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リウマチ Vol.42 No.1             
「副腎皮質ステロイド薬の作用機構」
 
田 中 廣 壽
東京大学医科学研究所附属病院内科(アレルギー免疫科),
同先端医療研究センター免疫病態分野
〈Keywords〉 drug design:nuclear receptor:pharmacology:transcription
 
綜 説
T.は じ め に

 副腎皮質ステロイドホルモンであるグルココルチコイドは生理的には視床下部-下垂体-副腎系のエフェクター分子として副腎皮質より分泌される内分泌ホルモンである。グルココルチコイドは糖質代謝,心血管系,水電解質代謝,免疫系,神経系など多くの生体システムの制御に極めて重要な働きをしている。グルココルチコイドは,1949年にHenchらが慢性関節リウマチ(RA)の患者における劇的な効果を報告して以来,抗炎症薬・免疫抑制薬として臨床家に汎用され,RAのみならず,全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとした多くの炎症性疾患,自己免疫性疾患などの予後改善に重要な役割を果たしてきた。
 グルココルチコイドは当初より薬理量投与下でさまざまな副作用を引き起こすことがわかっていたが,電解質貯留作用がほとんどないプレドニゾロンなどが合成され,現在では薬理量投与が必要な場合の主要な薬剤となっている。しかし,グルココルチコイドが多くの症例に長期間にわたって投与されるにつれ,電解質貯留作用以外のさまざまな副作用もクローズアップされてきた。それらの副作用の発現機構の詳細は明らかではないが,おそらくはすべてグルココルチコイドのレセプターを介するものと想定されている。現在まで,抗炎症・免疫抑制作用とこれらの副作用を分離しうる薬剤は上市されていない。
 しかし,その一方で,臨床家の観察と経験によって,各対象疾患ごとに,より有効で副作用の少ない副腎皮質ステロイド療法の確立が地道に進められてきたことは強調されるべきである。著者も,慶応義塾大学内科学教室本間研究室在籍中にループス腎炎における副腎皮質ステロイド療法の臨床研究に参加し,腎不全進行時の病態によってグルココルチコイドに対する感受性が異なることを見出している。これまでに,SLEにおける副腎皮質ステロイド療法のフローチャート作成,パルス療法や隔日投与法の導入,プレドニゾロン1mg製剤の開発,など,臨床家のアイデアや熱意が実施臨床に貢献した例も多い。また,グルココルチコイドの副作用に対する対策(感染症のマネージメントの進歩,骨粗鬆症治療薬開発など)も格段に進歩し,副腎皮質ステロイド療法は今や円熟した治療法ともいえる段階に達しつつある。しかし,副腎皮質ステロイド療法は原理的に功罪を併せ持つ治療であることには変わりはなく,Henchの報告後50年あまりを経た現在も,臨床家のみならず患者さんは副作用のない副腎皮質ステロイド療法を待望している。
 近年,分子生物学の導入は臨床医学のさまざまな分野に大きな影響を与えた。ステロイドホルモンの作用機構に関する理解も爆発的に進展し,その作用を質的量的に修飾する方法論も確立されつつある。グルココルチコイドのレセプターに関しても,ステロイド骨格を有さない新規レセプター作動薬の発見など,従来の想像を超えた知見が集積している。また,ゲノム科学などのトップダウン型サイエンスは医科学研究を大きく変革しつつあり,臨床医学への展開も急速である。したがって,副腎皮質ステロイド療法に関しても,従来のさまざまな臨床医学的課題の本質を分子レベルで明確にし,その解決に向けた戦略を立て,しかも実行するための基盤が確立されつつあるように考える。そこで,このような状況を踏まえ,副腎皮質ステロイド薬の作用機構に関する現時点の理解を概説したい。

