T.自己免疫疾患の発症病因
自己免疫疾患には,同一の臨床所見や病理変化が重複して見出される。これは自己免疫疾患の大きな特徴で,発症病因に結びついている。自己免疫疾患では,個体の免疫システムが個々の部品でなくシステム全体として変調を来し,システムの乱れ方は各人で遺伝的に規定されて各様であり,強調されて表現されたさまざまな症候が「疾患」を形作る。疾患はちょうど根幹にある共通の免疫異常が枝分かれして出来た木の枝に似て,枝分かれ以前の共通部分には重複overlapが存在し,2つの疾患が完全に重複するものや1つの疾患に他の疾患が部分的に重複するもの(たとえばSLEに出現するリウマチ因子など)などがある(図1)。
疾病は,@引き金(原因),A引き金が引かれた後に展開する根幹の病態(システムの変調),B変調の結果生じる症候の集合(疾患),の3つによって形作られる。研究の進歩は,たとえばSLEの腎障害がDNA-抗DNAを主体とした免疫複合体の沈着によって生じるなど症候の成り立ち(上記のB)を解明した。PSSに疾患特異的に出現する抗Scl-70抗体,SLEの標識抗体である抗Sm抗体,ウェゲナー肉芽腫の抗好中球細胞質抗体cANCAなども同様である。しかし,これらの抗体がなぜ特定の個人(患者)に生じるのか(上記のA)は不明で,これが今後の課題である。引き金は個々人で多様であるが,Aの解明は@の解明につながると思われる。
1.遺伝と発症病因
システムの変調(A)は,抗原に対する応答が個人の「免疫システムの安定性」の範囲を逸脱した場合である。抗原に対する応答の程度と様式は各人で遺伝的に規定されて異なり,環境因子である抗原の種類,量または侵入の仕方によって応答の有無と大小が決まる。同一抗原が同量,同一ルートで侵入した場合の個人の応答は遺伝的に規定され,ある人は遺伝的寄与が大きくわずかの環境因子(ウイルス感染など)で発症するが,他の人は環境因子が高い閾値を越えないかぎり発症しない。HLAについては,最近HLA上に提示された特定のアミノ酸配列と疾患との関連が指摘されており,HLAは抗原に対する応答性を握る遺伝要因といえる。
2.史的展望による発症病因の考察
私達は生命の発祥の遠い昔から,自己の伝承を司るDNAを軸とした生命体として,環境の影響を受容あるいは拒絶したりして今日に至っている。ヒトの生物としての歴史は進化の時間からみると,対感染症の歴史といえる。
進化は@一定の確率で生起するDNAレベルでの突然変異と,Aこれを選択する自然淘汰の圧力(フィルター)によって構成され,優性の変異は子孫を残すことによって固定される。抗生物質のなかった時代には,感染を排除できる強い応答機構を備えた個体が淘汰されて残り,人類は世代を経る毎に感染症に強くなっていったと考えられる。子孫を残すことが進化の原動力であるから,生殖年齢に達するまで健在であることが必要条件となり,したがって現代に生きる女性の免疫力は男子より強い。また,感染に対して強すぎる防衛応答が起きると,身体が防御の戦場となり炎症とサイトカインによって自身が焼き尽くされるから,強力すぎる防御応答を示す個体は強い反応の故に消耗して生き残れず自然淘汰される。このため生命は,抗原に凌駕されずしかも抗原を殲滅しない程度にほどほどの応答を示して生き残る道を選ぶことになる。
ウイルスが体内に侵入した場合(図2),少量であれば,ウイルスに毒性があろうがなかろうが,細胞傷害性T細胞がこれに作用して,ウイルスの増殖は阻止され疾病は治癒する。ウイルスが大量でしかも毒性の場合,細胞傷害性T細胞が発動されても個体は途中で死ぬ。ところが非毒性ウイルスが多量侵入すれば,細胞傷害性T細胞に攻撃されてウイルス量は減少しても,ウイルス量に比し細胞傷害性T細胞が足りないから,ウイルスが細胞傷害性T細胞のバリアを越えて侵入し続けることになる。すなわち,侵入抗原が生体にとって致死的でない場合,同一抗原が個体に持続的に供給され続けて遷延感作が成立し,遷延感作の結果自己免疫が生起してくるのである。人類はこれまで進化上風邪など一過性に侵入してくる抗原に対しては大変効率のよい免疫防御系を備えるに至ったが,繰り返して侵入してくる抗原をうまく処理できない。ここに自己免疫疾患発症の重要な素地がある。
