つい20年程ほど前までは子供のリウマチ性疾患といえば代表はリウマチ熱であった。しかし,他の感染症と同様に,レンサ球菌に起因するリウマチ熱は1980年代からほとんどみられなくなり,現在では症例報告される程度に稀な疾患となった。
現在,小児期のリウマチといえば小児特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis, JIA)がその代表となった。この用語も,まだ最終的な用語ではないが,国際リウマチ学会(ILAR)で検討中で,ACR用語であるJRAは,国際学会では既に使用されていない。わが国ではいまだに徹底されていないことと,JIAの日本語訳が公用となっていないため,本稿ではJRAを使用したい。
JRAの治療はこの10年の間,非常に変わった。
世界中の小児科医が必ず目を通す教書にNelson'Textbook of Pediatricsがある。10年前の版では,アスピリン治療が中心であった。その量も内科の先生が見たら驚くような量を使う。つまり,体重1kgあたり,50―60mg/日から開始し,効果がなければ80―100mg/kgまで増量する。当時しばしば使われていた小児用バファリン↑TM↑が1錠81mgであるので,平均的な小学校1年生21kgで,1日に20―30錠内服することになる。この位大量に使わなければJRAの活動性が治まらないのも事実である。それが同じTextbookの5年前の版では「アスピリンは非常に良い薬であり,親もよく知っている薬でコンプライアンスも良い。大量に使うが血中濃度が容易に測定可能で,使い易い薬である。しかし,アスピリンがライ症候群の病因として危惧され,法廷論争では使用した医師が敗訴しているため,社会的な理由で自分は使わない。少なくても新患には使わない」という意味の記載をしている。そして2000年の最新版では,JRAの治療の項目にはアスピリンという文字は一度も使われず,NSAIDsが無効なら第2選択薬としてMTXを使うことを薦め,これが無効なら,サイトカイン療法を選択することが薦められている。
MTXは1985年ごろからJRAに使われ始め,1992年に当時はまだ冷戦下であった米国とソ連の小児リウマチ医のグループが,体表面積あたり5mgと10mgで比較した成績が報告され,この論文のEBMに基づいて,世界中の小児科医がMTXを使い始めた。
実際に,私もJRA症例の80%にはMTXを使用している。
その使用量は日本の健康保険に許されている成人量より多く,体表面積あたり10mg/週,つまり平均的な体格の小学校1年生に10mg/週を使用する。
内科,整形外科の,しかもリウマチを専攻している先生方にJRA症例に対するMTXの使用を説明すると「子供にこのような薬剤を使うとはとんでもない,量は何かの間違いではないか」としばしば反論される。私の答は「そう,子供だからこの量が必要なのです」。
JRAの軟骨,骨破壊の進み方は症例にもよるが,成人の比ではない。
例えば最近経験した3歳の女児では発症3カ月で,既に膝関節の拘縮が始まっていた。この間,一般病院でibuprofenのみを処方していた。
小児リウマチ医が少ないのも大きな問題である。
日本リウマチ学会の認定医の資格を持つ小児科医は全国で38名しかいない。計算では200名が必要である。
しかも北海道,関西地区,中国四国には一人もいない。全国20箇所の小児専門施設で小児リウマチ医が勤務しているのは国立小児病院,千葉,埼玉,神奈川の小児病院の4施設だけである。
設立が期待されている国立リウマチセンターには小児科リウマチ医がいないらしい。
薬剤の効能書きに必ず記載されている表現に「妊娠中には使用しないこと」,「小児には安全性が確立されていないため使用しないこと」とある。
小児とは何歳までなのか?
未熟児から,身長も体重も親より大きな中学生も小児なのである。
安全性とは何であろうか?
免疫抑制薬の場合には,将来の催腫瘍性,催奇形性もその意味には含まれると思う。3歳からJRAの治療を受け,60歳で悪性腫瘍が出現する可能性が少しは高いかも知れないという理由で,目の前の関節炎を相変わらずアスピリンだけの治療に甘んじなければならないとは誰も思わない。
3歳の女の子が,20年後に結婚し,出産し,その子に,さらに孫に奇形が出る可能性を含めた安全性を確認しなければならないのか?
