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リウマチ Vol.41 No.2             
「ステロイド剤関節内注射の実際と問題点」
 
鳥巣岳彦
大分医科大学整形外科
 
実地医家のための教育講演―6

1.はじめに

 Hydrocortisoneの関節内注射で除痛と腫脹の軽減効果があったとのHollander(1951)の報告以後,より強力な抗炎症効果を有し効果の持続時間が長いステロイド剤が合成され,日常診療に用いられている。線維素溶解剤で滑膜表面の線維素を溶解しステロイド剤の吸収を効果的にすることも可能である。炎症が持続する関節局所に強力な抗炎症効果を持つ薬剤の注射は理に適った治療法であり,その手技と問題点を解説する。

2.注射の実際


 1) 消毒法
 イソジン原液や0.5%ヒビテン酒精を塗布したあと,皮膚常在菌が死滅するまで少なくとも30秒程待つことが必要である。薬液が冷たいと消毒効果が落ちることも忘れてはならない。
 
 2) 各関節の穿刺法
 注射針は関節液を排除する場合には18G,関節内注射のみの場合は23Gでよい。穿刺の部位や針を進める方向などは局所解剖学の予備知識がないと患者を痛みを与えることになる。注射針が関節包を貫通する抵抗感が触知できるようになると一流である。
 a.肩関節
 後方アプローチが簡単で肩峰角より約3cm遠位より三角筋を貫いて関節裂隙に向かって刺入する。
 b.肘関節
 肘を90↑°↑に屈曲し前腕を回内回外させながら橈骨頭を触知し,橈骨頭と尺骨との間より上腕骨小頭に向け針を進める。
 c.股関節
 前方アプローチを用いる。鼠径【靱】帯と大【腿】動脈が交叉する深部が股関節の関節裂隙に相当するので,交叉する部位より4cm遠位で2cm外側より骨頭に向け刺入すると針が骨頭に当たった抵抗感を触知できる。
 d.膝関節
 患者を仰臥位とし膝伸展位で膝蓋骨の外側近位より膝蓋大【腿】関節に向けて刺入する。膝関節腔と膝蓋上包とは通常連続しているが,3―5%の症例では隔壁で完全に分離されていることを認識しておく。

 3) 穿刺後の処置
 出血や注入した薬液の逆流がないように,注射針を抜去すると即座に滅菌ガーゼを当てて,2,3分圧迫しておくとよい。注射部位や針の大きさにもよるがその日の入浴は控えるように指導する。

3.問題点

 Hollanderによれば26年間,3万回のステロイド剤関節内注射の経験からして,2,3の有害な作用は確かに認められるものの,これほど安全で安定した効果が得られる関節内注射薬剤は今のところ存在しないという。事実である。ここで関節内にステロイド剤を注射する場合の注意点,留意すべき点を明確にした。

 1) 全身性の副作用
 注射後に蕁麻疹様の発疹が全身に認められたり,意識消失,血圧低下,発汗,呼吸困難などのショック症状を起こすことがごく稀ではあるが報告されている。Hollanderによれば10,000例中蕁麻疹が出たもの4症例,O'Garraの報告ではアナフラキシーショックが4,000例中2症例に起こったという。病因はなお不明であるが,低分子化合物であるステロイド剤がhaptenとして体内の蛋白と結合し,抗原性を発揮したものと考えられている。最近,幻覚,持続性しゃっくり等が報告されている。

