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リウマチ Vol.42 No.4             
「全身性強皮症患者の評価法」
 
桑名正隆  佐藤伸一1  近藤啓文2  竹原和彦1
慶応義塾大学先端医科学研究所,金沢大学皮膚科1,北里大学内科2
(2002.4.18受付,2002.5.10受理)
Abstract
Clinical Evaluation Methods in Patients with Systemic Sclerosis
Masataka KUWANA, Shinichi SATO, Hirofumi KONDO and Kazuhiko TAKEHARA
〈Keywords〉 :health assessment questionnaire:scleroderma:tendon friction rub:total skin score

T.は じ め に

 全身性強皮症(systemic sclerosisまたはscleroderma;SSc)は皮膚および諸臓器の線維化と末梢循環障害を主徴とする全身性結合組織疾患である↑1)↑。SSc患者では病変局所での線維芽細胞およびT細胞などの免疫担当細胞の活性化,血管内皮細胞障害とそれに引き続く修復機転がみられ,これらさまざまな細胞が密接に関連することで病態が形成される↑2)↑。一方,患者血清中には高頻度にトポイソメラーゼIやセントロメアなどの核蛋白に対する特異自己抗体が検出され,自己免疫現象も伴う↑3)↑。現時点でSScの病因は明らかでないが,一卵性双生児における発症一致率が全身性エリテマトーデス(SLE)など他の膠原病に比べてきわめて低いことから,遺伝的素因よりも後天的な環境要因が重要と考えられている↑4)↑。
 SSc患者の臨床症状はきわめて多様で,皮膚硬化や内臓病変の程度,予後は患者ごとに大きく異なる。また,同一患者でも発症からの期間により顕性化する臓器障害が異なる(たとえば,発症早期には腎,心筋障害,10年以上経過すると肺線維症や肺高血圧症)↑1)↑。したがって,個々の患者における疾患活動性や重症度をそのつど評価することは予後の予測,治療方針の決定,治療効果の判定のために必須である。
 これまで,皮膚硬化範囲に基づいた病型(diffuseおよびlimited型)や自己抗体の種類により臓器障害や予後の予測が可能なことが示され,一般診療の場で広く用いられてきた↑1,3)↑。しかし,これらの指標のみでは多彩な臨床症状を呈するSSc患者の詳細な病状の把握は困難であった。さらに,皮膚硬化範囲による病型や自己抗体は経過中に変化することはまれなため,活動性の評価にも適さない。関節リウマチ(RA)やSLEでは1970年代から疾患活動性や重症度の評価法の必要性が唱えられ,世界的に通用する基準が存在する↑5,6)↑。それに対し,SScにおける統一した評価法の必要性が唱えられたのは1990年代に入ってからであり,大きく遅れた。しかしながら,欧米での積極的な努力の結果,現在までにコンセンサスの得られた評価法が確立され,それらを用いた多施設共同研究や臨床治験がすでに多数進行中である。わが国はこのような世界的な動向に取り残されたといっても過言ではなく,その克服のためには欧米で標準的に用いられている評価法の早急な導入が必要と考えられる。そこで,本稿ではSScの評価法として欧米で“gold standard”となっている臨床項目について概説し,それらの実践的な手法について解説する。

