T.は じ め に
アラキドン酸(AA)は生体膜のリン脂質にエステル結合した形で貯蔵されており,ホスホリパーゼA↓2↓(PLA↓2↓)の作用で適宜遊離され,シクロオキシゲナーゼ(COX)により各種プロスタグランジン(PGs)の共通中間前駆体であるPGH↓2↓に変換される。近年の分子生物学の研究から,サイトカインなどの刺激により炎症細胞で強く発現する誘導型COX-2が1991年に発見され,再びPGs研究が活発になっている。COX-2は炎症ばかりでなく,関節リウマチ(RA)などの関節炎,大腸癌などの発癌やアルツハイマー病などの病態にも関与していることが明らかになって,がぜん注目されている。
COX-2活性のみを阻害する非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)は構成型COX-1由来の生体機能維持に関わるPGs阻害による胃潰瘍などの副作用のない理想的な抗炎症薬と考えられる。最近,数種類のCOX-2選択的阻害薬がRAや変形性関節症患者に臨床応用され,従来のNSAIDsに比べ抗炎症作用は同等で胃潰瘍などの副作用が有意に少ないことが大規模試験で明らかにされている。COX-2選択的阻害薬は米国では家族性大腸ポリポーシスにも臨床適応され,アルツハイマー病においても臨床試験中である。現在,さらにCOX-2の選択性の高い薬剤も開発されており,その効果に期待が集まっている。
本稿では,COX-2の基礎,生理機能,PGsとその受容体,炎症,骨とCOX-2との関係,COX-2制御機構,PPARとCOX-2,炎症の回復とCOX-2/NF-κBなどについて最近の知見を交えて解説する。 U.PGsとその受容体
PGは特異的な5員環に2つのアルキル側鎖を持つ炭素20個の不飽和モノカルボン酸を基本構造とする。PGsは1930年代に子宮を収縮する脂溶性の低分子物質として精液中に見出された。その後の研究により,PG生合成のメカニズムも詳細に解明されている↑1)↑。最近では,PGsやTXsの受容体の構造の決定とともに,それらの細胞内情報伝達系の違いも明らかにされた↑2)↑。
炭素数20の必須不飽和脂肪酸であるAAは細胞膜の構成成分であるリン脂質に含まれているが,さまざまな刺激により活性化されたPLA↓2↓によってリン脂質から細胞内へ遊離される。遊離されたAAはCOXによって代謝され,中間体のPGG↓2↓,PGH↓2↓へと変換される。
COXはPGG/PGH合成酵素あるいはPGH合成酵素と呼ばれることもあるが,PGエンドペルオキシド合成酵素が公式名である。この酵素はdual
enzymeであり,AAからPGG↓2↓までのシクロオキシゲナーゼ活性とPGG↓2↓からPGH↓2↓を産生するペルオキシダー活性を併せ持っている。さらに各種細胞に存在する特異的な合成酵素により生理的に重要な4種類のPGs(PGD↓2↓,PGE↓2↓,PGF2α
,PGI↓2↓)とTXA↓2↓が合成される(図1)↑2)↑。これらの代謝物は生成された後,細胞内に留まらず細胞外へ遊離されて,オータコイドとしてそれぞれの細胞膜受容体に結合しその作用を発揮する(表1)。
プロスタノイドはそれぞれの産生された細胞の種類により生理活性が異なる。TXA↓2↓は主に血小板で作られ,血小板凝集,血管収縮作用を有し,止血反応や血栓形成に関与する。一方,PGI↓2↓は血管内皮細胞で主に合成され,血小板凝集抑制,血管弛緩作用を有し,TXA↓2↓の作用をフィードバックする。これらの作用は標的細胞上のプロスタノイドに特異的な受容体を介して発揮される。PGs(PGD↓2↓,PGE↓2↓,PGF2α
,PGI↓2↓)とTXA↓2↓にはそれぞれ特異的な受容体,EP,DP,FP,IP,TPの5種類が存在する。EPはさらにEP↓1-4↓の4種類のサブタイプに分かれており,それぞれ細胞内情報伝達系が異なっている。これらの受容体はすべてG蛋白共役型のロドプシン型の7回膜貫通構造を有している。しかし,実際に生体内でプロスタノイドが果たす役割やその意義については充分には解明されていない。京都大学の成宮教授のグループが受容体ノックアウトマウスを用いてPGの役割について詳細に研究されている↑2)↑。