U.核内レセプターとしてのグルコ


  コルチコイドレセプター
 グルココルチコイドは標的臓器においてグルココルチコイドレセプター(GR)と結合後作用を発現する。GRはヒトにおいてすべての有核細胞に存在し,グルココルチコイド作用を発現するうえで必要不可欠の分子と考えられている。近年,GRの遺伝子多型がグルココルチコイド反応性の個体差と関連することを示唆する報告がなされている。またGRが他の情報伝達系とクロストークする可能性が示唆され,ホルモン―レセプター間の情報伝達が,さまざまな細胞内外の因子により精緻に制御・修飾され,遺伝子発現へと集約される様相も明らかになってきた。
 グルココルチコイドをはじめとした脂溶性低分子化合物のあるものは,細胞膜を通過後細胞内部で分子特異的レセプターと結合する。これらのレセプターは特定のDNA結合配列に対する結合活性を示し,転写調節因子として遺伝情報の発現をコントロールする。このような転写因子型レセプターを,細胞膜レセプターに対比して核内レセプターと呼ぶ。すなわち,核内レセプターは,細胞膜レセプターと異なり,シグナルの入力と出力を一つの分子が担う点で特徴的で,その代表がステロイドレセプター群である(図1)。
 脂溶性低分子ホルモンに対するレセプターの実体は1980年代後半にGR,エストロゲンレセプター(ER),プロゲステロンレセプター(PR),のcDNAが相次いで単離されたことで明確にされた。これらのレセプター分子は構造上相同性が高く,いずれも後述のαヘリックスに富んだリガンド結合領域(LBD)とZnフィンガー型のDNA結合領域(DBD)を有する転写制御因子であることが判明した。すなわち脂溶性ホルモン/ビタミン分子は核内レセプターの特異的リガンドとして転写因子機能を制御する分子スイッチの役割を果たしていると考えられる↑1)↑。核内レセプターの分類,命名法には混乱もあったため,塩基配列の比較をもとにしたその系統樹的分類とともに新しい命名法も提案されている(図2)↑2)↑。
 GR遺伝子は染色体5q31に存在し9個のエクソンからなっており,alternative splicingによってGRαとGRβの2種類の蛋白をコードしている↑3)↑。GRαとは異なり,GRβはリガンド結合能を欠如し,転写活性化能を示さないことが明らかとなった。また,GRβはGRαに対してドミナントネガティブ型として機能している可能性も示唆されている↑4)↑。炎症性サイトカインIL-8,TNFαによってGRβの発現が増加しグルココルチコイド抵抗性の一因となっているとの報告もある↑5)↑。以前から,RA患者において視床下部下垂体副腎系の異常が存在する可能性が指摘されていた。最近,RA患者においてGR遺伝子のエキソン9βの遺伝子多型が存在し,しかも,その変異がGRβのmRNAの安定性に関与していることが示された↑6,7)↑。したがって,GRはRA発症を遺伝的に規定している可能性もあり,今後の研究が待たれる。一方,GRβの各組織での発現量はGRαに比し圧倒的に低いこと,alternative splicingがどのように調節されているかが不明なこと,など,GRβの生物学的意義を明確にするためにはさらに検討が必要である↑8)↑。
 ヒトGRの構造を図3に示した。GRは分子量約94kDaの蛋白であり,リガンドを識別して結合する機能,特定の塩基配列を認識してDNAと結合する機能,そして転写を調節する機能などがレセプター中の別々の領域に存在する点が特徴的である↑9)↑。中央部のDBDはステロイドレセプター群で最もよく保存されている。すなわち,4個のシステインの中央部に亜鉛イオンを配位した構造が2個タンデムに並んでいる。かかるCys2-Cys2型の亜鉛フィンガーモチーフはGRをはじめステロイドレセプターとDNA特異的結合に必須である。GRではN端のZnフィンガーのC端側にP boxと称される領域があり,AGAACAXXXTGTTCT(Xは任意の塩基)の構造をしたパリンドローム型のDNA配列を認識するうえで重要とされている。また,2番目の亜鉛フィンガーのN端側はD boxと呼ばれ,GRではホモ二量体形成に必須とされている。核移行シグナル(NLS)はDBDのC端側(NL1)とLBDの内部(NL2)に存在する。転写活性化領域はAF-1,AF-2として独立の領域にマップされる。N末端側に位置するAF-1はαヘリックスを含み,リガンド非依存的な組織特異的転写活性化能を有する。また,多くの核内レセプターでプロモーター選択やスプライシングによってこの領域に多型の生じることが知られており,各レセプターの特徴が反映される機能領域でもある↑9)↑。
 ステロイドレセプターはリガンドのない状態では非活性型として存在し,AF-1による構成的な転写活性化能はマスクされている。この領域はセリンスレオニンキナーゼであるMAPキナーゼ,サイクリン依存性キナーゼなどによる修飾を受け細胞膜レセプター由来のシグナルとのクロストークに重要であることも示唆されている↑9)↑。レセプターのC末端側に位置するLBDは疎水性アミノ酸残基に富み,リガンド認識・結合のみならず,転写の活性化・抑制,二量体形成,熱ショック蛋白(hsp)との結合など重要な機能を担う部位である。転写の活性化に関しては介在因子として知られるコアクチベータとの結合を担う領域を含む(AF-2)。
 リガンド結合に伴うLBDの立体構造変化はレセプター相互や共役因子群との相互作用を誘導する。レチノイドXレセプター(RXRα),レチノイン酸レセプター(RARγ),甲状腺ホルモンレセプター(TRα)などのLBDのX線結晶解析の結果から,ステロイドレセプターのLBDは12のαヘリックスからなる共通の構造を有すると想定されている↑9)↑。リガンド結合ポケットは分子内部の疎水的領域に形成され,リガンドの結合によってAF-2コアとも称される12番目のαヘリックス領域の空間配置が大きく変化する(ポケットとその蓋のような位置関係になる)。ERへのアンタゴニスト(ラロキシフェンなど)結合の際にはAF-2コアの空間配置がアゴニストの場合と異なり,コアクチベータと結合できず,転写活性が誘導されないものと考えられている。二量体形成はコアクチベータとの相互作用領域と対側の第9,第10ヘリックスの間で起こる。これらの変化はGRを含むステロイドレセプター間で広く保存されていると考えられている↑9)↑。