U.SSc患者の評価法

 1990年に米国で行われたphotopheresisの臨床試験がSSc患者における評価法の基準の重要性が強調されるきっかけとなった。多施設での前向き試験の結果,photopheresisが皮膚硬化に対して有効と判断されたことから,機器メーカーのTherakos社が米国食品医薬品局(The Food and Drug Administration;FDA)に対してphotopheresisをSScの治療法として承認するよう求めた↑7)↑。しかし,多くの専門医から研究デザインや評価法の欠陥を指摘され,結局メーカー側は申請を取り下げた↑8)↑。これを機に,FDAは米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)の協力のもとにSScを専門とする内科医,皮膚科医および統計学者を集めた小委員会を構成し,SScの自然経過を修飾しうる治療法の効果を検定する臨床試験のプロトコールの標準的なガイドラインを作成した↑9)↑。その中で患者選択基準とともに治療効果判定に用いる評価法について述べられており,その条件として簡便かつ正確で,定量性と再現性があり,変化に敏感なことが挙げられている。しかし,SScではRAの関節圧痛スコアに匹敵する疾患活動性を反映するよい指標がなかった。そこで,多施設での共同研究により,それまで一部の施設で使われていたさまざまな評価法の中から上記の条件を満たす評価項目の候補が検討された。その結果,皮膚硬化の半定量的な指標であるスキンスコア(total skin thickness score;TSS)とQOL(quality of life)の指標であるHealth Assessment Questionnaire(HAQ)がSSc患者の評価法として有用であることが証明された↑10,11)↑。
 これら2つの評価法はともに再現性が高く,特別な機器を必要とせず,病状の改善を敏感に反映する。さらに,スキンスコアとHAQによる機能障害指数の減少がその後の生命予後の改善と相関することから↑12,13)↑,これらは生命予後を間接的に反映する指標として臨床治験においてprimaryの評価項目とされている↑14〜16)↑。
 表1に欧米でSSc患者の一般的な評価に用いられている臨床項目を示す。全般的評価項目として,HAQに加えてRAと同様のvisual analogue scale(VAS)による医師,患者の総合評価が用いられ,とくに臨床治験ではprimaryの評価項目に含まれる。スキンスコア以外の皮膚・結合織病変の定量的な指標は可逆性が少ないために補助的な評価項目とされる。臓器障害については,通常「あり,なし」で示される場合が多く,定量・半定量的な評価が可能な項目は肺機能検査,関節圧痛,腫脹スコアなど少ない。臓器病変が存在する場合には,さらに詳細な評価を行う(たとえば肺病変があれば高解像度CTや気管支肺胞洗浄液検査など)。SScではRAにおける赤沈やCRP,SLEにおける抗二本鎖DNA抗体価や補体などに相当する疾患活動性を反映する臨床血液検査の指標がないため,身体所見に頼らざるを得ない。
 これらの評価項目は臨床治験だけでなくSSc患者の活動性基準や重症度分類にも広く取り入れられており↑17,18)↑,今やSScの臨床研究においても必須の評価項目となっている。また,一般診療の場でも活動性の評価や治療方針の決定などに積極的に導入されている。しかし,わが国では,いまだにスキンスコアなどの身体所見は広く受け入れられていない。その理由の一つとして,これら身体所見の取り方についてのマニュアルがないことが挙げられる。欧米では臨床治験などを機に専門医が一堂に集まるセッションを開催することで,これら身体所見の取り方について一定のコンセンサスを得てきた。わが国でも同様の試みを推進すべきだが,そのためには行政や企業による支援が不可欠なため現状では難しい。そこで,われわれは欧米のSSc専門医とディスカッションを重ね,SSc患者の評価法としてすでに欧米で標準的に用いられている身体所見やHAQの取り方についてのわが国におけるstandardの作成を試みた。

V.スキンスコア


1.スキンスコアとは
 スキンスコアはSScの主たる病変である皮膚硬化の程度を半定量的に評価する方法で,1968年にRodnanにより考案された。原法では全身26の部位の皮膚硬化の程度を5段階(0―4)にスコア化し,その合計をスキンスコアとした(最大値104)↑19)↑。この方法は熟練した検者が行えば再現性が高く,変化に敏感な指標であったが,非常に煩雑であったために一部の施設を除いて普及しなかった。その後,皮膚硬化の評価法として皮膚硬化の範囲を%体表面積で表すマネキン法,皮膚の伸縮性を調べる吸引カップ法やエラストメーター法,超音波で皮膚厚を測定する方法などが考案された。しかし,再現性に乏しい,特別な機器を必要とするなどの理由からスキンスコアに代わる手法とはならなかった。そのため,Rodnanの原法を簡略化したスキンスコアが幾つも考案された↑20〜22)↑。その中で,皮膚硬化を調べる部分を17カ所に減らし,皮膚硬化のスコアも0―3と4段階(最大値51)としたmodified Rodnan TSS(m-Rodnan TSSまたはm-Rodnan)が現在欧米で標準的に用いられている↑23,24)↑。
 1990年代前半に欧米各国でSSc専門医が一同に集まり,m-Rodnanの正確さや再現性を検討するセッションが開かれた↑22,25〜28)↑。Brennanらは,6人の検者が12人のSSc患者を対象としてm-Rodnanとマネキン法を比較したところ,m-Rodnanは同じ検者が繰り返し行っても,異なる検者間でもマネキン法に比べてスコアのばらつきが少ないことを報告した↑22)↑。m-Rodnanの再現性の高さと正確さは他の同様のセッションでも確認されている↑25〜28)↑。
 ちなみに,半日のトレーニングを受けた検者によるm-Rodnanの同一検者におけるばらつき(intra-observer variability)は12%,検者間のばらつき(inter-observer variability)は25%であることが示され,これらはRA患者における関節圧痛スコアのそれぞれ43%,37%に比べて優れている↑28)↑。また,前腕部からのpunch biopsyにより得られた皮膚の重さが同部位のスコアのみならず,全身の皮膚硬化を表すスキンスコアともよく相関することが示されている↑19,29)↑。
 SSc患者の病型ごとのスキンスコアの経過を調べると,diffuse型では発症後3―5年間は増え,その後ゆっくりと低下する。一方,limited型ではスキンスコアそのものが低値で,経過を通じて大きく変化しない↑1,30)↑。したがって,diffuse型でスキンスコアが増える場合は今後さらに皮膚硬化や内臓病変が進行する可能性を示し,逆にスキンスコアが減少する場合は皮膚硬化のピークを過ぎたことが予想される。実際に,経過中のスキンスコアの最大値が高いほど生存率が低い↑31,32)↑。また,diffuse型でスキンスコアが20以上の例は20未満の症例に比べてその後4年間の死亡と強皮症腎の発症が多い↑32)↑。一方,diffuse型でスキンスコアが1年間に5以上かつ2年間で最大値の25%以上改善した例は,改善しなかった例に比べて生命予後がよいことも示されている↑12)↑。したがって,経時的に測定したスキンスコアはSSc患者の予後の予測に有用であり,一般診療においても積極的に導入されるべきである。

