T.は じ め に
自己抗体は自己免疫疾患の診断につながる重要な標識であると同時に,未知の蛋白にわれわれを導く道標でもある。対応抗原を同定,解析することが細胞内に存在する未知の物質の発見や機能解析につながった例は多く,とくに全身性エリテマトーデス(SLE)におけるspeckled型抗核抗体の抗Sm抗体,全身性硬化症(SSc)におけるhomogeneous型抗核抗体の抗Scl-70抗体などはその1例である。
本稿は,原発性胆汁うっ滞型肝硬変症(primary biliary cirrhosis, PBC)に特異的なatypical
speckled型ないしはnuclear dots型と呼ばれる抗核抗体として見出された抗nuclear body抗体,およびその対応抗原であるnuclear
bodyについて解説する。
U.原発性胆汁うっ滞型肝硬変症(PBC)と自己抗体
1.PBCの臨床像
原発性胆汁うっ滞型肝硬変症(primary biliary cirrhosis, PBC)は,小胆管周囲のリンパ球浸潤を主体とした慢性炎症が持続し,最終的には肝硬変に至る慢性進行型の肝疾患である↑1)↑。中高年の女性に多くみられ,全身【倦】怠感・【掻】痒感などのほか関節痛や乾燥症状などのリウマチ様症状を伴うこともあり,広義のリウマチ性疾患の範疇に入る。Ursodeoxycholic
acid(UDCA)による治療の導入は明らかに肝不全への移行や肝移植までの期間を延長させる↑2,3)↑ため,予後の改善のためにも早期に診断し,治療を開始することが期待される。本疾患における自己抗体としては抗ミトコンドリア抗体がよく知られている。この自己抗体は本疾患の84〜99%に認められ↑4)↑有力な診断手段であるが,それゆえに,抗ミトコンドリア抗体の陰性例では診断に難渋することも少なくない。
2.新たな疾患標識自己抗体の発見
1980年代半ば頃より,乾燥症状や強皮症様症状を持つ膠原病患者血清中に,HEp2細胞を用いた免疫蛍光抗体法で大きさのさまざまな5〜20個ほどのatypical
speckled型,nuclear dots(ND)型,もしくはmultiple nuclear dots(MND)型と呼ばれる特異なパターンを示す抗核抗体(図1)がみられることが相次いで報告された↑5〜7)↑。Szosteckiらは,患者血清を用いてHeLa細胞から対応する抗原蛋白を単離し,これをSp100と命名した↑8)↑。同様の報告が他のグループからもなされ↑9,10)↑,このPBCに認められる抗核抗体の自己抗原蛋白は,nuclear
bodyに局在することが明らかにされた。このnuclear bodyという核内構造物は,1960年にすでに電子顕微鏡下で発見されてはいたものの,機能が明らかでないため忘れ去られていたが,これを契機に再発見されたものである。
一方,急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia, APL)の研究において,APLでは染色体転座t(15;17)の結果,PML蛋白(promyelocytic
leukemia protein)と名付けられた新しい蛋白がレチノイン酸受容体α(retinoic acid receptor
α, RARα)蛋白と融合蛋白(fusion protein)を形成していることが明らかとなった↑11〜13)↑。その後の研究により,PMLはSp100と同じくnuclear
bodyに局在し,かつPBCの自己抗原であることも明らかとなり↑14)↑,nuclear bodyの研究に新たな局面が開かれた。
3.Atypical speckled型抗核抗体とSp100,PML
Sp100もPMLも通常同じnuclear bodyに局在するため,ともにatypical speckled型ないしはMND型と呼ばれる抗核抗体の蛍光染色パターンで検出される。この抗核抗体はPBCの20〜30%にみられるにすぎないが,抗ミトコンドリア抗体陰性のPBC例では48〜60%にみられるうえに,特異性は極めて高く,診断に非常に有用であることが報告されている(表1,2)↑8,15)↑。
通常,PBCにおいては抗Sp100抗体と抗PML抗体はほぼ同程度にみられる(表3)。すなわち抗Sp100抗体陽性PBCの71.4〜86%に抗PML抗体が陽性であり,抗PML抗体陽性PBCの75.8%が抗Sp100抗体陽性である↑16,17)↑。抗Sp100抗体陽性例と抗PML抗体陽性例の間では,臨床病態には差はない。しかし,抗nuclear