V.グルココルチコイドの作用機構

 GRはグルココルチコイドとの結合によって図4に示す経路を経て標的遺伝子の発現を制御する。すなわち,細胞質でGRはhsp90などと安定な複合体を形成している。リガンドであるグルココルチコイドと結合後GRはhsp90を解離してホモ二量体を形成し,核に移行する。GRを蛍光蛋白で標識することによって,かかる核移行は数分から30分以内に完了することが明らかになった。
 核に移行後GRは標的DNA配列(GRE)と結合し,主にAF-2を介してコアクチベータをはじめとした転写共役因子群と結合する。リガンドはGRと結合することによってAF-2コアとコアクチベータとの結合を安定化させるのであろう。これらのコアクチベータのあるものはヌクレオソームを構成するヒストンをアセチル化する活性をも有しており,クロマチン高次構造に変化をもたらすことによって基本転写因子群と転写複合体を形成するうえで重要と考えられている↑9)↑。GRと相互作用するコアクチベータとして,SRC-1/NCoA,TIF2/GRIP1,CBP/p300,p/CAF,そしてRNAであるSRAに加え,基本転写因子群との架橋形成に関与していると考えられるメディエーターも同定されている。最近,クロマチン免疫沈降法によって,標的DNAにステロイドレセプターが結合後,コアクチベーター,メディエーターが順次結合して転写開始複合体を形成する,というモデルが有力である↑10,11)↑。
 近年,GRにおけるコレプレッサーの役割も明らかになりつつある。NCoR,SMRTはGRの転写を組織特異的に抑制的にあるいは促進的に制御し,組織特異的ホルモン作用の発現に関与しているらしい↑11)↑。また,コレプレッサーRIP140はコアクチベーター14-3-3蛋白質と相互作用することで,GRの細胞内局在と転写を同時に制御する↑12)↑。