最近,PGの核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator-activated
receptors;PPARs)が注目されている↑3,4)↑。PPARには3つのサブタイプ,α,δ(またはβ),γが同定されている。それらは,特異的なリガンドで活性化され,転写調節に関与する因子として働いている。機能としては脂質代謝のホメオスターシスにおける役割のほか,炎症の調節,泡沫細胞の分化や機能調節などにおける役割が知られている。とくに,PPAR-γは炎症を促進する転写因子(AP-1,STAT,NF-κB)と拮抗することにより炎症を抑えたり,マクロファージの活性化を抑制したり,そのリガンドである15-deoxy-Δ↑12,14↑-PGJ↓2↓(15d-PGJ↓2↓)がPPAR-γに結合し炎症を抑えると報告されている↑5,6)↑。 V.COX-2の構造
COXはAAからPGsやTXsを合成するアラキドン酸カスケードの最初に働く律速酵素である。そのCOXに誘導型のアイソザイム,COX-2が存在することが1991年に米国のSimmonsとHerschmanの2つのグループにより初めて報告された↑7,8)↑。COX-2は炎症部位でさまざまな炎症細胞に著明に発現誘導され,とくに炎症に関与するPGであるPGE↓2↓やPGI↓2↓などがCOX-2を介して産生される。通常ではCOX-2はどの細胞にもほとんど発現していないが,サイトカイン,ホルモン,発癌プロモーターなどの刺激により急速かつ一過性に発現誘導され数時間で消退する誘導型の酵素である↑9〜12)↑。一方,従来より知られていたCOX-1はほとんどすべての細胞に細胞周期を通じて一定レベルで発現する構成型酵素であり,胃粘膜保護や正常な腎機能など生体保護に働くPGsを合成するとされる↑9〜12)↑。
COX-2はCOX-1と約60%のアミノ酸配列の相同性を持ち,分子量は約71Kで,構成アミノ酸の数はCOX-1は576個,COX-2は604個からなり,ほぼ同じ長さである(表2)↑9〜12)↑。COX-2ではN末端のシグナルペプチド部位がCOX-1に比べ短く,逆にC末端近くに18個のアミノ酸の挿入がみられる。しかし,膜貫通領域,ヘムリガンドのヒスチジン,活性に関与するチロシン,aspirinによりアセチル化されるセリンの位置などは両者で非常によく保たれている。活性中心のアミノ酸配列はCOX-1の523番目のイソロイシンとCOX-2のバリン以外は両者でほとんど同じだが,そのあとにCOX-2ではサイドポケットと呼ばれる部分が存在し,そこにCOX-2選択的阻害薬の作用点があるとされる。
ヒトCOX-1遺伝子は第9染色体q32―q33.3上にあり,COX-2遺伝子は第1染色体q25.2―q25.3に局在し,両者は異なった遺伝子によって支配されている。ヒトCOX-2遺伝子は8.3kb,10個のエキソンと短く,COX-1は22kb,11個のエキソンで構成されている。細胞内局在はどちらも小胞体と核膜に存在する。mRNAの長さもCOX-2は4.5kbであり,COX-1は2.8kbと異なる。また,COX-2が誘導されやすい原因としては,プロモーター領域にTATAボックスをはじめ,cAMP応答エレメント,NF-IL6,NF-κB,SP1などの転写因子の結合部位が多数存在することが挙げられる。さらに,3'
領域にmRNAの不安定化に関与すると考えられるAUUUA配列を多数持っている。これらのことも,COX-2が誘導酵素であることと関係がある。一方,COX-1のプロモーター領域にはSP1,AP-2の結合部位は存在するが,他の核転写因子の結合部位はなく,TATAボックスやcAMP応答エレメントなども認められない。そのため,ハウスキーピング遺伝子として働くことが説明できる。
