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リウマチ Vol.42 No.4             
「全身性エリテマトーデスの疾患感受性遺伝子はいつ同定できるか」
 
橋本博史
 
 全身性エリテマトーデス(SLE)を含む膠原病・リウマチ性疾患の多くは多因子性疾患で,その発症に遺伝的要因と環境因子が重要視されている。現在,ゲノム解析によりこれらの疾患の感受性遺伝子の同定が精力的に行われているが,その解明は必ずしも容易ではない。
 SLEの発症に遺伝的要因が関与していることはいくつかの事実により明らかである。SLEが家族集積性に認められることはこれまで数多く報告されている↑1〜3)↑。SLE患者の第一度近親におけるSLEの発症率を,年齢,性,人種に一致をみるリウマチ性疾患の既往のない一般集団のそれと比較し検討すると,SLE患者の家系に有意に多く(10.4% vs 1.3%)↑1)↑,約10倍の相違がある。また,SLEは女性に好発するが,家族内発症においても姉妹,母娘など女性同士の組み合わせが多く男性同士は少ない。さらに,一卵性双生児におけるSLEの発症の一致率(24〜69%)が二卵性双生児(2〜9%)に比べ有意に高いこと↑4,5)↑が家族内発症率の高さと共に遺伝的関与を強く支持している。反面,一卵性双生児におけるSLE発症の不一致率が31〜76%にみられることは,発症時期の問題はあるとしても遺伝的要因のみでは説明がつかず,環境因子の関与が重視される一つの根拠となっている。
 遺伝的にはpolygenicで複数の疾患感受性遺伝子が関与するが,SLEの発症にどのくらいの数の遺伝子が関与しているのか定かでない。双生児の検討においては,非遺伝的要素が一卵性と二卵性双生児に同じ強さで作用し,かつ両者にみられる一致率の差が遺伝子の相違によって規定されていると仮定した場合には,SLEの発症に少なくとも3ないし4つの遺伝子が関与していることが示唆されている↑6)↑。研究者によっては,通常の場合一ダース程の感受性遺伝子を推定している。
 SLEの遺伝子の解析では,従来,女性に好発することから性染色体や性ホルモンなどに関わる遺伝子や自己免疫機序が示唆されていることから免疫応答遺伝子であるHLA抗原の検討が進められてきた。
 エストロゲンとテストステロンは自己抗体産生には相反する作用を持ち,前者は亢進的に後者は抑制的に働く。また,男性SLEでは,免疫能を増強させる作用のある16-α-hydroesteroneとprolactinは女性と同等に有することが指摘されている↑7)↑。これらのことはSLEが女性に好発し男性に少ないことを考えると好都合であるが,もともと免疫グロブリンのIgM量は男性に比べ女性に多く,これはX染色体の数的支配を受けていると考えられる↑8)↑。IgM量は三つのX染色体を有する女性,正常の女性,正常男性の順に多く,その量の相違はエストロゲンの影響によると考えられる。
 SLEの女性優位をX染色体異常によると考えた場合クラインフェルター症候群にSLEが有意に多く発症するかどうか注目されるが,これは否定的で,男性SLEにおけるX染色体異常も否定的である↑9)↑。
 現在のところ,SLEの発症に性染色体異常が関与しているという事実はなく,性ホルモンは発症後の促進因子として関わっていると考えられる。性ホルモン受容体はいくつかの遺伝子の転写を調節するDNA結合ドメインを有し,性ホルモンがSLEの発症や発症後の促進に関与する遺伝子とどのようなつながりを持っているのか今後の課題である。
 一方,SLEとHLA抗原との関連は20年前より検討されてきたが,現在ではクラスUのDR2(DRB1↑*↑1501),DR3(DRB1↑*↑0301)とそれらのハプロタイプがSLEと関連することが知られている。また,人種によるHLA抗原の分布の相違により日本人はHLA-DR2とのみ関連を認め,ヨーロッパ系集団,アフリカ系集団では両者との関連を認め,人種による相違も明らかにされている↑10)↑。
 補体を含む遺伝子がコードされているクラスVではC4A↑*↑QO(C4Anull)とSLEとの関連が認められるが,ヨーロッパ系集団ではC4A遺伝子欠失を認め,DR3とのハプロタイプを形成し関連するが,日本人では遺伝子欠失は認めずDR2と独立して関連を認め,人種により異なる。
 HLA抗原との関連を見る相対危険率は必ずしも高いものではないが,疾患感受性遺伝子の一つないしは異なる感受性遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子と考えられる。しかしながら,SLEと関連するHLA抗原を持たないSLE症例も存在し,この場合,HLA以外の特定の遺伝子の組み合わせがHLA対立遺伝子の必要性を無視してしまう可能性,ないしは,SLEに直接関係する未知のHLA遺伝子座が存在する可能性を含んでいる。
 近年,SLEの疾患感受性遺伝子座をmappingするためのゲノムスキャンは,HLA抗原のみならずHLA以外の遺伝子座の検索も可能とし,ヒトと共にSLEのモデル動物においても精力的に検索されている↑11〜13)↑。しかしながら,遺伝子多型と表現型に多様性に富むヒトのSLEではトータルゲノムを対象とする感受性遺伝子の検索は容易ではない。現在のところ,解析のアプローチとして連鎖解析(linkage study)と関連解析(association study)が挙げられる。
 前者は,罹患同胞対連鎖解析法が用いられ,多型に富んだ染色体を区別する可能性の高いマイクロサテライトマーカーを用い,疾患感受性を有する対立遺伝子と連鎖したマーカーに関し同胞間で共存する率が一般集団に比し高いかどうかを利用する方法である。
 後者は,HLA抗原との関連で検討されたように,候補となりそうな遺伝子に焦点を合わせ,候補遺伝子内に存在する多型と疾患との関連を非血縁者健常対照者と比較し検討する方法である。
