Henchが初めてステロイドを臨床に用いてから54年が経過しているが,現在なお問題となっているのは,関節リウマチ患者にステロイドを使用することの可否である。最近の報告を見ると,抗リウマチ薬の治験の対象となった活動性の高い患者では,約半数がステロイドを服用していた。一方,ステロイドの関節破壊抑制作用が再確認された。また,副作用の中で最も検討されることの多かったステロイド骨粗鬆症もビスホスフォネート薬によって予防,治療がかなりの程度まで可能となった。この様な新たな進展のもとで,ステロイドを関節リウマチの治療に用いられるべきか否か,という古くからの問題を見直す必要があろう。また,速やかな効果発現と関節破壊の著明な抑制が認められる抗TNFα療法の出現でステロイド療法の位置は変わるのであろうか。この様な観点から,関節リウマチのステロイド療法を再検討してみたい。
1) ステロイドの治療効果
ステロイド投与は関節症状を速やかに,著明に改善すると考えられている。しかし,通常用いられることの多いプレドニゾロン(PSL)5mg/日の効果を見たHarrisらの二重盲検対照試験では,自覚的関節痛,関節腫脹とも改善が少なく,プラセボ群との間に差がなかった↑1)↑。しかし,同時に検討した健康感(sense
of well being)は6カ月間にわたって著明な改善を続け,臨床で経験する著明な効果は健康感の改善を関節症状の改善と認識している可能性がある。PSL
7.5mg/日を投与したKirwanらの報告でも,他覚的関節症状の改善は3カ月後のみで,以後プラセボ群と変わらなかった↑2)↑。また,Harrisの論文で興味あるのは6カ月後にステロイド投与を中止したところ,自覚的関節症状が増悪し,2カ月後もステロイド投与前の約2倍に達していたことである↑1)↑。すなわち,関節症状に対する効果は少ないにもかかわらず,中止時のリバウンドは極めて大きいことが明らかであり,一旦ステロイド投与を開始すると中止が困難であることの理由であろう。
長期投与の臨床効果をみると,10年間のprospective studyを行ったMillionらの成績では,日常の活動性を維持しつつ,適当なステロイド投与を行った群が,安静を保ちつつステロイドは使用しなかった群より,機能障害度,X線写真の所見が良い傾向を示した↑3)↑。
しかし, McDougallらの122例ずつを比較したcase controlled studyでは,疾患活動性,QOLは5年後に差がなかったが,10年後には両者とも平均PSL8mgを投与されたステロイド群で悪化し,しかも白内障,骨折の頻度がステロイド群で有意に多かったことが報告され↑4)↑,その成績は必ずしも一致しない。
長期的効果に関して注目されるのは,PSL 7.5mg/日を2年間投与したところ,X線写真でみた関節破壊の進行がプラセボ群と比べて明らかに抑制されたことである↑2)↑。Morelandらが1980年以降に行われたRCT(randamized
controlled trial)をまとめたところ,PSL換算5mg/日以下の投与量では関節破壊の抑制がなく,7.5mg/日以上で抑制されていた↑5)↑。また,メトトレキサート(MTX)及びスルファサラジン(SASP)と共に,PSLを60mg/日より漸減し,約6カ月後にPSLとMTXを中止したCOBRA
studyでは,SASP単独群と比べ4,5年後も関節破壊進行の抑制が持続していた↑6)↑。しかし,PSL 7.5mg/日持続投与の場合は,ステロイド投与中は関節破壊抑制が続いたが,2年後にステロイド中止したところ,それ以後プラセボ群と同様な速度で関節破壊が進行した↑7)↑。すなわち,ステロイドの量により,関節破壊抑制の持続期間が異なると言えよう。
2) 少量ステロイドの副作用
副作用の少ないとされるステロイド薬が開発されているが,なお確立したとは言えない。また,ステロイドの作用機序の解明から,代謝作用がなく,抗炎症作用,免疫抑制作用のみの薬剤を開発出来る可能性が示されているが,未だ可能性にとどまっている。副作用を避ける投与法の工夫もされているが,隔日投与は連日投与に比べて副作用は少ないが,治療効果も少ない↑8)↑。
一方,副腎皮質からのコルチゾール分泌量は,従来考えられていたのより少なく,平均9.9mg/日と推定されている↑9)↑。この量はPSLに換算して2.5mg(1/2錠)であり,PSL
5mg/日の投与でも十分副作用を来し得るといえよう。
ステロイド骨粗鬆症による骨折については多くの報告があるが↑10)↑,Michelらはプレドニゾロン5mg/日以上を女性のRA患者に投与した場合,10年後,約半数の患者で骨折が認められ,5mg/日未満の場合は15%前後に過ぎないことを報告している↑11)↑。しかし,ビスホスフォネイト薬による治療では,ステロイド大量,長期投与でも減少した骨塩量を増加し,骨折の頻度を減少させることが最近明らかにされた↑12〜14)↑。少なくともステロイド骨粗鬆症に関してはかなり予防あるいは治療が可能となったと言えよう。
Saagらのcase-control studyでは,平均6.1mg/日,6.2年間の投与で,骨折,重篤な感染症,消化性潰瘍,白内障はステロイド群で2ないし3倍多かった↑10)↑。また,ステロイド服用患者は感染症発症の危険率が1.56と有意に高いことが報告されている↑15)↑。消化性潰瘍に関して,Piperらはステロイド単独投与ではその頻度は変わらず,NSAIDとの併用時,相対危険率が4.4倍であったとしている↑16)↑。ステロイド投与が高血圧,血清コレステロール及び中性脂肪の上昇,耐糖能低下を介して動脈硬化をもたらす可能性が推定されている。われわれの検討でも,RA患者で,ステロイド服用者の心電図異常所見が非服用者に比べ有意に高率であった↑17)↑。