body抗体陽性PBC患者では,病勢の進行が陰性例に比し早いと報告されており,MND型の抗nuclear body抗体は,予後不良を示すマーカーとも考えられる↑17)↑。
抗Sp100抗体は,ごく低頻度ではあるがPBC以外のリウマチ性疾患,SSc(7.2%)やSLE(1.9%)でも認められることもある(表1)↑8)↑。しかし,一般にPBC患者ではIgG,IgM,IgA型など幅広いクラスの抗Sp100抗体が認められるのに対して,PBC以外で認められる抗Sp100抗体は主としてIgG型であり,抗体産生機序が異なる可能性が高い(表4)↑18)↑。さらに,興味深いことに,UDCAにて加療された患者では抗Sp100抗体の抗原認識エピトープパターンに経時的変化がみられるといわれ,UDCAの免疫調整作用を指示する所見であるとの指摘もある↑16)↑。
残念なことに,わが国の臨床検査施設では抗核抗体の結果報告欄にatypical speckled型ないしはMND型と報告されることはまだない。これらの抗核抗体は,現時点では蛍光抗体法でdiscrete
speckled型と記載される可能性が最も高いと思われるが,その際は同じくdiscrete speckled型を呈する抗セントロメア抗体や抗p80-coilin抗体↑19,20)↑との鑑別が必要になる。したがって,リウマチ様症状を呈しdiscrete
speckled型の抗核抗体陽性者を診た場合には,抗セントロメア抗体のみを想定するのではなく,PBCの可能性を含め,その後の鑑別診断を進めることが大切であると思われる。
なお,PBC患者の肝細胞や胆管細胞ではPMLの過剰発現が確認されてはいるが,他の自己免疫性肝炎やウィルス性肝疾患などにおいても同様の所見が指摘されているため,PBCにおいて特異的な抗体が出現する理由ではないようである↑21)↑。 V.Nuclear body
Nuclear bodyは多様な核内蛋白の複合体による核内の構造であり,既知の核小体(nucleolus),coiled body,interchromatin
granule,DNA複製部位(DNA replication site),スプライスオゾーム(spliceosome),proliferating
cell nuclear antigen(PCNA)などの核内構造物とは異なる。以前はKr body(Kremer body),ND10(nuclear
dots 10)などと呼ばれていたが,現在はPOD(promyelocytic leukemia oncogenic domain)もしくはPML
nuclear body(PML-NBs)と呼ばれる。
Nuclear bodyは電子顕微鏡下の検討では,直径約0.3〜1.0μM,ドーナッツ型や球形をしている。通常数は5〜30個程度であるが,数や大きさは細胞の種類や細胞周期により変動する↑22)↑。
近年,PMLに関する研究の発展はめざましく,その結果nuclear bodyは多種多様な蛋白の複合体(multiprotein
complex)であり,nuclear bodyに集束してくる蛋白も多岐にわたることが明らかになってきた。
W.Nuclear bodyの構造と構成蛋白
まず,nuclear bodyを構成する代表的な蛋白について解説する。
1.Sp100
Sp100は,HEp-2細胞を用いた免疫蛍光抗体染色でspeckled patternを示し,SDS PAGEにて100kDの位置に泳動されることからSp100(Speckled
100)と名付けられたが,実際は53kDの蛋白である(図2)↑8)↑。Sp100が酸性アミノ酸を多く含むために,実際の分子量とは異なる位置に泳動されると考えられている。Sp100遺伝子は染色体2q37にマップされ,Sp100B,Sp100HMG↑23)↑,Sp100C↑24)↑などのsplice
variantがある。Sp100はそのC末端にヒト免疫不全ウィルス(HIV)のNef蛋白のようなウィルス活性化蛋白(viral
transacting protein)と同様の配列を有し,Sp100BやSp100CがSAND domainやPHD domainなどの転写活性化制御因子(transacting