1971年Vane博士はNSAIDsの作用機序としてCOXの活性を抑え,PGs産生を抑制することによりその効果を発揮することを示した↑13)↑。1992年にはCOX-2は炎症での悪玉であり,COX-1は善玉という仮説が提唱され,COX-2活性のみを阻害し,COX-1活性を阻害しない薬剤が消化器障害などの副作用のない理想的なNSAIDであるとの考えのもと,多くの製薬会社の研究室でCOX-2選択的阻害薬が開発された。その結果,coxib系NSAIDsであるrofecoxib,celecoxibなどが開発され臨床応用されている。それらの発現機構も分子レベルで解明され,欧米ではすでにRAや変形性関節症(OA)患者に臨床使用され,その有効性と副作用の少なさが注目されている。しかし,それらにはCOX-1由来の血小板でのTXA↓2↓産生,血管内皮のPGE↓2↓などの抑制など,抗血小板作用の抑制作用がないため,動脈血栓の増強が問題となっている↑14)↑。 W.COX-2の生理機能
両アイソザイムはそれぞれ生体内で異なった役割を担っている↑9〜12)↑。その理由として,おのおのの酵素の誘導の違いが挙げられる。COX-1活性は構成的にほとんどすべての細胞に存在するのに対し,COX-2は通常はほとんど細胞に存在せず,刺激により短時間に誘導される。COX-1は生理的で,COX-2は病理的と考えられる理由はCOX-2を誘導する大部分の刺激が炎症と関連しているからである。すなわち,LPSやIL-1,IL-2,TNF-αなどのサイトカインの刺激でCOX-2は誘導され,抗炎症性サイカインであるIL-4,IL-10,IL-13によりコルチコステロイドと同様に発現抑制される。一般に,即時応答にはCOX-1,遅発応答にはCOX-2が機能すると考えられている。
胃粘膜においては,通常COX-1のみ発現し,粘膜保護に働くことが知られている。IndomethacinなどのNSAIDsによる胃粘膜障害はCOX-1活性の阻害によるPGs産生抑制によって起こると考えられている。ただ,胃潰瘍の修復過程に潰瘍底の間葉系細胞にCOX-2発現がみられ,PG合成を介して増殖因子の合成,分泌を調節することも報告されている。
腎においては病的状態(心不全,肝硬変)における腎機能の維持にPGsが関与していることが知られている。そのため,NSAIDsの慢性的な投与はPGs産生の低下による腎虚血のによる腎障害を来す危険性がある。腎細胞で合成されるPGsは主にCOX-1由来だが,一部COX-2由来のものも存在するといわれる。培養ラットメサンギウム細胞はサイトカイン刺激によりCOX-2が誘導され,PGE↓2↓やPGI↓2↓が産生されるという。さらに,PGI↓2↓やその他のCOX由来PGsは傍糸球体細胞によるレニン分泌を直接刺激することも知られている。ラットのマクラデンサ(密集斑)や髄質の間質細胞にもCOX-2は発現し,塩分欠乏によりマクラデンサのCOX-2の発現増強がみられると報告されている。マクラデンサは腎糸球体の血流量とレニン分泌の調節に重要な部位である。また,ACE阻害薬がCOX-2を誘導することも知られている。COX-2はレニンーアンジオテンシン分泌を調節し,その結果糸球体濾過率や塩分のホメオスターシスを調節していると考えられている↑15)↑。健康な高齢者ではCOX-2インヒビター(celecoxib)が腎のPGI↓2↓産生を減少させ,尿のNa排泄を有意に減少させ,非特異的なNSAID(naproxen)は正常腎の糸球体濾過率を減少させるといわれる。また,COX-2ノックアウトマウスでは腎の奇形がみられ,腎の発達にCOX-2が必要であると考えられる↑16,17)↑。
COX-2は脳では構成的に発現し,平常時のシナプスの活動を反映しており,学習や記憶,中枢神経系の発達,知覚の入力, 統合など多くの重要な生理機能を司っていることが明らかにされている↑18)↑。
血小板にはCOX-1しか存在しない。NSAIDsによる血小板凝集抑制作用はよく知られている。そのため,アスピリンなどのNSAIDsは血栓予防によく使用される。これはCOX-1活性を抑え,TXA↓2↓産生を減少させることを利用している。