幸いなことに,おそらく世界中では既に数万人のJRAの症例に,10年以上前からMTXが使用されていると考えられるが,小児での悪性腫瘍,特にリンパ腫の報告はなく,間質性肺炎,肝線維症の報告もない。敢えて言えばEBウイルス関連と思われるリンパ腫の報告があるだけである。
小児でMTXの副作用が少ない理由はMTXの腎排泄量が成人より速やかであることが理由であり,これは,成人より多量に使用しなければ効果が期待出来ない理由でもある。多くの症例が既にMTXを使用し,教科書的な常識となっているにもかかわらず,リウマトレックス↑TM↑は,残念ながらカプセルである。カプセルが何とか服用できる年齢は7―8歳である。メーカーでは製剤が小児に使われないと考えているらしい。小児での治験を行う予定はないと断られたからである。まさか,メーカーでは自社製品の優れたデーターを知らないわけではないと思うが,無知なのか,無視なのか。
既存する錠剤はリウマチ性疾患に適応ではない。しかし,小児科医は使わざるを得ないのである。もし,万が一に錠剤を使ったために,小児では適応ではない剤型を使い,副作用が出て敗訴しても,小児科医は使わざるを得ないのである。
他の薬剤の選択肢がないからである。lobenzarit,bucillamine,actaritなども,小児には適応ではない。D-penicillamine,auranofinは対照試験で小児には否定的な結果が出ている。残るはsalazosulfapyridineと欧米ではchloroquineである。
3年前に,友人である小児SLEで有名なThomas Lehmanが家族旅行で日本に立ち寄った際,東京女子医大膠原病リウマチ痛風センターの講堂で講義をして頂いた。内科,整形外科の先生方も大勢聴取していたので,その時点ではまだ保険適応ではなかったが,MTXについて質問した。小児では既にしばしば使っていたし,成人を診ている先生方にも再認識をしてもらうための質問をした。「先生がMTXを使った最少年齢はいくつでしたか?」と。一瞬,不思議そうな顔をされ,「JRAは乳幼児期でも発症し,年齢が小さいからという理由で選択しなかったことはない」,変な質問をするなよ,という顔つきであった。迎えに行くタクシーの中で,etanercept(Enbrel↑TM↑)のすごい効果を聞かされ,盛り上がっていたのに,今さら何故,MTXの適応年齢などについて聞くのかというわけである。
そう,たとえ1歳の症例でも,関節破壊を進ませないためには,免疫抑制薬でも,ステロイドも使わないわけにはいかないのである。
今後のリウマチの治療は難治例ではサイトカイン療法が中心になると考えられる。
既に可溶性TNFαレセプター蛋白(etanercept),抗TNFα抗体(inflixmab)は商品化され,IL-1レセプターアンタゴニスト,抗IL-6レセプター抗体などが治験に入っている。
etanerceptについてはFDAでは,まず小児への適応が許され,半年後に成人にも許可された。日本でも今年から治験が開始された。
しかし,日本での治験の対照は20歳以上の症例である。これも小児での安全性が確立されていないからなのか?
いつまでこのような状態が続くのだろうか?
現在は情報社会の時代である。
「あなたのお子さんの病名は若年性関節リウマチです」と診断された父親の多くは,自宅に帰るや否やインターネットにかじりついて,現在の治療法を検索する。うっかりすれば「来週まで,治療を始めないでほしい」といわれ,次週に「やはり先生のおっしゃる通り,検索したらメトトレキサートが使われていることがわかりましたので,うちの子にも使って下さい」といわれる時代である。
当然,外国では今どのような治療が行われているかを知ることができる。「エンブレルを並行輸入すれば,注射してくれるか?」,「ハワイへ行けばエンブレルの治療が可能か?」「アメリカでの治療費はいくら位かかるか?」と既に聞かれたことがある。
etanerceptの治験が終わるまで,保険適応になるまで何年かかるかわからないが,MTXの使用許可はアメリカに遅れること11年の国である。決して早いとは思われない。
この間にも,活動性の強いJRAの子供達の関節破壊は進行しているのである。
成人ではRAの早期診断基準が作られ,いかに早く診断し適切な治療を開始するかが検討されている。
小児では成人以上に早く診断し骨破壊関節破壊が始まる前に適切な治療を行なうかで将来の関節障害,成長障害が左右される。
先生方のお子さんが,お孫さんがもし,JRAに罹患したらどこを受診しますか?
薬剤はアスピリンだけでよいのですか?
著者紹介
1963年 日本大学医学部卒業
〃 市立札幌病院インターン研修
1964年 日本大学板橋病院小児科入局
1977年 国家公務員共済連合会東京共済病院 小児科医長
1984年 獨協医科大学越谷病院小児科 助教授 1997年 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 講師
主要研究テーマ:リウマチ熱,若年性関節リウマチなど小児期のリウマチ性疾患の臨床的研究
学術賞:1996年 日本リウマチ財団 三浦記念学術奨励賞 |