最近の基礎転写研究のトピックスである転写コアクチベーター分子の意義について概説する。さらに同分子のリウマチ性疾患に関する役割について私の研究グループの成果についてまとめる。
T.コアクチベーターとは
1980年代後半,優れた研究により遺伝情報(DNA)を鋳型にメッセンジャーRNAを作り出す真核細胞の転写反応は,TATA結合蛋白質(TBP),RNA
polymeraseUに代表される共通のマシーナリーである基本転写因子群と,特定のDNA配列を認識/結合し遺伝子発現の特異性を決定する転写調節因子により司られることが明らかとなった。
一般的に,両者は機能的に相互作用し転写反応を行うが,直接的には結合しない。したがって,両者を繋ぐ因子,すなわち仲介因子(コアクチベーター)の存在が想定されていた。たとえば,代表的な転写活性化因子CREB(cAMP
responsive element binding protein)の場合,cAMPのシグナルにより活性化されたAキナーゼによりリン酸化される分子量43kDの特異的DNA配列(CRE:TGACGTCA)に結合する転写因子として1987年,M.
Montminyらによって見出されていた↑1)↑。しかし,CREBの133番目のセリン残基のリン酸化による転写活性化機構は長らく不明であった。1993年,Chriviaらにより32Pで標識されたリン酸化CREB特異的結合因子としてCBPがFar-Western法によりクローニングされた↑2)↑。
CBPは各組織,細胞で普遍的に存在する約265kDの核蛋白質である。その一次構造よりブロモドメイン,Znフィンガー,グルタミンリッチ領域などの特徴的な機能的モチーフを有していることが明らかとなった(図1)。その後の急速な研究の進展により,CBPが核内受容体をはじめとする多くの(大部分の)転写活性化因子と結合し,転写コアクチベーターとして作用していることが明らかとなった。
これらの結果に基づきCBPがシグナル伝達の最終段階で情報を量的・質的に統合・制御しているとの考えより,CBPを統合装置(コンピューターのIC:integrated
circuit)として捉え,Kameiらはintegratorとして↑3)↑,われわれはcointegratorとして↑4)↑,それぞれ提唱した(図2)。
次に,コアクチベーター機能の分子機作について概説する。これまで大きく2つのメカニズムが提唱されている。Nakatani,AllisらのグループによりCBPをはじめとするコアクチベーター分子にリジン残基に対するアセチル基転移酵素活性が存在することが明らかとなった↑5,6)↑。その代表的基質であるヒストン(H2A,B,3
4)はリジン・アルギニンに富んだ,すなわち塩基性核蛋白質である。したがって,核“酸”であるDNAと安定な“クロマチン”複合体を形成している。ヒストンのアセチル化はこの塩基性を中和する(図2)。その結果,クロマチン構造が緩み転写活性化に促進的に働くという仮説が提唱され,その検証が進んでいる。さらにヒストンのみならずp53,血球系分化特異的転写活性化因子GATA因子,TFIIEなどのアセチル化を介して転写制御に関与しているとの報告も相次いだ(reviewed
in 7, 8)。
最近,CBPのアセチル化酵素としての活性が調節されているとの知見↑9〜11)↑,Horikoshiらによる各アセチル化酵素の基質特異性に関する法則性↑12)↑,また脱アセチル化酵素複合体による転写抑制系の存在も明らかとなった↑13)↑。本仮説は真核細胞に特異的なクロマチン化したDNAの転写の制御機構を明らかにしうる可能性を秘め非常に注目されている。
もう一つのモデルは転写活性化因子と基本転写因子間を文字どおり“仲介”するというものである。これまでTBP,TFIIBなどとCBPの結合が報告されている↑14,15)↑。
われわれはCBPのシステイン・ヒスチジンに富んだ領域の一つであるC/H3領域に機能的RNAポリメラーゼUが結合していること,およびその試験管内での再構成系の確立に成功した。古典的に知られているアデノウイルス産物E1Aによる宿主転写系の抑制機構の一つがE1AとRNAポリメラーゼUの両者が互いにCBPのC/H3領域で競争阻害することによることを証明した↑16,17)↑。また,CBPのC/H3領域とRNAポリメラーゼUは直接相互作用しないことから,両者の間に何らかのメディエーターの存在が示唆されていた。そこでわれわれはC/H3領域を用いRNAヘリケースA(RHA)をCBPにRNAポリメラーゼUをリクルートする因子として単離した↑17,18)↑。
RHAはショウジョウバエの性決定(ハエではヒトと異なり,雄の1つしかないX染色体がsuperactivationされている)に遺伝子発現を介して中心的役割を成すヘリケースmale
less gene産物(Mle)とアミノ酸で約50%のホモロジーのある哺乳類のヘリケース様因子である。RHAのATPase/ヘリケース活性欠失変異体ではCBPの転写活性化への協調的作用が認められないことより,そのATPase/ヘリケースとしてのRHAの存在が重要であることを明らかにした↑20)↑。