また,関節リウマチ患者の標準化死亡率(standardized mortality ratio)は一般人口より2.26倍高いが,多変量解析による予後因子として,疾患活動性と共にステロイド療法が抽出され,非投与群より1.5倍高かった↑18)↑。また,死因としては心血管疾患及び脳血管疾患の増加が注目された。
以上の成績からは,長期にわたるステロイド少量投与が重篤な副作用にむすびつき,時に生命予後に影響する可能性も否定できない。
3) RAステロイド療法は積極的に行うべきか
RAステロイド治療の功罪についてまとめてみると,その長所の一つは,PSL相当量5mg/日という少量で患者の健康感を増強し,QOLを改善することである。しかし,この投与量では関節所見の改善がほとんど無く,関節破壊の抑制もない。また,ステロイド投与は,一旦開始すれば中止することは極めて困難である。5mg/日であっても,生理的な副腎からの分泌量の2倍であり,長期にわたれば重篤な副作用を伴う可能性がある。
さらに,ステロイドが関節破壊を抑制することは,現在のRAの主な治療目的が関節破壊防止であることからも,極めて大きな利点である。しかし,このためにはPSL相当量7.5mg/日以上を持続投与するか,6カ月間にわたる60mg/日よりの漸減投与が必要となる。当然のことながら,この投与量は副作用を伴う。
ステロイドとDMARDで治療を開始し,DMARDの効果発現を待ってステロイドを中止するbridge therapyが広く行われている。しかし,ステロイドを一旦開始すると,同時に投与したDMARDsが著効した場合でもステロイドの中止が困難なことをしばしば経験する。以上の成績から,RAにステロイドを積極的に用いる十分な根拠はまだ無いと言えそうである。
一方,MTXを始めとするDMARDsが関節破壊を抑制するのは言うまでもないが,ステロイドと同等以上の炎症抑制を速やかにもたらし,それによる関節破壊の著明な抑制を期待できるのは抗TNFα療法である↑19)↑。その副作用として感染症誘発が問題となっているが,現在のところ他に重篤なものは少ない。今後,抗TNFα療法を考慮に入れたステロイド療法の再検討が行われるのではないだろうか。
文 献
1) Harris ED Jr, Emkey RD, Nichols JE, Newberg A:Low dose prednisone therapy
in rheumatoid arthritis:a double blind study. J Rheumatol 10(5):713-721, 1983
2) Kirwan JR, the Arthritis and Rheumatism Council Low-Dose Glucocorticoid
Study Group:The effect of glucocorticoids on joint destruction in rheumatoid
arthritis. N Engl J Med 333(3):142-146, 1995
3) Million R, Kellgren JH, Poole P, Jayson MIV:Long-term study of management
of rheumatoid arthritis. Lancet 1:812-816, 1984
4) McDougall R, Sibley J, Haga M, Russell A:Outcome in paients with rheumatoid
arthritis receiving prednisone compared to matched controls. J Rheumatol 21:1207-1213,
1994
5) Moreland LW, O'Dell JR:Glucocorticoids and rheumatoid arthritis:back to
the future? Arthritis Rheum. 46(10):2553-2563, 2002
6) Boers M, Verhoeven AC, Markusse HM, van de Laar MA, Westhovens R, van Denderen
JC, van Zeben D, Dijkmans BA, Peeters AJ, Jacobs P, van den Brink HR, Schouten
HJ, van der Heijde DM, Boonen A, van der Linden S:Randomised comparison of
combined step-down prednisolone, methotrexate and sulphasalazine with sulphasalazine
alone in early rheumatoid arthritis. Lancet 350(9074):309-318, 1997
7) Hickling P, Jacoby RK, Kirwan JR, Arthritis and Rheumatism Council Low Dose
Glucocorticoid Study Group:Joint destruction after glucocorticoids are withdrawn
in early rheumatoid arthritis. Br J Rheumatol 37(9):930-936, 1998
8) Hunder GG, Sheps SG, Allen GL, Joyce JW:Daily and alternate-day corticosteroid
regimens in treatment of giant cell arteritis:comparison in a prospective study.
