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リウマチ Vol.42 No.5             
「第8回国際シェーグレン症候群シンポジウムを終えて」
 
菅井 進
 
 第8回国際シェーグレン症候群シンポジウム(合同開催:第11回日本シェーグレン症候群研究会,および第21回ドライアイ研究会)を金沢の地で金沢医科大学血液免疫内科が主宰し,3日間の学術行事と関連行事を無事に終了することが出来ました。
 参加者は23カ国,341人(外国92人,日本249人)で,講演参加者,患者さんなど合わせて466人の参加となりました。演題は182題(外国92,日本90)で,主催者関係を入れて750人を越す人が動きました。
 財政的には金沢医科大学の他,石川県,金沢市,リウマチ財団他の財団関係,個人から多大な支援を受けましたことを関係団体,各位に厚くお礼申し上げます。また,シンポジウム運営に関しては,組織委員の先生方を中心に,口演,ポスター,ランチョンの各セッションの座長,発表,討論など積極的にご参加,ご支援下さり,盛り上がったシンポジウムとなりました。ご参加の皆さんに心より感謝申し上げます。
 演題の締め切りがニューヨークのテロとアフガン爆撃の余韻が冷めぬ昨年12月末で,外国からの参加が危惧されましたが,終わってみればアジアからは4人だけでその他はアメリカ,ヨーロッパからの参加者となり,今までで一番大きなイベントとなっていました。
 当初より,本シンポジウムは血液免疫内科の特徴を生かしてシェーグレン症候群におけるリンパ球増殖性疾患に重点をおきたいと考え,そのために免疫の話を岸本忠三大阪大学総長に,リンパ腫の話をロンドン大学病理のPeter G. Isaacson教授にお願いし,いずれの教授からも快諾を得て良いスタートが切れました。
 岸本教授は文献引用数が8年間にわたって,免疫の分野で世界第1位,すべての科学分野で世界第8位という業績の持ち主であり,“Negative Regulation and Cytokine Signaling and Its Manipulation in Inflammatory Diseases”は最新の成果を精力的に話され,どんどん迫ってくる内容で聴く者の心をはげしく揺さぶる講演でした。
 Isaacson教授はMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫の概念を【創】設し,炎症からリンパ腫への新しい考え方を確立した病理学者です。Isaacson教授の“MALT Lymphoma in Salivary Glands”は長年のデータを揃え,キレイなスライドを使って物静かな説得調もので聴いている者の心にしみこむすばらしい内容でした。お二人の講演は本シンポジウムの歴史の中でも特筆すべきイベントとなったと思います。
 Isaacson教授について補足しますと,私は12年前に一面識も無かった彼に自分の論文を添えて面会を申し込みました。予約時間を上回る4時間もの間,持参した標本も全部目を通してくれてディスカッションをしました。彼の真摯な学問的態度,Gentlemanとしての態度にすっかり魅せられ,私は彼を自分の先生と勝手に決めて彼の論文をフォローして来ました。その後彼の提唱するMALTリンパ腫が改訂ヨーロッパ・アメリカリンパ腫分類(REAL分類)に登場し,WHO分類にも記載されました。更に彼はHelicobacter pyloriと胃のMALTリンパ腫の関係を明らかにし,Helicobacterの除菌だけでMALTリンパ腫の75%が治癒することが明らかにされました。このように彼は抗原依存性の悪性リンパ腫の存在を明らかにし,良性の免疫反応からMALTリンパ腫が生じることを遺伝子レベルで証明してリンパ腫研究の第一人者と認められるようになりました。また,彼は南アフリカ連邦の隣のローデシア出身で,ケープタウンでMDとなり,アメリカ,カナダで研究し,ロンドン大学で教授になった苦労人でもあります。尊敬してやまない彼が金沢へ来てくれて,現実に彼の話を聞くことが出来た時は感激しました。人生にこのようなすばらしい出会いがあったことをつくづくあり難いと思いました。ついでに言うと私にとって「人生とは我が師を求めてさまよう旅」と要約できると思っています。