 両者には一長一短があり併用がすすめられている。具体的には,例えば,罹患同胞対法により300個程度のマイクロサテライトマーカーを用いて候補領域を10〜20cMに絞り,その後SNP(single nucleotide polymorphism)を用いた関連解析により感受性遺伝子座位の同定を行い,平行してTDT(transmission disequilibrium test)により検証を行うことも可能である。TDTでは発端者である患者と両親のDNAサンプルが必要であるが,両親が患者である必要はない。これらの結果に基づき,絞り込まれた多型につき最終的に機能解析が行われる。未だすべてのSLEの候補遺伝子の座位が明らかにされているわけではないが,ゲノムワイドの連鎖解析でこれまで報告されているSLEの感受性候補領域を表に示す↑11)↑。
 一方,遺伝的解析をする際に臨床的に問題となるのは症例の抽出である。一般に,多因子性疾患は疾患感受性遺伝子と疾患表現型の関係が崩れやすいことが特徴とされている。すなわち,同じ遺伝子を持っていても表現型は必ずしも同じとは限らず,また,表現型が同じであっても同じ疾患感受性遺伝子を持っているとは限らない。従って,その解析に際しどのような表現型をもって疾患感受性遺伝子と関連があるとするのかが問題となる。
 SLEの遺伝子解析に際して少なくとも診断基準を満足する症例の集積が必要であるが,それらの臨床病態は必ずしも画一的ではなく,むしろ多様性が特徴である。多因子性疾患はある連続分布が診断基準などの人為的切断によって定義され,その症候は強く現れる場合からほとんど正常なものまであって,単因子遺伝性疾患の症候が正常域から離散しているのと異にする。
 SLEが臨床的に顕性化するまでの過程を考えてみると,疾患感受性遺伝子を持っているが未だ発症していないpredisposition phase,抗原提示細胞ないし自己反応性B細胞がヘルパーT細胞へ抗原を提示し,一部の自己抗体に対しIgM抗体の産生をみるinduction phase,次いで,自己反応性T細胞,B細胞のclonal expansionとclass switchによるIgGクラス自己抗体の産生を特徴とするexpansion phase,そして臨床的に顕性化するinjury phaseへと進展する↑6)↑。疾患感受性遺伝子がこれらのphaseに関与している可能性もあるが,それぞれのphaseで異なる遺伝子が関与している可能性もある。
 このような観点から,進展過程の中でどの時点を捉えSLEとすべきなのかが問題となる。候補遺伝子はSLEそれ自体とSLEに関連する表現型に多面的効果を持っている可能性があり,発症に関わる遺伝子の解析には,SLEの発症早期ないし顕性化する以前の病態をも捉え解析する必要があるように思われる。発症後の解析では病態をより均一にした遺伝的解析が必要で,すでに病態との連鎖解析が行われている↑14)↑。
 発症前の疾患感受性遺伝子を有するSLE症例を捉えることは極めて難しいが,そのアプローチの方法として,一つはSLEのモデル動物において明らかにされた感受性遺伝子と相同性をみるヒトの遺伝子の解析があり,この手法による解析も行われている↑15)↑。
 また,表現型との関連では,能勢ら↑16)↑はMRL/lprマウスと非発症系統マウスとの交配,退交配により多彩な病像が複数の遺伝子により支配され,それらの遺伝子間に相加性と階層性(優位か否か)が存在することを明らかにしており,ヒトにおいても検証されるべき事象と考えられる。
 もう一つは,前述したSLEの発症をみる一卵性双生児の検討である。一卵性双生児における一致率は以前に比べ低いことが指摘されている↑5)↑が,遺伝的解析と環境因子の解析にとって極めて重要であることに変わりなく,特に一方がSLEを発症し,残る一方が未だ発症していない場合の経時的な解析が重要である。しかしながら,SLEの発症をみる一卵性双生児の集積は極めて困難で多施設による研究が必要である。
 もう一つは,筆者らが行っているSLEの母親から出生する児のfollow up studyである↑17)↑。SLE発症前の病態を捉え遺伝的関与との関連を検討しているが,現在のところ未だ有意な知見は得られていない。これまで284人の児を経過観察しているが,抗核抗体陽性者(26.4%)は健常者に比べ有意に多く,かつ女児に有意に多い。SLEないしSLEのある進展過程の一時期を捉え罹患同胞対連鎖解析と共にTDT解析による候補遺伝子の検証が可能と思われる。
 SLEの候補遺伝子の同定が進められている中で,症例の集積はもとより乗り越えるべき壁も多い。すべてのSLE疾患感受性遺伝子を同定し多因子性の実態を明らかにするには,次世代へ継承できるほどの長期にわたる多施設の共同研究体制が必要と思われる。
 芸術の世界では,気の遠くなる話にバルセロナで建築されている有名な聖家族(Sagrada Familia)教会がある。バルセロナは1993年に国際リウマチ学会が開催された場所でもあり,この教会をご存じの読者も多いことと思われる。聖家族教会は1882年にVillarが起工し,1891年からGaudiが引継ぎ,彼の死後(1926年)も建築が続けられている。教会の中で,Gaudiによって建設された御誕生のファサードはそれだけで一つの建築とみなすことが出来,独立した価値を持つとされている。全教会の完成は200年後とされているが,起工計画が出された時期はKaposiによりSLEが全身性疾患であることが指摘された頃である。少なくとも教会が完成される前にSLEの感受性遺伝子が解明されることを期待したい。因みにGaudiは幼少時よりリウマチに罹患し病弱であったが,今年は生誕150周年にあたる。
謝辞:貴重なコメントをいただきました東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学教室土屋尚之助教授,順天堂大学医学部病理学第二講座廣瀬幸子助教授,Dr. Tsao BP(Division of Rheumatology, UCLA)に深謝いたします。

