リウマチ Vol.41 No.2 index
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リウマチ Vol.41 No.2             
「幹 細 胞 と 再 生 医 学」
 
中内啓光
筑波大学基礎医学系免疫学
 
実地医家のための教育講演―8

1.はじめに

 近年,再生医学への期待が高まるなか,種々の臓器に存在する多能性幹細胞の分離・同定,個体を構成するすべての細胞に分化できる能力を持つヒト胚性幹細胞(ES細胞)の樹立などが次々と報告され,臓器再生の可能性が注目されている。
 再生医学の根底にある考え方は未分化な幹細胞による恒常性の維持と臓器の再生に由来する。幹細胞は基本的に複数の細胞系譜に分化する能力「多能性」と,多能性を保持したまま分裂する能力「自己複製能」の両方を兼ね備えた細胞と定義することができる。幹細胞にはES細胞やEG細胞のように個体を構成するすべての細胞に分化する能力を持つ全能性幹細胞と,造血幹細胞や肝幹細胞のようにある特定の組織や臓器を構成する細胞に限局した分化能を持つ組織幹細胞の2種類に大別される。

2.全能性幹細胞

 ES細胞は培養可能な受精卵に例えられ,個体を形成するすべての細胞に分化できる能力を保ちながらほぼ無制限に培養可能な「万能細胞」である。サルやヒトにおいてもES細胞株が樹立されるようになり,再生医学への応用が期待されている。実際に,インシュリン産生細胞,ドーパミン産生神経細胞などをES細胞からin vitroで分化誘導し,治療目的で移植するという細胞療法のモデル実験がマウスでは行われている。心臓や肝臓といった臓器そのものを再生するまでにはまだ時間がかかるかもしれないが,細胞レベルの移植に応用される日は近いのではないだろうか。
 ES細胞を利用した細胞移植治療の問題点は拒絶反応である。この問題を回避するには,移植時に免疫学的な操作を加えることにより寛容を誘導する,多くのドナーからのES細胞を用意することによりマッチングの可能性を上げる,あるいは患者の細胞から得た核を除核卵子に核移植して初期胚をつくり,そこから患者のES細胞株を樹立する,などの工夫が必要である。

3.組織幹細胞

 造血系,神経系,肝臓,筋,小腸粘膜,毛髪など,組織幹細胞の存在が次々と明らかにされている。組織幹細胞の中でも,造血幹細胞は最も古くから研究されてきた幹細胞であり,現実に幹細胞移植という形で臓器再生が実用化している数少ない幹細胞の一つである。マウスでは骨髄中に25000個に1個の頻度で存在するCD34↑-/lo↑ c-Kit↑+↑Sca-1↑+↑分化抗原陰性の表現型を持つ細胞がほぼ造血幹細胞そのものであり,致死量放射線照射したマウスの骨髄をわずか1個の造血幹細胞が長期にわたり再構築できることが報告されている↑1,2)↑。
 造血幹細胞についで最近急速に研究が進展しているのは神経幹細胞である。本来,神経系は再生しないと考えられていたが,近年,ヒトの成体の中枢神経系においてもニューロン新生が起こっていることが明らかにされた。さらにはニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトなどに分化できる神経幹細胞の培養法が確立された↑3)↑ことから,神経系も再生医学の対象と考えられるようになってきている。
 一方,われわれはマウス胎仔肝臓中に存在する肝幹細胞をFACSを利用して分離・同定することに成功した↑4)↑。これらの細胞は胆管上皮細胞と肝実質細胞の両方に分化する能力を持っている。加えてin vitroにおいてもある程度培養することが可能である。同様な細胞はヒトにおいても存在すると推定され,肝臓の再生に向けて今後の研究の進展が期待されている。

4.組織幹細胞の可塑性

 組織幹細胞に関する最近の研究のトピックは幹細胞の分化の可塑性である。神経幹細胞が血液細胞に分化するというBjornsonらの報告↑5)↑をきっかけに組織幹細胞がこれまで考えられていた以上に広い分化能を持っているという報告が相次いでいる。
 そのなかでも興味深いのはMulliganらによる組織幹細胞の純化法である。彼等はHoechst33342という色素を強く排出する性質を持つユニークな細胞分画(side population;SP細胞)に造血幹細胞が濃縮されていることを報告した↑6)↑。その後の研究から彼等は骨髄中のSP細胞が血液だけでなく筋細胞にも分化できること,さらに筋細胞中にもSP細胞が存在,筋細胞だけでなく血液細胞にも分化しうることを示した↑7)↑。SP細胞は他の臓器・組織にも存在することが明らかになっており,組織幹細胞を分離する一般的な方法となり得るかもしれない。また,Grompeらは造血幹細胞が肝臓の実質細胞にも分化できることを実験的に証明している↑8)↑。これらの報告は組織幹細胞の分化能が予想以上に可塑性に富んでいることを強く示唆している。組織幹細胞は成体からも分離回収が可能であることから,拒絶反応や感染などの心配がなく,ES細胞に比べて臨床応用しやすいという特徴がある。
 今後,この分野の研究が進展し,組織幹細胞の効率的な分離法の開発や分化の制御が可能になると,再生医学への応用の可能性が大きく広がることが予想される。


文 献

1) Osawa M, Hanada K, Hamada H et al:Long-term lymphohematopoietic reconstitution by a single CD34-low/negative hematopoietic stem cell. Science 273:242-245, 1996
2) Nakauchi H:Further characterization of the CD34-low-negative mouse hematopoietic stem cell. The Hematopoietic Stem Cell. edited by Shirkis, Orlic and Kantz. Academic Press 872:57-70, 1999
3) Reynolds BA, Tetzlaff W, Weiss S:A multipotent EGF-responsive striatal embryonic progenitor cell produces neurons and astrocytes. J Neurosci 12:4565-4574, 1992
4) Suzuki A, Zheng Y, Kondo R et al:Flow-cytometric separation and enrichment of hepatic progenitor cells in the developing mouse liver. Hepatology 32:1230-1239, 2000
5) Bjornson CR, Reitze RL, Reynolds BA et al:Turning brain into blood:a hematopoietic fate adopted by adult neural stem cells in vivo. Science 283:534-537, 1999
6) Goodell MA, Prose K, Paraids G et al:Isolation and functional properties of murine hematopoietic stem cells that are replicating in vivo. J Exp Med 183:1797-1806, 1996
7) Gussoni E, Soneoka Y, Strickland CD et al:Dystrophin expression in the mdx mouse restored by stem cell transplantation. Nature 401:390-394, 1999
8) Lagasse E, Gonnors H, Al-Dhalimy M et al:Purified hematopoietic stem cells can differentiate into hepatocytes in vivo. Nature Medicine 11:1229-1234, 2000


図 1 幹細胞を利用した組織・臓器の再生とその臨床応用

図 2 筋幹細胞が血液細胞に分化したり,造血幹細胞が肝細胞に分化できることなどが示され,組織幹細胞の分化能は予想以上に可塑性に富んでいることが示唆されている。しかし,この可塑性が分化転換によるものなのか,全能性の幹細胞が各組織に存在するだけなのか,あるいは全能性幹細胞への脱分化することによるのか,詳細は不明である。

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