W.抗 炎 症 作 用

 グルココルチコイドの抗炎症作用は従来さまざまな薬理学的モデルにおいて検討されてきたが,その作用機構の詳細は現在でも不明のままである。グルココルチコイドの抗炎症作用機序として,少なくとも,1) 抗炎症作用を有する内因性の蛋白産生の増加,2) サイトカイン,接着分子など炎症をドライブする蛋白の産生抑制,の2つが考えられる。1) に関して,以前リポコルチンの産生とグルココルチコイドの関係に興味が持たれていた。PAI-1などもグルココルチコイドでその産生が誘導されるが,抗炎症作用との関係は明確ではない↑13)↑。一方,サイトカイン,接着分子などをコードする遺伝子の多くは,activator protein-1(AP-1),nuclear factor-κB(NF-κB)等の転写因子によって正の制御を受けている。近年,GRがこれらの転写因子と負に相互作用し,サイトカイン,接着分子の遺伝子の発現を転写レベルで抑制することが明らかになった。
 AP-1はleucine zipper構造を有するc-Fos,c-Junファミリー蛋白の二量体で,炎症・免疫に関与する極めて多くの遺伝子の発現に関与している。GRとAP-1は相互作用することによって互いの作用を多くは負に調節する。その分子機構として,コアクチベータであるCBP/p300がGRとAP-1おのおの独立に相互作用すること,グルココルチコイドがGRを介してJun N-terminal kinaseのリン酸化を抑制することなどが提唱されている↑14,15)↑。
 NF-κBは非刺激下においては細胞質でIκBと複合体を形成している。サイトカインレセプターを介したシグナル,酸化ストレスなどでこのIκBがユビキチン化された後にプロテアソームで分解される。その結果,NF-κBは核に移行し,IL-2,IL-8,TNFα,E-selectin,P-selectin,ICAM-1,VCAM-1などの遺伝子の発現を転写レベルで誘導する↑16)↑。
 グルココルチコイドがこれらの遺伝子の発現を抑制する機序として,GRとNF-κBの蛋白蛋白相互作用,あるいはCBP/p300をはじめとしたコアクチベータの競合がNF-κBの活性化を阻害する可能性が示された。また,脳,リンパ球などの組織においては,グルココルチコイドによりIκBαの産生が増加し,NF-κBの活性化を抑制するモデルも提唱されている。最近新たに,GRがリン酸化酵素protein kinase Aの触媒サブユニットと相互作用してNF-κBの活性化を阻害する可能性も示された↑17〜19)↑。すでに,NF-κBは多くの炎症性疾患において抗炎症療法の標的分子として認知されており,RAモデル動物においても抗NF-κB療法が関節炎抑制効果を示すことが明らかにされている↑20)↑。したがって,グルココルチコイドがGRの抗NF-κB作用を発揮させて炎症性疾患治療に貢献するというproof of principleは確立されている。実際,グルココルチコイドがRAの骨破壊を抑制しうる可能性を指摘した臨床研究も存在する↑21)↑。今後,グルココルチコイド療法を進歩させるにあたり,関節におけるAP-1やNF-κB活性化機構の解明,グルココルチコイド作用をいかにして病変局所選択的に発現させるか,なども明らかにされる必要がある。