同様の例は岡林の遷延感作実験にもみられる。すなわち,ウサギなどの実験動物を同一抗原を用いて繰り返して免疫すると,個体の免疫応答は次第に強くなり極期に達し(図3),免疫グロブリンが過剰に産生されて免疫応答が亢進する。さらに抗原刺激を加え続けると,ある時期を越えて免疫応答が極端に低下する疲弊期を迎える。この時期になると,M蛋白やリウマトイド因子など通常にはない異常蛋白が産生されて,やがて自己免疫疾患が生起する。致死的ではないが繰り返して侵入してくる過剰の抗原に対して,個体は適切に対処できないのである。
こうした事実は自己免疫疾患にみられるアポトーシスの異常とも関連がある。アポトーシス受容体の一つFasまたはFas ligandに異常のあるMRL/lマウスはリンパ系過剰増殖を来し自己免疫疾患を発症する。細胞がアポトーシスapoptosisにより死すべきときに死なないと自己免疫疾患に陥るのは,繰り返す抗原刺激がリンパ系の過剰増殖を来して自己免疫に至る経緯と一致しており,自己免疫発症とリンパ系過剰増殖,または自己免疫疾患と抗原刺激によるリンパ系過剰増殖と類似している。 U.自己免疫疾患の遺伝素因
自己免疫疾患は,遺伝素因に環境要因(引き金)が加わって発症する。従来の研究は,自己免疫疾患が多因子遺伝によることを明らかにしたが,実体は不明であった。自己免疫疾患の遺伝解析が難しいのは,@候補遺伝子がわからず検索すべき遺伝子が特定できない,Aメンデル遺伝形式がわからない,B多因子遺伝であるから浸透率penetranceが低くしたがって検出感度が落ちるからで,さらにCRAでは患者が比較的高齢発症で診断確定時すでに両親が死去していて遺伝子型が決定できないという具体的な問題点がある。こうした問題にもかかわらず,最近の分子生物学の進歩は,医学を論理的な学問へと発展させただけでなく古典的遺伝学にも変革をもたらし,家系を対象にした遺伝解析を格段に進歩させた。
1.多因子遺伝解析上の問題点の克服
上述の問題点に対して,@は全染色体に散在するマイクロサテライトマーカーを指標にすれば,絨毯爆撃によって全染色体が解析できる。Aにはメンデル遺伝形式を問わないノンパラメトリックな同胞対検索法sib-pair
methodが使える。Bは解析法の感度と家系および民族の遺伝的背景に依存する。Cについて私達は,当初遺伝解析プログラムが入手できなかったので,Risch,Holmansの方法にならい両親が検定できなくても使える遺伝解析のコンピュータープログラムを作成した。
2.マイクロサテライトマーカー解析法
染色体には,マイクロサテライトマーカーと呼ばれる塩基配列が数塩基の単位で繰り返す部分がある。中でもCAの2塩基の繰り返し配列(CAリピート)が有名で,これはDNA上約300〜500キロベース毎に分布している。マイクロサテライトマーカーを標識に選べば,全染色体にわたって一定の幅で,標識遺伝子の遺伝的受け渡しが追跡できる。
手順は次のとおりである(図4)。各人から抽出したDNAを各マイクロサテライトマーカーの塩基配列に対応する蛍光標識プライマーを用いてPCR法で増幅する。これを電気泳動して,増幅したマイクロサテライトマーカーのサイズを決定する(サイジング)。マイクロサテライトマーカーは,CA塩基の繰り返し配列(サイズ)が人類間で充分多形性に富み,親子兄弟間でもサイズが異なっている確率が高いから,マイクロサテライトマーカーのサイズを正確に測れば,親子間でマイクロサテライトマーカーの受け渡しを実際の対立遺伝子と同様に判定できる。測定する検体数が極めて多いため,電気泳動はレントゲンフィルムに焼き付けることなく蛍光色素をレーザーでスキャンできるDNAシークエンサーを用い,ジーンスキャンなどの画像解析ソフトを用いて蛍光画像の位置から遺伝子サイズを決定した。
3.同胞対検索法sib-pair method