このように,COX-1は血小板,胃,腎,精【嚢】で存在し,血小板凝集,胃液分泌,利尿などの生理的な役割を担うのに対し,COX-2は誘導型酵素で,サイトカインや発癌プロモーター(TPAなど),ホルモンなどの刺激により,マクロファージ,線維芽細胞,血管内皮細胞,癌細胞などで誘導され,炎症反応,血管新生,アポトーシス,発癌,排卵,分娩,骨吸収,ショック時の血圧低下などに関与するPGsを合成する(表2)。ただ,構成型COX-2が脳,腎,膵などに存在する。 X.炎症とCOX-2
炎症部位ではマクロファージ,線維芽細胞,血管内皮細胞などでCOX-2発現がみられる。COX-2由来のPGsのうちPGE↓2↓は発熱,発痛,血管透過性亢進,白血球遊走などに関与している最も重要なPGといっても過言ではない。ラットやヒトの急性炎症ではPGE↓2↓が産生され,ブラジキニンなどの血漿滲出作用を増強することにより,急性炎症における血管透過性亢進,すなわち血漿滲出を惹起する。COX-2はPGE↓2↓産生を介して炎症反応のうち,滲出液貯留に関与することは明らかである。
発痛についてはPGE↓2↓もPGI↓2↓も直接その作用はないが,知覚神経終末に作用してその感受性を長時間にわたって増大させる。生体内で最も発痛作用の強いブラジキニンは知覚神経終末付近でPGを産生し,PGがEP↓3↓受容体サブタイプを介して閾値を下げて痛みを起こすと考えられている↑19)↑。ラットアジュバント関節炎の実験から炎症性疼痛はCOX-2選択的阻害薬で抑制されることからCOX-2が関与することは間違いない。また,PGE↓2↓抗体によりラットの炎症性疼痛が抑制されることからPGE↓2↓も関与することは明らかである。しかし,反射性の疼痛にはCOX-1が関与する可能性がある。
PGE合成酵素には細胞質に存在するグルタチオン非要求性のPGE合成酵素と,膜結合型でグルタチオン要求性のPGE合成酵素の2種類が存在し,IL-1β刺激では膜結合型が誘導されると考えられている。このPGE合成酵素とCOX-2が膜を介して結合し,PGH↓2↓をPGE↓2↓に変換すると推察されている。
Y.RAとCOX-2
RAの特徴は急性炎症反応,肉芽性組織増殖,骨破壊,疼痛である。そのいずれの反応にもCOX-2が関与している。RA患者の滑膜細胞では,PGE↓2↓,PGF2α
,PGI↓2↓,TXA↓2↓などが産生され,関節液においてもPGD↓2↓,PGE↓2↓,PGF2α
,6-keto-PGF1α
,TXB↓2↓,leukotriene(LT)B↓4↓などの存在が知られる↑9,10)↑。RA患者ではOA患者に比べ関節液中のPGE↓2↓レベルが有意に高く,NSAIDsを服用しているRA患者ではステロイド服用患者よりもPGE↓2↓レベルは低いとされる。また,これらのPGsは軟骨細胞でも産生され,局所で生理機能やRAの発症に重要な役割を果たしているといわれる。とくに,PGE↓2↓はRAの滑膜組織での産生が亢進しており,血管透過性の亢進,発痛,発熱等の炎症惹起作用や,マクロファージやTリンパ球の機能抑制による抗炎症作用の両方を併せ持ち,滑膜組織での炎症や免疫反応を調節し,滑膜の増殖や血管新生にも関与している重要なメディエーターと考えられている。さらに,PGE↓2↓は骨芽細胞にも作用したり,破骨細胞に分化や機能発現やコラゲナーゼ産生の誘導,すなわち骨吸収活性の発現を促す作用も知られている。PGE↓2↓とPGI↓2↓はともに局所の血流増加作用やIL-1やブラジキニンなど血管透過性を増強するメディエーターの効果を強めることで関節炎の発症に関与しているといわれる。
RAの滑膜組織においてはCOX-1およびCOX-2ともに,表層細胞層,血管内皮細胞,炎症性単核球,フィブロブラスト様細胞において強く発現している(図2)↑10,20)↑。一方,OA患者の滑膜では,COX-1およびCOX-2の弱い発現が滑膜表層細胞に認められる↑10,20)↑。COX-1,COX-2の蛋白とmRNAは,ともにOA患者の滑膜に比較しRA患者に発現量が強いが,両酵素間の局在に差は認められない。SiegleらはRAの滑膜ではCOX-1に比べ,COX-2mRNAの発現量が多いこと,強直性脊椎炎や乾癬性関節炎においてもOAに比較してCOX-2の蛋白の発現が滑膜表層細胞や血管内皮細胞において有意に増加していること,COX-1蛋白の発現は各疾患間でほとんど差がないことなどを明らかにした↑21)↑。正常滑膜組織ではCOX-1,COX-2ともにほとんど発現がみられない↑10)↑。すなわち,炎症性関節炎においてはCOX-2遺伝子の発現が増強すると考えられる。