Ann Intern Med 82(5):613-618, 1975
9) Esteban NV, Loughlin T, Yergey AL, Zawadzki JK, Booth JD, Winterer JC, Loriaux
DL:Daily cortisol production rate in man determined by stable isotope diluition/mass
spectrometry. J Clin Endocrinol Metab 71:39-45, 1991
10) Saag KG, Koehnke R, Caldwell JR, Brasington R, Burmeister LF, Zimmerman
B, Kohler JA, Furst DE:Low dose long-term corticosteroid therapy in rheumatoid
arthritis:an analysis of serious adverse events. Am J Med 96(2):115-23, 1994
11) Michel BA, Bloch DA, Fries JF:Predictors of fractures in early rheumatoid
arthritis. J Rheumatol 18(6):804-808, 1991
12) Saag KG, Emkey R, Schnitzer TJ, Brown JP, Hawkins F, Goemaere S, Thamsborg
G, Liberman UA, Delmas PD, Malice MP, Czachur M, Daifotis AG, Glucocorticoid-Induced
Osteoporosis Intervention Study Group:Alendronate for the prevention and treatment
of glucocorticoid-induced osteoporosis. N Engl J Med 339(5):292-299, 1998
13) Adachi JD, Bensen WG, Brown J, Hanley D, Hodsman A, Josse R, Kendler DL,
Lentle B, Olszynski W, Ste-Marie LG, Tenenhouse A, Chines AA:Intermittent etidronate
therapy to prevent corticosteroid-induced osteoporosis. N Engl J Med 337(6):382-387,
1997
14) Cohen S, Levy RM, Keller M, Boling E, Emkey RD, Greenwald M, Zizic TM,
Wallach S, Sewell KL, Lukert BP, Axelrod DW, Chines AA:Risedronate therapy
prevents corticosteroid-induced bone loss:a twelve-month, multicenter, randomized,
double-blind, placebo-controlled, parallel-group study. Arthritis Rheum 42(11):2309-2318,
1999
15) Doran MF, Crowson CS, Pond GR, O'Fallon WM, Gabriel SE:Predictors of infection
in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 46(9):2294-2300, 2002
16) Piper JM, Ray WA, Daugherty JR, Griffin MR:Corticosteroid use and peptic
ulcer disease:role of nonsteroidal anti-inflammatory drugs. Ann Intern Med
114(9):735-740, 1991
17) Ichikawa Y, Toguchi T, Kawagoe M, Saito E, Abe T, Homma M:ECG abnormalities
in steroid-treated rheumatoid patients. Lancet. 2(8042):828, 1977
18) Wolfe F, Mitchell DM, Sibley JT, Fries JF, Bloch DA, Williams CA, Spitz
PW, Haga M, Kleinheksel SM, Cathey MA:The mortality of rheumatoid arthritis.
Arthritis Rheum 37:481-494, 1994
19) Lipsky PE, van der Heijde DM, St Clair EW, Furst DE, Breedveld FC, Kalden
JR, Smolen JS, Weisman M, Emery P, Feldmann M, Harriman GR, Maini RN, Anti-Tumor
Necrosis Factor Trial in Rheumatoid Arthritis with Concomitant Therapy Study
Group:Infliximab and methotrexate in the treatment of rheumatoid arthritis.
N Engl J Med 343(22):1594-1602, 2000
著者紹介
1960年 慶應義塾大学医学部卒業
1965年 同大医学部内科大学院修了
〃 同大内科入局 助手
1966年 米国ウースター大学実験生物学研究所留学research fellow
1967年 米国ユタ大学内科留学,翌年帰局research fellow
1972年 慶應義塾大学内科 講師
1991年 同 助教授 1991年 聖マリアンナ医科大学内科学・臨床検査医学教授
〃 同大難病治療センター 部門長併任
1999年 同大リウマチ・膠原病・アレルギー内科教授
2001年 聖ヨゼフ病院 院長(現職)
主要研究テーマ:ステロイド代謝,膠原病・慢性関節リウマチの治療,自己免疫性甲状腺疾患
|