2.スキンスコアの取り方
 ここでは欧米で標準的に用いられているm-Rodnanについて述べる。皮膚硬化の程度は0―3のスコアで表わし,0は正常皮膚で,皮膚硬化を認める場合にはさらに軽度(1),中等度(2),高度(3)の3段階に分ける。検者が母指と示指の末節指腹で大きく患者の皮膚をつまみ上げた際に感じる皮膚の厚さで判定する。皮膚の“硬さ”には“厚さ(thickening)”と“非可動性(tethering)”の2つの要素があり,どちらを重視すべきかという点で欧米の専門医の間でも議論がある。ただし,“非可動性”には皮下の病変も大きく関与することから,最近では“厚さ”を重視する傾向がある。
 皮膚の“硬さ”には個人差があり,また部位,年齢,性によっても異なるために判断の難しいケースもあるが,欧米での専門医によるセッションでは,半日の簡単なトレーニングを受ければ検者間で大きなばらつきはなかった↑24)↑。
 わが国でも2000年2月に米国からSeibold博士を招いて一部のSSc専門医を集めたセッションが開催された。その際に,検者間でのスコアの差が予想以上に大きかったことから,何らかの判定基準の必要性が考えられた。そこで,わが国で広く用いられている厚生省研究班による二段階つまみ法(two-step pinching method)↑33)↑を基準としたスコアリングを提案したい(表2)。
 図1に実際の皮膚をつまみ上げた際のスコアごとの所見を示す。浮腫期の患者ではとくに手指,手背,足背は腫脹のために皮膚をつまみづらくなり,皮膚硬化のスコアを実際より高く感じることがあるので注意が必要である。皮膚硬化の範囲は図2に示す合計17部位で,それぞれの部位で皮膚硬化の程度をスコア化し,その合計をスキンスコアとする。身体の前面の診察ですべての部位の評価が可能なことがm-Rodnanの特徴である。手指,手,前腕は原則として背側で調べ,足では足背で評価して足趾を含めない。顔は両頬部で評価し前顎部を含めない。
 スコアリングにあたり以下の2点についてのコンセンサスが必要である。まず,同一部位にスコアの異なる硬化部分が存在する場合のスコアリングに関してである。最も硬い部位のスコアを採用するという考えと,最も範囲の広いスコアをrepresentativeとして採用するという2つの考え方がある。
 また,手指のスコアをとる部位に関しては,近位指節間(PIP)関節より遠位では皮膚の硬さの個人差が大きく,また皮膚を大きくつまみ上げることができないため,PIP関節と中手指節間(MCP)関節の間で判定するという考え方がある。とくに手指に関節炎がある場合にはPIP関節より遠位での皮膚硬化の評価が難しい。ただし,この方法を採用するとPIP関節までの手指硬化のみの患者ではスキンスコアが0となってしまう。これらの点に関しては欧米の専門医の間でも議論があり,いまだ統一されていない。幸いわが国では現時点でスキンスコアが普及していないため,独自の基準を作成することが可能と思われる。
 これまでのわれわれの経験から,同一部位にスコアの異なる部分がある場合にはスコアの最大値を,手指ではPIPとMCP関節の間の背側で判定する方法を採用したい。ただし,この方法が絶対ではなく,個々の検者が一貫した基準をもって調べれば多少のvariationがあっても大きな問題はないと考えられる。経時的に繰り返し調べる際には,同じ検者が同一の基準でスキンスコアを取ることが大切である。

