免疫反応の始まりから収束まで,種々の細胞群が関与するが,なんといってもT細胞はその中心的役割を果たすと考えられる。T細胞と呼ばれる細胞群の中には,細胞性の免疫反応に関与するものから,B細胞の分化を助けるヘルパー細胞,標的を障害するキラー細胞,それにサプレッサー細胞と種々の異なった機能があることが判ってきた。機能別による亜群(subpopulation)の分類ができるT細胞の表面マーカー分子を検索している途上,そのリンパ球表面の分子群こそ,リンパ球の機能と密接な関係のある分子であることが明らかになってきた。われわれはこれらの分子の研究を続けているうち,リンパ球の活性化のためにco-stimulatoryのシグナルを入れ得る分子にはいくつか重要なものがあることを調べてきた。リンパ球上の分子は単に細胞間の接着だけに関与するだけでなく,接着の後に細胞内にシグナルを入れて,細胞を正にまた負に活性化するという意味を含めてリンパ球機能分子(lymphocyte
functional molecules)ともいっている。接着分子(adhesion molecule)というと単なる接着だけの役割のように思えるが,もっと複雑な細胞生物学的な働きを担っていると考えた方が,とくに免疫系における意味を論じるときには重要と考えている。
リンパ球機能分子はほとんど遺伝子レベルで同定されたものをもとに研究が行われているが,やはりその生物学的な重要性を知るためには,in
vitroよりはin vivoでのLFAに基づいた反応をみる実験系が最終的に最も大切だと考えている。とくに臨床に携わっている先生方にこの接着分子の臨床での意義を考察してもらうために,動物の個体レベル,臓器レベルでの働きの解明が有用と考える。われわれはとくにマウス,ラットの動物実験系を用い,免疫反応に関与する種々の機能分子の役割を調べている。
T細胞に関する接着分子はLFA-1(lymphocyte function associated antigen-1)や,ICAM-1(intercellular
adhesion molecule-1),VLA-4(very late antigen-4),VCAM-1(vascular cell
adhesion molecule-1)などいくつかの大切な分子が知られている。その中でもとくに注目するべきはT細胞のCD28を介する刺激である。CD28からのシグナルは休止期のT細胞を活性化させることのできる分子で,効率よく眠っているT細胞の目を覚ますことができる。また活性化したT細胞に出現してくるCTLA-4(cytolytic
T lymphocyte associated antigen-4)(CD152)は,活性化T細胞を再び静かにする反対のシグナルを入れるレセプターとして知られている。
数あるT細胞の機能分子のうちT細胞に活性化のシグナルを入れるものとして,このCD28が最も注目されている分子である。もちろん,活性化に関連した分子はほかにもあるが,CD28はT細胞にとって今のところ代表的な活性化関連分子である。T細胞の表面のCD28と接着してシグナルを入れることのできる分子,すなわちCD28のライガンドとして,マクロファージをはじめとしたAPC(抗原提示細胞APC;antigen
presenting cell)上のB7と呼ばれる分子が知られていた。それに加えて私たちの研究室で,数年前,同じくCD28を介してシグナルを入れることができる分子としてB70と名付けた分子を同定することができた。ちなみにB7,B70に相当するマウスにおける呼び方はB7-1,B7-2とも呼ばれている。人の分子B7,B70は現在CD80,CD86と呼ばれている。その後,免疫寛容特に末梢でT細胞の寛容(トレランス)成立の考え方に関し,このB7,B70分子の存在を通して,新たな概念が生まれた。
CD28を介して,シグナルを入れることのできるB7,B70分子の役割の相違が今や話題の一つで,種々の実験系でこの二分子の免疫反応における役割の相違が判明しつつあるが,一般に抗原提示細胞の上には両方の分子が発現している。マクロファージや皮膚のランゲルハンス細胞のように,T細胞を活性化させる必要のある細胞を抗原提示細胞といっている。B7,B70はこれらの細胞には必須である。B7,B70を介し,実に効率よくT細胞を活性化することができるので,またの呼び方をprofessional
APCとも呼んでいる。よく知られているようにこれらの細胞は抗原を取り込んで小さなペプチドに消化して,MHC(major histocompatibility
complex)抗原分子にそのペプチドを挟んで細胞表面に提示している。一方,私たちの体を構成している他の細胞もそのほとんどが細胞膜表面にMHCを表現している。しかし,T細胞は一般にはAPC以外のMHC分子とは反応しない。その理由の一つは,APC以外の細胞にはB7,B70の発現がないからだと考えると都合がよい。何かの機序でB7,B70がAPC以外の細胞にも発現するかもしれないが,まずふつうの臓器細胞にはB7,B70が存在しないから,APCとしての資格がない。そのような意味で,臓器細胞のほとんどはT細胞が反応しないのでnon-professional
APCという呼び方をする。
正常な私達の体の細胞にやたらとT細胞が反応してもらっては困る。すなわち反応してはいけない細胞にはB7,B70が発現していない。たとえば甲状腺の細胞にしても,膵臓や肝の実質細胞にしてもB7,B70はない。やたらに,B7,B70が発現すればT細胞がその細胞によって目を覚まし自分の組織を攻撃することが考えられる。したがって,末梢T細胞トレランスの機序を語るときに,一番重要な分子群がこのCD28を介するシグナルの有無と関連したものである。
末梢トレランスの破錠との関連で外国の研究者が教科書的な実験をした。マウスに膵臓のβ細胞を一度体の外に出し,試験管の中でB7遺伝子を移入してB7を発現させ,もとのマウスに返した結果として自己のβ細胞を攻撃するT細胞が出現した。結果として,自己免疫性の糖尿病を起こすことができた。すなわち,膵臓のβ細胞のB7,B70の発現異常は,胸腺の中ではなく末梢でのT細胞トレランス維持とその破錠を考えるのに重要になってきた。したがって種々の自己免疫病の発症機序,また,治療を考える際にB7,B70の発現制御法の開発には大きな期待がよせられている。
ここでは,私達の研究室で行われたこれらの機能分子を介した制御法のその後の進展を紹介し,将来の臨床応用への可能性を討論したい。
加えて,われわれが研究を進めているもう一関連分子に関する進展も併せて紹介したい。 |