 シンポジウムはPlenary Sessionとして“Progress in Molecular Mechanisms”,“Pathogenesis 1, 2”,“Ocular Medicine”,“Clinical Features”,“Diagnostic Criteria”,“Lymphoproliferative Disorders”,“Oral Medicine and Treatment”があり,2つの“Poster Session”と5つの“Luncheon Seminar”,さらに“Patient Session”がありました。“Molecular Mechanisms”は第11回日本シェーグレン症候群研究会会長の住田孝之教授により,“Ocular Medicine”は第21回ドライアイ研究会会長の坪田一男教授により行なわれ,熱の入った討論が繰り広げられました。
 “Diagnostic Criteria”のセッションでは夫々の演者の発表に加えて,3人の指定発言(Rolf Manthorpe,藤林孝司,Dong Yi教授)によって5月に発表されたEC-USA criteriaの検証が行なわれました。この基準は自覚症状を加えた6項目中4項目陽性,ないし他覚項目4項目中3項目陽性を基準としています。日本の基準は他覚項目4項目中2項目を陽性をとし,アメリカのDaniels教授は他覚項目4項目中4項目陽性を基準とすべきであると主張しています。伝え聞くところではEC-USA criteriaが国際診断基準であるとする考えがあったようです。これらに関してworking groupを立ち上げて国際基準を策定することになりました。国際診断基準の策定に関しては日本の基準を十分反映すべきものと思います。日本の改訂基準に関しては宮脇昌二先生から厳しいご指摘(Editorial,リウマチ,Vol42,No4)がなされていることは十分考慮して参加すべきものと思います。
 “Poster Session”は日本形式で,座長の司会で発表してもらい,熱心な討論があって普通の国際学会に見られる「貼りっ放し形式」よりはるかに充実したものとなりました。ポスター演題の中からプログラム委員会委員長の住田孝之教授により2名(Dr. Michiel M. Zandbelt, Dr. Hiroshi Takahashi)に対してOutstanding Young Investigators'Awardの発表がありました。
 「国際患者会」は4回(東京),5回(オランダ)に開かれましたが,その後は中止状態となっていました。今回は「第15回日本患者会」を“Patient Session”と合同で行なうことになり,当日は95人の患者さんと約40名の医師と約30名の製薬会社関係者の参加がありました。同時通訳を入れて行い,患者4人(スェーデン,アメリカ,オランダ,日本),医師5人(スェーデン,アメリカ2人,日本2人),製薬会社2人(日本)の11人が講演し,その後フロアからの質問に対して様々な討論がありました。シェーグレン症候群の認知度が医師,患者ともに少ないことは欧米でも日本でも同じような状況にあること,欧米でも受診から診断までに7〜9年かかるのが普通の状況であること,医師と患者のコミューニケーションのずれ,慢性的な状況の中で自分にこもって孤立化し,うつ状態になる患者の問題などが提起されました。多くの問題が話されて2時間では時間が足りない状況でした。私はスピーチのなかで以下のような技術予測調査結果(文部科学省科学技術政策研究所,2001年)の一部を紹介しました。
 2012年 関節リウマチなど自己免疫の原因および発症機構の解明
 2014年 癌化機構の解明
 2015年 介護用ロボットの普及
 2016年 アレルギー疾患の完全コントロール
 2018年 自己免疫疾患の発症予防法の普及,人の細胞,組織を組み込んだ人工臓器の実用化
 2020年 アルツハイマー病の完治療法の開発
 2021年 自己免疫疾患が完治可能
老化機構の解明
 2025年 精神分裂病完治療法の開発