W.その他の皮膚・結合織病変の評価法


 SSc患者の皮膚・結合織病変の程度を定量的に評価する指標としてさまざまなものが提案されてきたが,その中から簡便で再現性があり,疾患活動性をある程度反映する指標が1990年以降の臨床治験の評価項目に取り入れられた↑14〜16)↑。最も標準的な指標はスキンスコアだが,その他に広く用いられている評価項目として開口,手の伸張,手指の屈曲の3つの指標がある。これらは簡単な身体所見で,特別な装置を必要としないが,スキンスコアに比べて数値の変動が少ない欠点がある。すなわち,diffuse型のSSc患者で皮膚硬化が急速に進行する時期には短期間に悪化するが,皮膚硬化が安定して萎縮期に入っても改善幅は小さい。ただし,スキンスコアの改善例ではこれらの指標も有意に改善することから,疾患活動性の指標になり得ることが示されている↑32)↑。また,これらの指標は食事,会話や手を使う多くの日常動作における機能障害を反映するため,後述のHAQの機能障害指数ともよく相関する↑34)↑。
 これらの身体所見の取り方には欧米の専門医の間でも多少のvariationがあるが,ここでは最近行われたrelaxinの臨床治験↑15)↑で採用された取り方を紹介する。

1.開 口
 Maximum oral aperture,oral openingと呼ばれる。図3Aに示すように,患者にできるだけ大きく口を開くように指示し,上口唇の下縁と下口唇の上縁の間の距離を中央で測定する。通常は3回測定して平均を求める。個人差が大きいために正常値はないが,30mm以下の場合に開口障害があるとみなす。同一患者で経時的に調べて,その変化を評価する。Diffuse型では皮膚硬化が進行する時期に減少し,その後はほぼ一定の数値をとる場合が多いのに対し,limited型では長期にわたって徐々に減少する例がある。SScにおける開口障害は頬部など口周囲の皮膚および皮下組織の硬化の程度を主に反映するが,顎関節の機能障害,顔面筋の萎縮,口唇の後退も関与する。

2.手の伸張
 手指の伸張障害の程度を評価するための指標であり,手をできるだけ大きく開いたときの母指と小指の間の距離のことである。この指標はactive hand spread, hand extension,1st to 5th finger extensionなどと呼ばれる。SSc患者,とくにdiffuse型の患者では手指の屈曲拘縮による運動制限がみられる。これは,皮膚に加えて靱帯,関節包,腱鞘などの周囲の組織の線維化の結果と考えられている。PIP関節の変化が高頻度で,さらに進行するとMCP関節も障害される。これらの関節は手掌側に曲がった状態で固定され,可動性が低下する。PIP関節の屈曲拘縮が高度になると伸展障害が問題となる。一方,MCP関節では屈曲の制限が手の機能に大きく影響する。母指の手根中手骨関節は伸展,外転位に拘縮して示指との距離が開くことから,物をつまむことが困難となる。これらの拘縮変形により手指を使う日常動作が高度に障害されるため,この指標の悪化はQOLの低下と関連する。
 取り方は図3Bに示すように患者に手掌を上に向けてできるだけ大きく手を開くよう指示する。その際の母指と小指の外側の距離を,左右それぞれで計測する。通常は3回測定して平均を求める。手の大きさの個人差のために正常値はなく,経時的な変化を調べる。Diffuse型では皮膚硬化が進行する時期に減少し,その後はほぼ一定かゆっくり改善する。

3.手指の屈曲
 手指の屈曲障害の程度を評価する指標で,手を握ったときの指先と手掌の間の距離を測定する。この指標はfinger flexion,fist closure,flexion index,fingertip-to-palm distanceなどと呼ばれる。図3Cに示すように,患者に手掌を上に向けて手を握るよう指示する。その際の薬指の指尖と手掌の遠位水平シワ(いわゆる感情線)との間の最短距離を,左右それぞれ3回ずつ計測して平均を求める。正常値は0mmで,手指関節の屈曲制限が進行すると徐々に拡大する。経時的な変化を調べるとdiffuse型の患者では皮膚硬化が急速に進行する時期に増大し,その後はほぼ一定かゆっくり改善する。