サイジングされた個々のマイクロサテライトマーカーDNA(標識遺伝子)が,家系内でどのように受け渡されたかを古典的同胞対検索法によって調べる(図5)。マイクロサテライトマーカーは核酸のCA配列がn個重複して存在し,これを人類集団としてみたとき対立遺伝子が充分に多形性に富む(すなわちnが4以上)と判断されるから,同胞対検索法の前提条件を満足する。もし人類集団の持つ対立遺伝子が4つ以下なら,父がaとb,母がcとdの対立遺伝子を持つことからわかるように,両親が同一遺伝子を共有する確率が高くなり,遺伝子の受け渡しが判別できなくなる。
片親由来の遺伝子が患者同胞に等しく分配された場合(図ではaに該当),これを同祖遺伝子IBD(identical by decent)と呼ぶ。片親由来の遺伝子が1つ同胞間で共有された場合がIBD=1,2つ共有された場合がIBD=2である。同胞間で同じ遺伝子が共有されても,片方が母親由来,他方が父親由来であれば,同祖遺伝子IBDではない。1つのDNAが分裂して両方に分配されてはじめて同祖といえるからである。
1つの家系で同胞間の2つの対立遺伝子が互いに独立ならば,同胞がIBDを2つ共有する確率z↓2↓は0.25,1つ共有する確率z↓1↓は0.50,共有しない確率z↓0↓は0.25である。罹患同胞対で特定のマイクロサテライトマーカー(標識遺伝子)が疾患遺伝子の近傍にあれば,この値に偏り(z↓2↓,z↓1↓,z↓0↓の間にカイ二乗検定法で有意の偏り)が生じて連鎖が見出される。これが同胞対検索法の原理である。この際,遺伝子の授受が同胞,親子,一卵性双生児で計算され,z↓0↓≧0,z↓1↓≦0.5,z↓1↓≧2Xz↓0↓およびz↓0↓+z↓1↓+z↓2↓=1の制限が設定される。この条件下にlog
odds(oddとは偏りのこと)すなわちLod値が計算され,zを上記の制限下にコンピューター上で動かして最大のLodすなわちMLS(maximal
lod score)が算出される。
4.RAの遺伝素因──疾患遺伝子座
RAの疾患遺伝子を検索した私達の場合,検索の範囲を全染色体にわたって約10cM(センチモルガン)の幅(精度)になるように358箇所のマイクロサテライトマーカー部位を設定した。すべてのマイクロサテライトマーカー部位における遺伝子の授受すなわちIBDを計算して,最終的にMLSが3を越えるマイクロサテライトマーカー部位を連鎖ありとした。ここにLodは,ありやすさlikelihoodの帰無仮説からの偏り具合を示す指標で,MLS=3はおよそ1000倍の「ありやすさ」すなわち確からしさを意味し,P=0.001の推計値に相当する。
RA家系は,RAは比較的高齢発症であるため,診断確定時両親の多くが死去されていて検索できない。両親の遺伝子型が決まらないと,罹患同胞が共有するaが片親由来(IBD=1)か,あるいは片方は父,他方は母由来(IBD=0)であるかが一義的に決まらない。このため私達は,以下のように健常同胞の遺伝子型を考慮することによって両親の遺伝子型を決定した。
私達は,Lod値が3を越えて有意であった第1染色体D1S214/D1S253,第8染色体D8S556,X染色体DXS1232の合計3つの遺伝子座をRAの疾患遺伝子座として,順にRA
1,RA 2,RA 3と命名した(図6)。 V.RAの疾患遺伝子
私達は,マイクロサテライトマーカー解析により,RAの疾患遺伝子を含む染色体領域として,3箇所の遺伝子座を特定したが,最近X染色体の疾患遺伝子を分子レベルを同定することができた。ここに疾患遺伝子とRAの発症病因の関連について概説する。
1.RAの病変過程
RAは原因不明であるが,病変の発症と進展の様式については大方の合意が得られている。RAの病変過程は3期に分けて考えられる(図7)。第1期には,病原因子が血中より関節滑膜に到達して,局所で免疫応答が開始する。第2期には,血中からマクロファージ,リンパ球,好中球等が遊出して慢性炎症が展開する(臨床上は関節の腫脹となる)。第3期には,@炎症滑膜から放出されたプロテアーゼ,A炎症性肉芽組織の延長であるパンヌス,あるいはB炎症滑膜によって活性化された軟骨細胞による軟骨基質内部からの消化,3つの過程によって関節破壊が進行する(臨床上は関節の変形となる)。