regulatory proteins)にみられるアミノ酸配列を有することから,何らかの転写制御因子としての働きが想定されている↑8,23,24)↑が,その詳細はまだ明らかではない。
Sp100はインターフェロン(IFN)α,β,γにより転写の活性化を受け,mRNAや蛋白の発現が増加する。IFN処理を受けたHEp2細胞やHeLa細胞では免疫抗体染色でSp100を含むnuclear
bodyの数と大きさが増大する↑25,26)↑。
2.PML
PMLはRBCC(RING finger domain,B-box domain,α-helical coiled-coil
domain)familyに属する蛋白で↑11〜13)↑,SS-A/Ro蛋白と共通点を有する(図3)。PML遺伝子は染色体15q22にマップされ,幾つかのsplice
variantが知られているが,多くの細胞で発現しているPMLはほぼ同一で分子量70kDのものである。PMLはpromoter領域にIFNα/β
stimulated response element(ISRE)やIFN-γ activation site(GAS)を有し,IFNsによってその発現が増強される↑26,27)↑。
HEp2細胞などcell line化された細胞ではPML蛋白はSp100と同様,核質(nuclear matrix)に強く接着し,通常はmultiple
dots様にnuclear bodyに存在するが,条件によっては核内にび漫性(diffuse)に存在したり,細胞質に移行することも知られている。
正常の皮膚,乳腺,腸管などの細胞では周囲の結合組織も含めてPML-NBsの発現はほとんどみられないが,血管内皮細胞やマクロファージ,線維芽細胞では通常でも発現している。PML-NBsは細胞周期のG1/S期の間でその発現が最大になるほか,頚管上皮細胞ではエストロゲン刺激,さらにはウィルス感染やX線照射などによっても大きさや数は変動する。良性の上皮の過増殖である乾癬(psoriasis)では,上皮・真皮上層・周囲の血管上皮細胞でPMLの強い発現が認められる↑21)↑。
一方,癌細胞では一般にPMLは強く発現している。病理組織所見上,乳癌などでは,腫瘍細胞の進展に伴い周囲の間質細胞にもPMLの発現が認められるようになる↑21)↑。興味深いことに,腫瘍細胞が基底膜を破壊し附属の間質組織に浸潤すると,PMLは腫瘍細胞には検出されなくなるが,逆に間質の細胞やその周囲の血管内皮細胞に発現してくる↑28)↑。これらより,PMLは細胞増殖制御や細胞分化に重要な役割を有することが示唆される。
また,t(15;17)を有するAPL細胞では,融合蛋白PML-RARαの出現により,PML-NBsは通常のMNDパターンをとらずmicrospeckledパターンといわれる数百にも及ぶ小さいdotsに分散され核内に広がる↑12,14)↑。ビタミンAの誘導体であるレチノイン酸投与を行うと,PML-RARα融合蛋白が分解され,正常のPML-NBsパターンが回復し,かつ白血球分化が誘導される↑14)↑。
3.SUMO-1/PIC-1/sentrin-1
Small ubiquitin-like modifier 1(SUMO-1)↑29)↑,PML-interacting cofactor-1(PIC-1)↑30)↑,sentrin↑31)↑は101個のアミノ酸からなる同一の蛋白で,それぞれ異なるグループが独自に単離した。現在は主としてSUMO-1と呼ばれ,SUMO化(SUMOylation)とよばれる蛋白の翻訳後修飾に関与し,蛋白を安定化させる。ユビキチン(ubiquitin)化された蛋白はプロテアゾーム(proteasome)による分解を受けるが,逆にSUMO化された蛋白は核内に限局し,安定で分解されなくなる。
SUMO-1は,SUMO化を介してPMLおよびSp100をPML-NBsに局在させるように働く↑32,33)↑。
SUMO-1はその他RanGAP1↑29)↑,I-κBα↑34)↑,p53↑35,36)↑などもSUMO化する。
4.Viral proteins
