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リウマチ Vol.41 No.2             
「エビデンスに基づく膠原病の検査診断」
 
熊谷俊一
神戸大学臨床検査医学・免疫内科
 
実地医家のための教育講演―10

 膠原病の多くは未だにその原因が不明で,それだけで診断が確定できる検査(感度100%,特異度100%)は存在しない。診断は,図1に示すように,病歴や臨床症状から膠原病を疑い,理学的所見と検査所見を組み合わせて,診断基準にあてはめるというプロセスで行う。エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine:EBM)は,疫学的あるいは生命統計学的手法により得た臨床疫学のデータに基づき,確率論的に最も適切な臨床判断を下す科学的アプローチである。膠原病診断のプロセスをEBMの面から考えてみる。

1. 検査の特性(感度sensitivity,特異度specificity,尤度比likelihood ratio;LR)

 ほとんどの臨床検査には,僞陽性(健常人や対照疾患での陽性)や偽陰性(疾患が存在するのに陽性とならない)が存在する。全身性エリテマトーデス(SLE)診断における間接蛍光抗体法による抗核抗体(FANA)と抗Sm抗体検査を例に取り,その意義を考えてみる。感度はその疾患での陽性率(真の陽性率)であり,特異度は対照疾患での陰性率(真の陰性率)である。図2のように,FANAは感度99%,特異度80%であり,抗Sm抗体は感度30%と低いが,対照疾患ではまず陽性にならないので特異度は99%と高い。
 感度と特異度がわかれば,尤度比(LR)が計算される。尤度比は陽性や陰性の検査結果を得たときに,どれくらいその疾患である確率(オッズ)が高く(あるいは低く)なったかを示す係数である。感度が高い検査(例:FANA)は陰性のときの尤度比(LR−)が低いことから疾患を否定しやすく,特異度が高い検査(例:抗Sm抗体や抗dsDNA抗体)は陽性のときの尤度比(LR+)が高いことからその診断を支持することがわかる(SnNoutとSpPinという)。

2.陽性的中率(検査後確率)と検査前確率

 疾患を疑って検査を行った場合知りたいのは,検査が陽性の時本当に病気である確率であり,陽性的中率(検査後確率)と呼ばれる。SLEである検査前確率5%(SLEの可能性も考えられるという程度)の患者にFANAと抗Sm抗体を検査したときの陽性適中率を算出してみる。図2に示すように,FANA陽性の時の陽性的中率は20.7%で,抗Sm抗体の陽性的中率は61.2%と計算される。この数値だけをみると抗Sm抗体の方が診断上有用な検査にみえるが,検査結果が陽性になる率(陽性結果期待値)はFANAに比べ,抗Sm抗体は極端に低い(それぞれ24%と2.5%)。またFANAで陰性結果がでたときにはSLEである確率は0.0007となりほぼSLEを否定できる。このように,SLEの可能性があまり高くない状況では,抗Sm抗体や抗dsDNA抗体よりも,まずFANAを行うべきであることがわかる。
 この陽性的中率は検査前確率により大きく変化する。もし検査前確率が50%の患者(SLEか慢性関節リウマチのどちらかと考えるときなど)であれば,抗Sm抗体の陽性期待値は15.5%あり,陽性の場合の適中率は96.8%となりほぼ診断が確定する。このように,診断のための検査を行うとき,高い陽性的中率を得るためには検査前確率が高いことが重要である。

3.高い陽性適中率を得るためには

 それではどのようにすれば検査前確率が高くなるのかについて述べたい。膠原病では,@全身(炎症)症状,A皮膚関節症状,B臓器症状の3つが出現しうる。特異性の高い皮膚関節症状や臓器病変の有無などから,候補の疾患を絞っていくことが,検査前確率を高めていくこととなる。
 膠原病を疑ったときには,まず図1に示したような基本的検査を行う。そのポイントは,@赤沈・CRP・γグロブリンで病気の有無を疑い,ACRPと白血球数で炎症性かどうかを判断し,B検尿・一般検血・生化学検査・胸部X線で臓器障害を把握し,CRFとFANAで膠原病の大まかな鑑別を行う。D罹患関節のX線も必ず撮り,とくにRAの初期変化には注意をする。これらの基本的検査から,効率よく候補の疾患を絞り込むことが,検査前確率を格段に高めることとなる。

4.確定診断のための検査

 臨床所見と基本的検査の結果から候補の疾患を絞り込むことにより検査前確率を高めた上で,疾患特異性の高い検査を行い確定へと進む。診断確定のためには,マーカー抗体が重要であるが,それぞれの感度と特異度を知った上で,結果を判断する必要がある。
 膠原病ではしばしば,腎・皮膚・筋・血管・神経・肺・小唾液腺(口唇)・滑膜などの組織生検が行われる。これらは,特異度が高く診断に直結するものが多いが,その診断率を向上させるためには,臨床所見や臓器機能検査から候補の疾患と障害部位を推定し,適切な部位とタイミングで施行することが重要である。
 以上,EBMの実践と膠原病診断について,基礎的な考え方を述べた。@問題を明確化し,A最善の外部情報や根拠を最大の効率で集め,Bその妥当性を科学的批判的に吟味し,C検査法を選択し実際に適応し,Dその行為の評価もできるだけ科学的に行うことにより,最善の検査法の選択と正しい診断への到達を目指すことが,根拠に基づく臨床診断の姿である。

図 1 膠原病の検査診断のプロセス
検査診断を効率よく行うためには,まず下線で示した日本臨床検査学会の基本的検査I(どのような初診患者にも行うべき検査)にFANAやRFなどを加え,候補の疾患を絞り込む。このことにより検査前確率を高めた上で,マーカー抗体や組織生検など特異性の高い検査を行い,診断を確定することが大切である。

図 2 SLE診断におけるFANAと抗Sm抗体の意義
検査後確率(陽性適中率)は,検査前確率5%をオッズ比1/19に直し,尤度比(FANA陽性なら4.95)を掛けて算出する。結果の0.261は検査後オッズ比であるので,0.261/(1+0,261)とすることにより,検査後確率0.207(20.7%)に換算できる。

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