RAのモデルであるアジュバント関節炎においては関節炎の増強とともに滑膜でのCOX-2とPGE↓2↓の発現増強がみられ,COX-2阻害薬↑22)↑やCOX-2アンチセンスDNA↑23)↑などで関節炎が抑制されること(図3),COX-2ノックアウトマウスではコラーゲン関節炎の発症が抑えられ,COX-1ノックアウトマウスでは抑えられないことなどが知られている↑24)↑。
滑膜の培養細胞を用いた実験では,COX-2は,IL-1,TNF-α,LPSなどのサイトカインや,PMA/TPAなどのマイトーゲンや各種増殖因子によりその発現が増強する(図4)。RA患者の滑膜細胞はIL-1,PDGF,TNF-α,TGF-β,EGF,FGF-1,FGF-2などのサイトカインを産生することが知られている↑9,10)↑。滑膜組織ではこれらがオートクライン,パラクラインに働き,COX-2の発現を誘導しているものと考えられる。
RA患者においてはさまざまな視床下部―下垂体―副腎軸の機能異常が報告されている。そのために,炎症刺激に対して,視床下部からのcorticotropin-releasing
hormone(CRH)の分泌不全などにより,副腎皮質からCOX-2の発現を抑えるのに十分な量のグルココルチコイドの産生ができない可能性も考えられる↑25)↑。
COX-2と血管新生との関係も注目されている。RAの滑膜組織においても著明な血管新生がみられる。COX-2を介して産生されたPGE↓1↓やPGE↓2↓は直接血管新生を誘導するのではなく,VEGF(vascular
endothelial cell growth factor)を介して,血管新生を惹起することも知られている。筆者らはRAの滑膜の線維芽細胞にはEP↓1↓とEP↓2↓が発現し,VEGF遺伝子の誘導にはEP↓2↓受容体が関与していることを報告している↑26)↑。 Z.骨とCOX-2
骨は骨を吸収する破骨細胞と骨を作る骨芽細胞によって,一定の骨量が保たれている。この2つの細胞の機能的な平衡状態が破綻するとRAなどの骨代謝疾患が起こる。PGは骨芽細胞で多量に産生され,骨吸収や骨形成に対する作用などさまざまな機能が知られているが,主に骨吸収のメディエーターとして作用する。骨吸収と骨形成は多くのホルモンやサイトカインにより調節を受けるが,炎症に伴う骨吸収はIL-1,IL-6,TNF-αなどのサイトカインが関与すると報告されている↑27)↑。
骨で産生される主たるPGはPGEである。骨芽細胞にこれらのサイトカインが作用すると,著しいPGE産生が起こり,産生されたPGEは骨芽細胞に作用して破骨細胞の分化を亢進させるとともに骨マトリックスの分解を亢進させ,骨吸収を進める。COX-2は骨芽細胞で発現しており,骨におけるPG合成の主たる調節酵素である。COX-2はPTHなどのホルモンやIL-1,FGF-2などで発現誘導され,ステロイド,コルチコステロイド,IL-4などで発現抑制されることが新生児マウスの頭蓋骨の培養系で報告されている。破骨細胞に対してはFGF-2がFGF-R1を介して骨吸収と働く作用も認められている。また,破骨細胞の形成もFGF-2抗体により完全にブロックされている。さらに,COX-2阻害薬のmeloxicamも同様に破骨細胞の形成をブロックした。RAにおいてもFGF-2を介したCOX-2誘導による関節破壊機序が考えられると川口らは報告している↑28)↑。
最近,PGE↓2↓がストローマ細胞のEP↓2↓,EP↓4↓に作用し,破骨細胞分化誘導因子(ODF,RANKL)産生を促し,その結果破骨細胞形成を促進することが明らかにされた。一方,PGE↓2↓は骨芽細胞に作用し,コラゲナーゼなどのMMPsを誘導し骨吸収を進行させることが知られている。また,PGE↓2↓はEP↓4↓受容体を介して骨吸収作用を発揮すると考えられている。 [.COX-2制御機構