ウィルス感染によりnuclear bodyの形態は著しく変化する。ウィルス感染の病期によりnuclear bodyが消失したり小桿状となったりする。サイトメガロウィルス(CMV)のIE2蛋白↑37)↑,Epstein-Barrウィルス(EBV)のEBNA-LP↑38)↑,単純ヘルペスウィルスのICP0蛋白↑39)↑,ヒトT細胞白血病ウィルスT(HTLVT)のInt-6などのウィルス蛋白はnuclear
bodyに局在することが知られている↑22)↑。
5.Sp140/LYSP100,Sp110
Sp140/LYSP100↑40,41)↑およびSp110↑42)↑はSp100と相同性を有するnuclear body構成蛋白で,主として白血球や脾臓に発現している。PBC患者の一部でSp140に対する抗体が検出されている。骨髄系前駆細胞であるHL60細胞やPML-RARαを内在するNB4細胞をレチノイン酸処理するとSp140やSp110が誘導される↑43)↑ため,これらの蛋白は白血球分化に関わる働きをしていると想定されている。
6.その他
Nuclear bodyに常在する蛋白ではないが,転写活性因子であるcAMP responsive element binding
protein(CREB)binding protein(CBP)↑44,45)↑,癌抑制蛋白であるp53↑46)↑,網膜芽細胞腫蛋白pRb↑47)↑,アポトーシスに関わるDaxx↑48,49)↑,Bloom症候群の原因遺伝子蛋白BLM↑50)↑などさまざまな蛋白が,条件によりPML-NBsに集束することが知られている。 X. Nuclear body構成蛋白の機能と疾患との関わり
Nuclear bodyはこのように多様な蛋白からなる複合体(multiprotein complex)である。個々の蛋白の働きはまだ十分に解明されておらず,さらにこれらの蛋白がnuclear
bodyに集束することの意義はまだ明らかではないものの,中心的なnuclear body構成蛋白であるPMLの研究の進展はめざましい。PMLはAPLの発症や細胞増殖・分化のみならず,アポトーシス,遺伝子安定性などにも関与することが明らかとなってきた(図4)。
1.急性骨髄性白血病(APL)とPML
APLではt(15;17)の染色体転座が97%の症例にみられる。この転座により生じた融合蛋白PML-RARαが野生型(wild
type)のRARαに対しdominant negativeに作用し,レチノイン酸の骨髄系細胞分化のシグナル伝達を障害することがAPLの発症の一因と考えられている↑51,52)↑。さらに,PML-RARαはPMLに対してもdominant
negativeに作用し,PMLの骨髄系細胞分化作用,アポトーシス誘導作用も抑制するため,幼若なAPL細胞が異常増殖をきたすとも考えられている。種々のモデルマウスが作成され,膨大な検討が行われた結果,レチノイン酸のシグナル伝達を障害しただけではAPLは誘発されず,PMLノックアウトマウスにPML-RARαを導入したマウスでAPL類似の病態が得られたことから↑53)↑,現時点では,腫瘍増殖抑制作用を有する野生型のPMLを欠失することに加え,異常なPML-RARα蛋白がPMLおよびRARαの両者に対してdominant
negativeに働くことの2つがAPLの発症に関して必要であろうと考えられている。
APLにおいては,高容量(1μM)のレチノイン酸投与による分化誘導療法(differentiation inducing therapy)が行われる。これにより臨床的には,腫瘍細胞はアポトーシスを起こして死滅し↑54)↑,それとともに正常の骨髄分化が回復する↑14)↑。この現象を分子生物学的側面から解析すると,PML-RARαに結合していたヒストンデアセチラーゼ(HDAC)を含む転写抑制因子(N-Co-1,nuclear
co-repressor-1など)の複合体が高濃度のレチノイン酸により解離し↑55)↑,逆に共役転写活性化因子(SRC-1,steroid
receptor coactivatorなど)↑56)↑やヒストンのアセチル化(HAT)活性を有するコアクチベーターCBP/p300が結合する↑57)↑。HDACはヌクレオゾームの芯であるヒストンのアセチル化を抑制し,DNAとヒストンの結合を密にし転写を抑制するように働き,逆に,HATはヌクレオゾームを解いてDNAの転写を起こりやすくさせるように働くものである。この結果,顆粒球分化に重要といわれるCCAAT/enhancer