X.腱 摩 擦 音


1.腱摩擦音とは
 SScの病型分類,予後の予測に有用な身体所見の一つとして腱摩擦音(palpable tendon friction rub)がある。腱摩擦音は関節を動かしたときに周辺で感じる組織が擦れ合う感覚(英語では“squeaking”や“coarse cracking”などと表現される)のことで,1887年にドイツ人医師Westphalにより初めて記載され↑35)↑,その後ShulmanらによってSScに特徴的な所見として報告された↑36)↑。腱摩擦音と和訳されるが,実際には検者の手掌で感じる皮膚直下で組織が擦れ合う感覚で,音として聴取されることは少ない。関節を動かした際に関節周囲の線維性に肥厚した腱が周囲の筋膜や筋支帯などとこすれる現象と理解されている。
 腱摩擦音は全身の関節周囲で検出されるが,頻度の高い部位は手指,手,肘,膝,足関節周囲である。疼痛を伴うことはまれなため,患者自身が自覚しない場合が多い。関節を動かす際に引っかかる,ゴリゴリ感があるなどと訴える場合もある。
 腱摩擦音は発症早期に検出されやすく,経過とともに消失する傾向がある。注意深く診察すれば発症1年以内のdiffuse型の半数以上で検出されることが欧米で報告されている↑37)↑。しかし,われわれの印象では日本人SSc患者における頻度は少なく,diffuse型の早期でも20―30%程度である。
 Steenらによる1,305例のSSc患者を対象とした検討では,腱摩擦音はdiffuse型もしくは将来diffuse型に進展する患者に特異的に検出されることが示されている↑37)↑。また,腱摩擦音はdiffuse型の中でもスキンスコアが高く,手指屈曲拘縮が強く,心,腎病変を高率に持ち,予後が悪い病型と関連する。
 多変量解析では,初診時の腱摩擦音の検出は将来のdiffuse型への移行,SSc関連死を予測するよい指標である。したがって,腱摩擦音はSSc患者の病型分類と予後の予測に有用な診察所見であり,特に発病早期に調べることが重要である。ただし,定期的に調べることも必要で,腱摩擦音の新たな出現が皮膚硬化や内臓病変の進行に先行する場合がある。

2.腱摩擦音の調べ方
 図3Dに示すように,患者の関節周囲に検者が手掌をあて,関節可動域をできるだけ大きく動かすように指示する。関節を他動的に動かすと見逃すことが多い。また,運動を繰り返していると腱摩擦音が減弱,消失する場合がある。したがって,最初のおよそ5回までの運動で患者に大きく関節を動してもらうことがポイントとなる。個々の部位における診察上の注意点は以下のとおりである。
 1)手 指
 手指の腱摩擦音はおもにMCP関節より近位の手背側で検出されるため,患者の手背に検者の手掌をあて,「手を握る,開く」を繰り返すよう指示する。
 2)手
 図3Dに示すように手関節の近位側に検者の手掌をはさむようにあて,患者に「手首を上げる,下げる」を繰り返すよう指示する。
 3)肘
 肘頭周囲に手掌をあて,肘関節の屈曲と伸展を指示する。
 4)膝
 おもに膝蓋骨の周囲で検出される。検者は手掌を膝蓋骨の周囲を動かしながら患者に膝の屈曲と伸展を指示する。
 5)足
 足関節の近位部から足背までの広い範囲で検出される。患者には「足首を上げる,下げる」を繰り返すことを指示する。