文 献
1) Hochberg MC, Florsheim F, Scott J et al:Familial aggregation of systemic lupus erythematosus. Am J Epidemiol 122:526-527, 1985
2) Lawrence JS, Martins CL, Drake GL:A family survey of lupus erythematosus. 1, Heritability. J Rheumatol 14:913-921, 1987
3) Hashimoto H, Takasaki Y, Hirokawa K:Systemic lupus erythematosus and congenital anomalies, focusing on neonatal lupus erythematosus and anti-SS-A/SS-B antibodies. Cog Anom 32:301-307, 1992
4) Block SR, Winfield JB, Lockshin MD et al:Studies of twins with SLE. A review of the literature and presentation of 12 additional sets. Am J Med 59:533-552, 1979
5) Deapen D, Escalante A, Weinrib L et al:A revised estimate of twin concordance in systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum 35:311-318, 1992
6) Gulko P, Winchester RJ:Genetics of systemic lupus erythematosus. In Lupus, Molecular and Cellular Pathogenesis(Kammer GM, Tsokos GC, eds), pp101-123, Humana Press, Totowa, 1999
7) Lavalle C, Loyo E, Paniagua R et al:Correlation study between prolactin and androgens in male patients with systemic lupus erythematosus. J Rheumatol 14:268-272, 1987
8) Rhodes K, Markhan RL, Maxwell PM et al:Immunogloburins and the X-Chromosome. Br Med J23:439-441, 1969
9) Masi AT, Kaslow RA:Sex effects in systemic lupus erythematosus:a clue to pathogenesis. Arthritis Rheum 21:480-484, 1978
10) Hashimoto H, Tsuda H, Matsumoto T et al:HLA antigens associated with systemic lupus erythematosus in Japan. J Rheumatol 12:919-923, 1985
11) 黒木喜美子,土屋尚之:慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデスの遺伝素因,リウマチ科26:39-44,2001
12) 広瀬幸子,姜  奕:SLE感受性遺伝子:NZB/WF1モデルのトータルゲノム解析,炎症と免疫9:377-384,2001
13) 能勢眞人:膠原病の感受性遺伝子:MRL/lprモデルのトータルゲノム解析,炎症と免疫9:408-416,2001
14) Rao S, Olson JM, Mosser K et al:Linkage analysis of human systemic lupus erythematosus-related traits:a principal component approach. Arthritis Rheum 44:2807-2818, 2001
15) Tsao BP, Cantor RM, Kalunian KC et al:Evidence for linkage of a candidate chromosome 1 region to human systemic lupus erythematosus. J Clin Invest 99:725-731, 1997
16) 能勢眞人:膠原病の病像多様性・類似性の起源:モデルマウスのゲノム解析によるアプローチ.日病会誌89:41-59,2000
17) 橋本博史:膠原病の病像・予後の変貌とその要因,リウマチ41:672-686,2001
 