X.発生工学的アプローチによる


  GRの生理的役割の解析
 ハイデルベルグにあるドイツ癌研究所のSchutzらはマウスGR遺伝子のクローニング後数年の歳月を費やしてGR遺伝子破壊マウスの作成に成功した。その後,かかるマウスのGR遺伝子は完全には破壊されていなかったことが判明したため(現在GR↑hypo/hypo↑マウスと呼ばれている),自ら改良を試み,完全に破壊したGR↑null/null↑マウスをも作成している。さらに,Cre-loxPのシステムを用いて,ノックアウト―変異GRのノックインマウス,コンディショナルノックアウトマウスを作成することにも成功した。一連の研究から,GRが生命維持に必須であること,ストレス応答にも密接に関与していること,などが次々と明らかになっている↑22〜25)↑。
 GR↑hypo/hypo↑マウスはその80%が出生前後に死亡する(20%が成年期まで生存する)。その原因としては無気肺の関与が想定されているが詳細は不明である。一方,出生時の血中ACTHやコルチコステロンはいずれも高値を示し,GRが視床下部-下垂体-副腎系のフィードバック機構に関与していることが示された↑22)↑。なお,GR↑null/null↑マウスは全例出生時に死亡する↑25)↑。
 GRのD boxに存在する458番目のアラニンをスレオニンに変異させたGR/A458Tは,ホモ二量体を形成せず,DNAとも結合しないことが知られていた。すなわち,リガンド依存性転写活性化能はない。一方,抗AP-1作用などのいわゆる他の転写因子との相互作用による転写抑制作用は野生型と同様に発現する。
 GRの転写活性化作用と転写抑制作用の意義を個体レベルで究明するため,Schutzらは,Cre-loxPシステムを用いて,GRのアリルをこのGR/A458Tで置換したマウスGR↑dim/dim↑を作成した。その詳細な解析により,GRのDNA結合ないし転写活性化能は生存に必ずしも必須ではないこと,視床下部-下垂体-副腎系におけるGRの機能がDNA結合の必要性をもとに幾つかに分類されること,が判明した↑23)↑。さらに,かかるマウスを用いて,グルココルチコイドの抗炎症作用はGRによる転写活性化作用を必ずしも必要としないことも明確になった↑26)↑。
 GR↑flox/flox↑マウスはGRの組織特異的働きを解析するために作成された。すなわち,組織特異的プロモーターの制御下にCreを発現させるトランスジェニックマウスとの交配によって組織特異的GRノックアウトマウスを樹立可能である。実際,nestin遺伝子下流にCreを発現させる系を用いて,神経細胞選択的にGR遺伝子を破壊することに成功している(GR↑flox/flox↑ X Tg/nestin-Cre)。このマウスでは血中ACTHとコルチコステロンが高値であるのみならずストレスに対する上昇も著明ではなかった。さらに,不安行動が減弱していることとから,脳におけるGRの役割の解明にも貢献しつつあるといえる↑24)↑。このように,発生工学の応用によってGRの機能に関する理解は分子から個体レベルに進展しつつある。

Y.グルココルチコイドレセプ

  ター機能のレドックス制御
 近年,細胞内の酸化還元(レドックス)環境の変化は,活性酸素などをメディエーターとして,細胞の遺伝子発現を制御するシグナルとして機能することが明らかになっている。かかるレドックス制御は,たとえば,炎症組織などにおけるNF-κBの活性化などにも関与していることから,炎症性疾患の病態の理解や治療法の開発においても考慮される必要が指摘されている。
 著者らも,GRの機能がレドックス制御を受けることを明らかにしている。すなわち,酸化的条件下ではGRのリガンド結合能,リガンド依存性のhsp90の解離が低下し,さらにGRの核移行も抑制される。グルココルチコイド応答性レポーター遺伝子を用いた実験により,酸化的条件下においてグルココルチコイド応答性遺伝子発現も低下することがわかった。また,細胞内還元酵素であるチオレドキシンはGRのDBDと直接相互作用することによって,GRのDNA結合能あるいは転写活性化能を回復させるらしい。
 かかるGRのレドックス制御はホルモン依存性シグナルと酸化還元システムのクロストークが存在することを示しており,生体のストレス応答を考えるうえで非常に興味深い↑27,28)↑。同時に,炎症など酸化ストレスが存在する状態あるいは組織は相対的にグルココルチコイド抵抗性であることを示唆する。したがって,炎症関節などにおいてグルココルチコイドの作用をより選択的に発現させるためにはレドックス制御の視点からも検討される必要があろう。