COX-2の発現調節については多くの論文がある↑14)↑。COX-2阻害薬について,Kurumbailらは高度COX-2選択的阻害薬であるcelecoxibのCOX-2選択性の発現機構について検討し,celecoxibのスルホンアミド側鎖がCOX-2の523番目のバリン(COX-1ではイソロイシン)のあとに存在する親水性のサイドポケットへ結合し,疎水性の部分はCOX-2の疎水性の部分へ結合する。そのため,COXのゲートが閉じられアラキドン酸が中に入れずPG合成ができないことを証明した↑29)↑。しかし,大きなスルホンアミド側鎖はCOX-1へは侵入できないのでCOX-1活性は抑えられない。一般のNSAIDsはそのカルボキシル基がCOX-1,2の共通にみられる120番目のアルギニンに結合し,疎水性の部分がCOXの疎水部に結合する。そのため,ゲートが閉じられアラキドン酸が酵素活性部位に到達できずPG産生ができないと考えられる。
現在,celecoxib,rofecoxib,meloxicamなどは世界数10カ国以上で使用され,また新たなCOX-2選択的阻害薬(JTE-522,valdecoxib,L-745,337など)の臨床治験も進んでいる↑10,30)↑。グルココルチコイドによるCOX-2転写の抑制機構としてはいくつか考えられているが,今のところグルココルチコイド受容体がAP-1,NF-κBなどの転写因子と結合してそれらの転写活性能を抑制するという機序と,COX-2の転写後調節機構にグルココルチコイドによる何らかの蛋白質のde
novo合成が関わっているのではないかとの推察がされている。
COX-2を阻害するものとしてはさまざまなものが知られている。COX-2mRNAの発現を阻害するものとしてはIL-4,IL-10,IL-13などのサイトカインのほか,COX-2のプロモーターに結合する転写因子のNF-κBのアンチセンスやp38
MAPK(mitogen-activated protein kinase)阻害剤もCOX-2発現を抑えると報告されている↑31)↑。RAの治療薬であるauranofin(経口金剤)にもNF-κBの核内への移行阻害により滑膜細胞のCOX-2mRNA発現抑制効果を認めている↑32)↑。
また,赤ワインに含まれるポリフェノールはホルボルエステルによるCOX-2の誘導を32.2μMのIC50で抑制すること↑33)↑,ビールのホップから抽出されたフムロンはTNF-αによるCOX-2の誘導を約30nMのIC50で抑制することなども明らかにされた↑34)↑。このように,COX-2を抑制する化合物が自然界にも多数存在すると考えられる。
\.PPARとCOX-2
近年,核内レセプターの研究が進み,リガンド未同定の核内レセプターいわゆるオーファンレセプターが多数存在し,その機能が明らかにされつつある。その中でも,PPARは最も飛躍的に研究の進んだ核内レセプターの一つである。
PPARは核内ステロイドホルモン受容体群の一種であり,レチノイドXレセプター(RXR)とヘテロ2量体を形成し,DNA結合領域であるperoxisome
proliferator responsive element(PPRE)と結合し,その下流域に存在する遺伝子発現を制御する。そのアイソホームには,PPAR-α,-δ(NUC1,β),-γの3種類がある。PPAR-γは,脂肪組織に豊富に存在し,主に脂肪細胞の分化を調節する以外に,脾臓,単球,骨髄前駆細胞などの免疫担当細胞に存在し,抗炎症や抗腫瘍作用に働く。PPAR-γのリガンドとしては,脂肪組織でのインスリン感受性を増強させ糖尿病の治療薬として広く臨床応用されているチアゾリジン誘導体や,アラキドン酸カスケードの代謝産物である15d-PGJ↓2↓,NSAIDsなどがある。チアゾリジン誘導体や15d-PGJ↓2↓はマクロファージにおいては一酸化窒素(NO)やIL-1,IL-6,TNF-αなどのサイトカインの産生,AP-1,NF-κBなどの転写因子の発現を抑制し↑5,6)↑,ヘルパーT細胞にも抑制的に働き,B細胞,B細胞リンホーマの増殖抑制など強力な抗炎症作用を発揮することや,線維芽細胞や血管内皮細胞にもアポトーシスを誘導し,in