関節はあらゆる抗原が血流に乗って必ずいったんはここを通過する1つの免疫臓器であり,関節の主要構成要素である滑膜表層細胞は抗原提示能を有する特殊な間葉系細胞で,関節に流入した抗原は滑膜細胞によって抗原提示され,抗原提示された活性化T細胞は,強く増殖してサイトカインを分泌する。この際,T細胞の近傍に位置する滑膜間葉系細胞が強く活性化されて,以後半ば自動的に滑膜間葉系細胞を主体にした滑膜増殖と関節破壊が進行すると考えられる。
滑膜の間葉系細胞は関節破壊にかかわるパンヌスの主要構成成分として直接軟骨・骨を侵食破壊するほか,IL-1,IL-6やTNFα等の炎症性サイトカインを産生して関節破壊を進行させる。こうした滑膜間葉系細胞の半ば自律性の強い増殖機構の原因は不明であるが,サイトカインなどのシグナルが細胞内に過剰に伝達されて賦活された増殖関連遺伝子(NFkBやc-fosなど)が原因の一つに推定され,実際c-fos遺伝子を滑膜細胞や骨芽細胞に強制発現させるとRA類似の滑膜の過剰増殖や骨粗鬆症が誘導される。
このように,RAは初め抗原特異的に発症するが,慢性炎症の結果RAの関節破壊は抗原非特異的に進行し,好中球やマクロファージを主体にした抗原非特異的な生来性免疫応答innate
immune responseがRAの病態形成に主要な役割を演じると考えられる。
2.RAの疾患遺伝子候補──DR3遺伝子
私達は,第1染色体の疾患遺伝子RA1の候補として,Fasファミリーの一員で,構造的にもFas同様細胞外にシステインリピート構造を有し,細胞死を誘導するdeath
receptor 3(DR3)を同定した。RA 1遺伝子は,既知のDR3上におけるnt564(A→G);Asp159Gly,nt630+622(del14),nt631−538(C→T),nt631−391(A→T),nt631−243(A→G)のSNP4箇所および核酸欠損1箇所の変異体であった。変異のために転写が早期に終結し,細胞外断片が生成し,断片は正常DR3分子と三量体を形成した。このため,下流のTRADD以下のシグナル伝達が阻害された。変異は多発家系のRA例で6/60(10%),孤発RAで7/297(2.36%),健常対照者で1/266(0.38%)に認められた。
抗原特異的免疫応答の過程で,増幅・活性化したリンパ球に適切に細胞死(アポトーシス)が誘導されないと自己免疫疾患に至ることは,疾患モデルMRL/lprマウスのFas変異例からも明らかである。今回見出された疾患遺伝子にコードされるDR3分子は,リンパ系細胞にほぼ限局されて発現するdeath
receptorで,Fas分子と構造が類似しFasファミリーの一員として捉えられ,このため3番目のdeath receptorという意味からDR3と命名された。しかし,DR3に関する知見を詳細に検討すると,細胞死シグナルのレセプターとして,Fasが唯一最重要な分子であるか否かが未だ明確でなく,同じファミリーのTNFRやDR3との間の機能的および臓器分布上の棲み分けや分業の実体は詳らかでない。したがって,現時点では比論を用いればRAの疾患遺伝子DR
3が自己免疫疾患発症におけるFas変異のヒト版であると考えることができるが,自己免疫疾患発症における細胞死機構の破綻の重要性に鑑みると,今後この分野における生化学的知見の積み重ねが重要であり,近い将来自己免疫疾患の発症機構の本質的分子機構が明らかになるものと思われる。
3.RAの疾患遺伝子候補―Dblプロトオンコジーン
私達は,X染色体にある疾患遺伝子RA3として,DXS1232から0.1cM近傍のDXS984に位置するDblプロトオンコジーンに変異を見出した。RAではDbl遺伝子の3'端近くの塩基番号2697番目から2919番目までの223塩基が欠失しており,この欠失は第23と第24のエクソンスキッピングの結果であり,このため転写の読み枠にフレームシフトが生じて,元のDblより65アミノ酸短い異常ポリペプチド鎖が生成する(図8)。