Z.他の情報伝達系とのクロストーク

 GRは他のステロイドレセプターやリガンド未同定のレセプターであるオーファンレセプターとも相互作用することが報告されている。視床下部-下垂体-副腎系の制御因子であるproopiomelanocortinの遺伝子発現に関与するNur77なるオーファンレセプターは,GRと排他的に相互作用し,グルココルチコイドによる負のフィードバック機構に拮抗しているらしい↑29)↑。またGRがミネラルコルチコイドレセプター(MR)とヘテロ二量体を形成することを示した報告もあり,GRとMRの共発現部位である脳などの神経組織でのグルココルチコイド作用機構を解明するうえで重要かもしれない↑30)↑。
 GRがsignal transducer and activator of transcription(STAT)蛋白と相互作用することも明らかにされた。STAT3はサイトカインであるIL-6の情報を核に伝える分子であり,GRはSTAT3と協調的に,たとえばalpha 1-acid protein遺伝子の発現を正に調節する↑31)↑。成長ホルモン,プロラクチンはおのおののレセプターに結合後STAT5をリン酸化してホルモン作用を発現する。GRとSTAT5の相互作用はこれらホルモンと視床下部-下垂体-副腎系のクロストークに物質論的根拠を与え,その内分泌学的意義を究明するうえでも興味深い↑32)↑。

[.副腎皮質ステロイド療法の副作用

  克服に向けたアプローチ
 周知のごとく,副腎皮質ステロイド薬の副作用は極めて多岐にわたり,多くの臓器に多彩な病変を惹起する。たとえば,骨粗鬆症と緑内障はいずれも有名な副作用であるが,両者のメカニズムはわかっていない。しかし,組織は異なっていても副腎皮質ステロイド薬は同じレセプター,すなわちGRと結合して作用を現すとすると,これらの副作用の発現はGR以外の標的組織側の因子によって規定されると考えるのが自然である。
 一つにはグルココルチコイドがGR以外の,たとえばMRなどにも結合することによって副作用が発現する可能性が考えられる。電解質貯留作用はまさにその例であり,コルチゾールに比してプレドニゾロンやデキサメタゾンなどの合成グルココルチコイドはMRとの結合親和性が低いことからも理解される。かかるレセプターレベルの交差反応性はPRやARとの間にも認められるものの,その臨床的意義は究明されていない。
 また,GRの下流に存在する遺伝子群が標的組織ごとに異なっている可能性もある。そのメカニズムは不明であるが,先述した転写共役因子の組織特異的分布あるいは発現量などが関与していることは想像に難くない。この問題の解決に際し,DNAチップ解析,プロテオミクス解析などの包括的遺伝子・蛋白発現解析技法を応用したアプローチは極めて有用な示唆を与えるであろう。すなわち,標的組織におけるグルココルチコイドないしGRの下流に存在する遺伝子や蛋白を明確にすることによって,副作用の成因のみならずその対策にも進歩がみられることが期待される。

\.GRを分子標的としたデザイナードラッグの可能性

 副腎皮質ステロイド療法は多くの先人達の臨床的洞察・努力によっていまや円熟した治療法の一つに近いが,作用と副作用の分離,など臨床的重要性にもかかわらず未解決であった問題も多い。先述のように,グルココルチコイドの作用,あるいはGRの機能は,グルココルチコイドとGR以外の因子によってもさまざまに規定されることが明らかになりつつある。炎症組織におけるレドックス制御,他のステロイドレセプター,オーファンレセプターあるいはGRβとの相互作用,転写共役因子との相互作用,組織特異的なAF-1機能の制御,などは従来の理論では説明不能なグルココルチコイドの薬理作用の発現機構を解明する鍵となるかもしれない。また,リガンド濃度によってGRの立体構造もダイナミックに変化し,その機能も修飾を受けることが示されている。GR遺伝子多型もグルココルチコイド作用の量的質的修飾に関与する可能性もある。
 近い将来,分子生物学とゲノム科学はグルココルチコイドの薬理学にますます新たな知見をもたらすことは確実である。ある製薬関連バイオベンチャー企業においてGRのリガンド結合領域のX線結晶解析がなされ,それを基盤にしたデザイナードラッグの開発も進展しているらしい。わたしどももGRの下流の遺伝子発現をコントロールする方法論の開発に取り組み,興味深い結果を得ている↑33,34)↑。すなわち,GRの機能は,LBDとリガンドとの相互作用によって多様に制御可能であることが明らかになった。実際,従来の合成グルココルチコイド(デキサメタゾン,プレドニゾロンなど)はGRとMRいずれのLBDにも結合するが,コルチバゾールはGRにのみ作用する。また,胆汁酸製剤であるウルソデオキシコール酸はGRとは結合することなく,しかしLBDを介してGRの抗NF-κB作用を発現させる。これらの成果はGRを特異的分子標的とした抗炎症作用を選択的に発現させる薬理学的方法論開発の分子基盤を提供するものと考えている。今後,より正確なドラッグデザインを実施するため,GRの結晶解析が待たれるところである。もはやステロイド骨格を有さないGR作動薬が臨床に登場する可能性も十分あるだろう。