Y.HAQ

1.HAQとは
 HAQとは慢性疾患患者の身体的要素としての機能障害の程度を評価するための患者自身が行うアンケートのことである。慢性疾患における診療の第一の目標は生命予後の改善であることはいうまでもないが,1980年代初頭から個々の患者が生活する上での質的な向上,すなわちQOLの改善が重要視されるようになった。そのため,QOLを客観的に評価する指標が提唱され,その中でもHAQは社会的,精神的あるいは経済的要素の影響が少なく,身体的な機能障害を主に反映するものとして作成された↑38)↑。HAQはまずRA患者のQOLの評価法として普及し↑39)↑,その後SLEなど各種リウマチ性疾患にも応用された↑40)↑。
 HAQは着衣と身繕い,起立などの8つのカテゴリーに分けられた日常生活で遭遇するさまざまな事柄についての質問からなり,それぞれについて「簡単にひとりでできる」から「全くできない」までの4段階で返答する。その結果から機能障害指数(HAQ-Functional Disability Index;HAQ-DI)を計算する。また,個々のカテゴリー間の比較も可能である。RA患者における成績から,HAQ-DIは再現性が高く従来から用いられている重症度や疾患活動性を表す指標とよく相関することが示されている↑5,38,39)↑。そのため,HAQ-DIは単にQOLの指標としてだけではなく,機能障害や疾患活動性の評価,治療効果の判定に広く用いられている。
 SScにおけるHAQの有用性は1991年にPooleらにより初めて報告された↑41)↑。RAで用いられていたHAQをそのまま211例のSSc患者に適用し,SScでも比較的高度の機能障害があり,HAQ-DIはスキンスコアと相関することを明らかにした。わが国でも同時期に鏑木らが同様の検討を行い,皮膚硬化範囲とHAQ-DIとの関連を報告した↑42)↑。その後,SSc患者の評価におけるHAQの有用性は多くの施設で再現された↑43,44)↑。
 患者が記入したアンケートと他覚的な機能障害の程度を比較した成績も報告されている↑45)↑。それによると,実際の機能障害は自己評価より高い傾向にあるが,両者はよく相関しており,アンケートによる自己評価の妥当性が確認された。Steenらによる1,250例のSSc患者を対象としたHAQの経時的な検討では,HAQ-DIがスキンスコア,心,腎病変,手指の拘縮,腱摩擦音の有無と相関し,とくに多変量解析では生命予後と最も強く関連する因子として抽出された↑46)↑。また,HAQ-DIはスキンスコア,VASによる患者の総合評価,手指機能を反映する手の伸張や手指の屈曲の指標と平行して変動する↑34,46)↑。Diffuse型を対象とした2年間の追跡では,最初のHAQ-DIが高い例(≧1.0)では予後が悪いこと,HAQ-DIの0.2以上の改善はスキンスコア,手指機能,医師の総合評価の改善と関連することが見出された↑13)↑。HAQは特別な装置や専門家を必要とせず,安価で,迅速に,しかも簡単にどこでも行える利点を有し,欧米では標準的なSScの評価法として普及している。
 HAQ-DIは手指の機能障害により強く影響を受けることから,SSc患者における全般的な機能障害を的確に評価できない可能性も指摘されている。例えばSScにみられる末梢循環障害,消化器症状などは従来のHAQに含まれる質問項目での評価は難しい。そこで,HAQの質問項目を改変したり↑47,48)↑,消化管や肺など臓器ごとのVASの併用が提唱されているが↑46)↑,これらの有用性については今後の検討が必要である。

2.HAQの調べ方
 米国で行われたrelaxinの臨床治験↑15)↑で実際に用いられたHAQアンケートを日本語訳したものを図4に示す。RAで用いられているHAQ↑38)↑と基本的に同じである。日本の生活習慣に合わない質問項目については改変した。たとえば,「肉をナイフで切る」という項目は「箸で食べ物をつかむ」へと変更したが,これら改変の妥当性については今後の評価が必要である。HAQではアンケートを患者自身に記入してもらい,その結果をもとに機能障害指数(HAQ-DI)を算出する。着衣と身繕いなどの8つのカテゴリーに分類した合計20の項目のそれぞれについて,「簡単にひとりでできる」は0点,「何とかひとりでできる」は1点,「人に手伝ってもらえばできる」は2点,「全くできない」は3点とする。各カテゴリーの中の最高値をそのカテゴリーのindexとし,8つのindexの平均値をHAQ-DIとする。欧米での検討ではdiffuse型の発症早期で1.0―1.2,limited型の発症早期で0.3―0.6程度である。diffuse型の多くの例では経過と共に減少するが,limited型では徐々に増加する場合が多い。

Z.お わ り に

 今回のわれわれの試みによりわが国でもSSc患者の評価法が普及し,一般診療,臨床研究,さらには有効な治療法の開発に役立つことを期待したい。最後に,本稿を執筆するに当たり御指導いただいたThomas A. Medsger Jr.(University of Pittsburgh),Verginia D. Steen(Georgetown University),Carol M. Black(Royal Free Hospital),James R. Seibold(University of Medicine and Dentistry of New Jersey-Robert Wood Johnson Medical School)の諸先生方に深謝致します。
 今回紹介したSScの評価法に関するパンフレットは強皮症研究会議(Scleroderma Study Conference)のホームページ(http://web.kanazawa-u.ac.jp/〜med2/24/SSc.html)で公開している。


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