リウマチの日常診療を始めて持った最大の疑問は関節破壊の長期経過に関してであった。罹病10年以上の経過を診療録でもX線でも追跡できる症例供覧を国立白浜温泉病院(当時は前田晃院長)等から許され調査した。関節破壊の広がりによって手足末梢関節破壊を特徴とする軽症リウマチ(LES)と膝や股関節にまで破壊が及ぶ重症リウマチ(MESとMUD)に分かれた。後者はさらに,破壊が比較的緩徐に広がり骨量も保たれている多関節破壊型(MES)と,急速に広がり合併症も多いムチランス型(MUD)とに分かれ罹病早期の鑑別診断は可能であった。しかしリウマチ患者の関節破壊の重症度と,手術時に観る関節病巣の滑膜増殖とは関連しないことから,臨床病態の違いを関節滑膜病態のみで説明することは無理と考え,他に病巣と成り得る器官を探した。
当時阪大細菌学教室の田辺鎮雄博士に維持されていた同種胸腺細胞移植による多発関節炎モデルマウスを用いて原因病巣を調べた。関節炎発症病巣は骨髄にあり,増悪病巣は骨髄と滑膜とにあることが認められた。この現象を別の系で確かめるため,骨髄間質細胞を蛍光またはアイソトープでラベルしたラットにコラーゲン関節炎を発症させた。関節炎発症に伴って多数の骨髄間質細胞がベアゾーンにある小孔を通って関節腔内に侵入し滑膜組織を構成することが認められた。多発関節炎病巣が骨髄に在るという可能性が示された。
リウマチ患者の骨髄を調べた。関節破壊が高度な重症リウマチ患者特異的に,罹患関節部骨髄中に癌抗原陽性,CD14(+)CD15(+),細胞内に極めて高単位のIL1-βを保有し高い組織破壊活性が示される未分化骨髄球/多形核白血球の存在を見出した。この骨髄球系細胞の研究により,リウマチ患者の腸骨骨髄で正常構造の細胞から異常細胞が産生され,末梢の骨端部骨髄,関節腔内に移動するという,予想もしなかった細胞動態が明らかになった。この異常な骨髄球系細胞の培養を持続出来ず,検討の結果,骨髄(または滑膜)間質細胞との共培養が必要と分かった。
滑膜細胞は前記動物実験で認められたような骨髄由来であり得るかを調べるために,骨髄間質細胞と滑膜間質細胞の比較検討を進めた。膜抗原,産生サイトカインとも酷似していた。両者に共通する重要な生物学的特性を見出した。骨髄および滑膜間質細胞ともに,たとえば通常では単独培養困難な胸腺T細胞を自分の細胞下に抱き込んで分化・増殖させる,Wekerle(1980)がマウスやラット胸腺で見出しnurse
cellと名付けた細胞と同様の特性を示した。
骨髄および滑膜由来のナース様細胞と諸血球細胞との共培養系を調べた。T細胞活性化によるT細胞機能亢進,B細胞活性化による抗体産生亢進,上述の骨髄球系細胞機能亢進,単球系細胞機能亢進による破骨細胞様細胞機能亢進等が認められ,活性化されナース様細胞の集積部分には機能亢進された血球細胞による病巣が形成されることが分かった。
血球細胞亢進は前記病型別に特徴が認められた。軽症病型(LES)ではリンパ球系亢進が特徴的で骨髄球系や破骨細胞系の亢進は認めなかった。重症病型では骨髄球系や破骨細胞系の亢進が特徴的であった。リンパ球系亢進は,比較的緩徐なMESでは明瞭であったが,最重症のMUDでは一時期にのみ認め,全体的には健常対象群との有意差を認めなかった。
リウマチ発症は造血系骨髄における強力な誘発による血球系細胞と間質細胞双方の機能亢進によるのではないか。誘発に対する閾値の高さによって軽症リウマチか重症かが決まってくるのではないか。われわれは引き続き誘発機序の研究を続けている。
本研究は大阪大学医学部整形外科学教室はじめ諸教室,当時テキサス大学のリプスキー教授の研究室,当時塩野義製薬研究所の鈴木隆二博士の研究室その他の共同研究に依る。 |