1999年に日本リウマチ学会評議員に対して医学用語に関するアンケート調査が実施された。その結果,変更要望が強かったrheumatoid
arthritis(RA)の和語に関し医学用語委員会で鋭意検討を重ねた。呼称変更は日本リウマチ学会が扱う最重要疾患の疾患概念を学会で規定することであり,一般社会にも認知されている医学用語の変更であるため,学会員の参加の下で充分に討論する場を設ける目的で,第44回日本リウマチ学会総会・学術集会でのワークショップも企画した。白熱した議論のあと委員会で審議の結果は,“関節リウマチ”と“リウマトイド関節炎”の二つに絞られた。その経緯に関しては学会誌“リウマチ”(40巻5号)に報告させていただいた通りである。
理事会や評議員会では“和語が二つあると混乱を招く”との意見が出て,討論の時間もないまま委員会差し戻しと相成った。医学用語委員会で検討し直す事はやぶさかではないが,今度,評議員会や総会で決定した曉には当分は変更の機会はないであろうと思われるが故に事は重大である。
評議員の中では“関節リウマチ”で良いではないかとの意見が多い。日本整形外科学用語集ではRAは“慢性関節リウマチ”と“関節リウマチ”のどちらを使用しても良い様に初版より[ ]が付けてあり,“慢性関節リウマチ”を“関節リウマチ”に変更しても確かに社会的混乱が少ない。では“RAの肘頭部に出来た皮下結節をリウマチ結節と呼んで良いですね”と日本リウマチ学会の評議員に尋ねると,“いやあれはリウマトイド結節です”との答えが返ってくる。
1962年の本学会でのリウマチ病の和語の決定の過程で,“慢性関節リウマチ”に関してはラテン語のpolyarthritis
chronica progressivaにも英語のrheumatoid arthritisにも該当しないわが国独自のものとなってしまい,漸次必要な改訂を加えてより良いものにすることが当時より望まれていたとのことである。学会員が参加した納得いく形での重要疾患の和語の決定には時間が必要である。国家試験問題や教科書ではしばらく従来通りの“慢性関節リウマチ”としておいて,学会の場や論文では“関節リウマチ”と“リウマトイド関節炎”の使用を認め,学会員に考える期間を提供し,その活用状況より,数年後に一つに絞るとの考えもある。
RA患者が膝関節の歩行痛や弾発現象を訴えるとき,丁寧に診察すると膝関節前外側に結節状の腫瘤を触知出来ることがある。大きさは母指頭大から示指頭大で硬度は軟らかい。腫瘤は膝関節の屈伸運動で出没し,その際,不安感や疼痛を訴える。弾発時の膝関節の屈曲角度は,腫瘤の発生部位により異なり,20度付近と60度付近である。手術所見では膝蓋骨の外側縁に存在する2×3cm程度の明らかな結節状腫瘤である。この臨床的研究の論文を“膝関節内リウマチ結節”と題して学会誌“リウマチ”に投稿したところ,当時のレフリー数名と激しい議論になったことを記憶している。
“リウマチ結節”とはリウマチ熱の心臓に認められるAschoff結節のことである。RAで認められる結節状の腫瘤は“リウマトイド結節”とすべきである。典型的な病理組織所見があるときのみリウマトイド結節として扱うこと,等の訂正を求められた。Fassbender(1975)はRAの滑膜の病理組織診断では増生した絨毛の中に壊死巣を取り囲み組織球性細胞が柵状配列した所見こそが,RAを診断できる唯一の病理組織像であると結論しているが,このリウマトイド結節は決して肉眼的な結節や腫瘤ではない。RAの肘頭部に認められるリウマトイド結節は視診や触診で診断されているが,実際に切除してみると必ずしも典型的な病理組織所見を示さない事もある。では病理組織像も調べないで,何故リウマトイド結節を言えるのかと食い下がったことを思い出す。
学術的には病態を反映した病名が望ましいが,痛風や糖尿病の様に全ての医学用語がそうであるとは言えない。“医学用語一つでそんなに真剣に考え討論する時間があったら,RAのもっと良い治療法を考えてくれませんか”との厳しいご指摘があったことも事実である。医学用語集の編纂に携わられた諸先輩の悩みと苦労が非力な自分には痛いほど共感できる今日この頃である。
著者紹介
1940年 九州大学医学部卒業
1944年 ペンシルバニア大学留学(日本リウマチ協会フェローシップにより)
1945年 九州大学大学院修了
1945年 九州労災病院整形外科勤務
1982年 大分医科大学整形外科 助教授 1997年 同 教授(現職)
1999年6月 日本リウマチ学会医学用語委員会委員長
2000年 日本臨床リウマチ学会理事長
主要研究テーマ:化膿性関節炎の病理・病態,関節破壊機序,人工関節と移植骨の着床 |