DblプロトオンコジーンはGEF(GTP exchange factor)活性を有し,Rho蛋白を細胞膜から細胞内の標的蛋白へ移送するシャトル機能を担う他,Rac,cdc42およびrhoの上流に位置してこれらの活性化を司る。Rac,cdc42およびrhoは生理的に好中球など食細胞の膜の動き,貪食,移動などを支配し,またRacは活性酸素生成に関わるNADPHオキシダーゼの構成成分である。このことから,Dblは食細胞の動きや貪食に関係し,活性酸素生成の鍵を握ると推定される。またDblのC端は構造上脂溶性に富み,あるいは両媒性であり,この部分でrhoなどG蛋白の脂質基を抱き込みこれを膜から解離させて標的蛋白へと移送すると考えられる。したがって,C端を欠くRA
3遺伝子は,rhoなどG蛋白の移送およびRacやcdc42の活性化を阻害して,好中球機能や食細胞の抗原提示能を障害して,炎症を遷延化させる可能性が考えられる。事実Dbl変異のある患者のほぼ全例において活性酸素生成能が有意に低下していることが研究室の日笠真理により見出された。このように特定の部位にエクソンスキッピングの起きる原因として,一つには近傍のイントロンに一塩基置換SNP(single
nucleotide polymorphism)などの塩基置換のあることが知られている。そこでこれを検索してみると,第22と第23エクソンに挟まれたイントロンに
5'-TTACAGT-3' から 5'-TTATAGT-3'の一塩基置換のある例が見出された。この変異のために実際にエクソンスキッピングが生じることは,実験的にエクソントラッピング法により確認された。現在のところ,Dbl変異に起因する好中球機能異常がどのようにしてRAを引き起こすかについて十分説明できていないが,古典的な知見によると好中球がないと炎症が終息しないといわれており,慢性炎症が終息しないことが病因の重要な部分を占めるRAでは,このことがとくに興味深く思われる。 W.結 語
自己免疫疾患は,遺伝素因に環境要因(引き金)が加わって発症する。自己免疫疾患の一つ慢性関節リウマチの遺伝素因について,マイクロサテライトマーカーを用いた家系解析を用いて疾患感受性遺伝子座を第1染色体D1S214/253,第8染色体D8S556,X染色体DXS1232/984の3箇所に同定した。この結果を踏まえて,当該部位に位置する疾患感受性遺伝子として,第1染色体に位置する疾患遺伝子候補として細胞死に関わるFasのファミリーであるDR3遺伝子の変異を,そしてX染色体に位置する疾患遺伝子として低分子量G蛋白に対するGEF活性を有するDblプロトオンコジーンの3'端欠損遺伝子を見出した。すなわち,細胞増殖あるいは細胞死に関わる分子が自己免疫疾患の遺伝素因を形作っていることが見出された。
これまでは自己免疫疾患の遺伝素因が多因子遺伝によることが解明されたものの,実態は不明であった。しかしながら,最近の分子生物学の進歩は,医学を論理的な学問へと飛躍させただけでなく古典的遺伝学にも変革をもたらし,家系を対象にした遺伝解析を格段に進歩させ,ついに遺伝素因の本体が分子の言葉で語られることになった。今回見出された慢性関節リウマチの疾患感受性遺伝子は,生理的な細胞増殖と細胞死に関わる分子であり,その機能異常が自己免疫疾患の遺伝素因を形作っていることが示唆された。 文 献
1) Shiozawa S, Hayashi S, Tsukamoto Y et al:Identification of the gene that
predispose to rheumatoid arthritis. Int Immunol 10:1891-1895, 1998
2) Komai K, Hikasa M, Kawasaki H et al:Identification of 3'-deletion mutant
of Dbl protooncogene as rheumatoid arthritis disease gene RA3. Arthritis Rheum
