素産生を抑制するとともに,T細胞などの免疫細胞にも作用し機能を制御することから,表1に記したMTXの作用のかなりの部分がアデノシンを介していると推察される↑21,22)↑。
酸化ストレスは好中球のアデノシンレセプターA1の発現を誘導することが知られており,図6に示すように,A1レセプターを介したシグナルは好中球の活性化(遊走,貪食,接着など)を引き起こす。細胞外アデノシン濃度が上昇するとアデノシンはA2Aレセプターに作用し,好中球においては活性化やフリーラジカル産生を抑制し細胞死へと導き,T細胞の種々の機能も抑制する↑23)↑。このように,MTXは細胞外アデノシン濃度を上昇させることにより,好中球の活性化抑制や細胞死をもたらすとともに,T細胞などの免疫細胞へも作用し,抗リウマチ効果を発揮すると考えられる。
そこでわれわれは,アデノシンの関節炎や滑膜増殖に対する効果を検討した。アデノシンはアデノシンデアミナーゼ(ADA)によりすぐに分解失活されるためADA抵抗性のアデノシンアナログである2-クロロアデノシン(2-CADO)を用いた。RA患者由来の線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)に2-CADOを添加すると,容量依存性にアポトーシスが誘導されることを明らかにした↑24)↑。さらにFLSはTNFαなどのサイトカインを添加するとICAM-1の発現が増強するが,アデノシンはその発現を抑制した↑25)↑。アデノシンは滑膜細胞のコラゲナーゼ産生も抑制することが報告されている↑26)↑。このように,アデノシンは好中球やリンパ球のみならず滑膜細胞そのものにも作用しうることから,MTXは増加したアデノシンを介して滑膜細胞そのものにも効果を発揮していると考えられる(図5)。
アデノシンは血管内皮細胞などからも産生される内在性の抗炎症物質であり,好中球の活性酸素産生を抑制し内皮細胞障害を防いでいる↑27)↑。RA患者関節内でもアデノシンが抗炎症性に働いていることが考えられるが,アデノシンは不安定な物質でありその濃度測定は困難である。そこでわれわれはRA患者関節液中のADA活性を測定した。図7に示すように,RA患者関節液はOA患者に比べてADA活性が有意に高く,高親和性のADA1(アデノシンに対する親和性が高く,関節内で作用していると考えられる)で差がより著明であった↑28)↑。さらにRA患者由来のFLSはOA由来のFLSに比し,ADAのmRNA発現が有意に高かった。このことから,RA患者滑膜細胞はADAを過剰に産生し内因性抗炎症物質であるアデノシンを失活させ,炎症の激化遷延をもたらすと推察される。このような事実から,関節内アデノシンを増加させる物質が,新しい抗炎症薬あるいは抗リウマチ薬として注目されている↑29)↑。われわれは細胞外アデノシンを細胞内に取り込むアデノシントランスポーターの阻害薬NBMPR(nitrobenzylmercaptopurin)に着目した。NBMPRの投与はアジュバント関節炎の発症を有意に抑制し,関節には細胞浸潤など炎症所見がほとんどみられなくなったことから,新しい抗リウマチ薬として期待される↑30)↑。 X.お わ り に
本稿ではRAにおける関節病変における酸化ストレスの関与を中心に述べたが,感染・紫外線・ホルモン・寒冷あるいは精神的ストレスなどリウマチ性疾患の環境因子として作用する酸化ストレスの種類や量は多様である。これに対する生体側の抗酸化機構や免疫応答機構も多彩であり,少なくともその一部は遺伝的に規定されている。酸化ストレスの質や量を細胞レベルあるいは個体レベルで把握することは急務であり,そのことにより「酸化ストレス病」とも言うべきリウマチ性疾患の病態が鮮明となり,発症誘因の同定や再燃予防あるいは新しい治療法の開発が可能となるものと考えている。
本研究は,京都大学ウイルス研究所 淀井淳司博士と中村肇博士,同大学院医学研究科 豊國伸哉博士,神戸大学整形外科 黒坂昌彦博士と佐浦隆一博士などとの共同である。
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著者紹介
1971年 京都大学医学部卒業
1979年 同大大学院医学研究科博士課程修了
1971年 同大医学部附属病院内科 研修医
1973年 田附興風会北野病院内科 医員
1979年 米国国立研究所(NIH) fellow
1981年 国立療養所宇多野病院内科 医員
1982年 京都大学医学部第二内科 助手
1991年 同大医療技術短期大学部 教授 1995年 神戸大学医学部臨床検査医学講座 教授
2001年 同大大学院医学系研究科 教授(現職)
同大医学部附属病院免疫内科 科長(現職)
主要研究テーマ:リウマチ性疾患における遺伝要因と環境因子,トレランスの破綻と自己免疫,エビデンスに基づくリウマチ膠原病診療
表 1 RA治療薬としてのメトトレキサートの効果
1) 免疫抑制と制御;抗炎症
―リンパ球増殖抑制
―血清免疫グロブリン量減少
―NK細胞活性化
―IL-1,可溶性IL-2R,可溶性TNFR(p55),IL-8などを低下
―細胞外アデノシンの増加と好中球浸潤の抑制
2) 関節破壊の阻止
―動物モデル(ラットアジュバンド関節炎)
―MMP-1抑制
―血管新生の抑制
図 1 酸化ストレスと自己免疫応答
図 2a 膠原病患者における血中チオレドキシン(TRX)濃度
血漿中TRXを高感度ELISA(富士レビオ)で測定した(京都大学ウイルス研究所淀井淳司博士,中村肇博士との共同研究)。
図 2b 膠原病患者における尿中8-OHdG排泄量
尿中8-OHdG濃度をELISA(8-OHdG check,日本老化制御研究所)で測定した(京都大学豊國伸哉博士との共同研究)。データは尿中クレアチニン濃度で補正した値で示した。
図 3 RA患者血中および関節液中のTRX濃度(OAは変形性関節症,文献8より引用。)
図 4 RA患者関節滑膜の抗TRX抗体染色(T Jikimoto, et al:Molec. Immunol. 38:765-772,
2002.)
図 5 関節リウマチの病因病態とアデノシン(Ado)
図 6 好中球をめぐる酸化ストレスとアデノシン
図 7 RAおよびOA患者における関節液中のADA活性
関節液中のADA活性は,アデノシン10mMを基質とし,レート法で測定した。ADA2活性はADA1阻害剤erytro-9-(2-hydroxy-3-nonyl)adenine
0.35mMを添加し測定した(文献28)。
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