著者紹介
 1964年 順天堂大医学部卒業
 1969年 同大学院医学研究科終了
 〃 同大膠原病内科 助手
 1972年 同 講師(医局長) 1980年 UCLAリウマチ科留学
 〃 順天堂大膠原病内科 助教授
 1994年 同 教授(現職)
 2002年 同大医学部附属越谷病院 院長(現職)
主要研究テーマ:膠原病・リウマチの成因と治療法

表 genome-wide linkage analysesから報告されたSLE感受性候補領域↑11)↑

染色体上の領域集団当該領域の主要な候補遺伝子

1p36 Cauc, Hisp TNFR2, C1q, CD30, CD134, OX40, ID3
1p21 Cauc, Hisp CSF-1
1p13 Cauc CD2, CD58
1q23 AfrAm, EurAm,
Cauc, Hisp Fcγreceptor (FcγR) UA, UB, VA, VB, CD1
T-cell receptor (TCR)ζ, FasL, CD134L, Selectin P, L, E
1q31 AfrAm, EurAm IL-10, SSA/Ro, DAF, CR1, CR2, C4BP
1q41-42 AfrAm, Cauc TGF-β2, PARP, HRES-1, TLR5
1q44 Hisp
2q11 Sw
2q15 Cauc
2q32 EurAm Cauc integrin α4, integrin α5, caspase 8, 10, FLIP
2q37 Sw, Ic SHIP, PD-1
3p21 AfrAm chemokine (CC) receptor
3cent-q11 Cauc
4p16-15.2 EurAm CD38
4p15-13 Ic
4q28 Cauc
6p26-27 EurAm
6p11-21 Cauc HLA, TNF
7p22 Cauc
7q36 Cauc
7q21 Cauc
10p13 Cauc
11p13 AfrAm CD44
11q14-23 AfrAm, Cauc IL-10 receptor
11q25 EurAm
12p12-11 EurAm CD4, SHP-1, CD69, C1, TNFR1
13q32 AfrAm TNFSF13B (BLyS)
14q11 AfrAm, EurAm TCRα, TCRδ
14q21-23 Cauc
15q26 Cauc
16q13 Cauc
18q21-22 Hisp, Cauc Bcl-2, RANK
19p13 Ic
19q13 EurAm, Ic CD22, KIR, ITR, ILT, TGF-β1, IL-11, CD33
20p12 Cauc SHPS-1, PCNA
20q13 AfrAm, EurAm CD40, ID1, DCR3
21q21 EurAm

Cauc:Caucasian, Hisp:Hispanic, AfrAm:African-American, EurAm:European-American.
Sw:Swedish, Ic:Icelandic.
P値<0.005, Maximum lod score〓1.5と検出された領域

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