42:Suppl. s392, 1999
3) Konishi Y, Mukae N, Hayashi S et al:Death receptor 3(DR3)as a candidate
for rheumatoid arthritis disease gene RA1. Arthritis Rheum 42:Suppl. s392,
1999
4) 塩沢俊一:現代医学の基礎.第9巻(笹月健彦編),pp101-125,岩波書店,2000
著者紹介
1975年 神戸大学医学部医学科卒業
1980年 同大学院医学系研究科修了
〃 公立北兵庫内科整形外科センター内科医長
1981年 神戸大学医学部第3内科助手 1993年 同講師
1995年 同保健学科教授
主要研究テーマ:慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデスおよびシェグレン症候群の発症病因と治療
図 1 膠原病の概念図
遺伝素因を根にして,疾患の引き金が木の幹に作用して「病態」が形成される。さらに枝分かれして症候が形成され,症候の集合が「疾患」を形作る。疾病の研究では,病態すなわちシステムの変調の仕方を解明することが肝要で,遺伝素因の研究が基礎となる。
図 2 ウイルス感染と細胞傷害性T細胞cytotoxic T lymphocyte(CTL),抗体応答の関係
図 3 抗原による遷延感作と自己免疫疾患(岡林篤より一部改変)
ウサギを同一抗原で繰り返して免疫し続けると,免疫応答は極期を迎えやがて疲弊していくが,この頃に種々の自己免疫病態が生起する。
図 4 マイクロサテライトマーカーを標識にした全染色体レベルの疾患遺伝子の家系解析
RAの罹患同胞2名以上を含む41家系より抽出したDNAをPCR法で増幅し電気泳動する。私達は多数の検体を処理する必要から最高速のABI377型DNAシークエンサーを用いて1人から358箇所のマイクロサテライトマーカーを検定した。
図 5 罹患同胞対検索法
両親のマイクロサテライトマーカーDNAのうち,aが罹患同胞に分配されていることが,電気泳動上の増幅DNAフラグメントのサイズを計測(サイジング)してわかる。これが同祖遺伝子identical
by decent(IBD)である。もしこのaが1つは父親,他は母親由来であったならば,罹患同胞はaを共有してはいるが,それはIBDではなくみかけ上の一致identical
by state(IBS)となる。
図 6 RAの疾患遺伝子の位置
特定した3箇所をより詳細に近傍のマイクロサテライトマーカーを選んで再検討すると,第1染色体ではD1S214とD1S253の領域にMLSが6を越える有意の遺伝子座位が見出された。第8染色体では,同じD8S556にMLSがsingle
point analysisで4を越える遺伝子座位が見出された。またX染色体では,DXS1232の0.1cM(センチモルガン)近傍(矢印の位置)にMLSが2を越える有意の遺伝子座が見出された。X染色体はXが父親では必ず伝播されるから,MLS=2をもって有意と判定される。
図 7 慢性関節リウマチの病変過程
炎症の展開には滑膜間葉系細胞とT細胞が主要な役割を演じる。この結果c-fosなどのがん遺伝子が活性化されて,関節を「場」とする滑膜間葉系細胞の増殖・活性化による滑膜の腫瘍性増殖,近傍の骨芽細胞などの活性化による関節破壊が進展する。炎症の遷延化にはがん遺伝子の活性化が重要と考えられるが,このがん遺伝子の活性化はまた滑膜細胞やT細胞の特異な応答(たとえばDNAの倍化など半ば腫瘍性の変化)にも影響を及ぼすと考えられる(※印)。
図 8 RA 3遺伝子とDblプロトオンコジーン
X染色体にあるRAの疾患遺伝子RA 3は,DXS984に位置するDblプロトオンコジーンの3'端の部分が欠失変異した遺伝子である。塩基番号2697番目から2919番目までの223塩基が欠失しており,2698塩基以降がコードする65アミノ酸が欠損するため,国際表記法でnt2697(del223)と表現される。 |