vivoにおいても血管新生を抑制することが知られている↑35)↑。また,NSAIDsは,in vitroのCOX抑制効果に対し,in
vivoでの抗炎症効果発現には高容量のNSAIDsが必要であることから,NSAIDsの抗炎症作用機序にはPPAR-γが深く関与しているものと考えられている。
RAの関節滑膜組織では,PPAR-γが滑膜の表層細胞,炎症性単核球,血管内皮細胞,線維芽細胞にその発現が認められる(図5A〜D)。筆者らはPPAR-γ陽性細胞はマクロファージ系細胞であることを明らかにした↑36)↑(図5E)。また,RAの滑膜培養細胞でもPPAR-γのmRNAと蛋白の発現が認められた。Troglitazoneと15d-PGJ↓2↓を添加し24時間培養すると,未刺激の滑膜細胞で細胞質に存在していたPPAR-γは核内に移行し,アポトーシスを誘導してその増殖を抑制する。これは,PPAR-γリガンド自身がPPAR-γを核内に移行させ活性化して滑膜細胞に作用することを意味する。つぎに,RAのラットモデルであるアジュバント関節炎に,Troglitazoneや15d-PGJ↓2↓を腹腔内投与すると,関節組織の炎症性単核球浸潤,パンヌス形成やさらには骨破壊を抑え,関節炎を抑制した(図6A〜D)。しかし,関節炎を有意に抑制するTroglitazoneの量はヒトでインスリン感受性を増強させる量や15d-PGJ↓2↓の投与量(1mg/kg/day)と比較すると100倍以上の高容量であった。
RAの病態には,マクロファージ由来のサイトカインであるIL-1,IL-6,TNF-αなどの過剰産生と,それに伴う滑膜の腫瘍様の増殖が深く関与している。PPAR-γリガンドには,これらサイトカイン産生抑制作用や滑膜細胞の増殖を抑制するほか,exogenous
osteoprotegerin ligand(OPGL)によるNF-κB発現を低下させ,破骨細胞の分化を抑制するという報告もある↑37)↑。事実,筆者らの使用したin
vivoモデルでは,RAで骨破壊を起こさせる原因であるパンヌス形成を抑制した。さらに,PPAR-γリガンドは,血管内皮細胞にもアポトーシスを誘導し,in
vivoにおいても血管新生を抑制すること↑35)↑から,多彩な病態を示すRAに対して広範囲な作用機序により,非常に有効な薬剤であると考えられる。
15d-PGJ↓2↓はTroglitazoneに比較し,100倍強い関節炎抑制効果を持つ↑36)↑。In vitroでもマクロファージにおけるサイカイン産生抑制や滑膜細胞,血管内皮細胞のアポトーシス誘導において,15d-PGJ↓2↓がTroglitazoneを含むチアゾリジン誘導体に比較し5―10倍その効果が強く,15d-PGJ↓2↓にはPPAR-γリガンド以外の薬理学的な作用が存在することが示唆される。最近では,15d-PGJ↓2↓はPPAR-γとは無関係に,IκB
kinaseを抑制することも明らかになり↑38)↑,PPAR-γ(−/−)マクロファージにおいても,PPAR-γリガンドはサイトカイン産生を抑制するとの報告がある。そこで,筆者らは,滑膜細胞のアラキドン酸カスケード機構における15d-PGJ↓2↓とTroglitazoneの薬理学的な作用の差違について検討した↑39)↑。
RA滑膜培養細胞にIL-1βを投与すると,cytosolic PLA↓2↓,つぎにCOX-2が誘導され,血管新生や骨軟骨のびらんなど炎症メディエーターとして重要な作用を持つPGE↓2↓が産生される。IL-1β添加時に15d-PGJ↓2↓を投与すると,容量依存的にCOX-2,cPLA↓2↓の発現が抑制され,その結果,PGE↓2↓の産生が抑制された。さらに,同様の条件下でTroglitazoneを高濃度投与しても,COX-2,cPLA↓2↓,PGE↓2↓の発現は抑制されなかった。一方,lipoxygenase系においては,Troglitazoneは5-lipoxygenaseを抑制し,その産物であるLTB↓4↓,cysteinyl-LTs(Cys-LTs:LTC↓4↓,LTD↓4↓,LTE↓4↓)の発現を抑制した。これに対し,15d-PGJ↓2↓のLTB↓4↓,Cys-LTsの発現抑制作用はTroglitazoneに比較し弱く,5-lipoxygenaseの抑制作用はないことから,15d-PGJ↓2↓はcPLA↓2↓の発現抑制の結果LTB↓4↓,Cys-LTsを抑制したものと考えられた。