].お わ り に

 コルチゾールが臨床に導入されて50余年を経過した今,壮大かつ急速に発展する現代医科学のプラットホームに立つことによって,副作用のない副腎皮質ステロイド療法(あるいはGR作動療法)を現実のものに近づけることは決して夢物語ではないように思う。チャレンジングな研究者が副腎皮質ステロイド療法の新しいステージへの展開に参加してくれることを切望している。本稿が読者諸氏の副腎皮質ステロイド薬の作用機序に対する理解とともに,副腎皮質ステロイド療法の研究の発展に少しでも貢献できれば幸いである。最後に,牧野雄一,岡本健作,吉川賢忠,三浦貴徳,飯田高久先生をはじめとした共同研究者の方々,御指導御協力をいただいた牧野 勲,市川陽一,森本幾夫,川合真一,大島久次,赤真秀人先生をはじめとした多くの先生方,ならびに本稿執筆の機会を与えて下さった宮坂信之先生に深謝申し上げます。本小論を医学部学生時代から私どもをいつも暖かく見守り,そして激励して下さった故本間光夫先生にささげます。

文     献

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著者紹介
 1981年 慶應義塾大学医学部卒業
 1989年 医学博士取得
 1981年 慶應義塾大学病院内科 研修医
 1983年 川崎市立井田病院内科 技術吏員
 1986年 慶應義塾大学医学部内科 助手
 1989年 カロリンスカ研究所 客員研究員 1991年 旭川医科大学第2内科 助手
 1993年 同 講師
 1997年 同 助教授
 1999年 東京大学医科学研究所 助教授(現職)
主要研究テーマ:核内レセプターによる転写制御機構,レドックス制御,酸素分圧の変動と遺伝子発現・生体機能調節


図 1 細胞膜レセプターと核内レセプターによる遺伝情報発現経路

図 2 核内レセプターの系統樹↑2)↑
脊椎動物,節足動物,線虫の核内レセプターの分子系統樹。サブファミリーを右端のアラビア数字,グループを大文字,それぞれの遺伝子を通用名とアラビア数字の組み合わせで示した。四角で囲んだ数字は各サブファミリーのbootstrap valueである。

図 3 グルココルチコイドレセプターの一次構造と機能ドメイン

図 4 グルココルチコイドの作用機構の模式図
GR=glucocorticoid receptor  LBD=ligand binding domain  DBD=DNA binding domain  hsp90=heat shock protein 90  CBP=CREB binding protein  DRIP=vitamine D receptor interacting protein  GC=glucocorticoid  GRE=glucocorticoid response element  HAT=hystone acetyltransferase  p/CAF=p300/CBP and the associated factor  RNA pol U=RNA polymerase U  SRA=steroid receptor RNA activator  SRC-1=steroid receptor coactivetor-1  TBP=TATA binding protein  TIF2=transcription inermediary factor 2  TRIP=TR-associated protein  A=TFIIA  B=TFIIB  D=TFIID  F=TFIIF  H=TFIIH

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