前述したアセチル化酵素と並び,クロマチン化したDNAでの転写制御系にATPase活性が非常に重要な役割を成していることを考えると,CBP(アセチル化酵素)/RHA(ATPase/ヘリケース)/RNAポリメラーゼU(DNA依存性RNAポリメラーゼという核内酵素複合体の真核細胞の転写制御での生物学的意義は非常に興味深いものと考えられる。
U.コアクチベーターと疾患
ヒトCBPは第16染色体p13.3にコードされている。この領域は以前より特徴的な骨・筋肉系の異常を伴う先天的精神発達遅延症候群の一つであり,かつhaplodeficiencyの遺伝形式をとるRubinstein-Taybi症候群の原因遺伝子座であることが知られていた。Goodmanらのグループは実際にRubinstein-Taybi症候群の原因がCBPの量的異常であることを証明した↑19)↑。さらにIshiiらによりCBPのノックアウトマウスがRubinstein-Taybi症候群に類似した骨・筋肉系の異常を示すことが示された↑20)↑。また,白血病の染色体転座の標的遺伝子座としてのCBPの可能性が報告された↑21)↑。これらは直接的にCBPの遺伝子レベルの異常により生じる疾患群である。
前述したように生体内でICとして作用しているCBPの機能的異常(量的・質的)による,もしくは関与する疾患群が存在することは想像に難くない。そこで筆者は帰国後,細胞内のコアクチベーター機能の一つであるアセチル基転移酵素活性をモニターする目的でアセチル化リジン特異的抗体を世界に先駆けて作成した(図2)↑22)↑。
本抗体はELISAにてアセチル化されたリジンを特異的に認識した。また,試験管内でアセチル化したヒストンをウエスタン法にて検出することが示された。RAと同様に,難治性疾患であり,かつ病巣形成細胞である血管平滑筋細胞の転写異常状態が指摘されている動脈硬化巣を本抗体を用いて免疫染色を行った。その結果,病巣血管平滑筋細胞の核内蛋白質のアセチル化が亢進(hypernuclear
acetylation:HNAと名付けた)していることを発見した↑22)↑。
この現象は,臍帯より得られた培養血管平滑筋細胞を,そのmitogenでありmotogenであるトロンビンで刺激することにより惹起することが可能であった。
本現象にMAPキナーゼ経路,および転写統合装置CBPがかかわっていることを明らかにした。また,上述したRHAはさらにRHAが家族性乳癌原因遺伝子BRCA1の転写活性化機能の発現に関与し,かつ乳癌患者で高頻度に認められる遺伝子変異(1775番目のメチオニンからグルタミン酸への一アミノ酸残基の置換)によりRHAに対する親和性が有意に低下していることを見出した↑23)↑。
正常型BRCA1は細胞周期抑制因子p21の発現を転写レベルで調節(亢進)し,(乳腺)細胞の増殖の恒常性を保つと考えられている。われわれの実験結果により,変異型BRCA1の場合,RHAとの複合体形成不全が生じ,細胞の恒常性が失われ,“乳癌“の発症に繋がるのではないかとの可能性を提唱できた。
また,本年エイズの原因であるヒト免疫不全ウイルスの発現にRHAが新たなる宿主因子として関与していることも明らかとなった↑24)↑。
最近, コファクターの一つTAF135が神経変性疾患であるポリグルタミン病産物の標的となっていること,それにより神経細胞の保護・維持に対して正に働くCREBのシグナル伝達を抑制し神経変性の原因となるのではないかとのモデルを,新潟大学の辻 省次教授らと提唱した↑25)↑。
V.コアクチベーターとリウマチ性疾患
慢性関節リウマチ症(rheumatoid arthritis;以下RA)の主病変の一つである滑膜細胞の過増殖と活性化の制御はリウマチ性疾患制圧の標的であると考えられている。近年,リウマチ滑膜細胞に転写亢進状態が存在し,RAの病態に深く関与していることが,とくに転写活性化因子のレベルで討議されている↑1)↑。さらにTomita,Morishitaらの先駆的研究↑2)↑はデコイ核酸などを用いることによるリウマチ性疾患の征圧法の開発の可能性をも呈示している。一方,これまで述べてきたコアクチベーター分子はリウマチ性疾患に関与しているのであろうか? 筆者の研究グループは以下の2点について検討した。
1.リウマチ滑膜細胞のHNA
上述した抗アセチル化リジン抗体を用いてRA病巣滑膜での核内アセチル化の程度を検討した。その結果,パンヌスを形成している滑膜細胞にHNAが明瞭に観察された。
さらにRA由来培養滑膜細胞をアセチル化リジン抗体で染色すると,疾患コントロールとして用いた変形性関節症(osteoarthritis:以下OA)由来の培養滑膜細胞に比べ有意に核内アセチル化が亢進していることが明らかとなった。
RAに認められるautonomous HNAの分子機構を明らかにするために以下の実験を行った。OA由来の滑膜細胞を腫瘍壊死因子にて刺激すると,非常に強いHNAが誘導された。また,RA滑膜細胞培養上清に中和活性を持つ抗腫瘍壊死因子抗体を加えると,そのautonomous