このように,15d-PGJ↓2↓とTroglitazoneは滑膜培養細胞のアラキドン酸カスケードにおいて,異なる制御機構を持ち,とくに15d-PGJ↓2↓はCOX-2だけでなく,cPLA↓2↓の発現をも抑制し,関節滑膜でのPGsの発現をコントールし,炎症や滑膜の増殖を強力に抑制することが明らかになった(図7A,B)。Boyaultは15d-PGJ↓2↓は軟骨細胞において,NF-κBとAP-1の活性化を抑制し,IL-1βにより誘導されるCOX-2とiNOSの発現を抑制することを報告している。さらに,PPAR-γと2量体を形成するRXRのリガンドであるレチノイドもCOX-2発現を抑制する作用があることも知られている。PPAR-γリガンドの有効性は炎症性腸疾患↑40)↑でも明らかにされており,RAなどの関節炎への臨床応用も今後期待されている。
].NF-κBと炎症
炎症には炎症惹起や抗炎症メディエーターの産生を導くシグナル経路の連続した活性化が重要であるが,炎症のスイッチオフや炎症回復期の機序はあまり知られていない。転写因子であるNF-κBは炎症惹起遺伝子の誘導において主要な役割をするとともに,炎症性疾患の治療の標的でもある。炎症において増加する白血球におけるNF-κBの活性化は炎症惹起遺伝子の発現に関与している。一方,炎症回復期におけるNF-κBの活性化は抗炎症遺伝子発現とアポトーシスの誘導に関与している。炎症回復期のNF-κBの抑制は炎症反応を長びかせアポトーシスを防ぐ。このようにNF-κBは炎症回復の調節を含む抗炎症において重要な役割を持っていると考えられる。
Lawrenceらは炎症反応の進展における好中球のNF-κB活性化について報告している↑41)↑。ラットカラゲニン肉芽腫とマウスカラゲニン空気【嚢】の2つの炎症モデルを用いてNF-κBが炎症の開始と回復期に関与すること,さらにNF-κBの活性化はiNOS発現や炎症惹起メディエーターの分泌には関与せず,内因性抗炎症経路の発現と白血球のアポトーシスに関与することを示した。また,炎症回復期にNF-κBを抑制すると炎症が長びき,白血球の除去が妨げられることや炎症回復期には,白血球のアポトーシス誘導とマクロファージによる除去が重要であることが明らかにされた。
Cyclopentenone PGsは内因性抗炎症メディエーターであり,炎症の回復を促すことが知られている↑42)↑。好中球のアポトーシス誘導が炎症性疾患の新しい治療へのアプローチであると考えられる。ラットカラゲニン胸膜炎は急性炎症のモデルであるが,24時間で好中球の増加(単核球貪食↑)がピークを示し,48時間で回復する。これらの実験から炎症の発症には,COX-2とiNOSの発現,炎症惹起メディエーターのPGE↓2↓とNO産生とが関連し,炎症回復期にはCOX-2は増加するが,PGE↓2↓やiNOS発現はなく,15-d-PGJ↓2↓やその前駆体であるPGD↓2↓の産生を伴うことが明らかになっている↑41)↑。
今後の炎症研究の標的はこれらの抗炎症性PGsやPPAR-γを含む核内受容体になるかもしれない。 文 献
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著者紹介
1978年 京都府立医科大学卒業
1986年 京都大学大学院修了
1978年 京都大学医学部付属病院内科 研修医
1979年 国家公務員共済組合連合会新香里病院内科 医員
1985年 京都府立医科大学第一内科 修練医
1987年 同 助手 1988年 米国国立衛生研究所・リウマチ部門 客員研究員
1990年 同 客員助教授
1992年 京都府立医科大学第一内科 助手
1996年 同 講師(現職)
1999年 同大リウマチ・膠原病・アレルギー内科 診療科長(兼任)
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