 2) 関節局所の副作用
 a.関節軟骨への影響
 関節内にステロイド剤を注射した場合,生化学的変化については,McCluskeyらはS35を用い,またMankinらはglycine-H↑3↑を用いて動物実験を行い,軟骨基質合成の抑制や軟骨細胞の新陳代謝の抑制が起こることを明確にした。形態学的変化に関しては,軟骨表層の粗造と線維化,軟骨内の【嚢】腫状変性あるいは壊死,軟骨基底部肥大細胞の成熟不全あるいは数の減少,基軟骨下骨骨梁形成の抑制などが起こるという。
 臨床ではこれらの関節軟骨の変化が不可逆性なのかどうかが問題になる。Mankinらの基礎的研究では,ステロイド剤が関節軟骨に与える影響は可逆的であり,少量の注射では3日,大量注射では2週間その回復にかかるという。したがって,関節内ステロイド注射は少なくとも2週間以上の間隔をあけて施行することが大切である。Hollanderは6週間の間隔をあけて注射するよう指導している。
 b.ステロイド関節症
 ステロイド関節症の病理組織所見を総括すると,1) 滑膜での病変は原疾患により種々の病像を示す。滑膜には多数の大小さまざまな関節軟骨片や骨組織片が散在する。2) 関節軟骨は全般に軟骨細胞の増殖分化が障害され,基質での酸性粘液多糖類の減少,膨化,線維構造の露呈が著明であった。表面は粗造となり亀裂が入り,中間層にはSalterらや石川の動物実験の報告と同じく【嚢】腫状の変性像や石灰化が認められる。3) 骨組織では骨梁は一般に萎縮が強く,関節軟骨が【剥】離欠損し関節腔に露呈した部分では硬化した骨に亀裂,微小骨折が随所に生じ骨小腔は空虚である。骨折に対する組織反応としての修復はほとんど認められない。
 では,頻回のステロイド剤の関節内注射により起こるステロイド関節症の病因はなんであろうか。注目すべき事実は,ステロイド関節症のほとんどすべてが荷重関節に発生している点である。X線写真上で認められる脛骨顆の圧潰や破壊,さらには病理組織像で認められる滑膜や軟骨内の無数の軟骨小片や骨組織片の存在,関節面に露出した硬化せる骨組織の亀裂や微小骨片などは,ステロイド関節症の発生機序に外力が不可欠の条件であることを物語っている。
 c.結晶〔誘発〕性関節炎
 Hydrocortisoneよりも強力な抗炎症効果があり,より長時間作用するステロイド剤の開発が進められた結果,各種の懸濁液が登場した。そしてステロイド剤の関節内注射後,一時的な局所炎症の増悪が報告されるようになるのである。その病因は,痛風における針状の尿酸結晶や偽性痛風における菱形のピロリン酸カルシウム結晶と同じく,ステロイド剤の結晶が関節内の多核白血球に貪【喰】され,細胞破壊に伴いlysosomal enzymesが放出するためであると考えられている。関節内に注射されたステロイド剤は,関節液や滑膜に長時間滞留するのではなく,高濃度の効果が2―3週間持続するためであるとの報告も少なくない。日常の臨床でも,懸濁液と水溶液のステロイド剤の関節注射後の効果の持続に日常臨床上明確な差はなく,不溶性の懸濁液をあえて用いる必要はない。
 d.関節内注射による感染
 関節内注射による感染例はあとをたたない。関節結核が集団発生した医院もある。関節内注射を実施するにあたっては,無菌的操作に最大限の注意が必要である。
 ステロイド剤の関節内注射による感染性関節炎では,臨床症状やX線所見より化膿が疑われても,なかなか起炎菌の検出が難しい。滑膜の病理組織標本でmicroabscessが証明されても,関節液の細菌培養はしばしば陰性である。その際滑膜組織をhomogenizeした組織液を培養すると細菌培養の陽性率が上昇する。関節内ステロイド注射による感染性関節炎は早期に発見し,早期に持続洗浄療法を行えば機能的予後は意外に良好である。
 e.その他
 注入直後の激痛,神経麻痺や出血,Nicolau症候群などの報告がある。

4.おわりに

 関節内注射は今や確立された治療法であり,適応を選び注射時の感染防止さえ厳重に注意すれば,関節炎に対する極めて有効な治療法である。しかし,関節内注射を慢然と続けることは好ましいことではない。5,6回関節内注射を続けて無効である場合は,診断が正しいのかどうかをもう一度考えること,そして装具療法や手術療法があることを思い起こして欲しい。
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