binding protein(c/EBP)などの標的遺伝子におけるDNAのアセチル化が進み,転写を促進し白血球分化が進むのではないかと考えられている↑58)↑。
2.細胞増殖・腫瘍増殖抑制とPML
PMLを過剰発現(overexpression)させると,頚管由来のHeLa細胞やAPL由来のNB4細胞で増殖率の低下が生じる↑59)↑。PMLを過剰発現させたHeLa細胞ではG1期にとどまる細胞数が増加,S期の細胞が減少し,doubling
timeが著明に延長する。あわせてpRbのリン酸化の著明な減少がみられるほか,細胞周期のチェックポイントとして働くサイクリンE,Cdk2,p27の発現も減少がみられる。この際,アポトーシスの増加は生じないため,PMLによる細胞増殖抑制は,細胞周期を調節する蛋白の発現の抑制によるG1期の延長によると考えられている↑59)↑。
また転写の面からは,PMLはHDACと相互作用し,転写を抑制することがin vitroでもin vivoでも確認されている↑60)↑。
一方,PMLノックアウトマウスの胎児線維芽細胞の検討では,PML−/−細胞はPML+/+細胞やPML−/+細胞に比べ増殖速度が速く,コロニー形成も促進されている↑52)↑。PMLノックアウトマウスの腫瘍の自然発症(spontaneous
tumor)率は,初めの1年は正常マウスと変わらない。しかし,発癌物質dimethylbenzanthracene(DMBA)を投与すると皮膚癌T細胞もしくはB細胞リンパ腫などの悪性腫瘍の発症がコントロールに比べかなり高率にみられることが指摘されている↑52)↑。
したがって,PMLは細胞周期の調節や転写抑制により,細胞増殖抑制作用を発揮すると考えられている。
3.ApoptosisとPML
PMLは,Fas,腫瘍壊死因子α(TNFα,セラミド,タイプT,Uのインターフェロン(IFNT,U)などによる多様なカスパーゼ依存性のアポトーシスシグナル伝達に関わっていると考えられている↑61)↑。とくに,Fasのdeath
domainに結合するDaxxはPML-NBsに集束し,PMLと直接相互作用することが明らかとなっている↑62,63)↑。マイトジェン刺激により発現が増加したDaxxはPML-NBsに集束し,Fasを介したアポトーシスを増加させる↑49)↑。PML−/−細胞ではDaxxは核内に散在し(dispersed),同刺激によってもアポトーシスは生じない。
PMLを過剰発現させた細胞では,多くのcell lineでカスパーゼや細胞周期に無関係にアポトーシスが増加することが認められている。Death
effectorであるBaxやcdk阻害剤であるp27KIP1もPML-NBsに集束することが知られている↑64)↑。
PMLはPML-NBsにおいてp53と相互作用することが明らかとなっているが,PML−/−細胞ではp53依存性の細胞内DNA損傷によるアポトーシス,p53による転写の活性,およびγ線照射によるBaxやp21の誘導も阻害されることから,PMLはp53依存性のアポトーシスにも深く関与していることが示唆されている↑46)↑。
4.ウィルス感染とPML,Sp100
単純ヘルペスウィルス(HSV),アデノウィルス,サイトメガロウィルス(CMV),Epstein-Barrウィルス(EBV),インフルエンザウィルス,HTLVTなどのウィルスの感染によりnuclear
body形態は大きく変化する。CMVの感染初期にはICP0(Vmn 110)蛋白やIE1蛋白の出現により,いったんnuclear
bodyはまったく消失するものの,その後IE2蛋白出現とともに再びnuclear body構造は回復される。ほかのHSV,アデノウィルス,EBV,ヒト免疫不全ウィルス(HIV)感染の経過中でも,nuclear
bodyは消失したり小桿状をとるなど形態に大きな変化がみられる↑22)↑。これらnuclear bodyの変化は感染した細胞のみに認められるので,ウィルス感染により放出されたインターフェロンを介する変化ではない。Nuclear
bodyとの関連がウィルス側に有利なことであるのか宿主防御に有利なことであるのかは明らかではないが,感染の極初期にウィルスDNAがnuclear