 私が2021年にシェーグレン症候群も完治するかもしれないと述べた時に会場から拍手とため息が聞かれました。国際患者会は患者さんにとっても多くのことを知るよい機会となったと思います。日本患者会の人たちとも連携して,種々の検査や体力テスト,「Q & A」小冊子(英語と日本語)の配布,「新シェーグレン症候群ハンドブック」の出版販売がありました。その他,眼科,耳鼻科による検査,MRI sialographyの立体画像の放映,機器展示,各種機器による身体テストなどがあり好評でした。
 日本では1977年の「厚生省シェーグレン病研究班」の発足以来シェーグレン症候群についての関心が高く,1990年には「日本シェーグレン症候群研究会」(http://www.fujita-hu.ac.jp/↑〜↑ktorikai/)が設立されました。眼科,口腔外科,耳鼻科,内科各科,小児科,皮膚科,放射線科,病理の医師たち250名のメンバーが活発に研究活動を行っています。また,「ドライアイ研究会」は21年の歴史を持ち活躍しています。
 シェーグレン症候群の問題点として私が重要と思っていることは,病変が止むことなく持続することと,その多様性です。病変は乾燥症状のみの状態から,何らかの臓器病変を生じるもの,さらには悪性リンパ腫まで進展する場合もあります。病気の進展については全身の臓器が一度に障害されるのではなく,障害される臓器に関して選択性があることが一つの特徴であると思います。臓器に関して選択性があることは臓器自身に炎症などによる何らかの活性化状態があり,局所血管にMadCAM-1などのレセプターが表出し,循環するα4β7陽性の自己反応性リンパ球がホーミングすることにあるのではないかと考えます。また,局所病変の激しいときに見られるリンパ上皮性病変では上皮細胞,T,Bリンパ球の増生があり,三者のお互いの刺戟によるアポトーシス機構の回避があって3者の共生関係にあると理解できます。この相互作用として,サイトカイン,ケモカインの他にCD40L-CD40,CD80/86-CD28/152などの相互作用が大きな役割を担っているものと考えます。この点に関して我々の教室の小川和野助教授らによる成績で,導管上皮細胞はFasの刺激のみではアポトーシスに陥らず,CD40からの刺戟が加わってはじめてアポトーシスに陥るという所見はリンパ上皮性病変の病態と進展を説明する重要なものと思います。治療法として,細胞間相互作用を仲介するCD40L-CD40,CD80/86-CD28/152分子などを標的とする分子標的療法の開発が緊急の課題としてあると思います。慢性骨髄性白血病の治療法としてSTI571がbcr-ablキメラ蛋白のチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することで大きな成果をあげたことに習うべきだと思います。
 我々の少人数の教室で手作りのシンポとなっていろいろ問題はあったものの,金沢の地へ国内外の多くの方々の出席を頂き国際シンポは成功したものと思っております。成功の鍵はスタッフ全員の「危機感」と「使命感」にあったと思います。早朝の研究ミーティングを2年半の間つぶし,教室のメンバーには多大の時間的,精神的負担を掛けて来ましたが,彼らの高い志と高い能力,さらに大きなエネルギーを再認識しました。全員が一丸となって困難な仕事を達成し,その過程でメンバーの成長がみられたことは何にも優る喜びでした。私自身は人生のたそがれに来てこの様な予期せぬすばらしい経験をさせてもらったことを教室の全員に感謝しています。
 最後に,21世紀最初となるこのシンポジウムが「シェーグレン症候群の治癒」に向けたマイルストーンとして刻まれることを期待しています。
 

著者紹介
 1693年 京都大学医学部卒業
 1969年 同大大学院修了
 1969年 同大医学部附属病院第2,3内科 副手
 1972年 カルフォルニア大学附属病院内科 シニアレジデント(4,5年)
 1974年 金沢医科大学血液免疫内科 講師 1976年 同 助教授
 1995年 同大総合医学研究所 教授(内科併任)
 1995年 同大血液免疫内科 教授(1998年まで併任/現職)
主要研究テーマ:臨床免疫学,特にシェーグレン症候群

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