HNAが抑制された。これらの結果はリウマチ滑膜細胞の転写亢進状態に転写コアクチベーターレベルでの機能異常が関与していることをはじめて示すものである(論文投稿中)。
これまで報告されている転写活性化因子レベルでの機能異常との相互作用がリウマチ滑膜細胞の転写亢進状態を形成していることを検証することが今後の課題の一つであろう。
さらに,RAの滑膜増殖の中心的役割を担っていると考えられ,かつ,その治療の最も注目されている標的である腫瘍壊死因子シグナル経路の下流に核内アセチル化シグナルが存在することが証明された。今後たとえば,アセチル化酵素阻害剤などの転写コアクチベーターの機能制御がRAの治療の標的となる可能性が示された。
また,細胞種(上述したトロンビン刺激した血管平滑筋細胞とRA滑膜細胞の比較)・刺激の種類(トロンビンとPMAの違い)により,少なくともウエスタンブロット上,異なる分子種がアセチル化されていることが明らかとなった。蛋白質のリン酸化のように,核内アセチル化シグナルが細胞の多様性を反映している可能性がある。
2.転写統合装置を用いたリウマチ滑膜細胞に発現する核内因子の同定の試み
滑膜細胞は軟骨細胞などと同様に間葉系細胞由来であるとされている。しかしながら,その分化・増殖の系譜,さらにそこに関与する分子(群)については明らかにされていない。ある組織・細胞に発現している遺伝子のクローニング法には@ディファレンシャルディスプレイ,サブトラクション法,最近ではDNAマイクロアレイを用いた包括的な発現解析法など他の組織・細胞との比較を基盤とする方法がよく行われている。一方で,Aaffinityカラムなどを用いた生化学的精製法,yeast
2 hybrid法のようにある因子に結合する因子をその結合力を用いて同定する方法も盛んに行われている。後者のストラテジーの場合,最も重要な点の一つが何をプローブ(指標)として行うかであり,そのことがクローニングの成否を左右しているともいえる。
私の研究グループは細胞内でICとして働くコアクチベーターCBPをプローブとして用いた。とくにその3番目のcystein/histidine
rich領域(C/H3)領域(1638-1806aa)は筆者らによりRsk27),RNAヘリケースA↑17,18)↑が,またNakataniらによりP/CAF↑28)↑が,Livingston,GoodmanらによりアデノウイルスE1A↑29,30)↑などの転写調節にかかわる因子が結合するのみならず,MyoD↑31)↑,GATA-1↑32)↑などの組織特異的・分化特異的転写因子群がそれぞれの細胞・組織でどう領域に結合し,それぞれの機能発現にCBPを用いていることが明らかとなった。そこで,(リウマチ)滑膜細胞特異的核内因子を同定するためにCBPのC/H3領域を用いyeast
two hybridスクリーニングを行った。その結果,リウマチ滑膜細胞由来cDNAライブラリーよりCBPのC/H3領域をbaitとしたyeast
two-hybrid screeningにより117個のポジティブクローンが得られた。シークエンス解析およびデータベース(BLASTP)による検索を行ったところ,29個の陽性クローンがNotch1であった。免疫組織化学的手法,および細胞生物学的手法によりNotch1がリウマチ滑膜細胞に強発現し,かつTNFαの下流で滑膜細胞活性化・増殖促進に関与していることが証明された↑33〜35)↑。今後,これらの知見を利用して,新たなるリウマチ制圧法の開発が期待される。
これらの結果は聖マリアンナ医科大学・難病治療研究センターおよび筑波大学・TARA研究センターの研究グループにより成されたものである。また,generalな転写統合装置を用いて組織・細胞特異的核内因子を同定しようとする私の研究戦略について理解し,甚大なるサポートを頂いた西岡久寿樹先生(聖マリアンナ医科大学・難病治療研究センター センター長/教授),深水昭吉先生(筑波大学・TARA研究センター教授),本稿執筆の機会を頂いた宮坂信之先生に深謝いたします。
文 献
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著者紹介
1989年 鹿児島大学医学部卒業
〃 同大附属病院 医員(研修医)
1991年 聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター病院 病院助手
1993年 鹿児島大学医学部臨床検査医学 文部教官(助手)
1997年 ハーバード大学医学部instructor
〃 筑波大学応用生物化学系 文部教官(講師) 1999年 科学技術振興財団さきがけ研究21 研究員(兼任)
2000年 聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター 助教授(現職)
2001年 同センター 第三部門長(遺伝子制御部門)を兼任(現職)
主要研究テーマ:転写研究とくに転写統合装置の基盤研究と医学的応用
図 1 CBPの一次構造と各ドメインに結合する因子のまとめ
図 2 リジンのアセチル化とアセチル化リジン抗体の認識様式の模式図
図 3 コアクチベーターを用いた組織・細胞特異的因子同定のストラテジー |