bodyに接して認められたことよりnuclear bodyがウィルスの増幅部位(replication site)であるとする報告もある↑44)↑。
5.PMLの関与が考えられるその他の疾患
Bloom症候群はRecQ DNA helicaseをコードするBlm遺伝子の欠損による先天性染色体異常症であり,正常ではPML-NBsにみられるBLM蛋白を欠失する。この染色体脆弱症候群(chromosome
breakage syndrome)では白血病などをはじめとする悪性腫瘍の発症が多い。また,PML−/−細胞では姉妹染色体交換(sister
chromatid exchange)の頻度が高くなるといわれることから,PMLは遺伝子の安定化に関わり発癌抑制に働くと想定されている↑50)↑。さらにPMLはMHC
classT heavy chainやLMP-2,LMP-7の発現を誘導したり↑65,66)↑,細胞老化↑67,68)↑に関わるとする報告もあるが,これらについてはさらに検討を要すると考えられる。 Y.さ い ご に
このようにnuclear bodyの機能は,めざましい研究の進歩によりかなり解明されてきた。しかしながら,PBCの発症に関する研究は,APLにおけるPML研究に比して十分ではなく,今後さらなる研究の進展が望まれる。その全貌が解明される日が来れば,自己抗体が免疫現象の結果としての単なるマーカーとしての存在にすぎないのか,もしくは病態形成に深く関わるのかという抗核抗体の永遠のテーマに対する回答の得られることが期待される。
本稿を終えるにあたり,ご指導いただいたHarvard Medical School,Massachusetts General
Hospital,The Center of Inflammation and Immunology DiseaseのBloch
DB博士に深謝いたします。 文 献
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表 1 リコンビナントSp100を用いたELISA法による抗Sp100抗体の検出
診断検体数抗Sp100抗体
陽性血清陽性率
リウマチ性疾患
強皮症 97 7 7.2
SLE 102 2 1.9
MCTD 21 0 0
PM/DM 33 0 0
シェーグレン症候群 3 0 0
RA 15 0 0
肝疾患
PBC 184 50 27.2
PSC 15 0 0
AIH 24 0 0
肝炎 31 0 0
健常人 50 0 0
文献8)より
表 2 PBCおよび他の肝疾患における抗Sp100抗体の陽性率
診断抗Sp100抗体陽性
例数(%)
PBC 325 31.4
Liver diseases 107 0
PBC with different AMA profile
M2のみ陽性 94 25.5
M4/M8/M9も陽性 22 41.0
AMA陰性 29 48.3
文献15)より,一部改変
表 3 PBC患者170例における抗nuclear body抗体陽性率
抗nuclear body抗体陽性患者
例%
抗Sp100抗体 35 21
抗PML抗体 33 19
抗Sp100抗体単独 10 6
抗PML抗体単独 8 5
抗Sp100抗体and抗PML抗体 25 8
抗Sp100抗体and/or抗PML抗体 43 25.3
文献17)より
表 4 PBCおよびPBC以外のリウマチ性疾患患者における抗Sp100抗体の免疫グロブリンクラスの比較(ELISA法)
PBC
n=62(%)non-PBC
n=10(%)
IgG only 14 80
IgG+IgM 26 20
IgG+IgM+IgA 52 0
IgG+IgA 8 0
文献18)より
図 1 原発性胆汁うっ滞型肝硬変症(PBC)患者血清を用いた,Hep2細胞でのnuclear bodyの蛍光抗体染色
Nuclear bodyがnuclear dots型,atypical speckled型に検出される。
図 2 Sp100の構造と機能
図 3 PMLの構造と機能
図 4 Nuclear bodyの構成蛋白および集束する蛋白とその機能
(Ruggero Dら,Bioessays 22;827-835,2000より一部改変)
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